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食べられる緑が世界を豊かにする。篠崎ロビン夏子さんが「Foodscaping(フードスケーピング)」で挑む新たな緑の場づくり

「Foodscaping(フードスケーピング)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? Food(食べもの)とLandscape(景観)をかけ合わせた言葉で、食べられる植物を使って景観を作り上げる取り組みです。

篠崎ロビン夏子さんが主宰するGreen Neighbors合同会社は、そんなFoodscapingを用いた空間作りに取り組んでいます。

景観を作るだけかと思いきや、そこには様々な人と人が繋がる仕掛けがあるのだそう。こういった仕事に取り組むことになったきっかけや、コミュニティや都市空間に食べられる緑があることでのメリットなどを伺いました。

篠崎ロビン夏子(しのざき・ろびん・なつこ)
別府出身のシンガポール国籍。国際基督教大学に在学中にネパールにてプログラミング教育事業で起業。新卒でFacebookシンガポールAPAC拠点に入社、Meta社東京拠点に転籍。主に組織文化作り、従業員コミュニケーション、働き方の領域を手がける。また、シンガポール現地のあらゆるアーバンファーム及びFoodscaping事業に参画。働く現代人にこそ、緑がもたらす癒やしや繋がりが必要不可欠であると実感し、2022年にGreen Neighbors合同会社を設立。

Foodscapingはコミュニティ作りであり、環境作り

Food(食べもの)とLandscape(景観)をかけ合わせた「Foodscaping(フードスケーピング)」とは、具体的にどういった活動なのでしょうか?

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篠崎

Foodscapingは欧米中心で行われている、日常風景の中で食べられるものを育てる取り組みです。シンガポールでは商業施設やホテルでも行われています。

庭園のなかに畑を持つということなのでしょうか?

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篠崎

ちょっと違うんです。農園や畑は収穫することが目的ですよね。

でも、Foodscapingは収穫と同時に植物の色合いや効能などをアレンジして、景観としても愛でられるようにしています。

その上に、私たちが一つ目のコンセプトとして乗せているのが「人」という要素です。

「Foodscaping」×「人」ですか?

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篠崎

そうです。コミュニティづくりや人のウェルビーイングなど、緑を通して人に直接訴えかける場を作ろうとしています。

そこではどのようなコミュニケーションが生まれるイメージなのでしょうか。

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篠崎

事例を紹介しますね。ある屋上でFoodscapingにしたとします。

そこで育てたものを摘んで香りを嗅いだり、ワークショップに使ったり、植物にまつわるポーズのヨガを楽しんだり。そうやっていろんな企画が生まれていくんです。

ただ、植物を愛でて食べるだけじゃないのですね!

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篠崎

食べることは誰にとって身近な行為ですが、そこから興味を広げていろいろな発想が生まれるといいなと考えています。

それに、食べられる植物は鑑賞用の植物よりも季節の変化を感じられ、コミュニケーションの手段になりやすいんです。

なるほど。でも、変化が大きいと育てる難易度があがりそうですね……。

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篠崎

そうですね。花がついたり、実がなったり、その時々で出てくる虫も変わったり……(笑)。

でも、それによってコミュニケーションが生まれます。あと、植物をうまく育てるために大事なのは生態系のバランスなんです。

生態系のバランス?

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篠崎

はい。多様な植物を取り入れると、植物周囲の生態系も多様になります。この「環境」へのアプローチももう一つ私たちが大事にしているフードスケープの要素です。

先日、虎ノ門ヒルズの前に、1日限定でブルーベリーやローズマリーなどを詰め込んだ「フードスケーピングトラック」を置きました。

そうしたら、都心にもかかわらず蜂や蝶などもたくさん集まりました。さまざまな生物が、トラックを生態系の一部だと認識してくれたようで。

(提供写真)

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篠崎

子どもたちも「チョウチョがいる!」と反応してくれて。たった1日で目に見える変化はおきる。これからは、もっと他の生物も含めた空間づくりが大切になると感じています。

コロナ禍のデジタルどっぷり生活がFoodscapingのきっかけに

想像していたよりも活動の幅が広いんですね。篠崎さんは、どういったきっかけでFoodscapingの魅力に気づかれたのでしょうか?

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篠崎

シンガポールのFacebook(現・Meta)で働いていたころは、1日中パソコンに向かって仕事をする生活をしていました。

VRに関わる仕事だったので、ヘッドセットをすることも多くて。植物とは縁遠い仕事環境だったんです。

(提供写真)

デジタルの世界へどっぷりですね。ヘッドセットをしていたら、グリーンを眺めることはできないですし……。

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篠崎

はい、さらにコロナ禍になって人とのコミュニケーションが減ったら、心がすさんでしまって……。

そんなときに、水耕栽培や屋上を利用した小さいスケールでの農業「アーバンファーミング(都市型農業)」に出会ったんです。

農業を通じて、何気ないコミュニケーションをとったり、食べ物がどこからくるのか発見したり。それで、私自身が人生のバランスがとれるようになったんです。

なるほど。

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篠崎

その後、シンガポールの51階建てビルの屋上で、レストランを併設したFoodscapingのプロジェクトに参画する機会をいただきました。

その屋上には、いろんな植物をデザインして配置されていて。歩いても楽しいですし、収穫したものをレストランで食べられて。

(提供写真)

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篠崎

そんな先進的な事例を見て、「自分も救われたこの緑を、東京の働く環境に取り入れられないか」と考え、帰国してすぐの2022年3月にFoodscapingの会社を起業しました。

シンガポールではなく、あえて日本を選んだのは理由があるのでしょうか?

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篠崎

日本は昔から続く農業文化があり、造園業でも世界屈指の技術を持つ職人さんもいます。

日本ならば、それぞれの現場で技能を持っている方々とコラボしながら新しいFoodscapingを作っていけるのではないか、と考えました。

単発イベントから施設の緑化まで。幅広いFoodscapingの取り組み

今までに、篠崎さんの会社で実際に取り組まれたFoodscapingの実例があれば教えてください。

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篠崎

長野県小諸市では、駅前に仮設の緑の憩える滞留空間を作りました。小諸市は蕎麦の産地なのですが、蕎麦畑は山の方にしかないんです。

そこで、あえて駅前にプランターを置いて、子どもや観光客、オフィスワーカーに小諸市の農業文化を見せる試みを行いました。

(提供写真)

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篠崎

神奈川県川崎市では、地域の伝統野菜「のらぼう菜」をパブリックスペースに植えました。

非常に栄養価の高いことから病院にも同じように展開したり、ベーカリーに持ち込んでパンをつくったり。

景観的にも蔓性の植物をフェンスにはわせたり、中身の見える特注のガラスプランターに入れたりするなど面白い試みをやってみたところです。

(提供写真)

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篠崎

この事例では地域も巻き込みました。近くの銭湯の店主さんから、「子どもたちのお風呂離れが進んでおり、銭湯文化が廃れている」という話を聞いて。そこで、収穫したハーブを使った、週替わりのハーブ風呂をすることにしました。

さらに、そのハーブも地域の子どもたちが自ら収穫したもので。

子どもたちも自分たちが収穫したハーブなら、お風呂に入る楽しみが増えそうですね。素敵なアイデアです!

(提供写真)

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篠崎

いずれのケースでも、見た目や景観だけでなく、どのように人を巻き込み、どんな体験してほしいのかまで考えて、全体を監修しています。

プロデュースの範囲が、ランドスケープでは収まらないですね。

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篠崎

また、Foodscapingで関わった企業の担当者さんで、ものすごい緑好きになった方もいます。

以前はそれほど興味なかったそうですが、今やプライベートでグリーンを買いに行くようになったそうです。

緑との出会いで、生き方や価値観を変えることもあるんですね。

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篠崎

食べ物はあくまで興味持つきっかけにすぎません。人にとって緑は必要不可欠だからこそ、緑を中心に集まる全ての生物を包括的に認識するためにFoodscapingがあります。

そうすることによって、人の抵抗感が少ない状態で鳥や虫が街に戻ってくるのではないか、と考えています。

なるほど。

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篠崎

最近では、2023年10月に川崎市でオープンしたホリプロさんのミュージックホール「SUPERNOVA KAWASAKI(スペルノーヴァ カワサキ)」にて、長期的にFoodscapingの取り組みを実施しております。

今回は樹木を植えて終わりではなく、緑化基準は守りつつ、川崎にゆかりのある禅寺丸柿やイチジクなどを植えています。

(提供写真)

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篠崎

ほかにも季節の植え込みのワークショップも計画しており、植物に注目しながら体験の価値を向上させるプランを考えています。

施設のオープン時から、Foodscapingを取り入れるケースもあるんですね。

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篠崎

はい。これをきっかけに、緑に対して親近感を抱いてもらいたいですね。

今は、グリーンをインフラとして捉える土壌をつくっていく必要があると考えていて。

インフラ?

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篠崎

たとえば、2023年の夏はとても暑かったですよね。

今、郊外よりも都市部の気温が高くなる「ヒートアイランド現象」や雨水の氾濫が問題となっていますよね。

Foodscapingもこういった課題に対するソリューションの一つになりうるのではないか、と考えています。

もしオフィスでFoodscapingをやってみたくなったら?

もしFoodscapingをオフィスの中で展開すると、どのようなことが起きると考えられますか。

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篠崎

花が咲いている、実がなっている……。そんな他愛ないことが、普段話さない人との会話の糸口になるのではないでしょうか。

また、Foodscapingを活かしたイベントランチなども良さそうですよね。1〜2週間に1回、「グリーンタイム」として、収穫した植物を食べる時間を設けてみたり……。

それは参加しやすそうですね。

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篠崎

人にとって自然は必要なもの。だからこそ、グリーンと出会うハードルを都市部でどうやって下げるのかが課題です。

人は多くの時間を仕事に割いています。だからこそ、日本における働き方や環境を気持ちよいものにするためにも、Foodscapingがひとつの役割を果たすと考えています。

もし初心者がオフィスでFoodscapingを始めるなら、どんな植物がいいのでしょうか?

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篠崎

まずは育てやすいハーブから始めてみてはどうでしょうか? 香りもいいですし、食事だけではなくお茶などの飲み物に使うこともできますよ。

いいですね、試してみたくなりました!

最後に、これからの夢や目標があれば教えてください。

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篠崎

私が目指すのは緑を眺めるだけではなく、コミュニティデザインの段階から実装まで、人を巻き込む緑の空間づくり。

人と環境に対して継続的な価値を提供するFoodscapingを実践していきたいと考えています。

2022年9月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
撮影=栃久保 誠
編集=鬼頭佳代/ノオト