どちらの仕事も自分らしく過ごすため。ふろしきガール・滝野朝美さんが会社員と並行しながら風呂敷の魅力を伝える理由
「昔ながらのグッズ」と思われがちながらも、実はSDGsや防災の観点で便利な「風呂敷」。近年では、おしゃれでかわいい風呂敷が続々と登場し、エコバッグの代用品として注目を集めています。
そんな風呂敷の魅力を、Instagramを中心に発信しているのが、「ふろしきガール」こと滝野朝美さんです。週5は会社員として働きながら、夜や週末には風呂敷講座や風呂敷の製作販売を行い、二足の草鞋を履く日々を過ごしています。
どちらの仕事も楽しんでおり、無理しすぎず、バランスの取れた生活を送っているそう。
フルタイムで働く滝野さんは、どうして風呂敷の活動をすることになったのでしょうか? 多様な働き方をする滝野さんに、風呂敷の魅力や会社にいながら副業をするコツについて伺いました。
―滝野朝美(たきの・あさみ)
愛媛県出身。ふろしきブランド「Furoshiki Mignon」の制作販売、ふろしきガールとして結び方の講師を務める。日経新聞「風呂敷を身近に活用」掲載、クルーズ客船風呂敷講師、JICA海外日系人協会風呂敷講師など。2023/6/3-7/9 東京・神保町で個展開催。
自転車のタイヤや草木、素材や柄が自由な風呂敷
今日は、滝野さんが制作したオリジナル風呂敷を持って来てくださいました。どれもデザインがかわいらしく、普段イメージする風呂敷とは少し異なります。
WORK MILL
滝野
こちらは、東京の下町にある自転車屋「千輪」さんとのコラボ作品です。
「自転車を売らない自転車屋さん」とも称される「千輪」さんは、その名の通り自転車を売らず、直せなくなるまで修理し続ける自転車屋さんです。
そんな千輪さんと、役目を終える昭和期の自転車の門出を作品にしました。自転車のタイヤに塗料を塗り、風呂敷の上を走った跡が柄になっています。
滝野
他にも、ピンクの風呂敷は麻100%の生地に、アカネ(※1)染めをしたものになります。
※1:アカネ科アカネ属のつる性多年生植物で、薬草としても用いられる。
染料の抽出から染色まで、すべてご自身で行っているんですね!
WORK MILL
滝野
そうなんです。昨日はカフェのオーナーさんからいただいた70杯分のコーヒー粉の出しがらを使って、布を染めました。コーヒーは香りが強いので、今も家中にコーヒーの香りがずっと漂っていて、幸せを感じています。
カフェで個展をすることになり、コラボ作品を展示したくて製作しています。
染色時間や回数によって色の濃さが変わってくるので、たくさんの種類の濃さの風呂敷を並べて展示したいので、楽しみながら風呂敷を作っています。
風呂敷はズボラな人のためのもの
滝野さんは5年前から「ふろしきガール」として活動をされていますよね。もともと、風呂敷に興味があったのでしょうか?
WORK MILL
滝野
いいえ。風呂敷に興味を持ったのは社会人になってからなんです。
ある日、鞄が壊れて閉まらなくなってしまったんです。その時、知人で「ふろしき王子」として活躍されている横山功さんが風呂敷を使って、バックを補強してくれました。
その風呂敷のおかげで、鞄が簡単に可愛らしく大変身したことに驚いたと同時に、風呂敷の便利さにも惹きつけられて。
その後、ふろしき王子から「風呂敷の冊子を作るから手伝ってほしい」と頼まれ、撮影係として2カ月間お手伝いをすることになったんです。そうして風呂敷に関わっているうちに、どんどんハマっていきました。
風呂敷のどんな点に惹かれたのでしょうか?
WORK MILL
滝野
風呂敷は、「漫画で泥棒が被っているもの、おばあちゃん家のタンスにあるもの」といったイメージを持たれることが多いです。
でも、実際に使ってみると、どんなモノでも包み込んでしまう懐の深さが魅力だと思ったんです。そんな風呂敷のいいところをポップに伝えたいと思っています。
包むだけでなく、床に敷いたり、羽織ったりできる。それに、風呂敷はエコバッグの代用や怪我の応急処置、撥水用の生地ならバケツにもなるので、防災グッズとしても役立ちます。どんなときも、風呂敷を一枚持っておくと重宝しますよ。
風呂敷でこんなに色々なことができるとは知りませんでした……!
