企業同士がつながり、新たな価値を創る? 富士通の若手社員が集うZ世代のコミュニティ「Fujitsu Gen Z Community」
2023年に富士通で立ち上がった若手社員が集まるコミュニティ「Fujitsu Gen Z Community」。
「共感できるブランドを築き上げる」を目標に、「学生向けのブランド活動」「企業間コミュニティの形成」「メンバープロジェクト」の3つを運営しています。
「Z世代を起点にすることで、企業をまたいだ新たな価値創出ができる」と、発起人でコミュニティの代表を務める廣木健志さんと、2023年にコミュニティメンバーに加わった嶋田朋夏さんはその展望を語ります。
なぜZ世代を起点にしたのか。若手社員が社内外に向けて発信することでどんな価値が生まれているのか。コミュニティ立ち上げの経緯や現在の活動、そして今後の展望について伺いました。
声を上げる若手社員の存在を社外へ届けたい
Fujitsu Gen Z Communityは2023年2月に立ち上がったんですね。
立ち上げの経緯を教えてください。
廣木
当社では、2020年から全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」が始まりました。
フジトラは、富士通がIT企業からDX企業へ変革することを機に、「顧客や社会のDXをサポートするためには、まず富士通自身のDXが必要」と自らが実践していくプロジェクトです。
廣木
社内SNSを見ていたら、自分の熱い想いをもって行動を起こす若手社員がすごく多いことに気がついて。
でも社外を見ると、そういう若手に富士通としてスポットライトが当たることが当時は少なかった。
若い世代がちゃんと声を挙げ行動ができる会社なんだから、そのことをちゃんと会社の外にも届けるべき。そうしたら、「若手もイキイキと楽しく働くことのできる会社だ」と世間にも気づいてもらえると思ったんです。
とはいえ、大きな会社の中で変化を起こすのは大変なのでは?
廣木
フジトラが始まってから、勤務時間の10~20%を業務外の「自分のやりたいこと」や「富士通を良くする活動」に使うことができる制度ができました。富士通をより良い会社にしようと、社員から声をあげやすい環境が整ったんです。
それで、「Z世代がZ世代のことを考える」コミュニティの企画書をつくって、役員に提出したんです。
いきなり役員に?
廣木
経営層からもZ世代に関するお題をちょうどいただいていたというのもあったんです。
僕たち若手社員はいわゆるZ世代です。世界的に見ると、人口に占めるZ世代の割合は大きく、今後市場への影響力を持っているんです。
そんなZ世代に向けたブランディングを、Z世代じゃない人が中心になって考えるのもおかしな話だな、と思っていて。
確かにそうですね。
具体的にはどんな活動を想定した企画書を提出したんですか?
廣木
「Z世代のZ世代によりZ世代のブランディング」を実現する組織の壁を社員が部署異動をせずに乗り越えることができる場をつくるという企画書でした。
富士通には、約12万人の社員がいます。でも、それだけ大きい組織になると「マーケティングは、マーケティング組織しかやらない」という働き方になって、部署同士にも壁ができてしまう。組織の効果的な分業という意味ではいいのかもしれませんが。
この企画では、その壁を取り払って新しいことに挑める場所をつくりたいと思いました。
Z世代を「年齢」ではなく「価値観」で捉える
コミュニティが結成されてからは、どんなことをしたんですか?
廣木
まず社内SNSで熱い思いを持った発言をしていた若手社員を中心に、ひたすら声をかけましたね(笑)
嶋田
「若手社員」という表現をしたのは、私たちはZ世代を年齢じゃなくて、価値観として捉えているからなんです。
価値観?
嶋田
Z世代って「デジタルネイティブ」と言われていますけど、それだけじゃなくて「多くの情報に触れた上で行動を起こす世代」に変わってきたと思うんです。
だから、私たちの中では、Z世代を年齢ではなく、「アクションを起こす人」という価値観で定義づけています。それで「自分から能動的にアクションを起こす人」に声をかけることにしました。
結果的に、コミュニティには「SNSの総フォロワー60万人」「副業で事業開発」など、活発なメンバーが23人集まりましたね。
貴社ではもともと活動的な人を多く採用する傾向があるんですか?
