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フリーランス発明家ってどうやってなるの? カズヤシバタさんに聞く発想力・自信・アイデアの伝え方

皆さんは「発明家」と聞いて、どんな人を思い浮かべますか? 「発明王」とも呼ばれたトーマス・エジソンなど、海外の人物を思い浮かべる人も多いと思います。

しかし、現代の日本にも、発明家はいます。その一人が、国内でも珍しい「フリーランスの発明家」として活動しているカズヤシバタさんです。

シバタさんは一般企業に勤めるかたわら、発明家として「ゴージャス登場箱・デルモンテ」を開発。Twitterで大きな話題になったことをきっかけに、フリーランスの発明家として独立し、現在は海外へも活躍の場を広げています。

今回はあまり聞くことのできない発明家の仕事の裏側、そしてまだ形になっていないアイデアを他人にうまく伝えるコツについて、シバタさんのアトリエでお話を伺いました。

カズヤシバタ
1994年生まれ。広島県福山市出身。近畿大学理工学部電気電子工学科卒業。神奈川県川崎市在住。「ギリギリ役に立つ発明」をテーマに作品を制作し、地上波テレビやSNS上で発表を行っている。活動名の「カズヤシバタ」はブランド名っぽく見えるから。

「ギリギリ人の役に立つもの」を作りたい

今日はシバタさんのアトリエにお邪魔しています。この場所からあの発明品たちが生まれているんですね!

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シバタ

3Dプリンターが6台もあるので、アトリエ感が出ていますよね(笑)。

最新作がちょうどここにあるのですが、良かったらお見せしましょうか?

いいんですか!? ぜひ見たいです。

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シバタ

炭酸のペットボトルを開けたら、急に吹き出してきてこぼしてしまうことって、ありますよね。

でも、濡れた手だとティッシュは破れてしまい、うまく取り出せない……。

そんな「濡れた手でティッシュを触る問題」を解決するために生まれたのが、こちらの「全自動ティッシュ取り出し機」になります。

全自動ティッシュ取り出し機

どのあたりが全自動なんですか?

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シバタ

左側にあるボタンに手を触れると、風が出て、アームがティッシュを丁寧につまみ上げてくれます。その後、強風でティッシュが飛ぶ仕組みになっているので、それを空中でキャッチする。

これで、手がどんな状態でもティッシュを取れますよ。

ふわっと浮かび上がるティッシュ。

ティッシュが飛んだ……! そんな方法でティッシュを取る発想はなかったです(笑)。

普段、アイデアはどこからやってくるのでしょうか?

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シバタ

もう頑張るしかないですね(笑)。誰かに話を聞いたときなどを含め、常にアンテナを張って、どんな些細なことでも欠かさずメモしています。

「すぐに忘れるアイデアは大したものじゃないない」って言う人もいるんですけど、揉んでいくことで良くなるアイデアもあると思うので。

シバタさんはどんなアイデアが好きですか?

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シバタ

大手メーカーの企画会議なら「そんなバカな商品あるわけないじゃないか!」と言われて、却下されてしまうものを作りたいですね。

誰も見たことのない「ギリギリ人の役に立つもの」を世の中に出して、人の心を絶妙にざわつかせたいと思っています。

営業や設計まで、ひとりで何役もこなしていた会社員時代 

そもそも、シバタさんは発明家になる前はどんなお仕事をしていたのでしょうか?

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シバタ

前職はメカエンジニアです。大阪にあるロボット関連のベンチャー企業で、電子機器などを開発していました。

従業員数が10人の小規模な会社だったので、営業や広報、動画編集までひとりで何役もこなしていたんです。

会社員時代のシバタさん(提供写真)

そんなにたくさんの仕事をひとりでこなすのは大変じゃなかったですか?

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シバタ

超多忙だったんですけど、海外出張に行けたり、モノづくり以外の知識が身についたりしたので、いろいろな分野の仕事を担当するのは楽しかったですね。

それに、社内には手芸作家やイラストレーターなど副業としてクリエイティブな活動をしている人がたくさんいたんです。その人たちに影響を受けて、自分も空いた時間に作品を作りはじめました。

それが発明家としての第一歩なんですね。

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シバタ

ええ。そして、2017年にどんな物でもゴージャスに登場させる装置「デルモンテ」を発表して。これが人生の転換となったんです。

SFや特撮のように重厚感のあるメカの中からライトに照らされ登場させることで、何でもゴージャスに見えるゴージャス登場箱「デルモンテ」。2017年に一作目、2020年に新作「デルモンテ2020」を発表した。

作品を発表したことで、どんな変化があったのでしょうか?

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シバタ

作品の投稿は4万回以上リツイートされて、テレビからの出演依頼や仕事の相談がたくさん来るようになりました。

驚いたと同時に「もしかしたら、フリーランスでやっていけるかもしれない」と思いはじめました。

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シバタ

だけど、「このブレイクは一時的なものかも……」といった不安もあったので、独立について上司や友人に相談してみると、「正直やっていけると思えない」といった返事が返ってきたんです。

なるほど……。素直にその意見を受け止められたのでしょうか?

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シバタ

いえ、自分は否定された方が「やってやろうじゃないか!」と燃えるタイプなので、あまり気にしませんでした(笑)。

それに、独立を選んだほうが「人生が楽しくなるかもしれない!」と思ったんですよね。

なるほど!

