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世界中のコワーキングコミュニティの団結へーCoworkiesの挑戦

コロナ禍により日本はもちろん世界においても大勢の人々がリアルで集まることが難しい状況の中、世界中から参加者が集まったオンラインイベントが開催されました。その名も「Hack Coworking Online」。2020年5月28日から30日まで3日間開催され、世界中のコワーキングスペースの運営者、関係者が集結し、計1800名以上が参加しました。この記念すべきカンファレンス、そして主催者である世界最大級のコワーキングスペース専門メディアCoworkiesはどのように誕生したのでしょうか。Coworkiesの共同創業者ポーリン・ルーセル氏(Puline Roussel)によるレポートをWORK MILLがお届けします。

世界的ネットワークの設立と、Hack Coworkingへの道のり

カンファレンスレポート記事では、Hack Coworkingで取り上げられた最も重要なテーマ、そしてコワーキングスペースや企業のワークプレイスの未来像について紹介してきました。ここでは、時間を少しさかのぼり、このオンラインカンファレンスが開催に至った経緯をお話しましょう。

私たち、ディミター・インチェフ(Dimitar Inchev)とポーリーン・ルーセル(Pauline Roussel) は4年ほど前に、ドイツ・ベルリンのコワーキングスペースで出会いました。当時、ポーリーンはそのコワーキングスペースのマネージングディレクターで、ディミターはスタートアップアクセラレーター組織で働くコミュニティメンバーでした。

私たち2人は、自分たちが属しているコワーキングコミュニティといかにかかわるべきか、コミュニティをいかに支援していくべきかについて話し合うようになりました。その過程で、物理的スペースがどういうわけかメンバーの足かせとなり、ベルリンで挑戦できそうなチャンスや仕事があってもそれが見つけにくい状況であることに気がついたのです。何とかして手を貸したいと考えた私たちは、Coworkies という、コワーキングスペースでのチャンスを紹介する世界的ネットワークを立ち上げました。Coworkiesでは、コワーキングスペースやそこを拠点とする企業での仕事が見つけられます。

左から、ディミター・インチェフとポーリーン・ルーセル

会社を軌道に乗せてネットワークを構築していくために私たちが取った手段は一風変わっていました。世界中のコワーキングスペースを4年にわたって訪ね歩き、合計で414カ所に足を運んだのです。その範囲は、東京からムンバイ、マドリッドからニューヨークまで47都市に及びます。その旅を通じて、私たちはグローカル(Glocal。地球規模の視野で考え、必要に応じて地域視点で行動すること) と呼ばれる視点に立ってコワーキングを理解するようになりました。それと同時に、業界としてのコワーキングが、驚くような速さで成長している反面、多くの課題に直面していることも明らかになりました。

Hack CoworkingからHack Coworking Online

それらの課題に対処する最善策を考えるなかで私たちが立ち上げたのがHack Coworkingです。メンバー主導型のイノベーション創出イベントで、コワーキングスペースのメンバーやコワーキング業界向け製品・サービスを作り出している企業、ならびにコワーキングスペース運営企業が集まる場です。Hack Coworkingが誕生した瞬間から、その目標は、みんなで力を合わせて魅力的かつインクルーシブなやりかたで業界の未来を作り上げていくことであり続けています。そして、人々を巻き込むやり方として、ハッカソンより優れた方法はなかなかありません。

「ハッカソン」という言葉になじみがない方のために、詳しくご説明しましょう。ハッカソンは通常、24時間か48時間、あるいは72時間にわたって、中断することなく連続で行われるイベントです。参加者は互いに協力してプロジェクトに取り組みます。一般的なハッカソンでは、参加者がチームを作り、テーマに沿って革新的なアイデアを創造したり、既存プロジェクトを改良したりなどして、実用レベルのプロトタイプを考案します。

第1回目のHack Coworkingは2019年6月に、イギリス・ロンドンのコワーキングスペース「HubHub」で開催されました。イベントは金曜夜から日曜夜まで続き、参加者80人が18チームに分かれて、以下のテーマに沿ってハッカソンのチャレンジに取り組みました。

