世界のワーケーションは次のフェーズに入っている 来てほしいのはデジタルノマド(カフーツ・伊藤富雄)
テクノロジーの進化によって、人々の働き方はどんどん変化してきました。
ノマドワークのように物理的にひとつの場所に留まらずに働くことなどの考え方・価値観が登場し、それに伴って新しいトレンドが次々に登場しています。
日本最初のコワーキングスペース「カフーツ」主宰者で、世界中のコワーキングスペーストレンドをウォッチしている伊藤富雄さんが気になるトピックをピックアップ。
今回は、日本で言われている「ワーケーション」とは一味違う、世界の最新事情をご紹介します。
SIMカードから語学レッスンまで 水の都・ヴェネツィアの新しい試み
コロナ禍は世界中の観光都市に大きな打撃を与えた。イタリアの水の都・ヴェネツィアもその例外ではない。その人口26万人の町が新しい試みを行っている。中心部の人口を回復させようと動き出したのが、2021年の4月。
それが文化遺産を保護する非営利団体であるヴェネツィア財団とカ・フォスカリ大学によって立ち上げられた「Venywhere」だ。(※2022年7月現在はβ版にて試運転中)
ポイントは、観光客ではなくITを活用しつつ世界中を移動しながら仕事をする「デジタルノマド」の誘致にフォーカスしていることだ。
プロジェクトメンバーのマッシモ・ヴァルグリエン教授は、「パンデミックによって、移住を希望する高いスキル・能力を持った人々が大量に生まれており、ヴェネツィアの慢性的な頭脳流出に対する解決策になる」と語っている。
Venywhereでは、ヴェネツィアに移住を希望し、高い技術を持ったデジタルノマドがより快適に生活できるよう、次のようなコンシェルジュサービスをワンストップで提供している。
・現地のSIMカードの調達
・銀行口座の開設
・仕事の状況に応じたビザの手配
・現地の税制の理解
・健康保険の手配
・公共交通機関の利用方法
・語学レッスン
・買い物や社交に最適な場所の推薦
・3~6カ月の短期賃貸住宅の手配 など
もちろん仕事場も用意されていて、Venywhereのコミュニティメンバーはコワーキング用に改造された歴史的建造物のワークデスクを利用できる。
例えば、ここはGIUDECCA ART DISTRICTという現代アートセンター。見るからに歴史の重みを感じる。
そしてここは、かつてはヴェネツィアの芸術家が住む宮殿だったFONDAZIONE BEVILACQUA LA MASA 1。
まさに、デジタルノマドにとっては至れり尽くせりだ。さらに、「デジタルノマドビザ」という仕組みがこうした取り組みをあと押している。
約50カ国が発行する「デジタルノマドビザ」とはなにか
そもそもデジタルノマドは、気候が温暖で物価の安定している地域に、2〜3カ月滞在しながら仕事をすることを好む傾向にある。従来、このように日常の中で旅をする働き方は自分の時間と仕事を自律的にコントロールできるフリーランサーや起業家の特権だった。
しかし昨今、海外では社員にそういう待遇を与える企業も現れている。中にはオフィスをまったく持たず世界中に従業員が散在し、移動するケースもある。コロナの影響で企業がリモートワークの可能性に気づいたことと、とりわけミレニアル以下の世代がリモートもしくはハイブリッドな労働環境を強く求めるようになったことがその理由だ。
そして、コロナ禍によるダメージから早急に回復を図ろうとしている国や地域が競うように発行しているのが「デジタルノマドビザ」である。
デジタルノマドビザとは、「デジタルノマド(オンラインでリモートワークするワーカー)であり、滞在地以外の企業に勤める者であることを証明できる者に発行されるビザ」のことを指す。Harvard Business Reviewの記事によると、2022年5月時点で46カ国がデジタルノマドビザを発行している。
ビザは渡航先の国や地域が渡航者の身元を審査して発行する。地域によってさまざまなビザがあり、その滞在期間もまちまちだが、中でもデジタルノマドビザは通常の観光ビザよりも長期滞在を前提に設定されている。
例えば、
・オーストラリア・クロアチア・メキシコ=12カ月
・コスタリカ・エクアドル・イタリア=24カ月
・台湾=36カ月
・ノルウェー・タイ=48カ月
におよぶ。しかも、いずれも延長可能だ。
ビザの発行条件には、相応の収入があること(金額は国によって違う)と国外で雇用されていることの証明の他に、旅行保険、健康保険などを必要とする。発行費用は、国によって33ドルから2,000ドルとさまざまだ。
ちなみに、「滞在地以外の企業に勤める者」という条件は、ビザ取得者が現地住民の雇用を奪うことがなく、自活できることを証明するために規定されている。