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全員が「主役になった!」と思える瞬間を作るには? 辻貴之さんの「幹事力」から見えた主体的な人生を送るヒント

気付けば、そろそろ忘年会や新年会のシーズン。コロナ禍が落ち着き、飲み会や対面イベントの予定が少しずつ増えてきた人も多いはず。

そんな大勢の人が集まる場に、必要になるのが「幹事」という役割。でも、「幹事」はやることが多くて大変というイメージからか、できれば、幹事をやるのは避けたいと敬遠されがち……。

しかし、そんな幹事が趣味であり、特技でもあると語る方がいます。年100回以上のイベントを開き、1000人以上が集う会の幹事を20年以上続けている辻貴之さんです。幹事の魅力やコツ、「幹事力」を高めるために必要なことを聞いてきました。

辻 貴之(つじ・たかゆき)
大学卒業後、メガバンクへ入行。2006年に民放キー局に転職。人事、経営企画、営業推進、財務など、「ヒト・モノ・カネ」に関する一通りの職務を担当。ロンドン駐在を経て、現在は経営企画とともに、持株会社の広報とIRを担当。趣味と特技は「幹事」。幹事として、旗を掲げ、仲間を集い、事を成す、そのきっかけと環境を作るが好き。社会人になってからは平均で年100回以上、約1000人以上が集まる機会を様々なコミュニティで企画。2023年夏に博士(メディアデザイン学)を修了、起業家を育成する大学のファイナンスを教える特任教授など、アカデミックな一面もあり。

「旗を掲げ、仲間を集い、事を成す」 そのきっかけと環境を作るのが「幹事」

辻さんは数えきれないほど今まで幹事をしてきたと思いますが、初めて幹事をしたのはいつだったか覚えていますか?

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幼稚園の砂場遊びですかね?

え、砂場遊び?

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僕は毎朝登園すると、「今日は砂場のこの一角に山を作り、川を作ろう」というプレゼンをクラスの仲間にして、みんなを砂場の一角に集め、役割分担を行い、山や川を作り上げていました。それが僕の幹事の原点だと思っています。

そんな頃から幹事の片鱗が……!?

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そうなんです。僕は「幹事」のことを、「旗を掲げ、仲間を集い、事を成す、そのきっかけと環境を作る存在」だと定義しています。

それが磨かれていったのは、小学校に3つ、中学校に2つ通った転校生生活ですかね。新しい学校に転校すると、すでにそこにはコミュニティができていますよね?

たしかにそうですね。

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そうすると、同じ言葉を発したとしても、違うことが想起されるんです。

たとえば、僕が前の学校で体験した運動会と新しい学校の運動会は違うし、クラスの運営の仕方や給食の食べ方もみんな違う。

「このコミュニティは何を正しいとして生きている人たちの集まりなのか」

「どうすればそこで自分の役割が得られるのか」

それらを俯瞰しないと自分の立ち位置が確保できない状況に何度も見舞われてきました。

まずは理解するところから始めるんですね。

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そうした関わり方を意識していく中で、「どうやらみんなまとめ役を面倒くさがっているらしい」と気付いたんですよ。

でも、僕にとっては得意なことだった。そうやって、幹事的なポジションとしてみんなの役に立ちながら、自分の出番が得られることに気付いていったのだと思います。

高校生、大学生になってからも幹事をされていたんですか?

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高校では放送部に入って、いろんな委員会の人と相談しながら体育祭や文化祭などの企画を立てたり、修学旅行の実行委員長として飛行機をチャーターして、旅行会社の人と調整してスケジュールを決めたり……。

大学に入ってからも、国際関係のクラブで海外の学生を日本企業でインターンとして受け入れるお手伝いをしたり、国際会議やセミナーなどを開催したり。

すごい。ずっと幹事をされていますね。

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はい(笑)。ありがたいことに、いろんなことをやらせていただきました。社会人になってからも、おかげさまで幹事を28年間やり続けて今に至っています。

思わず聞いてしまうのですが、仕事もある中で28年もイベントをやりつづけて……、辻さんは疲れないんでしょうか?

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もう、呼吸するように幹事をやっているので(笑)。

「幹事」こそ、クリエイティブで楽しい!

辻さんは、今まで築いてきた「幹事力」を生かし、2019年にコミュニティのインキュベーションと称した「コミュニティラボ」を約200名の仲間と共に立ち上げている。

幹事をするのが当たり前の感覚なんですね。ちなみに、幹事をやることに苦手意識を感じる人は多いと思うのですが、辻さんならどうアドバイスしますか?