WORK MILL
滝野
実は風呂敷って「ズボラな人のためのもの」だと思っていて。
「丁寧な暮らし」「エシカル」というワードに惹かれて風呂敷に出会う人が多く、結ぶ手間や包んだ時の丁寧な仕草も魅力なのですが、「こだわりのある人が使う印象」という風に多くの人が思っています。
しかし、一枚の布で無駄なく簡単に形を変えられたり、何か困ったらとりあえず風呂敷で結んでおいたりできる。私のようなズボラな人にこそ使ってほしいんです。
滝野
用が済んだら小さく畳めるので、場所を取らないのも長所です。そんな便利な風呂敷だからこそ、もっと多くの人に「風呂敷ってアリだな」と思ってもらいたくて、風呂敷の魅力を伝えていこうと思ったんです。
私が風呂敷の活動を始めた最大の理由は、風呂敷を「消費するだけの人」で終わりたくなかったからなんですよ。
もともと両親が自分たちで家具を作ったり、庭に水道を設置してキッチンを作ったりと、「欲しいものは自分の手で作る」といったDIY精神が強い人で、小さい頃からその影響を受けていました。
風呂敷に魅力を感じたのは必然的なことだったのかもしれませんね。
WORK MILL
滝野
それに、例えば私は素敵な映画を見ると、「なんで私が作ってないんだろう!」って悔しい気持ちになるタイプで(笑)。風呂敷に出会ってしまったからには、「私もこれで人を感動させるものを作りたい」と思ったんです。
そんな自分の性格もあってか、風呂敷をただ好きなだけで終わらず、自然と作る側にもなっていきました。
コラボ先はベストなタイミングで、自然に任せる
「ふろしきガール」としての活動はどのように始まったのでしょうか?
WORK MILL
滝野
最初の仕事は、外国人のビジネスマンを対象とした風呂敷講座でした。人に教えることが初めてで、言葉の壁もあり不安だったのですが、とても楽しかったんです。現代風の風呂敷を海外に広めるチャンスだと思い、私なりに頑張りました。
その後、メディアに出る機会があって、その頃からSNSなどで「ふろしきガール」と名乗り始めるようになりました。
個展の開催をきっかけに、古着や着物をリメイクして風呂敷を作る機会をいただいたりして、徐々にコラボレーション先が増えていきました。
コラボレーション先はどのように探しているのでしょうか。
WORK MILL
滝野
自然に身を任せて、ご縁があったところに行く感じです。私はどんなものでも風呂敷と組み合わせられると思っているので、「この企業さんとやりたい!」といった明確な目標があるわけではないんですよ。
「あれもこれもやりたいな〜」と言っていたら、色々な企業さんからコラボの依頼がいただけるようになりました。
いつもならベストなタイミングを伺って実施しているんですけど、個展がある時は自ら企業さんに「早くやりましょう!」って急かすこともあります(笑)。
目の前のことを大切にしているからこそ、仕事もふろしき活動も両立できる
滝野さんは現在、会社員としても働かれていますよね。普段はどのようなスケジュールで2つの仕事を両立しているのでしょうか?
WORK MILL
滝野
平日は週5日勤務で働いています。そのあとは、習い事に行ったり、食事に行ったり、風呂敷の活動に取り組んだりして、週末や休みの日にも風呂敷の仕事をしています。
平日夜に作業しているんですけど、いつも何かしらのイベントに向けて制作をしているので、終わってもまた次が始まる、という生活です。
でも、できるだけ自分が納得する形でその日を迎えたいので、効率よくするようにしています。でも、なるべくは徹夜はしたくないんですよね。だから、やるべきことを必要なだけやって、あとは楽しむように心がけています。
会社員の仕事も、風呂敷も、どちらも充実しているんですね。
WORK MILL
滝野
はい。風呂敷自体が「困ったらなんとかなる」というアイテムなので、自分がキチキチと予定を詰めながらやるのは、少し違うなと思ったんですよ。
その反面、会いに来てくれるお客様の心を動かしたいし、自分も風呂敷で感動していたい。だから、追われすぎないように仕事を受けながら、スケジュール管理を大事にしています。
もちろんイベント前は慌ただしいんですが、それ以外の日は友達と飲みに行ったり、映画を観に行ったり、本を読んだり、習い事に行ったりと、仕事以外のことを楽しむ時間も作っています。
それに、私の場合、風呂敷の活動だけをやっていても幸せだと思えなくて……。
どうしてでしょう?