嶋田
どうなんでしょう……?
確かに活動的な方が多い面はあるかもしれません。けど、入社前はこんなに若手に勢いがある会社だとは思っていませんでした。
廣木
社員数が多いから、いろんな人がいます。
その中でも、社内SNSでよく発信するメンバーに声をかけたから、活発な若手社員が集まったんだと思います。
富士通のブランド力を高める3つの活動
コミュニティでは具体的にどういう活動をしているんですか?
廣木
「共感できるブランドを築き上げる」を目標に掲げていて、最終的には社会にインパクトを与えられる新たな価値を創出していきたいと思っています。
そのために、
・Z世代向け(学生向け)のブランド活動
・企業間コミュニティの形成
・メンバープロジェクト
の3つを運営しています。
嶋田
世間ではまだ、富士通=パソコンやスマホといったイメージを持たれることもあると思うんですけど、今はテクノロジーを通じて社会課題を解決する会社に変わってきているんです。
そこで、まずは学生に対してその認知のズレを正したい。そうすることで、長期的に見た時にビジネスチャンスも増えると考えました。
世間ではなく、なぜ学生向けに?
嶋田
まずは同世代から認識を変えていこうと考えたからです。
私たちと接点を持った学生が富士通に入社しなかったとしても、「社会課題を解決したい」と考えた時に、「富士通に声をかけてみよう」って思ってくれるかもしれませんから。
廣木
そうやって富士通に対するブランド認識を、社外から変えていきたいんです。
「富士通って若手に勢いがあって面白い会社だね。富士通となら何か面白いことができそう」って思われる状態を目指したくて。
廣木
そういう認識が世間に浸透すれば、自ずと社員も自分の働く会社に誇りが持てるはず。そのサイクルは、ブランドとしていい効果を生むと思うんです。
そのためにも、まずは企業や自治体の課題に小さな事例から少しずつ共に取り組んでコミュニティの実績を積み上げていくことから始めていきました。
企業間コミュニティで生まれる新たな価値とは
活動を開始して1年ほど経ちましたが、最終目標である「社会にインパクトを与えられる価値を創出する」につながるプロジェクトは生まれてきましたか?
廣木
企業間コミュニティをきっかけに、少しずつ走り出しています。現在では、38社以上の会社や大学とイベントを開催して、1,000人以上の若手社員同士の交流を重ねているんです。
どんなイベントを開催しているんですか?
嶋田
2024年6月には、キリン、オイシックス・ラ・大地、花王、ファンケル、マルイ、当社の6社から4~5人ずつ若手社員が集まって「社外で仲間を見つけよう」をテーマにワークショップを行いました。
廣木
ワークショップでは、個人の過去・現在・未来の「夢の棚卸し」を行い、4~5人のグループで共有しました。数年後に再会した時に「あの時の夢はどうなったの?」と語れる場を作りたいと企画メンバーで話していました。
ほかには、自分の特徴をハッシュタグにした人間借り物競争も。「#10カ国行ったことがある」などの特徴の人物を探すんです。最後にZ世代の理想の働き方を考えて、その日の振り返りを4行日記で記し、チーム内で共有しました。
嶋田
参加した人からは、「多様な考え方や価値観に触れた」「自分のキャリアを定期的に見直す機会を作りたい」と好評でしたね。
イベントのテーマやワークショップの内容はどうやって決めるんですか?
廣木
富士通から一方的に「これをやりたい」と提案することはほとんどなくて、先方と一緒に興味のあるテーマに沿って中身を一緒に考えていきます。
先ほどの例でも、キリンさんと同じ課題意識からこんな企画をやってみようという話になり、他社の仲間を巻き込んで企画から運営まで複数社で実現しました。
嶋田
1カ月半〜3カ月かけてイベントまで進行しています。先日はオカムラ、TOTO、マルイ、富士通ゼネラル、東急エージェンシー、ソニー、当社の7社で「Z世代が会社を変える!」をテーマにビジネスの種を考えたんですよ。
平日の夜に各社から5~6人ずつ若手社員が集まって、メンバーのプロフィールが書かれたカードを使ったグループワークを行いました。
嶋田
カードには、メンバーのスキル・個性・関心事などが書かれています。
ランダムに引いた4枚のカードを使って、会社や社会に関するお題を満たすアイディアを、面白おかしく考えるというゲームです。
カードゲーム風のデザインだと、親しみやすく感じますね。イベントに参加する人は、毎回同じコミュニティメンバーなんですか?