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逆に質問したいのですが、なぜ幹事が嫌なんですかね?

うーん……。お店の手配が面倒とか、あとはみんなが楽しめているのか気になっちゃう、みたいなこともあるかもしれません。

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なるほど。僕が幹事をやるときは、参加した人たちが帰りの電車の中で「今日は○○の会に行ったよ」という感想をSNSに投稿するなら、どういうフレーズだとハッピーかを逆算して考えるんです。

SNSの投稿?

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はい。たとえば、職場の飲み会で「今日は○○さんの知らない一面が見える会だったよ」をゴールにするなら、それを「いろんな人たちの知らない顔が見える場」ともう少し抽象化する。

そのためには、どういう雰囲気の企画がよくて、どういう店がよくて、行きたいと思ってもらうにはどういう声かけをするのがよくて……と考える。

そして、実際にそういう感想を持ってもらう流れは、イベント中だけでなく、日々の人間関係作りから始まっていますよね。

日常からすでに始まっているんですね……!

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ゆえに、「呼吸するように幹事」なんです。日々の関わりが、まさしくそうした時間を作るんですよ。

会によって、定期開催されることもあれば、一回限りのこともありますが、「そのとき集まる人にとってのハッピーとは何だろう?」と考えて、そこから逆算していけばいいのではないでしょうか。

なるほど。そんな辻さんが思う、幹事の魅力とはズバリなんですか?

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それは、自分で決められることだと思います。たとえば、いくつか候補日がある中で「この日は別の飲み会があるから、違う日にしちゃおう」と、決められるかもしれないし、自分が行ってみたいお店を提案することもできるかもしれない。

それに、人生において自分が決められる機会って、あるようで意外と少なくないですか? だから、選択肢を持って決められるのは、幹事として意外と楽しいところだと思いますよ。

たしかに……。ちなみに、辻さんは、お店の下見にも行かれるんですか?

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はい。会場候補のお店には必ず下見に行きます。駅から店までの距離、エレベーターが何台あってそのエレベーターは何人乗りか、降りてから店に入るまでの動線はどうなっているか、トイレがいくつあって男女別なのか、席はどうなっているか……など、しっかりと確認しに行きますね。

 

そういった部分は、どうやって楽しまれているんですか?

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制約条件がある中で「みんながハッピーになるのには、どうすればいいだろう?」と考えていくのは、極めてクリエイティブじゃないですか?

たとえば、予算や食べ物の好き嫌い、お酒が飲める・飲めないなど……。楽しいし、面白いと思います。

お酒が飲めなくても大丈夫? 「幹事力」を支える仮説とコミュニケーション

捉え方を変えるだけで、幹事も楽しい仕事になりますね。「幹事をやらされている」と考えるのは、もったいないと思えてきました。

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まさに、幹事を自分ごととして主体的に取り組むと、楽しめる機会になりますよね。

僕が幹事をするときは、来てくださった方が「主役になった」と思う瞬間を作ることをいつも意識しているんです。「主役になった」の定義は、その人がその時間を作ることに貢献できたと感じられること。

だから、まず幹事である僕がそれを感じられないと、多くの人に共有することもできないと思うんですよ。

辻さんが司会を務めるイベントでは、辻さんが話し始めると、会場の空気はがらりと明るくなる。(提供写真)

ちなみに飲み会の場合、辻さん流の盛り上げるコツってありますか?

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いろいろあるのですが、まずは拍手ですかね? 拍手って手のひらをくぼめると、いい音が鳴るんですよ。まず拍手で注目を集めて「はい、みなさん!」と声をかける。

会場にいる全員をちゃんと見渡したうえで「こんばんは! 今日はみなさんが『○○な会だった』と感じてもらえたらうれしいです。よろしくお願いします!」と挨拶しながら、会の目標を共有してスタートする。これは比較的、簡単に試せる方法だと思います。

拍手……! 確かに最初にどういう場か共有するのは大事ですよね。

ちなみに、お酒が飲める・飲めないで、気をつかっちゃう人がいる場合はどうしていますか?

