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自分のWILL(やりたいこと)を言葉にする大切さ。一時的に他企業で働く「レンタル移籍」による発見とは(大川陽介さん)

ひとつの会社で長く働いていると、外の世界が知りたくなったり、自分が社外でどこまで通用するのかが気になったりするものです。そのうち今の会社にいつづけること自体に不安を感じ、転職を考えるケースも……。

株式会社ローンディールでは、そんな大企業の人材をベンチャー企業に一時的に移籍させる「レンタル移籍」のサービスに取り組んでいます。

畑違いの会社へ飛び込むのは勇気が要るものですし、双方の会社にとっても負担がかかるものです。

それでも、多くの企業がレンタル移籍を利用する理由や魅力はどこにあるのでしょうか? 同社のWILL-Action Lab.所長である大川陽介さんのお話から、自分らしい働き方をつくるヒントを探ります。

大川陽介(おおかわ・ようすけ)
富士ゼロックスにてSOL営業、新規事業開発、人材開発などに従事。社外では大企業若手有志1000名が参加する任意団体「ONE JAPAN」の共同発起人/副代表として、個人の覚醒、組織風土変革、価値共創に挑む。その経験から人の「WILL」の尊さ・「越境」の可能性に気づき、2018年にローンディールへ参画、最高顧客責任者に就任。企業人や学生向けに「WILL発掘ワークショップ」を展開する。2024年にWILL-ACTION Lab.を立ち上げ、所長に就任。中小企業診断士/国際コーチング連盟認定コーチ。書籍『WILL「キャリアの羅針盤」の見つけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

大企業の人材がベンチャー企業で一時的に働く「レンタル移籍」

大川さんの会社で手がけている「レンタル移籍」とは、どのようなサービスですか?

大川

大企業に勤める人材が1年ほどベンチャー企業で働き、さまざまな経験をして自社に戻る仕組みです。たとえるなら、武者修行をするようなものですね。

大企業の人はどのような思いがあって、ベンチャーで働いてみたいと思うのでしょうか?

大川

僕もそうでしたが、ひとつの会社で長年働いていると、自社しか知らないことへ問題意識を抱きやすいんです。「このままでいいのだろうか」「自分は社外でも通用するのか」、と。

そして、ベンチャーで活躍している人をSNSなどで見ると、その人たちが輝いて見えたりもするんですよね。

自分の市場価値を知りたくなるんですね。

大川

外の世界も見てみたいと思うと、これまでは転職しか選択肢がありませんでした。

ところが実際に転職すると、前の会社の良さに気づくことも多いんです。海外旅行をして日本の良さに気づくのと似た感覚かもしれませんね。

そこで、会社を辞めずに社外で働ける仕組みを作ったんですね。

大川

そうです。ローンディール代表の原田が、「外の世界に触れたい」と思って転職した経験があり、この事業を立ち上げました。

社外で働く経験によって新しい気づきやスキルを得る。そして、自社に戻って再び仕事に邁進し、事業やキャリアを自ら切り開いていくという選択肢を提供したいという思いのもと、サービスを運営しています。

ベンチャーで修羅場を経験し、自社に戻って活躍する

大企業側は、どのような点に魅力を感じてレンタル移籍サービスを利用するのでしょうか?

大川

イノベーションや企業変革を起こせる人材の育成が目的です。そのためには、「未知に挑む力」を身につけることが重要なポイントになってきます。

こうした人材を座学研修で育成することは難しいため、事業を一から立ち上げたり、海外などの困難な状況でビジネスをしたりする経験が必要になります。

ところが、事業が成熟してしまった現代の大企業の環境では、こうした修羅場・土壇場・正念場に身を置く機会が減っているんです。なので、まさにカオスの中で急成長しようとしているベンチャーで経験をしてもらおう、と。

なるほど。逆に、大企業から人材を受け入れるベンチャー企業は、どのようなメリットを感じていますか?

大川

自分たちの事業を推進するための仲間が得られることですね。

基本的なビジネススキルがすでに備わっている大企業の優秀な人材は、ベンチャー企業ではなかなか採用できないのが現実です。彼らは貴重な戦力になります。

優秀な人材であるとはいえ、環境が大きく違うベンチャーで活躍できるものなのでしょうか……?

大川

すごく活躍していますよ。ベーススキルが高いことも一因ですが、それよりも、レンタル移籍をする人材のモチベーションが高いことは大きな要因だと思います。

つまり、「自分は何をしたくて、なんのためにベンチャーでチャレンジをするのか」が明確なのです。その強い意志をもった人材は、未知なる環境においても、必死で動き、学びながら成果を出していくのです。

行動の羅針盤となる「WILL」をも

移籍先のベンチャー企業はもともと所属していた大企業と全く違う事業をしているケースもありますよね。

「自分が何をしたいのか」を理解して、移籍先と合致させるのは、かなり難しいと思うのですが……。

大川

そうですよね。私たちは、自分のやりたいことや目指したい姿、価値観など総称して「WILL」と呼んでいます。このWILLをもつことは、レンタル移籍を成功に導くにあたって最も難しく、かつ最も大切なポイントです。

すでにWILLを持っている人が、レンタル移籍にチャレンジするのでしょうか?