WORK MILL
滝野
風呂敷の活動以外にもたくさんのやりがいがあることで、気持ちの切り替えができるからです。
あと、私は小さい頃から「本番で感じるプレッシャー」が好きなんです。大人になり、仕事で忙しない日々を送っていると「この日のためにやってきた」という感覚ってなくなってくる気がしていて……。
風呂敷のイベントなどで自分を追い込む日を作って、モチベーションを維持しています。
会社とは別で副業を行う際に、職場ではどのようなことに気をつけていますか?
WORK MILL
滝野
目の前のことを、丁寧に大切に行うことです。私は仕事と人が好きなんです。日頃から会社員の仕事を大切にしているからこそ、職場の方はふろしきガールの活動も応援してくれたり、相談に乗ってくれたりして、快く送り出してくれています。
最近は副業解禁をする企業が増え、「自分が好きなことを仕事にしたい!」と思う方も多いと思うんですけど、今やっている仕事をいきなりやめるのはおすすめしないですね。
それなりの実績がないまま会社をやめてしまうと、途中で「これ本当にやりたいことだったっけ?」って悩むことになると思います。会社員のメリットも生かしながら、副業を続けるのがベターではないでしょうか。
なるほど。
WORK MILL
滝野
最近は「自分にしかないものは何だろう」と悩む人が多いですよね。「仕事が楽しくない。本当にやりたいことがしたい」 という相談もよく受けます。
でも私は、目の前のことを一生懸命取り組むからこそ、自分のことが見えてくるし、どう生きたいかがわかってくるのだと思います。
「今、目の前にない何か」を求めていても、きっとそれを手に入れたら次の「今、目の前にない何か」を探し始めてしまっていると思うんです。
今目の前にあるものに一生懸命になれることが、一番大事です。禅の言葉で言うと、「一日暮らし」。私の好きな言葉です。そうやって過ごしてすると、きっと見ていてくれる人がいます。自分にしかないものを、教えてくれるはずです。
滝野さんが、忙しい日々の中でも心がけていることはありますか?
WORK MILL
滝野
何か嫌なことがあった時は「もういいや〜」と思って、深く考えすぎないようにしています。他にも、愚痴や悪口ばかり言っていると、自分も落ち込んでしまうので、あまりネガティブな発言はしないように心がけていますね。
風呂敷と出会って学んだ「心の余白」
風呂敷の活動をしていて、良かったなと思うことはありますか?
WORK MILL
滝野
毎回、風呂敷の講座を行うと、参加者の方から「風呂敷のイメージが180度変わりました」と言ってもらうことが多くて。そんな時は「この活動をしていて良かったな〜」と思いますね。
実は風呂敷は何も変わっていなくて、変わったのはお客様の風呂敷に対する考えなんです。それは私に出会ったからだと思うと、たまらなく嬉しいんです。
素敵な考えですね。
WORK MILL
滝野
何よりも私自身、風呂敷と出会ったことで「心に余白」ができたんですよ。風呂敷と出会う前は、働きながら「結果を出さないといけない……」とどこか焦っている自分がいて。
でも、風呂敷を知ってからはプレッシャーも楽しんで、いろんな局面から考えて動けるようになりました。それに、そうやって考えておく方が、いい結果が出るんです。
その方が、長く続けることができそうですね。
WORK MILL
滝野
それこそ、私の鞄が壊れてふろしき王子に助けてもらった時、余裕がなければ「修理してくれてありがとう」と言って終わっていて、風呂敷の魅力には気づかなかったはず。
自分にとって大切なものを見つけるためにも、日頃から心の余白を作っておくことが大切だと思います。
ただし、それは「気楽に生きよう」「適当にしておこう」という意味ではありません。いつも100%の気持ちで取り組んで、その100%の輪がいくつもあって、その隙間を余白と捉えるイメージです。
最後に、これから滝野さんが風呂敷を通してやってみたいことを教えてください。
WORK MILL
滝野
今、身近な植物を使った「草木染め」に取り組んでいるのですが、もっといろんな植物で風呂敷を染めることにチャレンジしたいです。
身に着けるものって体内に取り入れる働きがあるので、よもぎやドクダミなど薬草を使って、身体に優しい風呂敷を作りたいなと思います。
とても素敵です! 今日はありがとうございました。
WORK MILL
2023年5月取材
取材・執筆:吉野舞
写真:小野奈那子
編集:桒田萌(ノオト)