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僕もお酒は飲めないんです。そういう時は、相手が何に気をつかっているのか、見極めるようにしています。

特にお酒を飲む人と飲まない人のコミュニケーションには、いくつかパターンがあって。たとえば、飲む人に「周りがだんだん酔っぱらっていくの、嫌じゃない?」と言われたら「いやいや、周りが酔っぱらっていく様子を見ているのが楽しいよ!」と答えてみたり。

たくさん接しているうちに、切り返しのパターンがだんだん見えてくると思います。

なるほど。飲めなくても、自分も楽しんでいることを伝えるとか、方法はいろいろありますね。

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そうですね。ただし、なんとなくその場をやりすごさないのは、大事かもしれませんね。

やりすごさない?

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幹事に限らず、自分がイメージしていた通りに事が運ぶことってそんなにないですから。なので、「なぜこの人はこういう反応をしたんだろう?」「自分はなぜこう考えて動き出したんだろう?」と考える。

仮に盛り上がっていないテーブルがあったら、「もともとこの人は飲み会の場が好きではないけど、ひょっとしたら無理に来てくれたのかもしれない」などと仮定して、「最近どうですか?」と声をかけてみるとか。

「この人はなぜこういう反応をしたのか?」について、仮説を持つということでしょうか。

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そうです。仮説の中でもし当たるところがあれば、そこで時間を共有できます。だから、普段からいろんなことに興味を持つのは大事だと思いますよ。

もちろん全部正面から受け止めているとそれはそれで大変なんですけれど。それでも、流さないことです。

人生の「幹事」の旗、どう立てる?

面倒でスルーしていることも、少し足を止めるだけで変化が生まれるかもしれないですね。ほかにも、何か日常生活で心がけていることはありますか?

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コミュニティにおいて自分の役割を得るにはどうすればいいか、自分がどういう出番を得られたら関わる人と共にハッピーでいられるのか、は常に考えていますね。

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幹事も日々の仕事でも、つまるところ「あなたって○○な人だよね」という「○○」にどういうフレーズが入るのか、ですよね。

それは人からどう見られるのか気にするのではなくて、「自分はこういう人なんです」と、自分がどう決めるかなんです。つまり、人生の幹事の旗をどう立てるか、その旗は何なのか。

人生の幹事の旗?

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はい。その旗に基づいて、自分はどう仲間と日々関わって、どんなことを成していくのか。自分の人生の幹事は『自分』なんですから。

人生の幹事の旗をどう立てるか……。まずは自分がどうしたいか、どういうものを作りたいのかをきちんと考えることが大切ですね。

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そして、ありたい姿を高い解像度で持ち続けておくこと、関わる人たちにも言葉で共有し続けていくことも大事だと思います。

周りと共有する時、何か工夫していることはありますか?

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たとえば、企画した会が終わる状態について、一緒に幹事をやる人たちと同じ映像が頭に浮かぶくらい、会話を交わしてからスタートするのは大切です。

同じ映像が浮かばないとすれば、今どこに引っかかっているのかを考える。集めるメンバーなのか、場所なのか、告知の仕方なのか……。言葉にすることで、同じ景色を見られるので。

ちなみに辻さんは会社員としてお仕事をしながら、多数のプロジェクトを同時進行で動かしていてとてもお忙しいのでは……と思っています。どうやって時間を捻出しているのですか?

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幹事をやっていると、飲み会の時間も調整できるじゃないですか。

早く始めるのも遅く始めるのもよし、「そろそろお店が閉店でして」と終えちゃうのもよし。それを決められるのも幹事の魅力の一つかもしれませんよ。

確かに「ダラダラ続く飲み会、あんまり好きじゃないんだよな」と思っている人が幹事をやったら、早めに締められるのかも……!?

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お店の人に「すみません。このタイミングで声を掛けいただいてもいいですか?」と、事前に調整しておくとかね(笑)。

なるほど! ダラダラすることだけが、理想のコミュニケーションではないですよね。

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理想のコミュニケーションは何なのか。それも自分の中でちゃんと想像しておいて、幹事仲間内でイメージを共有しておけるといいと思いますよ。

でも、ダラダラするのが好きな人もいるので「それは第二部でどうぞ!」と伝えて、否定はしない。「それぞれ考え方があっていいですよね」と、理解したうえで分けることもできるかなと思います。

辻さんのお話を聞いていると、幹事を積極的にやりたくなってきました。

日頃から自分と周りがハッピーでいられるように、人生を主体的に見つめていきたいです。貴重なお話、ありがとうございました!

2023年11月取材

取材・執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)