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好奇心から生み出すフューチャーズ・デザイン(未来デザイン) | 八木橋パチの #混ぜなきゃ危険

皆さんは「未来デザイン」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?

「未来」も「デザイン」も、毎日のように耳にする言葉ですよね。でも、この2つがつながり「未来デザイン」という言葉になると、案外「耳慣れない」と感じる方も少なくないようです。今、ちょっと気になってオンラインで調べてみたんですが、Wikipediaには「未来デザイン」という項目はありませんでした。でも、Wikipedia内を検索してみたら、いくつかの大学や高校で学科名やコース名として、あるいは企業名やプロジェクト名として使われているものが見つかりました。

そして、未来デザインを英語にすると「フューチャー(ズ)・デザイン」となります。最近は、とある証券会社のテレビCMでも「私たちフューチャー・デザイナーがお手伝いします」なんてナレーションが流れています。

デンマーク、コペンハーゲンでのBespokeとの出会い

…と、唐突に未来デザインについて書き始めましたが、実は、私パチは「フューチャーズ・デザイナー」なのです。未来デザインとの出会いは4年前。初めて行ったデンマークのコペンハーゲンで、Bespoke(ビスポーク)社のフューチャーズ・デザインのワークショップに参加し、そこで強く感銘を受けました。

その後は、Bespokeからプレゼントしてもらった彼らの著作『フューチャーデザイナー・ブック – 未来を創る方法論と実践方法』を日本語に翻訳したり、彼らの来日に合わせて日本でワークショップ通訳を行ったり、日本向けの動画コンテンツを一緒に作成したりしていました。

こうしてワークショップやトレーニングの数々をBespokeと共に行う中で、「未来デザインの心構えと方法論が十分自身に染み入った」と感じられるようになったのが2年くらい前。 その後コロナ禍においては、未来デザイン手法を学ぼうという世界各地からの参加者たちと共に再び実践トレーニングを受けたりしていました。そして今では、自信を持って(かつ肩に力を入れず)「フューチャーズ・デザイナーのパチです」と名乗れるようになりました。

Bespoke流の「未来デザイン」はここが特別

それでは「未来デザイン」とはどんなものなのでしょうか? おそらくは、最初に書いた大学や高校、企業やプロジェクトなど、フューチャーズ・デザインという名称を使っているさまざまな団体がそれぞれ少しずつ違った意味合いをその言葉に持たせているのだろうと思います。でも、私が思うBespoke流の「未来デザイン」は、以下の定義となり、3つの特徴を持っています。

未来デザインとは、自分たちの望む未来を起点に現在を捉え、人びとの考えや意見を集める民主的な実践手段。デザイン思考を活用して、人と社会と地球をより良い場所にしていこうという意図に基づいた取り組みであり方法論。

第1の特徴は「起点が未来にある」こと。現在から積み上げて行って未来に到達するのではなく、望ましい未来を描いて、そこから現在を振り返ります。これは「バックキャスティング」とも呼ばれる手法で、聞いたことがあるという方もいるのではないでしょうか。

第2の特徴は「民主的な方法」(なお「民主的」というのは「多数決」という意味ではありません)。デザインのプロセスにおいて、多くの人びとと五感を使ってたくさんのインタラクションを行い、多くのアイデアや思考をレゴブロックのように組み合わせていきます。

そして3つ目の特徴が「地球」に対する意識です。どんなにステキな未来を思い描いたところで、地球が保たなければどうにもなりません。今のまま、人びとがサステナブルじゃない生活を続けていたら、ステキな未来を描きようがないですよね。

なお、研修コースで具体的にどのようなことを行うのかは、こちらの2日間コースのレポート記事をお読みいただくのが良いかと思います。

STEEPV分析で未来に向けて「絶妙な波紋」を

私たちが未来デザインを説明するときによく使用するメタファーが「湖への石投げ」です。未来は、多くの人たちの現在の行動が影響し合って生まれていきます。その姿は次々と変化し続けています。

多くの人が投げた石が同時に同じ場所に落ちることで、「波紋」が大きなものとなりずっと遠くまで水が運ばれていくこともあれば、誰かの投げた大きな石の波紋が、他の波紋を打ち消してしまうこともあるでしょう。あるいは、波紋が広がった先で別の波紋との合流を繰り返していき、湖のはるか彼方にまで届くこともあるでしょう。

そんな「絶妙な波紋」を生み出すには、どうしたらいいのか? どの方向どの角度に、どんな石を投げればいいのか?