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シバタ

とはいえ、フリーランスになるのは不安も大きかったので、開業届や税金など個人事業主が知るべき知識を身につけました。

それから、モノづくりをしながらお金の管理をしていると、「頭がパンクするかもしれない!」と思ったので、任せられる仲間を探しましたね。今でもその方とお仕事をしていて、とても助かっています。

フリーランスになる前から、自分が仕事でつまずくポイントを理解していたんですね。

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シバタ

やっぱり一度きりの人生なのでなるべく失敗したくないんですよ。やりたくないけど、やらないといけないことが急に増えるのが自分にとってストレスだと感じていたので、そこだけは最初からクリアにしました。

そして、準備が整った2021年に、アルバイト時代も含め5年間お世話になった会社を辞め、独立しました。

どんな仕事でも初回の依頼は断らない

現在のシバタさんの仕事軸を教えてください。

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シバタ

大きく分けて2つあります。1つ目は「カズヤシバタ」名義での発明やメディア出演。他にも、依頼があれば大学のゲスト講師や執筆活動も行っています。

2つ目は企業やテレビ局からの依頼で行う美術設計や動画制作です。この仕事はいわゆる名前が表に出ない「裏方の仕事」なんです。メディア出演でテレビ局に出入りしていたことがきっかけで、仕事を頼まれるようになりました。

ちなみに、シバタさんのようなフリーランスの発明家って国内でも珍しいのでしょうか?

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シバタ

そうですね。「発明家」と呼ばれる人たちの多くは会社員をしながら、趣味でモノづくりをしている方。やっぱり安定した収入があるからこそ、精力的に活動ができる面もあるんだと思います。

私みたいに独立していて、アトリエを持って、臨機応変に仕事の受注ができる発明家はあまりいません。柔軟に仕事を受けられる立場だからこそ、いろいろな相談が来るんだと思います。

正直、「発明家」という肩書きだと、かなり幅広い依頼がきそうですよね。

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そうですね。でも、自分の中では「できる限りどんな仕事でも初回は断らない」といったルールを作っています。

どうしてでしょうか?

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シバタ

前職で営業をしているときに、上司から「仕事は一旦断らない。無理なことを言われても、できる範囲で提案する」といったアドバイスをもらって、それを実践しています。

やっぱり仕事のチャンスっていつ巡ってくるか分からないので、日頃から準備をして、目の前のことに全力で取り組むようにしています。

どんな無茶な提案でも受け入れたおかげで、生放送ギリギリで発明品が壊れても「大丈夫ですよ〜」と動じずに言える精神力を身につけられました(笑)。

自信がなくても自信があるように見せるのが大切

シバタさんは発明品を発表するための動画もご自身でディレクションしているんですよね。

動画は発明を伝える重要なツールだと思うのですが、何か意識していることはあるのでしょうか?

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シバタ

主観的になり過ぎないように、「メディア出演のためにアイコンにできる写真を含める」や「音声なしでも分かるように大胆な動きにする」などのルールを決めています。

他にも、企画を発表する前には自分で作った「チェック項目」を見返しています。

以前は、SNSへ投稿するタイミングを見計らっていたんですけど、「面白いものは後々からでも話題になる」と思い、最近は気にしなくなりました。

iPadには、企画チェック項目などがまとめられている
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あと、動画内でよく「顔芸」が注目されるんですけど、実は表情は意識的につくったものではなく、自然と出てきたものなんですよ。

てっきり最初から意識して、表情を作っているんだと思っていました(笑)。

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SNSや動画の中でも印象的な「表情」(提供写真)
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シバタ

私の作品って、言葉で説明するのは簡単なんですけど、感覚的に共有するのは難しくて……。

だからこそ、作品を通して「どうしたら不便なものが解消された時の感情を伝えられるのかな?」と悩んでいた時に、自然と顔芸が出てきたんです。

注目されるようになると、「これは使えるぞ!」と気づき、最近はどんどんエスカレートしています(笑)。

仕事で自分のアイデアを出す時に「ウケたい」と思う人も多いと思います。そういう場合、何かコツはありますか?

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シバタ

「キャラになりきる」ことですね。私は根が真面目なタイプなんですけど、動画に出る時はテレビショッピング番組に出ている人の喋り方を真似しているんです。そうすると、「だってあの人やってるもん!」って思えてきて、羞恥心がなくなるんですよ。

自分が「恥ずかしい」と思った瞬間、自信がないことが相手にバレてしまう。だからこそ、自信がなくても自信があるように見せるのは、発明を作り上げること以上に重要だと思いますね。

発明品を紹介する動画は、絵コンテから丁寧に作成している

発明家にはモノづくり以外の知識も必要

どんな人が発明家に向いていると思いますか?

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シバタ

発明家と聞くと、少し敷居が高いというイメージがあるかもしれません。だけど、どんな人でも「これを工夫したら便利で面白そう!」といった発想力は持っているはず。

たとえば、何かアイデアを思い浮かんだ時に、それを寝る間も惜しんで考えることが好きな人は発明家に向いていると思います。

だけど、発明家ってモノづくり以外のことをやっておく時間も必要なんですよね。

モノづくり以外に必要なことって何でしょう?

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シバタ

スポーツや漫画など、さまざまな分野に触れることです。そうすると、誰かと意思疎通する時にも「そのアイデア、あのアニメに出てくるやつに似てるよね!」など、周りと共通言語でコミュニケーションができるんですよ。

意外かもしれませんが、私は小さい頃からゲームやアニメにあまり興味がなかったので、大人になってからその話題についていけなかったんですよね。その反動なのか、今ゲームにハマっています(笑)。

漫画雑誌から技術書までが並ぶ、シバタさんの本棚

最後に、今後の目標を教えてください。

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シバタ

せっかく動く作品を作っているので、動画だけではなく、実際に作品を触ってもらってリアルな反応を見たいですね。

そのために、いつかリアルな会場で作品を発表したいと思います。

ナイスキャッチ!

2023年6月取材

取材・執筆=吉野舞
撮影=吉田一之
編集=鬼頭佳代/ノオト