休める働き方で生活と人生がより楽しくなった。年2回の10連休を家族と過ごす、大手金融系サラリーマンの仕事術
「決められた有給、ちゃんと取ってね」
会社や上司にそう言われても、目の前の仕事は山積み。忙しい同僚や取引先に「休みを取ります」とも言いにくい……。「忙しすぎる」と「同僚や取引先に迷惑をかける」、日本で働く人の多くは、「休みにくさ」の理由に、まずこの二つを挙げるのではないでしょうか。
金融系の大手企業で働く滝川徹さんも、この二つを感じてきたサラリーマン。仕事で成功したい熱意も強く、心身に不調をきたすほどに働き詰めの生活をしていました。
それが変わったのは入社10年目、「自分の気持ちに素直に生きていくこと」の大切さに気づいてから。働き方を変え、今では「残業ゼロ・年に2回(少なくとも)10連休・月2回の休暇取得」を実現しています。
長時間労働が蔓延する日本の大手企業風土の中で、滝川さんはどのように、「休める働き方」を実践しているのでしょう。明日から取り入れられる行動のヒントを、『休暇のマネジメント』(KADOKAWA)の著者・髙崎順子さんが伺いました。
滝川徹(たきがわ・とおる)
1982年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことから独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。効率的な働き方やタスク管理について発信し、副業で執筆や講演、セミナー活動を行っている。著書に『気持ちが楽になる働き方』(金風社)、『細分化して片付ける30分仕事術』(パンローリング)など。
自分を忙しくしすぎない
大手金融企業に正社員として勤めながら、副業でブログや本を執筆、かつセミナー講師の活動と、とても精力的に働いていらっしゃいますね。
滝川
はい。副業は早朝に1〜2時間ほど行い、会社は日によりますが9〜17時の定時で勤務して「残業ゼロ・年に2回(少なくとも)10連休・月2回の休暇取得」です。
夕方以降は子どもと遊んだり、動画を見たりして好きに過ごし、早めに就寝し、1日8時間は寝ています。10連休には家族と長期滞在型の宿泊施設で過ごすことが多いです。
ヨーロッパの人々のバカンスのようですね。ズバリ、そのような「休める働き方」ができるのはなぜでしょう?
滝川
まず、休める会社に勤めているということが大きいです。会社や上司には心から感謝しています。
ですが、同じ会社にお勤めの方が全員、滝川さんのように働いているわけではないですよね……?
滝川
会社としては残業を減らしたくても、残業をしている人はまだ多いです。私の会社ではある程度連続して連続休暇を取れる制度があるのですが、連続ではなく、分けて取得する人もいるようですね。
そのようなケースと滝川さんは、何が違うのでしょう。
滝川
仕事の考え方は人それぞれですし、どちらが良い・悪いというものではありません。
その上で、私はプライベートを大事にすると決めており、そのために自分を忙しくしすぎないようにしています。
忙しくしすぎない……。なかなか難しいですよね。わかっていても、仕事はなかなか減りませんし。
滝川
仕事を効率化する方法はいくつかありますが、それを実践するにはまず、会社と自分の関係をしっかり見据える必要があります。自分は仕事に、どれだけ時間とエネルギーをかけたいのか?
私は家族と過ごす時間や自分のやりたいことをやる時間が、とても大切。だから仕事を忙しくしすぎないぞ、と強く思っているんです。
「持ち時間」を知らないから忙しくなる
「仕事を忙しくしすぎないぞ!」と心に決めたあと、滝川さんはどう行動に移しましたか?
