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アーティストの視点が、チームを動かす。小島和人ハモニズムさんが語る、立場の違う人同士の対話方法

過去には舞台演出や、“ギターで絵を描く”というアート活動を行い、現在は株式会社ロフトワークでプロデューサーとして活躍する、小島和人ハモニズムさん。アートとビジネスという一見真逆な2つの世界を行き来し、彼らをつなぐ役割を担っています。

ハモニズムさんの視点は、異なる立場の人々をつなぎ、新たな共創や価値を引き出すためのヒントにあふれています。

違う価値観の人々が対話し、かつてないプロジェクトや成果を生み出すための心構えを、ハモニズムさんに伺います。

小島和人ハモニズム(こじま・かずと・はもにずむ)
建築会社で施工管理やデザイナー、プランナーを経て、株式会社ロフトワークでプロデューサーとなる。経営や新規事業の支援に携わる一方で、現代アーティストとしても活動。ビジネスとアート、双方の架け橋となり、新たな価値を生み出すことに注力している。

アートとビジネスをつなぐ人

どうして「アートとビジネスをつなぐ仕事」をすることになったのでしょうか?

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小島

元々は、建設会社での施工管理や建築デザイナー、プランナーの仕事していました。

一般的には、顧客の要望をそのまま受けとって、納品する仕事です。でも僕は、顧客と共に考え作っていきたいと思うタイプで。

だから、デザイナーとして働いているときも、顧客の要望に対して「それ、間違っていませんか?」と平気で問いかけていました。

クライアントの要望に沿う仕事を求められるデザイナーでありながら、その手前の課題にも目を向けられるタイプだったのですね。

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プロデューサーになったのも、「どうしてその事業や製品を作るのか」という問いから立てられるようになりたいと思ったからです。

今はプロデューサーとして組織や経営、事業という単位でさまざまな物との融合やコラボレーションを仕掛けています。

作家名の「ハモニズム」は「ハーモニー(調和)」と「イズム(主張)」から。調和と主張、どちらかに偏ることなく、より良いバランスで共創活動を行なっていきたいという思いから名乗りはじめた。

その一方で、現代アートの作家としても活躍されていますね。

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建築会社にいた時からアーティストとして活動していました。当時はスーツ姿でギターを弾きながら、棹の先に付けた刷毛でライブペイントをする……というパフォーマンスをしていました。

ギターを弾きながらライブペイントするパフォーマンスを行っていたハモニズムさん(提供写真)

アートとビジネス、どちらの経験があるからこそ、プロデューサーとしてさまざまな立場の人々をつなぐことができるのですね。

最近、力を入れている活動は何ですか?

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今は、万博の機運に乗せて「ものづくり」の街で知られる八尾市や堺市で、町工場とアートとのコラボレーションに取り組んでいます。端材をアート作品に変化させるプロジェクトを進めています。

異なる文化や価値観を持つ人たちが交われば、思いもよらない化学変化が起きます。それによって「人が変化する」状態こそが、まさにアートの役割だと考えています。

思いがけない発想を投げ込むアーティストの視点

町工場の職人とアーティストのように、普段は接点のない人たちがスムーズにコミュニケーションをとるのは難しいのではないかと想像します。

ハモニズムさんは、双方をどのようにつなげているのでしょうか?

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そもそも、まったく接点のない人たちをつなげるのは、今までにない新しいものを生み出したいという目的があるからです。

でも、まだ見たことのないものを生み出そうとしているときほど、チームメンバーの意見はバラバラになる。むしろ、一致するわけがないと考えた方がいいです。

では、どのように進めたらいいのか。まずは「妄想」を打ち出してみること「できないかもしれないけど、こういうことにチャレンジしてみるのはどう?」と一石を投じることで、初めて賛成や反対、共感といった反応が起き、人の心に変化が生じます

妄想なので、一旦実現性は無視しても大丈夫です。間違っていてもいい。理論的でなくてもいいです。ここに僕自身のアーティストとしての視点を使っています。世の中では、「アート思考」と呼ばれていますね。

アート思考?

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A、B、Cといった理路整然とした案の中に、思いがけないZ案をポンと投じるような思考のことです。大切なのは、情報をきちんと理解した上で、あえて皆が考えもしない方向へ思考を巡らせること。

A、B、Cに対して、あえて「それなら、むしろこうではないですか?」と違う視点や価値観からの意見を述べるんです。

当然、賛成や反対、中立案などの意見が出てくるはず。すると、その場にいる皆が否応なしに思考し始めますよね。アーティストの視点は、チームを動かす最初の問いを作り出すんです。

どうして「アーティスト」なのでしょうか?

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僕らのような現代アーティストは、日頃から作品づくりを通してこういった思考の訓練を積んでいるからです。だから、普通に考えたら滑稽なことでも、思い付いたら勇気を振り絞って行動に移し挑戦し続けられる。彼らはそうやって作品を生み出しています。

だからこそ、普段は「アーティストの視点」が求められることの少ない町工場の人と現代アーティストが組めば、面白いものが生まれるわけです。

なるほど。

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個人的にいいなと思うのが、関西人がよく使う「知らんけど」という言葉。大体、何か意見を出した後に使われる言葉ですが、あの直前で語られる意見ってかなり面白いアイデアであることが多いんですよね。

自分はこう思うけれど、言い出す勇気がない。でも意見した後に「知らんけど」とおどけることで、場の空気を和ませることができる。少し角度の違う意見を言うハードルが下がり、周囲に「そのアイデアも良いね」と気づきを与えられるかもしれません。

「むき出し」であえて言語化しない

アーティストではない人々が「アート思考」をする方法はあるのでしょうか。

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お互いが「むき出し」の状態になることです。

つまり、本音をぶつけるということでしょうか? 多くの人が躊躇してしまいそうです……。

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確かに、シンプルに表現するなら「本音のぶつけ合い」かもしれません。

もう少し言うと、「むき出し」は相手を必死に説得するための方法ではありません。「互いにうまく言葉にできないまま、思いを共有する形」で十分です。

この方法は、長くアーティスト活動をする中で見つけました。

何かきっかけがあったのでしょうか?

