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なぜゴム製品メーカーがグラスを開発? 社員の「仕事への誇り」に向き合った錦城護謨の道のり

大きなイノベーションで、社内に小さな芽がたくさん生まれた

「技術の見える化」のために、どんなことを行ったのでしょうか。

WORK MILL

太田

ちょうど2019年に、八尾のものづくりを世界に広めるためのプロジェクト「YAOYA PROJECT」が開催されることになりました。

これは、八尾市の企業が自社の技術力を使って外部のデザイナーと協力してイノベーションを起こし、世界に通用する新たなプロダクトを作るという八尾市主催のプロジェクトです。

これを活用すれば、「これが錦城護謨だ」と象徴できるプロダクトが生まれるかもしれない。そう考え、一人の社員に「参加してはどうか」と勧めたことが、シリコーングラス開発のきっかけになりました。

そこから、どのように開発が進んだのでしょうか。

WORK MILL

太田

その一人の社員にメンバー選定や進行をすべて任せ、中心メンバーとして4人が集まりました。そこまではいいものの、それ以降はすべて「内緒」で事が進んでいったんです(笑)。

太田社長はまったく関わらなかったのでしょうか?

WORK MILL

太田

そうなんです。開発も社内調整も、その後行ったクラウドファンディングも、すべて私は携わっていません。

「YAOYA PROJECT」の一環で、台湾でのフィールド調査も実施されたのですが、当時はその存在すら知らなかったくらいです。

多くの会社では、社長に何も言わずに物事を進めると、怒られてしまいますよね。でも私は、むしろ喜ばしいことだと感じました。社員の主体的なコミットメントの形だと捉えたからです。

私がトップダウンで「あれしなさい」「これしなさい」と一方的に言っても、何も意味がありません。中途半端に口を挟んでも、「結局、社長がやるんや」と思われてしまうだけです。

だからこそ、私は徹底的に社員たちに任せきることを意識しました。

そこから順調にプロジェクトは進みましたか?

WORK MILL

太田

いいえ、すんなりとうまくいったわけではありません。

中心メンバーの4人は、本来の業務にプラスして「YAOYA PROJECT」に取り組んでいましたから、閉塞感が漂う社内には「あいつらは一体何をやっているんだ」という雰囲気もありました。

 

社内の空気が変わるきっかけはあったのでしょうか。

WORK MILL

太田

クラウドファンディングが成功したことですね。「YAOYA PROJECT」では、プロダクトを作ったあとにはクラウドファンディングを行うことになっていました。

私たちはBtoBの中小メーカーなので、企画や広報、マーケティング、販売など、それぞれの職種の知識がありません。

それでも、「錦城護謨の技術を世間に知ってほしい。そして、会社を変えたい」という一心で、デザイナーさんと協力してページをオープン。「八尾市の中小企業が、新たな挑戦をしている」というストーリーを打ち出しました。

当初、「本当に売れるんだろうか」「こんなシリコーングラスに興味を持ってくれる人なんて、いるのだろうか」と、社員たちも不安でいっぱいでした。

しかし、蓋を開けてみると、評判はうなぎのぼり。結果的に、目標金額の939%を達成することができました。

その後行われた2回目のクラウドファンディングでは、達成率はなんと1674%に。

太田

予想以上の大成功に、誰よりも驚いたのは社員たちでした。「新しい自社製品を開発するなんて」と斜に構えていた人たちも、「なんだかおもしろそうだな」「自分も何か手伝いたい」と反応を見せはじめたんです。

社内の雰囲気は、じわじわと変化していくものなんですよね。全てが一気に切り替わるわけではありません。でも、徐々に変わっていく。

これは、水面にぷくぷくと浮かんでくる気泡と同じだと思っています。小さい動きが芽のように生まれて、いつか大きな花になるようなイメージです。

実際に変化を感じたエピソードなどがあれば、教えてください。

WORK MILL

太田

まず、社員の「働く姿勢」が変わりました

言われた通りの作業を行うのか、それとも日々少しずつ改善するために試行錯誤をするのか。金型一つ作るにも、ただものが作れる金型にするのか、より生産性の高い金型を作るのか。チャレンジできることは、日常業務の中に溢れているものです。

太田

少しずつ草の根的に変わることで、社員全体の表情や空気感は変わっていきます。「こんなこともしていいんだ」と思える雰囲気になりましたね。

社員一人ひとりの心の中にポジティブな変化が生まれることが、何より大切ですよね。

WORK MILL

太田

口を開けばいつも「仕事を辞めたい」とこぼしていた社員がいました。

この前、彼に改めて「最近どう?」と声をかけてみたんです。すると、「2年前と比べて、最近の錦城護謨は本当に変わりました」と話してくれました。

「お金のために働いている」という意識が、少しずつ減ってきているのかなと、改めて実感しています。

シリコーングラス開発でBtoC市場に挑んだことで、社外との関係性に変化はありましたか?

WORK MILL

太田

これまで全く関わりのなかった業界とつながることができましたね。外部のデザイナーさんから、「こんな製品を開発しませんか」と提案を持ち込んでいただく機会も増えました。

外の世界とつながることは、売上や利益だけでなく、社内の技術向上にもなります。それに、新しいことに取り組むのって楽しいですよね。

取り組む事業の幅が広がったことで、「錦城護謨さんっておもしろいよね」と思っていただけるのもメリットです。この循環は、結果的に私たちが大切にしてきたBtoBのお仕事にもつながっていく。そう信じています。

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