滝川
まず独学で「タスク管理」を学び、長時間労働を改善しました。
ざっくり説明すると、「やるべき仕事」と「自分の持ち時間」を把握して実行するやり方です。自分の持ち時間に仕事が終わらないと、残業になるわけですから。
とてもシンプルですが、確かにそうですね。業務が勤務時間をはみ出すと残業になる、と。
滝川
具体的にどうするかというと、まず、その日・その週にやるべき仕事を一つずつ、それを終わらせるための時間と一緒に書き出す。
タスクA=30分、タスクB=1時間、というふうですね。毎日必ずやるメールチェックや定例会議などのルーティンも、書き出します。
「自分の持ち時間」の方は、フルタイム勤務の場合で定時が9〜17時だとすると、そのうち1時間のお昼休憩を除いて7時間はありますね。
滝川
実はそこが盲点でして、多くのサラリーマンには7時間もないんです。上司や同僚からの声掛け、電話対応など、自分の業務に挟み込まれる「割り込み」の仕事が、結構あります。
ルーティンの仕事と割り込みだけで、定時勤務時間の6割くらいは割かれますね。
6割というと4時間以上、するとルーティン以外の実質持ち時間は3時間しかない、と?
滝川
2週間くらい記録を取ってみると、「割り込み」の内訳と分量が分かりますよ。そのルーティンと割り込み仕事を天引きした分が、自分の仕事の持ち時間です。
仕事を始める前には、その持ち時間で「今日はこれをやる」と計画と目標を立てる。こうしないと、流れてくる仕事にただ反応するだけで終わってしまいます。
流れてくる仕事に反応する。言語化するとまさにその通りで、耳が痛いです。
滝川
そうですよね。来たメールに反射的に返信したり。そうなると、やることが次から次へとやってくるように感じられて、いつも「忙しすぎる」状態になってしまいます。
私もメールは着信の通知があると、すぐ返信したくなります。でも、それはまさに「流れてくる仕事に反応している」ですよね。それまでしていた作業の流れを切ってしまうので、その後、集中を取り戻すのに苦労します。
滝川
そうならないために、私はメールチェックの時間と頻度を決めて対応しています。
勝手に相手の考えを決めつけない
滝川
仕事を頼まれた時、必ず「いつまでにやったらいいか」と確認するのも大事です。数日の猶予があると、計画が立てやすい。この確認をしないで、頼まれる全てを「なるべく早く」と勝手に考えてしまうこと、結構ありませんか?
ああ〜〜……(苦笑)。
滝川
相手に尋ねてみると、実はそんなに急いでいない、ということもあるんですよね。確認しないで思い込んで、勝手に自分を忙しくしている。こういうことは、いろんな職場にあるんじゃないでしょうか。
なぜまた、そういう思い込みで進めてしまうんですかね?
滝川
僕自身も前はそうだったんですが、その時は「こう言うと、人には迷惑だろう」「こんなことを聞くなんて、はしたないと思われる」と相手の考えを決めつけていました。
つまり、相手に尋ねることをサボっていたんです。それで勝手に、自分を苦しくしていました。
相手はこうだろうと思い込んで、考えを確認する手間を取らなかった、と。
滝川
僕がそれに気がついたのは、プライベート時間の確保のために、「飲み会に行かない」「残業をしない」と決めた時でした。
こんなことを言ってはダメだと思い込んでいたけれど、仕事に支障がなければ、相手は受け入れてくれるんですよね。もちろん伝え方に配慮は必要です。
自分のスタンスを示すのは簡単なコミュニケーションではないからこそ、無意識のうちに、それを避けていたんです。
自分の考えを示して、相手の反応を確認するのは、一手間ですものね。言い方にも気をつけて、となると面倒で、「聞かない方がラク」「もう、そういうことにしてしまおう」と思い込みたくなる。
滝川
僕は確認した時に、相手から嫌な反応をされることも怖かった。それで嫌われていると感じたくなかったんです。
だから、最初から自分のスタンスも示さず確認もせず、勝手に決めつけていました。その方が気が楽だったんだなと、今となっては分かります。
休み方も働き方も、相手の考えを否定しない
忙しすぎる働き方には、コミュニケーションの問題が潜んでいるのですね……。深いです。
滝川
コミュニケーションの問題は働き方だけではなく、休み方にも共通しています。
本来は、自分がいつ休みたいとはっきり示して、上司や会社がOKすればいい。でも、「そんなことを言ったら迷惑になる」と思い込んで、意思表示をすることもなく休めなくなっている人もいるのではないでしょうか。
「強く意思表示をする人の方が休めている」「言えない人が休めない」という声は、残念ながらよく聞きますね。
滝川さんの職場では、休暇はどうマネジメントされていますか?
