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人・事業・地域をつなぐ京都信用金庫。共創施設「QUESTION」で豊かなコミュニティを生み出す

2019年4月発行のビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE04」では、世界中の「愛される会社」を巻頭特集としました。しかし、日本にも多くの「愛される会社」が存在しています。今回は伝統・文化が根付き、商業の街としても栄える関西エリアに注目。全6回の取材とトークイベントを通して、顧客や社員、地域社会との強い関係性をつくりだしている「愛される会社」を探求していきます。

2023年で100周年を迎える京都信用金庫は、地域に根ざした金融機関であり続ける傍ら、1971年に独自概念「コミュニティ・バンク論」を提唱。地域との絆を深め、人と人、事業と事業をつなげ、心豊かな地域社会や文化を創ることに力を注いできました。

そんな想いを形にするべく、2020年11月に共創施設「QUESTION」をオープン。そこには、未来の金融機関のあり方を見据えた、京都信用金庫ならではの考え方がしっかりと根付いていました。

この施設はどんな機能を持っていて、どんなつながりを生み出しているのか。京都信用金庫常務理事・企業金融本部長の竹口尚樹さんにお話を伺いました。


竹口尚樹(たけぐち・なおき)
京都信用金庫常務理事、企業金融本部長。1990年、京都信用金庫入社。銀閣寺支店長、河原町支店長を経て、金融円滑化推進部長としてさまざまな事業再生に携わる。その後、企業成長推進部長としてスタートアップ支援や事業承継、M&Aを推進。2020年に常務理事に就任し、現在はQUESTIONの運営にも携わる。

50年前に提唱した「コミュニティ・バンク論」とは

京都信用金庫さん独自の「コミュニティ・バンク論」とはどういうものですか?

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竹口

信用金庫には、その地域を豊かにするという使命があります。1923年に創立した京都信用金庫は、ただ単にお金を融通するだけの金融機関ではなく、地域に豊かなコミュニティを育むための地域金融を、これまで実践してきました。

そして今から半世紀前の1971年、「コミュニティ・バンク」を宣言しました。そこでは、京都信用金庫はコミュニティ・バンクとして、経済的な豊かさだけでなく、地域における文化、心の豊かさ、そして人の幸せにまで責任を負っていくべきとうたっています。

当時の理事長であった榊田喜四夫氏は、その著書「コミュニティ・バンク論」(1973年)で、次のような言葉を残しています。

「資金ばかりでなく、資金と共に情報を、資金と共に知恵を、資金と共に人を、資金と共にシステムを地域に提供することを通じて、地域の人と事業との接触をあらゆる面で深め、地域社会との真の意味での共栄をはかるのがコミュニティ・バンクの使命である。」(「コミュニティ・バンク論」より)

竹口

今から半世紀も昔の言葉ですが、これこそまさに現在求められている金融の姿そのものと言えるのではないでしょうか。

「コミュニティ・バンク論」は、以来京都信用金庫の中で浸透し、脈々と受け継がれていったのですね。

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竹口

そうです。私たちは、地域の中小企業や個人事業主の方と対話を繰り返しながら、一緒に事業運営を考え、取り組んできました。

具体的にいうと、既存事業に新たなイノベーションを起こすお手伝いや、事業承継が必要な企業への丁寧な寄り添い、事業に課題を持つ企業のビジネスマッチングなど。

企業がこれらの課題を解決していく過程で、融資のニーズは発生します。地域で事業を営む皆さまの発展があってこその地域金融機関だということを、忘れてはいけません。

職員一人ひとりが、人や事業とのつながりに積極的なのですね。

WORK MILL

竹口

私たちはずっと、外に目を向けるよう心がけてきました。事業者同士をつなぐことこそが一番の仕事だと言われてきましたし、それが90カ所以上ある支店にいるそれぞれの職員の共通認識です。

そんな姿勢を、もっと地域の方に知っていただき、ご理解いただきたい。京都信用金庫が目指す金融を、よりわかりやすく見える形で示したい。そこで誕生したのが、共創施設「QUESTION」です。

道路を挟んで京都市役所が目前にある「QUESTION」。元は河原町支店として営業されていたが、「QUESTION」としてリニューアルされ、支店は6階に併設された。

QUESTIONで課題を拾う、つなげる手助けを

「QUESTION」、一見するとコワーキングスペースを兼ね備えた大きな施設という印象があります。改めてどんな施設なのでしょうか?

