廃棄されてしまう予定の花に価値を。ロスフラワー®️から仕事を生み出すことができた理由(フラワーサイクリスト®・河島春佳さん)
自分が心から好きだと思える仕事を見つけたい。自分のオリジナリティを生かせる仕事をつくり、仲間を増やして活動したい。
そんな想いを心の片隅に抱きながら、自分のキャリアに悩む方は多いのではないでしょうか。
廃棄予定の花を使ってさまざまな事業を展開する河島春佳さんは、自身の職業を「フラワーサイクリスト®︎」と名づけています。
河島さんは世の中になかった新しい仕事をどのように生み出し、多くの人を巻き込みながら活動を広げているのでしょうか。河島さんのこれまでの道のりや考えをうかがいました。
河島春佳(かわしま・はるか)
長野県生まれ。2014年頃から独学でドライフラワーづくりを学び、フラワーサイクリスト®︎としての活動を始める。パリへの花留学の後、2019年にロスフラワー®︎を用いた店舗デザインや、装花装飾を行う株式会社RINを立ち上げる。“花のロスを減らし花のある生活を文化にする”をミッションに掲げている。
廃棄されてしまう予定の花を生かす「フラワーサイクリスト®️」の仕事
河島さんの職業である「フラワーサイクリスト®️」とはどのようなお仕事なのでしょうか?
河島
廃棄されてしまう予定の花を「ロスフラワー®️」と名付け、空間ディスプレイにしたり、ドライフラワーにして販売したりしています。
また、マンションの共用部などでロスフラワー®️の出張販売をしたり、RINの活動に共感してくださる方とワークショップやロスフラワー®️の販売を行うコミュニティ活動をしたりもしています。
さまざまな事業を手がけているんですね。フラワーサイクリスト®️という職業名は河島さんが考えたのですか?
河島
はい、花にまつわる新しい概念を作りたいと思って名づけました。
花の命を長く楽しむために、ロスフラワー®️に新しい価値を加えて「アップサイクル」(※)するという職業なので「フラワーサイクリスト®️」。ピッタリだな、と。
※アップサイクル:廃棄されるはずのものに付加価値をつけて再利用すること。
なるほど。そもそも、花はそんなにたくさん廃棄されているものなのですか?
河島
そうなんです。クリスマスなど季節のイベントが終わって売れ残るものもあれば、丈が短い、形がいびつ、傷がついているといった理由で規格外になり、店頭で販売できない花もあります。
野菜もサイズが小さかったり傷がついていたりして規格外になることがありますが、花にも細かい規格があるんですね。
野菜のロスは身近に感じていましたが、花の廃棄は意識したことがありませんでした。
河島
野菜に比べると、花は産直販売の仕組みが確立されておらず、「生活必需品ではないから」という理由もあり、廃棄される花が注目されることは少ないんです。こうした花を活用することで、花の廃棄を減らしながら、花き業界全体にも利益が循環する取り組みを広げていきたいと考えています。
さらには、花のある生活を文化にしたいという想いから、「フラワーキャリアアカデミー」というフラワーサイクリスト®️を育成するスクールやコミュニティの運営もしているんです。
新しい仕事を生み出して、たくさんの方を巻き込んで活動されているんですね。
今日は、河島さんの思いや考えをたっぷり聞かせてください!
あえて学びすぎないようにした下積み時代
河島さんがフラワーサイクリスト®︎という仕事を生み出したきっかけを教えてください。
河島
元々、大学を卒業してからは、花には関係のない仕事をする時期が長かったんです。1社目はメーカーの企画営業、2社目は大学職員、3社目は出版社でのスタイリングのアシスタントでした。
フラワーサイクリスト®︎になった大きなきっかけは、生花店で短期アルバイトをしていたときのこと。クリスマスが終わった後に売れ残ったバラの花がたくさん廃棄されてしまうのを目の当たりにして。
その体験が、花を愛していた自分にとっては衝撃的だったんです。
好きだからこそ、ショックを受けたんですね。
河島
はい。ドライフラワーにすればもっと楽しめるのに、と。それで、花を大切にする価値観やその方法を世の中に広めたいと思いました。
花にまつわる知識や技術はどうやって身につけたんですか?
河島
実は、最初はあえて深く学ばないようにしていたんです。
フラワーショップで働いたり、パリに留学したりもしたのですが、いずれも短期間です。ドライフラワーに適した花などは、実際に自分で研究を重ねながら習得しました。
あえて勉強しない選択をされたのはどうしてでしょうか。
河島
業界の固定観念にとらわれず、自分のオリジナリティを大切にして、仕事を開拓していきたいと思ったからです。それで、下積み時代は、最低限の知識を学ぶだけにとどめました。
すでに整えられている業界の仕組みに則らないことへの怖さはありませんでしたか?