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ミュージシャンやダンサー、役者などあらゆるパフォーマーが揃ったある舞台の演出を手がけた時のことです。

僕は「滅多にないコラボレーションなのだから、誰もみたことのない舞台を見せなければ」と思い、思い切ってリハーサル中にダンサーたちにステージ上で、例えば「5分間、踊らないでください」とお願いしたんです。

「踊ること」が仕事であるダンサーたちに、「踊らず、ステージで立っていて」とお願いしたのですか?

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はい。当然ダンサーたちは納得せず、本番直前まで「大丈夫か?」と不安がっていましたが、必ず成功する確信があった僕は「絶対に大丈夫」と言い続けました。

結果は、大成功。みんな口をそろえて「やって良かった!」と喜んでくれました。ダンサーも初めての試みだったかと思いますが、ステージ上で腹をくくった彼らは、やはりプロでした。「踊らない」という行為で、私の予想以上のパフォーマンスを発揮してくれたからです。このようなことを、いろんな表現者の方々にお願いしてきました。

勇気のいる行為ですね。

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本音では「踊らないなんて、絶対にありえない」と思っていたかもしれない。でも、彼らは勇気を振り絞って「無理」の壁に挑んでくれた。

僕が行ったのは「言語化できないまま思いを共有すること」、つまり「むき出し」。それによって人が変化した瞬間を目の当たりにしました。おかげで、より深い信頼感が生まれたように思います。

「思い切ってやってみたら成功した」という好例ですね。しかし、ビジネスシーンで立場や価値観の違う相手との対話に応用させるには、少し難しいかもしれません。

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そうしたビジネスシーンでは、私はあえて自分の欠点をさらけ出すようにしています。

「これ、できないんですよね」と言うと、相手は僕に親近感を抱いてくれるんです。これも「むき出し」の一種です。

では、「むき出し」になった後、最終的な答えを出す場面ではどのように議論をまとめていけばいいでしょうか。

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自分がファシリテーターを務めるとき、対話の中で話の着地点が見えても、僕からはあえてすぐには「つまり、こういうことですよね」とは言わないようにしています。

対話の段階でたくさん質問をして、相手が目指す着地点に自らたどり着けるよう誘導します。人は、質問をされることで自然と思考を巡らせるものだからです。

たとえ僕が予想していた着地点から少々ずれたとしても、お相手が「やっぱりこういうものを作りたい」と言ったらやってみようと試みます。

「むき出し」で着地点がずれたとしても、そこから答えを探っていくのですね。

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小島

はい。良い意味で予定調和を破ることで、予想以上にすばらしい結果になる可能性が高まると思います。

むき出されたアイデアでチームの世界観を共有するには

アーティストの視点や「むき出し」によって思いがけない案があったとしても、感性とロジックのバランスをうまく保つのが難しいのではないかと思います。工夫している点はありますか?

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小島

議論に関わる組織や人の数などで大きく変わるのですが、僕の場合は感性とロジックの間を高速で行き来するように議論をすることが多いです。

例えば、ロジックの話をする時は、社会や組織の課題について話すときその場にいる一人ひとりの個人的なところにフォーカスした議論をするときは、もっと感性的な部分を引き出すようにしています。

そうすれば、あらゆる面からの問題提起が可能になりそうですね。

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小島

さらに、感性とロジックを行き来しながら、「どういう状態を良くないととらえるのか」「そうならないためにどうするか」「どうすればポジティブな世界の作れるのか」「逆に、ネガティブな世界はどういう状態なのか」と、多様な視点から質問を重ねる。

このプロセスを通して、チームの目標や世界観が作られていきます。これが全員で共有されていないと、安易な方向へどんどん流れていき、気づけばやる意味のないプロジェクトに陥る危険すらあります。

対話と議論の方法がよくわかりました。ハモニズムさんはこれから、アーティストの視点や「むき出し」の精神でどんなことを実現していきたいですか?

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小島

全国各地をまわりながらプロデューサーとして仕事をさせていただいていますが、なかでも最も多く活動しているのが、生まれた地であり、たくさんアート活動を行なってきた大阪です。

大阪は、よくわからないものを面白がれる文化のある特別な土地。「前例がないから」という理由で物事をあきらめないのです。

「わからないまま自分なりに解釈する」という点では、現代アートの鑑賞方法と似ています。ゆるい世界観の下で、めいめいが面白がって好きなことをやれる。そういう意味で、大阪はイノベーションに適した土地柄だと思います。

アーティストの視点を活用して、変えるべきものと未来に残すべきものを見極めながら、大阪の未来を創造していく。そんな壮大な実験ができたら、すごく面白いと思いますね。

2023年4月取材

取材・執筆:國松珠実
撮影:三好沙季
編集:桒田萌(ノオト)