WORK MILL

竹口

「コミュニティ・バンク」という理念を深化させ、地域に必要とされる金融機関になりたい。「QUESTION」は、そんな私たちの願いを具現化するための、地域の人々の共創施設です。

建物は8階建てです。2・3階は、コワーキングスペース。主に地域の事業者や起業を目指す方にお使いいただくことを想定しています。

3階にあるコワーキングスペース。2階がオープンスペースになっているのに対し、3階は静かで集中したい人向けのエリア。

竹口

5階にあるのは、学生が集う「Students Lab」。京都には大学が多く、京都市民の10人に1人が学生だと言われています。

ここで学生さんを多く迎えることで、他の利用者さんと新たな交流が生まれる。そんな偶発的な出会いを期待して、設けた場所です。

「Students Lab」には日々多くの学生が訪れる。サークルなどの団体活動や、既に起業した学生のスペースとして活用されているそう。
8階にあるコミュニティキッチン「DAIDOKORO」。会社の親睦会やイベントなどで使用される。

竹口

1階はカフェバー「awabar」がありますし、誰でも気軽に利用していただきたいと考えています。

1階にあるawabar。元々は六本木にあり、多くの起業家や投資家の集まるバーとしてスタートアップ界隈で存在感を放ってきた。QUESTIONのオープンと同時に京都にも進出し、開業した。

竹口

QUESTIONができる前、この建物は当金庫の河原町支店でした。なので、6階には引き続き、他店舗と同じ金融機関としての京都信用金庫が入っています。

1階ではなく、6階に窓口を構えたのに驚きました。

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竹口

金融機関の役割を前面に押し出すと、入りにくいと感じる方がいるでしょう?(笑)

「QUESTIONって、起業家のための施設ですよね」とよく言われますが、そうではありません。ここには老舗中小企業の経営者も来られますし、将来は家業を継ぐ予定の方も来られます。そして、学生さんも。

共通するのは、「目的」と「課題」、つまり自分の中に「クエスチョン」がある人。心の中に課題というモヤモヤがあったけど、偶然隣にいた人との会話で気づきを得る。「QUESTION」を、そんなヒントの得られる場所にしたいのです。

偶然隣にいる人と価値を生み出す。おもしろいですね。

WORK MILL

竹口

「QUESTION」では、そんな偶発的な出会いをとても大事にしています。偶発がイノベーションを生み、対話が知恵をつなげる。

そうして生まれたマッチングが、結果的に実を結ぶケースが出てきているくらいです。

それを生み出す仕掛けがあるのでしょうか?

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竹口

コミュニティマネージャーの存在です。「こういう方いるので、ぜひ一度会ってみませんか」と利用者同士をおつなぎして、出会いを手助けする。

これも、普段から利用者と丁寧に対話を重ねてきているからこそできることです。

コミュニティマネージャーとはどんな方なのでしょうか?

WORK MILL

竹口

現在11人いて、彼・彼女らも京都信用金庫の職員です。その前はみんな、他店舗の営業や窓口業務などの担当でした。QUESTIONのような取り組みそのものが初めてなので、こういった施設運営は未経験のスタッフばかりです。

でも、初心者ならではの一生懸命さで、対話しやすい雰囲気を作っています。それもコミュニティマネージャーの仕事。彼・彼女たちはいずれほかの支店へ異動しますが、ここで得た知見を存分に生かしてほしいと期待しています。

人と人を結びつけるとはいえ、やはり金融機関。どうしても、融資や貸付を希望する方を優先してしまうのではないかと推測します。「QUESTION」ではどうなのでしょうか?

WORK MILL

竹口

おっしゃる通り、金融機関の窓口や営業は、お客さまとのお取引が本来の業務なので、お金の話が絡むのが当然です。

しかし、「QUESTION」では違う。「QUESTION」がスタンスとして大事にしていることがあります。それは、お客様を区別しないことです。

一歩ここに入れば、みんなフラット。そこに、お金の話は関係ありません。なぜなら、課題を抱えて悩んでいる人々のマッチングや偶発性を仕掛けることが、「QUESTION」の役割だからです。

『QUESTION』を生み出した、京都信用金庫の風土

お金の話を飛び越えて、人や事業をつなぐ。考えをここまで具体化させ、そして実際に具現化して行動している金融機関があるなんて、これまで知りませんでした。

WORK MILL

竹口

でも、このような場を育むことこそが信用金庫の役割なのです。

それをきちんと形にできた京都信用金庫の企業風土や文化に興味があります。

WORK MILL

竹口

私たちは、「コミュニティ・バンク論」の考えのもと、日本一コミュニケーションが豊かな会社を目指してきました。

例えば、約20年前に「ビジネスマッチング掲示板」を社内へ導入しました。全支店間で情報を共有するオンラインツールです。職員がそれを参照して、顧客同士のビジネスマッチングを推進するのです。