河島
直感的に、業界の慣習にとどまらずに活動を展開したほうが成功するだろうと思っていました。
今から花の仕事を始めるとすると、センスのいいフラワーショップやインフルエンサーなど、すでにたくさんいる先駆者には勝てない。であれば、ニッチな世界を切り拓いていこうと考えました。
勇気のある決断ですね。
河島
私はリーマンショックが起きた不況の時代に就職活動をした世代なので、社会には頼れないという感覚がありました。転職回数も多く、自分に自信もなかった。だからこそ、自分で仕事を見つけていかなければならないと思っていたんです。
廃棄されてしまうロスフラワー®︎と、自信のなかった自分を重ね合わせ、「この花を輝かせたい」という想いも強くなっていました。
そうだったのですね。当時、廃棄予定の花を扱った仕事をしている人はいなかったのですか?
河島
廃棄になる花を紙にする……といった工業的なリサイクルをしている人はいましたが、付加価値をつけるアップサイクルをしている人はいませんでしたね。
それに、廃棄予定のお花をアップサイクルして、廃棄を減らすという活動は、SDGsに注目が集まる世の中の波に乗っている感覚もあり、ワクワクする気持ちがふくらんでいきました。
「掛け算」の考え方で、世の中にない仕事を生み出した
誰もやっていないことを見つけ出すのは難しいものですよね。仕事をどうやって生み出していったのですか?
河島
誰もやっていないことに対してアンテナを張ろうと考え、まずは市場や競合を詳しく調査しました。
新しいことを生み出すときは、「掛け算」で考えるといいと思うんです。
掛け算……?
河島
世の中にまだなさそうな領域と、自分の意志や考え方を組み合わせると、必ずオンリーワンになる。
そして、そのオンリーワンに自信をもって発信していくことが大切だと思います。
必ずしもゼロから考えるわけではないのですね。河島さんは、どのように「掛け算」を考えていったのですか?
河島
私はもともと自然やアウトドア、ファッションが好きで。それらのジャンルには、SDGsや再利用といった考え方がすでに取り入れられていました。
そこに花と掛け合わせて、結果として「アップサイクル」にたどり着いたんです。
好きなことを組みわせて、オンリーワンをつくり出したんですね。
河島
私のように興味・関心と組み合わせるのもいいですし、自分のキャリアを生かす形で、新たな道を探してもいいのではないでしょうか。
たとえば、私はスクールでは人前で話すことが多いのですが、これは大学職員をしていた時期に学生の前で話すことに慣れていたからなんです。
なるほど。自分の経験を棚卸してみるというのは、実践しやすい考え方ですね。
河島
1社目で企画営業としてクライアントとして商談をした経験が今も生きていますし、花を使った空間デザインは3社目のスタイリストのときに培ったものが大きいと思っています。
新しい仕事に就きたいと思っているなら、まずは自分がもっているスキルを見つめ直すのもいいと思います。
強いコンセプトを掲げ、賛同者を増やしていく
河島さんは、企業とのコラボレーションやコミュニティ活動など、多くの人を巻き込んだ活動もされていますよね。
世の中にない仕事を理解してもらう難しさはありませんでしたか?
河島
それが、まったく感じたことがないんです。
ええ! そうなんですか。
河島
実は、自分から営業しに行くことはほぼありません。企業とのプロジェクトも、お問い合せをいただいて始まる場合が大半です。
河島
仕事の始まりは、たとえば、イベントへの出店など。訪れた方々と会話をしている中で私の活動に共感していただいて、その後の仕事につながるケースがよくありました。
同じ興味をもつ人とつながって、そこからご縁が広がっていくんですね。
なぜ、そのような状況をつくれているのでしょうか?
河島
RINのコンセプトが世の中のトレンドの半歩先を行くことができていて、SNS発信なども活発にしているからだと思います。
コンセプトをしっかりつくって、伝えていくことが大切なんですね。
河島
多くの人に取り組みを理解してもらうためには、コンセプトをぶらさないことが大切だと思います。
私たちは「花のロスを減らし花のある生活を文化にする」というコンセプトをしっかり持っているため、ロスフラワー®︎にまつわるお問い合わせや、「RINだからやってほしい」といった相談しかこないんです。
それはすごい……!
河島
商談の際も、ロスフラワー®︎の問題を説明したうえで、心の豊かさに花が必要であること、ロスフラワー®︎だからといって価値が低いわけではないこと、花き業界の底上げをしたいことを誠実に伝えています。
コンセプトの強さは、スクール受講生やコミュニティ参加者希望者とつながるときにも、武器になりそうですね。
河島
そうなんです。でも、自由度があって楽しい環境をつくり、メンバーを拘束しないこと、本人のペースで関わってもらうことも心がけていて。ルールは最小限にとどめています。
コミュニティ事業では、本当に意欲が高い方をフラワーサイクリスト®︎のアンバサダーとして任命し、仕事を依頼しています。
河島
やはり新しいことは、1人ではなく仲間と始める方がいいと思います。
私も、ここまで1人でやってきたとは思っていません。一緒に働いている仲間や友人、コラボレーションしてきた企業の皆さまなど、さまざまな人とここまできました。
自分の想いを大切に、コンセプトをぶらさず、仲間を巻き込みながら活動し続けること。そうすることで、共感の輪が広がるのだと感じました。今日はありがとうございました!
2024年2月取材
取材・執筆=御代貴子
撮影=栃久保誠
編集=桒田萌/ノオト