ワークプレイスにおけるアクセス制御システムの未来

チャレンジを提案したのは、パートナー企業であり、アクセス制御システム業界トップのSALTO 。

空間管理の最適化

チャレンジを提案したのは、コワーキング管理ソフトウェアの世界的企業Cobot 。

ワークスペースにおけるユーザージャーニー

チャレンジを提案したのは、ヨーロッパ最大の不動産企業HB Reavis 。

どんな参加者がいるのか。なぜ課題解決に取り組むのか。

Hack Coworkingは、未来の働き方や働く場に興味を持つ人なら誰でも参加できます。一般的なハッカソンはプログラマーやデベロッパーが対象ですが、Hack Coworkingは、インテリアデザイナーからマーケター、プログラマー、さらには学生など誰にでも門戸が開かれており、共同作業を行います。上記のようなチャレンジ(課題)の解決に挑むひとつの理由に、賞金がかかっているということがあります。ロンドンで開催されたHack Coworkingでは、パートナー企業が提案したチャレンジに挑戦すれば、賞金50万円と金銭以外の賞品が獲得できるチャンスがありました。

第1回目が成功裏に終わると、Hack Coworkingはインターネット上で話題になり、いくつかの企業やコワーキングスペースから、拠点としている都市でイベントを開かないかと声がかかりました。2020年のイベントもたくさん計画されており、ロンドンでの再度開催や、ポーランドのワルシャワ、アメリカのニューヨーク、そして東京でもイベントを実施しようと意欲を燃やしていました。2019年12月から2020年1月にかけては東京に1カ月滞在し、「Hack Coworking Tokyo 2020」 に向けての準備も行いました。

そこで起きたのが新型コロナウイルスの流行です。パンデミックが発生してからは、安全でないため出張や旅行など移動が不可能となり、多くの企業がマーケティング予算を凍結しました。私たちは、開催予定だった「現実空間」でのイベントをすべて2021年に延期する決定を下しました。その一方で、コワーキングスペースはこれまで以上に助けを必要としていました。ならば、ほかのコワーキングスペースとともに業界の未来を話し合い、未来をつくりあげていく必要があるのではないかと考えたのです。

パンデミックのあいだ、多くのコワーキングスペースが、バーチャル空間でのコワーキングをスタートさせていました。そこで私たちも、バーチャルでのイベント実施を決め、5月2日に「Hack Coworking Online/COVID-19版」の開催を発表。世界規模のオンラインイベントに、コワーキングメンバーと運営者を集め、コワーキングスペースの安全でよりよい未来をつくりあげていくことを目指したのです。

世界中のコワーキングコミュニティを団結させる

Hack Coworking Onlineは、5月28日から5月30日まで開催されました。私たちは自宅待機命令が出ているあいだ、イベント当日まで、コワーキング市場がパンデミックにどう対応しているのかを調査しました。Coworkiesコミュニティの活動を継続することが、私たちにとっては何よりも欠かせないことです。ロックダウン中は、新たな取り組みを始めたり、世界中のコワーキングスペースによる活動を支援したり、そこに参加したりしました。

Hack Coworking Onlineで実施するプログラムを企画する最中に、コワーキングコミュニティの取り組みが続々と始まっていく様子を目の当たりにすることは大きな刺激となりました。前述したとおり、Hack Coworking Onlineの目的は、アフターコロナの世界におけるコワーキング業界の未来について話し合いを進めることです。コワーキングスペースがどう対応しているのかを注視し、毎週のように彼らと話し合いを重ねていくうちに、Hack Coworking Onlineは2つの目的を果たさなくてはならないことに気がつきました。

ひとつは 、コワーキングスペース同士がコミュニケーションを図ったり、自分たちの事情や裏話、アイデアを交換したり、解決すべき疑問に答えたりできるようにすることです。もうひとつは 、コワーキングコミュニティがビジネスモデルを新たな現実に適応させたり一新させたりするのに役立つ、新アイデアや新製品・サービスを考案できるよう支援することです。

この点を踏まえ、Hack Coworking Onlineは当初の構想からさらに進めて、純粋なハッカソンとしてだけではなく、オンラインカンファレンスというかたちで学ぶ場へと変化していきました。コワーキングを支えている2本柱は、コラボレーションとコミュニティです。ということは、イベントを自分たちだけで作り上げようとしないことが肝心です。南米のコワーキングコミュニティCOLATAM をはじめ、世界中のさまざまなコワーキングコミュニティを巻き込むことで、自分たちのネットワーク外にいる人や組織にもイベントのことを知ってもらい、対話の機会を広めることができました。