顧客訪問時にその情報を頭に入れて、「必ずどこかとおつなぎしよう」と意気込む。結果、新たなビジネスの創出や販路拡大、技術革新を促しました。

当時から顧客同士のマッチングを積極的に行う風土が根付いていたのですね。

WORK MILL

竹口

そうです。「QUESTION」という場所ができたから、突然「つなげる」「マッチング」を始めたのではない。これまで通り、人や事業をつなげるために「QUESTION」をオープンしたわけです。職員もそのベースをきちんと理解していると思います。

竹口

他にも、2017年4月に営業ノルマを撤廃しました。

焦ってノルマを達成するのではなく、相手にじっくり寄り添ったご提案やマッチング支援をすることで、本当の意味で相手のお役に立てる。そこで、「融資額」という結果よりも、「いかに寄り添ったか」というプロセスを重視する姿勢を鮮明にしました。

そうした制度を導入する上で、どうやって職員の声を汲み上げているのでしょうか?

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竹口

全職員が交流・対話・意見交換をする場「2000人のダイアログ」で声を聞くようにしています。これは、「課題も答えも現場にある」との考えのもと行っている社内イベント(取り組み)です。2018年7月に始めました。

2000人の職員・アソシエイト(パートタイマー)との対話を通じて、「職場のあるべき姿」や「未来のコミュニティ・バンクの形」など、その時々のテーマを全員で考える対話型経営のための取り組みと言えます。

1回あたり数十会場の日程をセッティングし、職員に参加してもらっています。これまでに6回実施してきており、今後も続けていきたいと思っています。

「2000人のダイアログ」によって、どのような変化が生まれましたか?

WORK MILL

竹口

ただ意見を交わし合うだけでなく、そこで出たアイデアが実際に「じゃあ、これをやってみよう」と実現されるようになりました。

京都信用金庫では全職員が私服を着ていて、名刺には写真を入れ、役職に関わらず相手を「さん」付けで呼んでいます。これらは「2000人のダイアログ」から出たアイデア。スルーせず、一つひとつ丁寧に実行しています。

すべて、「日本一コミュニケーションが豊かな会社」を目指そうという思いのもと行っていることです。豊かさには、質も量もあります。コミュニティ・バンク論にも通じる考えです。

金融機関らしくない、思いがけない出会いを

「QUESTION」オープンから、2年以上経ちました。今後、この施設をどのように育んでいきたいとお考えですか?

WORK MILL

竹口

コロナ禍真っただ中にオープンしたので、コロナ禍前に立てた計画の中で実現できていないことが多いのです。

8階のコミュニティキッチン「DAIDOKORO」の利用数は当初の想定ほど多くありませんし、1階のawabarでアルコールをたしなむ人もまだ少ない。

ようやく世の中が動き始めていますから、本来持つ機能を存分に利用してもらいたい。そして偶発的な出会いをどんどん生み出してほしいですね。

「QUESTION」が本領発揮していくのですね。この2年、竹口さんご自身が印象に残っていることはありましたか?

WORK MILL

竹口

ある日、とある企業の方がふらりと入ってこられました。「学生さんの知恵を借りたい」と思っていたところ、「QUESTION」の存在を知り、来てみたというのです。

何をやりたいのか尋ねると、彼らは商品のパッケージデザインに悩んでいました。そこで、コミュニティマネージャーが学生を紹介。5人の学生がチームを組んで企業と一緒にアイデアを出すことになり、見事に採用されたそうです。

このような企業と学生のマッチングは、通常の支店ではありえません。「QUESTION」だから実現できたのだと、大変うれしかったですね。

「QUESTION」の真骨頂ですね。

WORK MILL

竹口

先日、「多くの出会いとチャンスを」という想いから、中小企業の方々を対象に、ビルの1階から8階まで使ってデジタル相談会を開催しました。いま、中小企業のIT人材不足は深刻です。

京都は、中小企業が多い街です。そうした地域の課題や問いに対して、私たちはもっと貪欲に応えたいと考えています。

私たちが大切にするのは、人。「QUESTION」は、最終的に「あのコミュニティマネージャーに会いたいから」と足を運んでくれるような、人が魅力の場所であり続けていきたいと思っています。

冒頭におっしゃった「コミュニティ・バンク論」の考え方が、終始一貫しているのがよくわかりました。

WORK MILL

竹口

人、文化、そして心の豊かさ。これは京都信用金庫の職員に、深く根差しています。ゆるぎない考えがあると、職員は自分の頭で考え、自由に行動ができます。

「2000人のダイアログ」で紹介したような、若い職員のアイデア。それを受けて「良いね、やろう」と柔軟な発想で受け入れる風土が、私は気に入っています。ダメならまた元に戻せば良いのですから。

地域、人、経営者、そして職員たちと対話を積み重ねることこそがコミュニティ・バンクの実践であり、京都信用金庫のスタイルなのです。

2022年11月取材

取材・執筆:國松珠実
写真:三好沙季
編集:桒田萌(ノオト)