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続・「幸福」と「価値観と文化」 | 八木橋パチの #混ぜなきゃ危険

強者になれ。
我慢して努力し続けろ。
将来の安泰につながるのだから苦労は仕方がない。
ルールや約束事を守ってさえいればひどいことにはならない。

 前回の『ホフステードに見る「幸福」と「価値観と文化」』で取り上げた、文化比較論のスタンダード「ホフステードの6次元モデル」で示されている「日本に顕著な文化的傾向」から、私の耳に聞こえてくる言葉です。 この言葉、皆さんの耳には、自分や自分の身の周りの人たちをしあわせに導いてくれそうな感じに聞こえますか?

…改めて見直しても、やっぱり私にはひとかけらもそう思えません!!

その価値観、しあわせじゃなくて生きづらさにつながっていませんか?

「今よりも未来を大切にすること」や「辛くても苦労や我慢を受け入れること」にも、大切な側面があるのは私も理解しているつもりです。「千里の道も一歩から」「苦労は人を成長させる」 — 私もこういう価値観を大切にする文化に囲まれて育ってきました。そしてこれらの言葉にも真実があると思っています。

ただし、問題はその度合いです。その度合いが社会の中で強くなり過ぎてしまって、今や人びとにしあわせよりも「生きづらさ」を与えるものになってしまっていると思うのです。そして、しあわせってとてもデリケートで、「しあわせとはかくあるべき」や「こういう要素こそ強くあるべき」など、そういう「べき的なもの」とは逆側にあるものと言えるのではないでしょうか。

「何をどれくらいしあわせと感じるか」は人それぞれです。たとえば、今この瞬間の楽しさや嬉しさに最も強い幸福を感じるという人もいれば、長い時間をかけて何かを成し遂げるそのプロセスこそがしあわせをもたらすという人もいます。あるいは、フローやゾーンとも呼ばれる「何かに没入する状態」こそが幸福感の正体だと捉える人もいます。

私は、どれも間違いなく幸福感だと思います。そして、それぞれの幸福感の価値は、どちらの方が高い、低いなど、そのように測れるものではないと思います。

さらに言えば、どの幸福感に重きを置くかは一人の人間の中でも常に一定というわけではなく、そのときどきによって変化するものではないでしょうか。(なお、ホフステードの6次元モデルは、これらの異なる幸福感に「価値の高低差」をつけることなく「タイプの違い」としています。そして日本は「充足的よりも比較的抑制的」という位置付けです。)

このようにしあわせを測るのは一筋縄ではいきません。そして実のところ、私個人は、よくメディアなどで話題になる「世界のしあわせな国ランキングで、日本は下から何番目!」といった話にはあまり興味はありません。私が強く興味を持っているのは、私自身のしあわせと、私の周囲の人たちのしあわせなのです。そして、「誰かと比較したしあわせの度合い」ではなく、本人が感じているしあわせの度合いなのです。

大事にしたい10の価値観

先日、私の大好きなデンマークのフォルケホイスコーレ(大人のための国民学校)に留学していた友人が、現地で受けたおもしろい授業のことを教えてくれました。

デンマーク社会の重要な10の価値観とは?@フォルケホイスコーレ

デンマークでは、2016年に自国社会において最も重要で残していきたいと思う10の価値観を、国民投票で決めるという取り組みをしたそうです。以下がその結果です。

大事にしたい10の価値観 | デンマーク編

  • 1)Welfare society : 福祉社会
  • 2)Freedom : 自由
  • 3)Trust : 信頼
  • 4)Equality for the law : 法の平等な適用
  • 5)Gender equality : 男女平等
  • 6)Danish language : デンマーク語
  • 7)Associations and volunteering : 組合とボランティア
  • 8)Open-minded and tolerance : オープンマインドと寛容さ
  • 9)Cosiness (hygge) : ヒュッゲ
  • 10)The Christian religion : キリスト教

これを受けて、その授業では、各国から来ている生徒たちが、自国における10の最重要な価値観を各自で書き出し発表したそうです。皆さんだったら、どんな10個を選びますか? 私パチも、日本の最重要価値観を10個選んでみました。

大事にしたい10の価値観 | パチ編

  • 1)自然畏怖(八百万の神)
  • 2)日本語
  • 3)節約(もったいない)
  • 4)責任感(我慢)
  • 5)調和と協調
  • 6)義理人情
  • 7)他者への尊敬(礼儀正しさ)
  • 8)安全(慎重)
  • 9)道(守破離)
  • 10)侘び寂び(四季)

かなり真剣に考えて、50年後の日本にも残っていて欲しいものを選んでみたつもりです。きっと、100人いたら100パターンのものが出来上がりそうですよね。皆さんもちょっと考えてみませんか?

そしてこれを考えながらふと思ったのが、「ここで思った10個と、国民投票で選ばれた10個のギャップが大きい国で暮らしていたら、個人の幸福度は下がっていくんじゃないだろうか?」ということです。自分が「今、身の回りに存在している」と認識していて「これからも大切にしたい」と思っている価値観が、大切にされていない社会でずっと過ごす…。これは、じわじわと自分自身を蝕んできそうな気がします。

あなたの生きやすさが周りの生きやすさにつながる

強者になれ。

我慢して努力し続けろ。

将来の安泰につながるのだから苦労は仕方がない。

ルールや約束事を守ってさえいればひどいことにはならない。

最初にも書いた「私の耳に聞こえてくる」日本文化を表す価値観です。改めて見ても、どれも特段おかしなことではないし、実際に何一つおかしなところはないですよね。ただ、繰り返しになりますが、それが極端に過ぎるのです。その極端さが他の特性(価値観)にも影響を与えて、それが反響し合いあってさらに極端になっていていく…という、不幸なフィードバックループを起こしている気がしてなりません。

そんな思いから、私は以下を推奨してみたいと思います。

■ルールや約束事に疑問を感じたら、どうしてそうなっているのかを確認する。おかしいと思ったり不思議だと感じたら、それをスピークアップして周囲に伝える。

■ 将来の安泰のためではなく、自分の愛しているものや大好きなことのために苦労をする。もし同じことに苦労している人がいたら、仲間になる。

■ 我慢して努力したら、そんな自分をきちんと褒めてあげる。周りで我慢している人や努力している人も褒めてあげる。

■ 強者になろうとするよりも、自分自身であろうとする。

どうでしょう?「私もそうしたいな」と思うところはありませんか?

「難しそうだな」と感じるところもきっとあるでしょう。でも、そうしたいなと思うところがあったら、そこだけやってみませんか? 少人数でも、自分の価値観を大事にして暮らし、それを社会からも見えやすくする人が増えれば、自分の「生きづらさ」を見つめ直して新たな取り組みを始める人が増えると思うのです。

それはつまり、あなたの「生きづらさを減らそう」というアクションが、周りの人たちの生きづらさを減らすことにつながり、しあわせのフィードバックループを起こすことではないでしょうか。前回も書きましたが、しあわせは友人の友人の友人まで「伝染する」そうです。どんどんうつしちゃいましょう!

Happy Collaboration!

著者プロフィール

八木橋パチ(やぎはしぱち)
日本アイ・ビー・エム株式会社にて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険> をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。2017年、日本IBM創立80周年記念プログラム「Wild Duck Campaign - 野鴨社員 総選挙(日本で最もワイルドなIBM社員選出コンテスト)」にて優勝。2018年まで社内IT部門にて日本におけるソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。 twitter.com/dubbedpachi

2021年9月2日更新