オンラインチケットサービス「Eventbrite」を通じてHack Coworking Onlineに参加を申し込んだ人には全員、登録フォームで、イベント中に解決したい疑問を記入してもらいました。私たちはそこに寄せられた疑問をもとに、プログラムを構成しました。オンラインカンファレンスを企画する過程では、集まった疑問をマップ化してテーマごとにまとめたのですが、それは、コワーキングスペースとそのメンバーが将来の展望についてどう考えているのかを理解できる興味深い作業となりました。寄せられた疑問は以下の5つに分類されます。

① バーチャル空間でのコワーキング:
具体的なかたちだけでなく、営業再開にあたってバーチャル空間でのコワーキングをどうやって運営すればいいのか、どうマネタイズすればいいのかが知りたい。

② コワーキングスペースの営業再開/利用再開について:
何が必要なのか。どうすれば利用者を呼び戻せるのか。利用者がコワーキングスペースに新たに期待するのは何か。利用者はコワーキングスペースを今後どう活用していくのか。

③ コワーキングスペースにおける新たなユーザージャーニー:
ビジターやメンバーがスペースに足を踏み入れるところから、手で触れる場所や密になるエリアの制限、安全の確保に至るまで、どのような流れになるのか。

④ インテリアデザイン:
設計やレイアウトをどう変更すれば、メンバー同士が物理的な距離を確保できるのか。

⑤ 今後の展望:
もっと広い意味で、コワーキングスペースに期待されていることは何か。規模の大きい企業が、リモート業務が可能であることに気づいた今、ワークプレイス自体にはどんな意味があるのか。ワークプレイスは新たな目的を果たすことになるのか。

これらの疑問は、ハッカソンで具体的なチャレンジを設定するうえでもヒントとなりました。今回のオンラインイベントに協力してくれたハッカソンパートナー企業とチャレンジ名は以下の通りです。

Welcomr(アクセス制御システム技術企業)
「新型コロナウイルス感染症とワークスペースのアクセス制御:コワーキングスペースに期待される新しいアクセス制御サービスとは?」

Cobot(コワーキングスペース管理ソフトウェア企業)
アフターコロナの空間管理に関連したチャレンジ「新型コロナウイルス時代におけるベストプラクティスを推進しながら、創造的で生産的な場を提供する能力への信頼を構築する」

Coworkies、SmiirlElixir Coffee(コーヒーショップ)
コミュニティ構築とコミュニティ体験に関連したチャレンジ「コワーキングコミュニティが、もっと持続可能で、ともに取り組めるようにするには?」

これらのチャレンジのいずれかに参加することで、チームは20万円以上の賞金を目指すチャンスを得ることができました。私たちは4週間にわたってイベントの企画・準備に集中し、世界中のコワーキングスペース運営者や研究者、利用者など30人の講演者を取り揃えました。錚々たる顔ぶれがオンラインカンファレンスとハッカソンに集ってくれたこともあり、5大陸から100のコワーキングスペースが参加してくれました。

コワーキング業界のより良い未来に向かって

初めてのHack Coworking Onlineは、参加者全員にとって驚くべき体験となりました。イベント後に寄せられた大量の好意的なフィードバックを読み、参加者が疑問を解決できたこと、コワーキングスペースとコワーキングコミュニティのより良い未来を形作るための刺激と手段を発見できたことに、心から喜びを感じています。

Hack Coworking Onlineはまた、困難な時代に手を取り合って一致団結することがいかに素晴らしいことかを証明してくれました。チャレンジパートナーならびにコミュニティ・パートナーのネットワークの協力を得て、今後も開催されていくであろうオンライン体験の第1回目を、わずか1カ月で企画・計画し、知識やストーリーを包み隠さず共有してくれる世界中の仲間を結集することができました。

さて、次は何が待ち構えているのでしょうか? オンラインだけでなく現実空間でのイベントも予定しています。来年は日本での開催が決定しており、とても楽しみです。「Hack Coworking Japan 2021」は、パートナー企業やWORK MILL との共催で、オンラインとオフラインを組み合わせたイベントになる予定です。ご興味がありましたら、ぜひCoworkiesまでご連絡ください。現在、イベント中に寄せられた全プロジェクトをまとめた要約記事を執筆中です。Hack Coworkingソーシャルメディアアカウントで情報を発信していきますので、ご興味のある方はお見逃しなく。

イベントレポートはこちら

2020年7月23日更新
イベント開催月:2020年5月

テキスト・写真提供:Coworkies Pauline Roussel