廣木
テーマに合わせた人に参加を促しています。地域創生に関わるテーマだったら、当社でそういうことに関わる部署から若手社員を呼んだりして、話が弾むように工夫しています。
場合によっては、上司がオブザーバーとして見学することもあるんですよ。でも、基本は若手社員同士が交流を重ねていますね。
若手社員が集まることが大切なんですね。
廣木
Z世代を起点とすることで、フラットな関係が構築できると思うんです。その上で事業について相談できるから、話がスムーズに進む。数字では見えにくい大きな価値が生まれていると確信しています。
今は若手社員と会社役員の距離も縮まっているから、懇談中に、「その話なら、役員を呼びましょうか」ってフランクに呼んでもらう機会も増えてきました。
嶋田
そこから、企業をまたいだプロジェクトに発展することもあるんですよ。
日本の企業が一丸となって、社会にインパクトを
新卒の若手社員にとっても、Z世代の横のつながりって、心強いものですか?
嶋田
ちょっとした相談や、情報交換ができるのはありがたいですね。
何より、コミュニティを通して「社外の同期」と繋がる機会ができたのはうれしいです。プライベートでも遊ぶ仲になれたので。
「社外の同期」って、あまり聞かない言葉ですね。
廣木
そうですよね。この間のイベントでも、新卒同士が仲良くなって、後日バーベキューしたみたいです。
若手がつながることって、何より価値があると思うんですよ。数年後、若手社員に役職が付いたときに「一緒に何かやろう」と企業をまたいでプロジェクト化できるかもしれないじゃないですか。
競合とにらみ合ってばかりでは世界で勝てないし、社会課題も1社じゃ解決できない世の中になってきました。いわゆる「チームジャパン」として同世代でつながることが大切だと思うんです。
社外の富士通ブランドイメージは100%向上
コミュニティを運営する前と今では、どんな変化がありましたか?
廣木
イベントの実施後には毎回アンケートを取っていて、それによると社外の参加者からは「富士通に対するブランドイメージ」が100%向上しています。
社内のコミュニティメンバー間でも「富士通に愛着があるか」「他の人にも富士通をすすめたいか」などの項目でスコアを取っていて、1年前は一部マイナスだった数値が、大きくプラスに転じました。
嶋田
この数字は、コミュニティの力だけで向上したものではないかもしれません。けれど、コミュニティを通して「富士通ってこんな会社です」と話す機会があるから、会社の存在意義を改めて認識するんですよね。
私は新卒で入社した時からそういう機会をたくさんいただいたので、会社を代表する自覚も芽生えてきました。
嶋田
それに、他の企業の話を聞く場面では、自分の会社の働き方や雰囲気を客観視できて、帰属意識がわくんです。「この会社にいる意味」を考える機会は増えたと思います。
廣木
学生とのワークショップでは、「大企業って堅苦しくて自分の好きなことができないイメージがあったけど、富士通との関わりで大きく変わり、将来の就職活動の選択肢に入れてみようかな」と言ってくれた学生がいました。
富士通だけじゃなく、大企業のイメージも変えることができたわけですよね。会社の採用説明会とは違って、同世代がフラットに話すからこその変化だと思います。
すごいですね。
今後の展望としては、どういうことを考えているんですか?
廣木
コミュニティとしては、引き続きZ世代を起点として企業をまたいだ価値創出を続けることです。1社じゃ解決できない課題に向けて、何かアクションを起こせたらと思っています。
そのためにも、特に企業間のコミュニティ活動を広げたいです。今は若い世代を起点にしていますが、シニア世代や僕たちよりもさらに若い世代の視点も取り入れていきたいです。
柔軟な視点が、これからの未来を支えていきそうですね。今後の取り組みを楽しみにしています!
取材・執筆=ゆきどっぐ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト