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立場は違っても、人間として対等に。『後輩がはじめてできたら読む本』著者・北村朱里さんに聞く、後輩との接し方

後輩ができたけど、どんな振る舞いが適しているのかがわからない……。

「先輩」としての自分の姿に慣れることができず、困ってしまったときはどうすればいいのでしょうか。

ときには世代の離れた後輩ができたり、異なる企業文化で育ってきた人が入ってきたりして、コミュニケーションが難しく感じる場面が出てくることも。

今回は、2023年9月に発刊された『後輩がはじめてできたら読む本』(産学社)の著者である北村朱里さんにインタビュー。はじめて後輩ができたときに押さえておきたいポイントや、自分と違う世代や立場の人と接するコツを教えてもらいました。

北村朱里(きたむら・あかり)
nib.代表、コピーライター・コミュニケーション講師。1978年北海道札幌市生まれ。佐賀県唐津市在住。コールセンター企業にて管理職を務め、社員研修の企画立案や社員育成業務に従事。新規部署の立ち上げにも関わり、社員育成システムの構築経験を有する。2016年に独立し、主に新卒~若手社会人を対象としたコミュニケーション研修を展開している。

「先輩として完璧でいなきゃ」と思うことで増える悩み

人事異動や新入社員の入社で初めて先輩のポジションになると、どんな対応が必要なのか最初はわかりません。

実際、先輩になるとどのようなコミュニケーションの悩みを抱えることが多いのでしょうか。

北村

若手で真面目な人ほど「先輩としてしっかりしなきゃいけない」「完璧じゃなきゃ!」と思ってしまいがちな印象があります。

極端な思考に陥ってしまうのですね。

北村

そうなんです。完璧を目指すがゆえに、距離感の取り方や接し方がわからなくなってしまったり。

ほかにも、仕事のやり方やマインドのフォロー、悩んでいる人への声かけが難しいと感じる方が多いようです。

正しい距離感がわからないから、良い声かけも見つからない……。

北村

そもそも、「相手は自分と違う」と認識しすぎているから、距離感がわからなくなるんですよね。

「相手は後輩で、自分は先輩なんだから、それなりの振る舞いをしないと」というプレッシャーが増してしまう。

おっしゃる通りです。

北村

ちょっと極端ではありますが、先輩も後輩も同じ国の同じ会社に勤めている……という共通項があります。

もちろんそれぞれ違う人間ではありますが、共通点が多い相手として、対等な気持ちで話しかけてみるといいと思います。

先輩と後輩である以前に、同じ人間である。そんなフラットな目線が必要なのですね。

北村

そうです。でも、いくら先輩側がフラットでいようと思っても、後輩側が遠慮してへりくだってしまうときもあるかと思います。

そんなときは、自分もあえて後輩に相談してみてはどうでしょうか? 「先輩に対して、力になれることがあるんだ」と後輩が気づけば、相手も対等な関係に近づいていけるはずです。

対等な関係になれば、実務的な面だけでなく、マインド面のサポートにも目を配れるようになりそうです。

北村

とはいえ、先輩自身も働きはじめてから年数が浅く、仕事をする上でのマインドセットがまだ完全ではない場合もありますよね。

そんなときもやはり、後輩と一緒に成長しようとする姿勢が大切です。一緒に考えて経験していけば、後輩もひとりで悩まずにすみますし、互いに心強い存在へと成長していくはずです。

あくまで一緒に成長する姿勢が大切なのですね。

北村

いくつになっても、自信を持って生きている人なんて、本当に少ないと思うんですよね。誰しも、どこかに自信がない部分があるはずです。

だからこそ、先輩として自信満々になったり、余計なプレッシャーを感じたりする必要はありません。

でも、「自信がないから」とネガティブでいては、後輩を不安にさせてしまいそうです……。

北村

自信がなくても、物事をポジティブに捉えて、相手にも同じようにポジティブな接し方ができる人間になること。これが一番重要なのです。

たしかに、何事もポジティブに捉えられるようになるだけで、変わりそうです。

北村

自そのためにもまずは後輩に限らず、目の前にいる相手に耳と目を向けることが大切です。相手が考えていることがわからなければ、何がわからないのか、何に対して困っているのか、直接聞けばいいのです。

自分の中でもやもやさせないのですね。

北村

それに後輩としても、「〇〇がわからないのだけど」と正直に言ってくれる先輩の方が、人間味を感じて接しやすいのではないでしょうか。

「抜けていたらダメ」じゃなくて、抜けているところや苦手なことがある方が、先輩として「おいしい」くらいの気持ちがいいと思います。ときには後輩に頼ることで、後輩も主体的に動きたくなりますし、先輩の自分としても成長にも繋がる部分があると考えています。

「頼りない自分」とネガティブに捉えすぎなくてもいいのですね。

北村

一緒にゲームを攻略しているという気持ちで、さまざまな日々の問題に対して取り組めるのがベストです。

世代間ギャップや文化の違いは楽しむことが大切

ときには異なる世代の先輩後輩となるケースもあります。価値観が異なる世代間でコミュニケーションを取る場合、どのようなことを心がければいいですか?