大川

いいえ、レンタル移籍前に行う面接の時点で見つかっている人は多くありません。

ですが、まずは「外の世界に行くことで自分は変わるんだ」と、自らの可能性を信じることが大切です。これが、行動を起こすエネルギーになりますから。

なるほど。

大川

当社では、レンタル移籍前に10時間ほどかけて、WILLを明確にするワークショップを行います。

「自分を変えたい」「会社や社会を変えたい」など、自身の中にあるエネルギーを武器にして、ベンチャーで成果を出すために、自分のWILLを言語化するのです。

外部団体でのWILL発掘ワークショップの様子(提供写真)

そんなに時間をかけて研修をするんですね……!

大川

WILLがあると、自ら行動をすることができるようになるからです。

そのうえで、移籍先のベンチャー企業を選ぶのも、受け入れてもらうための交渉も自分自身でやってもらいます。「自責」ですべてを決めていかないと、修羅場に直面したときに乗り越えられないんです。

逆に言うと、誰かのせいにできないということですね。

大川

修羅場で辛い思いだけをしたり、他人のせいにしたりして、逃げるように自社に帰ってきては成長につながりなりません。

WILLを言語化し、自責で行動する。レンタル移籍を実りある経験にするために、大切な姿勢ですね。

大川

ベンチャー企業は、未知のことに挑み続ける環境です。誰も答えを知らない中で事業を推進するには、自分の意志で動かなければなりません。その羅針盤になるのが、WILLなのです。

レンタル移籍をきっかけに、自分のキャリアを切り拓いた

実際に、レンタル移籍を経験すると、具体的にどんな変化が起きるのでしょうか?

大川

たとえば、自動車部品メーカーであるデンソーの研究者がベンチャー企業でエンドユーザーに接し、自分がやりたいことを見つめ直して、自社に戻って新規事業を推進している事例があります。

レンタル移籍では、災害備蓄プラットフォームという無形サービスの開発にチャレンジしました。

右がレンタル移籍に挑戦したデンソーの河合大介さん(提供写真)

本業とまったく違うビジネスですね。苦労されたのではないでしょうか。

大川

メーカーの研究者がエンドユーザーと話す機会はないでしょうから、まさに未知の環境ですよね。

ですが、物事を構造化して捉えたり仮説を立てて行動したりするスキルに長けていたので、移籍先でも活躍しました。

そこからどのような気づきがあったのでしょうか。

大川

お客様に認めてもらって対価を得るという感動も大きかったそうで。

「自分が作ったもので人に喜んでもらいたい」という、ものづくりの本質に改めて気づいたようです。彼はレンタル移籍を終えた後、研究職に戻らなかったんですよ。

そうなんですか!?

大川

技術をベースにして新しい価値を社会に届けたいと考え、デンソーの中で新規事業ができる部署に行きました。

自ら社内の人脈を探し、役員にも直接会いに行ってキャリアを切り拓いたんです。

デンソーのような大企業で役員に直接コンタクトするとは、すごい行動力ですね……。

大川

ベンチャー企業では、自分からいろいろな人に会いに行って事業を伸ばしていくのが当たり前ですから。まさに経験からの学びを生かしている好事例だと思います。

その後も個人でビジネスコンテストに応募したり、国から補助金が得られる事業に採択されたりしていて、その活躍ぶりに驚いています。

まさにレンタル移籍をきっかけにキャリアチェンジされたんですね!

大川

他には、保険会社の人事部にいたメンバーが、新規事業を支援するベンチャー企業にレンタル移籍した事例があります。こちらも、未知の世界へのチャレンジでした。

この方も、自社に戻った後は新規事業に関わっているのでしょうか?

大川

いえ。その方は再び人事部で戦略策定に携わりつつ、若手がもっと活躍できるための組織風土醸成に取り組んでいます。

レンタル移籍での経験を、自分が愛着をもっている会社に還元していこうと考え、誰もが生き生きと働ける環境づくりを志したんです。

右がレンタル移籍者、左は移籍先のベンチャー企業担当者(提供写真)

お二人とも素晴らしい活躍ですね!

最後に、レンタル移籍した方々のように、私たちがWILLを見つけ、自分らしい働き方をするために必要なことを教えていただけますか?

大川

まず、「自分らしい」とはどのようなことかを理解するのが最初の一歩だと思います。

最近は働き方の選択肢が増えている一方、選択の仕方がわからず悩むビジネスパーソンもたくさんいます。

リモートワークができる、給与が高いといった条件だけで選ぶのは、必ずしも「自分らしい」働き方ではありません。

ただ、先ほどの話にもありましたが、自分を知るのって難しいですよね。

大川

でも、「自分らしさ」は自分の中に必ずあるはず。それを発掘する営みが必要です。突然ひらめくものではなく、言語化するのはかなり大変。だからこそ、私たちがサポートしています。

自分らしさとは何かを言語化して、発信し、行動する。このサイクルを回していくことで、自分らしい働き方が実現されていくと思います。

自分らしい働き方をするビジネスパーソンを増やすために、レンタル移籍のサービスが担う役割は大きそうです。

大川さんが上梓した『WILL「キャリアの羅針盤」の見つけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

大川

ありがとうございます。これからも、レンタル移籍が自分らしい働き方を見つける方法のひとつであり続けるとともに、このノウハウを書籍やワークショップなどの形で、より多くの人に届けていきたいと考えています。

こうして、自分のWILLをもとに行動する人を増やしていくことに貢献していきたいですね。

2024年4月取材

取材・執筆=御代貴子
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト

【7/10イベント開催 @共創空間Sea(東京)】

大川さんをゲストにお迎えし、WILL発掘ワークの導入編を体験します。キャリアにもやもやを抱えている方、自分を見つめ直してみたい方、お気軽にご参加ください!

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