そして私たちが波紋の予測に頻繁に使用するのが、STEEPV分析(社会・テクノロジー・環境・経済・政治・価値観)と呼ばれるものです。現在から未来へとつながる「変化のシグナルたち」を見つけ出し、仲間たちとの対話を大事にしながら、波紋が遠くまで広がるように石を上手に投げる準備をしていきます。その準備でとても重要なのが、「望ましい未来を作るのは自分たちである」という意思と、「そのプロセスを楽しむ」という意識です。

「プロセスを楽しむ」と書きましたが、わざわざそれを意識しなくても、未来デザインを学ぶ参加者のほとんどがそのおもしろさに魅了され、それを楽しみます。そして日々、それを実践しようと考えます。…ただ、実はここに、多くの参加者が共通して抱える大きな悩みが1つあるんです。

未来デザインを会社でも実践したいけれど、現況の日常業務が忙しいこともあり、「仕事を通じて社会を良くしていこう」という変化を起こすための行動が受け入れてもらえない。また、忙しくてやらなきゃいけないことがたくさんあり、社外でも「社会のこと」に取り組む時間が取れない。

こんな状況、あなたは聞き覚えがありませんか?

興味を持ち手法を学んだのにも関わらず、結局それを実践する場が持てないままに時間が過ぎ、気がつけばすっかり実践方法を忘れてしまっていた。さらには、それを行おうという気力まですっかり衰えてしまった…。

「好奇心」が未来デザインの基礎中の基礎。それなのに…

そうなんです。せっかく心構えや技を学んでも、日常でそれを使わないと能力が落ちていってしまうんですよね。そしてそれが続くと「自分がやってもどうせたいしたインパクトは生み出せない」、「自分がやらなくても誰かやるだろう」、「むしろ自分なんて足手まといになるのが関の山」みたいに、どんどん消極的になり気力まで落ちてしまいがちです…。

こうなってしまうと、せっかく手に入れた石を遠くへ投げる筋力や、重心位置を変化させるバランス能力や肩や腰回りの柔軟性など、いわば未来デザインのための「基礎能力」がどんどん落ちていってしまいます。

未来デザインのための「基礎能力」とは、情報を見つけ出す能力、本質を探索する能力、意見を引き出す能力、言語化する能力、結合させて新しいものを創造する能力、チームにエネルギーを注ぎ込む能力、プロトタイプを作りあげる能力…。挙げていけばキリがありません。

ただ、これらの未来デザイン基礎能力のすべてに共通する「基礎中の基礎」とも呼べるものが1つあります。それは「好奇心」です。好奇心がなければ、「変化のシグナル」を見つけ出すのも、仲間たちとのコラボレーションという「プロセスを楽しむ」ことも、思考を結合させていくこともできません。あるいは、その質が上がりません。

好奇心が下がっている状態で未来デザインを行っても、その未来はペラペラの薄っぺらだったり、誰かの言葉を借りてきただけの張りぼてだったりになりがちです。未来デザインにおいて、何よりも重要なのは好奇心なのです。フューチャーズ・デザイナーは、普段から自分の好奇心をしっかりと発揮し、成長させていくことが大切なのです。

最後間際になって、ようやく「好奇心の重要さ」に辿り着きました。ふー。

実は、今回一番伝えたかったことは「好奇心の重要さ」でして、未来デザインの話はその「前段」でした。でも書きはじめてみたら、まずはしっかり未来デザインについて理解してもらう必要があることに気がつきました。なぜなら「フューチャーズ・デザイナー」を名乗るか名乗らないかに関わらず、私たちは本来、全員が未来を共に創っていくフューチャーズ・デザイナーだからです。

次回は、もっとすてきな未来を作り出すために「どうすれば私たちは好奇心をもっと強く、深く、広く、長く、高くできるのか」について考えてみたいと思います。

Happy Collaboration!

著者プロフィール

八木橋パチ(やぎはしぱち)
日本アイ・ビー・エム株式会社にて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険> をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。2017年、日本IBM創立80周年記念プログラム「Wild Duck Campaign - 野鴨社員 総選挙(日本で最もワイルドなIBM社員選出コンテスト)」にて優勝。2018年まで社内IT部門にて日本におけるソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。 twitter.com/dubbedpachi

2021年12月1日更新