北村

前提として、「そもそも自分と相手は異なっていて当たり前」だと思うことが大切です。その認識を持った上で、違う部分を面白がるのです。

最初におっしゃっていた、「共通点を認識し、相手と対等な関係になる」というアドバイスとは正反対ですね。

北村

そこが難しいところなんです。

まず私たちは、これまで生きてきたバックグラウンドは異なります。この違いをいかに面白がり、楽しめるかが肝なのです。

対等に接しつつ、違うところは楽しむくらいの気持ちで接することが大切なのですね。

北村

自分とは違うところを面白がり、相手のことを知りたいという気持ちを持つことが、深いコミュニケーションに繋がります。

歳の離れた部下に「こんなことも知らないのか」なんて言ってしまう人もいますが……。

北村

それではもちろん角が立ちますよね。万が一そう思っても、言わない。

むしろ、「面白い情報が手に入った」くらいの気持ちで接すれば、世代や文化のギャップに対する負担も減るのではないでしょうか。

確かに。

北村

知らないことを教えてもらえたと、「ありがとうございます」という気持ちで接するといいと思いますよ。

このケースでも、ポジティブに物事を捉えることが大切なのですね。

信頼関係を築くコツは、「まず受け止める」

一緒に成長するには、まずは信頼関係を築く必要がありますよね。

普段のコミュニケーションの中で、信頼関係を築くコツはありますか?

北村

「信頼関係が築けないんです」という相談って、よく話を聞いてみると「実は相手の話を聞けてなかった」というパターンが多いと思っていて。耳で聞いてはいるけど、話の内容を理解していないケースですね。

ああ……。

北村

たとえば、会社をやめたい部下とやめてほしくない上司がいるとします。

部下は「もうこの会社についていけない」と感じてやめる意志を示しているのに対し、上司は「なぜやめたいのかを言ってくれないと、対応できない」と言う。

そんなとき、まず上司の方は部下の「やめたい」という気持ちを受け止める必要があるのです。

受け止める?

北村

部下からすると、「話し合いをしよう」と言われたら、「引き留められる。説得させられる」と感じてしまう。

自分の話を聞いてくれるのではなく、上司にとって都合の良い言葉を引き出そうとしているのではないか……と懸念しているわけです。

実際にそういう上司は多く、本当の意味で後輩の話を聞こうとはしていないんですよね。

自分の欲しい言葉だけを求めているから、「話を聞いていない」わけですね。

北村

だからこそ、まずは「やめたい」という後輩の気持ちを受け止める。

その上で、「どうして?」と問い詰めるのではなく、たとえば「いつ頃から、そういう気持ちになったの?」という聞き方をすると、やめたいと思った経緯を話しやすくなりますよね。

自分の求める答えを問い詰めるのではなく、寄り添うんですね。

北村

今回は退職を例に出しましたが、普段から後輩の言葉に耳を傾け、自分の都合の良い部分ばかりをかいつまむのではなく、「相手の本当に伝えたいことは何か」に意識すれば、信頼関係は築いていけると思いますよ。

本当に伝えたいことに、耳を傾ける……。先輩と後輩の関係に限らず、すべての人間関係に当てはまりそうですね。

会社組織はさまざまな人が集まる場でもあると思います。最後に、後輩との関係性にかかわらず、立場や世代の違う人と関わるときに意識したい心がけを教えてください。

北村

何度も言うように、人はそれぞれまったく違う存在であると同時に、全員が対等だと認識すること。

ときには立場の違いから忖度が生まれ、結果的に業務に支障が出ることもありますよね。でも、気にするべきは誰かの目や「自分がどう思われるのか」ではありません。

「組織における共通の目的」を見据えて、そのためにベストな行動をとる。それでも迷ったときは、自分も含めたみんながハッピーになる選択肢は何なのかを考えるといいと思います。

ありがとうございます。お話を聞きながら、先輩になるからと気負わなくていいんだと感じました。

北村

完璧にできる人なんていないですし、だからこそ「先輩になったから」と、プレッシャーに思う必要はないんです。

「完璧な先輩」よりも、「この先も一緒に何かしたい」と思われる人になる方が、人間的に理想的だと思います。だからこそ、ちょっと抜けているところがあっても「逆においしい!」くらいの気持ちでいれば、気軽に後輩と接することができるのではないでしょうか。

2023年11月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
編集=桒田萌(ノオト)