滝川
10連休に関しては、年度はじめに部署のみんなで希望の時期を言い合って決めています。私は子どもの学校休みに合わせますね。3月は決算時期なので避けますが、それ以外は躊躇しません。
休む時には心配や引け目はありませんか?
滝川
ないですね。普段から仕事には支障がないようにしていますし、私は社長でも役員でもないですから。「自分が抜けると組織が回らなくなる」と思う人もいるでしょうが、私はそれは違うと思います。
本来、誰かが抜けてもカバーできて回るのが、組織の利点ですよね。
滝川
あとシンプルなことですが、自分の意志を伝える際には、言い方には気をつけています。相手の考えは絶対に否定しない。
必ず「私はこうだけど、あなたはどう?」と主語をはっきりさせます。人と人は考え方の違いがあっても、「どちらが正解」というのはないので。
意見が合わない時もあるかと思いますが、どうしますか?
滝川
私が上司だったら「あなたの考えは分かるけど、今回はこうしてね」と伝えます。私が部下の場合は、上司の意向に添います。そこは組織ですから。
人は自分が思っているほど、世界を正しく見えていない。だから、「自分の考え方は合っているのかな?」と考えながら、コミュニケーションを取らなくちゃいけないなと思っています。
ストレスが減って、自由に生きられるようになった
なるほどなー、と頷くお話ばかりでしたが、滝川さんも最初からこの働き方をしていたのではないですよね。
滝川
新卒入社から10年くらいまでは、スーパービジネスマンに憧れて、朝残業もしていました。
でも、その働き方で、私の会社生活はうまくいっていなかったんです。他人の目が気になっていたし、非難されることを恐れていた。「自分は何のために働いているんだろう? 何のために生きているんだろう?」と考えていましたね。
そこで、プライベートの時間が大事だと気がつかれたんですね。
滝川
映画『食べて、祈って、恋をして』の原作者で世界的なベストセラー作家であるエリザベス・ギルバートは、YouTubeで「仕事には天職とジョブがある」と語っています。
天命のように情熱を燃やすのが「天職」、でもそうではない「ジョブ」も、お金が入って自分を養ってくれる大切なものだと。私にとって会社の仕事は、天職ではなくジョブです。そして、一番大切なものは家族。それが分かって、仕事への執着を手放せました。
プライベートの時間をしっかり取れる働き方をするようになって、何が変わりましたか?
滝川
他人の目線が気にならなくなりましたね。それでストレスが減って、生活と人生がより楽しくなった。自由に生きている実感があります。
サラリーマンでも、「自由に生きている実感」を持てるのですね……!
滝川
いや、サラリーマンだからこその自由だと思います。有給などの権利があって、収入を減らさずに休めるのはすごいことだと思いませんか?
しかも、固定収入があって、仕事のことを考えなくちゃならない時間も決まっている。仕事で悩んだとしても、答えを見つけられるノウハウが社内にはすでにある。人生を楽しむために、サラリーマンという働き方はとてもうまくできているんです。
サラリーマンだからこそ、自由でいられる。その考え方を持つ人は、まだ日本にあまり多くないように思います。
滝川
そうでしょうね。実際、私も会社では「ヤバいヤツ」の一人かと思いますよ!(笑)
でも、サラリーマンだからこそ自由に生きなきゃもったいない。この記事を読んで、「仕事とは自分にとって何なのか?」と考えてもらえるきっかけになったらいいな、と思います。
休める働き方は仕事観だけではなく、人生観にも直結しますね。
今日はありがとうございました!
2023年11月取材
取材・執筆=髙崎順子
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト