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焚き火を囲んで考える「今から始める万博」 小さな種火を皆で発展させる「EXPO TEAM CAMP 2023」をリポート

2025年に開催予定の大阪・関西万博まで700日を切りました。

しかし「万博って、結局何をするの?」「興味はあるけれど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか他人事に捉えてしまう人が多いのでは?

その一方で万博に向けてたくさんの人を巻き込みながら「勝手に」盛り上がり、続々と共創の渦を生み出している企業や人もいます。その1つが有志団体「demo!expo」。

本連載ではdemo!expoの活動や、さらにたくさんの人が万博に関わる様子を取材します。

万博に向けたイベント「EXPO TEAM CAMP」は2022年の第1回に続いて、第2回が2023年5月14日(日)に開催されました。

顔見知り同士と新たに出会う人を交えて「残り700日間でどのような万博を描いていくのか?」をテーマにどんなアイデアが出されたのか、新しい活動は生まれたのでしょうか。

実際にイベントに参加して感じた当日の雰囲気・様子をリポートします。

EXPO TEAM CAMP 2023とは

「EXPO TEAM CAMP 2023」とは、万博に関わりたい人とすでに万博に向けて動いている人が出会い、話す場としてトークセッションなどを開くイベントです。万博を外部から盛り上げることを目的に、勝手に動く有志団体「一般社団法人demoexpo」(法人名は「!」表記なし)が開催しています。

今回の参加者は、過去のdemo!expoの活動を見て「自分も万博に関わりたい!」「でも何をしようかな」と考えている人が中心。

名札に名前、所属、興味あるテーマ、意気込みを記載するので話のネタにも困らない

万博に向けて動きたい人たちが集まり、すでに万博に向けて動きだしている人と出会って話すことで、活動を思いつくきっかけにしてもらうことが今回の「EXPO TEAM CAMP 2023」の目的です。

「初めまして」でも「万博」を共通言語に互いを知れたBBQ交流会

乾杯の音頭はdemo!expoのメンバーでもある株式会社オカムラの岡本栄理(おかもと・えり)さん(写真中央)

イベントは18時から。「かんぱーい!」の掛け声とともに、BBQから始まりました。今回はなんと約100名が参加! 知り合いもいれば初めてdemo!expoのイベントに参加する人もいる場ですから、顔見知り同士や初対面同士で集まってしまいそうですよね。しかしフレンドリーでおしゃべり好きの関西人が多いからか「おいしいですね」「普段は何をしているんですか?」と会話が弾みます。

お話しした人に聞いてみると、皆さん参加理由はさまざま。「誘われて、おもしろそうだったから参加しました」と語るのはラジオ局のFM802でDJを務める樋口大喜(ひぐち・だいき)さん。

お肉や海鮮を食べながら積極的に交流していた樋口さん

「今日出会った人たちは万博に向けて何かしたくて集まっていて、どこにどんな形で向かうのかを今から考えるんですよね。私の中ではまだ次の行動はぼんやりとしているけれど、楽しそうだから来ました。せっかくだから、人とのつながりが生まれたら」

また一般社団法人うめらくの代表・山田摩利子(やまだ・まりこ)さんは「万博をもっと好きになりたい」と語ります。

山田さんも誘われて参加した1人

「ローカルからも万博を盛り上げたくて、『中津万博』など万博に関するイベントをしています。実際の万博への想いを高めていくのはこれからですが、万博を盛り上げるきっかけになればうれしい」

山田さんはお友だちに声をかけたところ、興味津々で一緒に参加してくれたそう。

山田さんのお友だち(右から2番目)はお米の消費量を増やすために万博を絡めて活動中

誘われた人が他の人を誘う。そんな流れで約100名もの方が参加してくれたのかもしれません。

さらに話を聞いていると、ひときわ万博への想いが強い人が。藤井秀雄(ふじい・ひでお)さんは万博の魅力にはまって53年、万博関連のイベントにはほとんど参加しているそうです。

万博関連のグッズもたくさん所有している藤井さん

「自分としてはもう2025年の万博は始まっているという想いから、関連のイベントは基本的に参加しています。実は1000日前のイベントにも作り手として参加していました」

誘われて参加した人も多いものの、皆さん何かしら万博への想いは持っている様子。BBQ交流会で万博への気持ちを話す様子もちらほらと見え、この後のトークセッションがさらに楽しみになってきました。

6つのテーマでトークセッション。焚き火を囲んで考えるのは、ワクワクする万博

イベント開始から1時間、次はファイヤーサークルに移動して、焚き火を囲みながらのトークセッションです。テーマは次の6つの中から各自が2つを選び、各テーマセッションを1時間ずつ(合計2時間)話し合います。

  • こども
  • 文化(音楽/アート)
  • テック
  • 山(キャンプ/森林)
  • テーマフリー

なお、各トークセッションに「種火」という人が1人ずつ存在します。種火役は万博への熱い想いを持った人が担当し、問いの投げかけやファシリテーションをしながら万博への気持ちを共有します。各テーマに集まった人は、燃料の「薪」。薪をくべると焚き火が大きくなるように、質問やアイデアをどんどん出して万博への想いを大きくする。想いの伝播で新たなプロジェクトが生まれたら、という狙いからトークセッションが企画されました。

ちなみにこの日は、こんな方が焚き火のお守りをしてくれました。

馬杉さんは焚き火を順番に見回り、トークセッションが盛り上がるよう裏でサポート

YouTube番組の『おやじキャンプ飯』を制作する、株式会社シネマズギックスの馬杉雅喜(ますぎ・まさよし)さんです。

「『こうしたい!』という心の奥底から湧き出る熱気に、焚き火というシチュエーションはすごく合います。熱量の高さや隠れていた想いとか、そういう気持ちが伝播するところから革命は生まれると思うんです。今日もBBQ交流会で少し気持ちがほぐれてきたところに焚き火を囲んで話すので、革命につながる活動が生まれたら良いですね」

馬杉さんが話し終わると同時に焚き火のほうを見てみると、すでにトークが始まっているところもちらほら。皆さん万博について話したいことがたくさんあるのか、前のめりな姿勢です……!

トークセッションは自己紹介から始まり、参加理由や万博への想いを通してお互いを知ります。開放感のある屋外の広場と焚き火のぼんやりとした灯火が相まって、初対面でも話しやすいムード。今回のテーマにもあるように、皆さんは残り700日でどのような万博を描こうとしているのでしょうか。

「こども」がテーマのグループでは、子を持つ参加者の「万博を通してこどもに未来を感じさせたい」という話から始まりました。しかし他の参加者から出てきたのは「こどもたちが万博自体にあまり興味を持っていないし、大人でさえも万博を遠い存在に感じる」「興味を持っていないと未来も感じにくい」という声。

そこで「じゃあこどもが万博を身近に感じる、ワクワクするには何が必要だろう」というテーマで話が進みます。

地図上にもカードが貼り出され、参加者の普段の活動エリアが一目瞭然

いろいろとアイデアが出る中、参加者から「大人が感動するところにこどもも感動するとは限らないから、大人とこどもの着眼点を分けた上で考えないといけない」という意見が。

その発言を受けてさらに別の参加者が「確かに、大人は『こどもは斬新なアイデアや非現実的な発想が好きだろう』と考えるけれど、そうではないよね」と発言します。

その例として「空を飛ぶこと」が挙げられました。大人は「空なんて飛べるわけがない」と思っているけれど、VRといった新技術で空を飛ぶ体験ができると感動します。つまり、大人はすでに知っている事実に新しい要素が加わったときや、あり得ないと思った空想が実現したときに感動する。しかしこどもはまったく違う反応を見せるのではないかと。

「こどもは発想が豊かで『まあ空くらい飛べるよね』と考えているからこそ、VRで空を飛べても驚かないかもしれない。だからこどもが感動するのはまた別のもの……例えばかっこよさや華やかさ、壮大さが感じられることかな?」

これを聞いて「やっぱりキャラクター?」「ミャクミャクがプリキュアに勝てば良いのかなあ」という声が出ますが、別の参加者から「少し違うかも」「どのキャラが好きかは個人の価値観によるし、何を好きでも良い」と別の意見が出ます。

話がどんどん展開するところに、demo!expo運営メンバーである花岡(はなおか)さんが参戦。

「ビールを飲みたい人はいますか? 男気じゃんけんしましょう」と言った途端、みんなの目がキラキラと輝きます。

「最初はグー! じゃんけんぽん!」

「あ! 負けた?! 良かった」

「違うよ。男気じゃんけんやから、負けたら『奢れなかった……』って悔しがらないと」

「あ〜奢りたかった〜(笑)」

大人たちが本気になってじゃんけんを楽しんだ後、誰かがポロッと「ワクワクってこういうことかな」と。
「こどもは大人から『こどもはこれが好きでしょ?』と差し出されたものにはワクワクしない。大人が楽しんでいることを同じ目線で楽しめるから参加したいし、楽しいと感じる。だから振り返ったときに『あのとき楽しかったな』と、思い出にも残りやすいんじゃないかな」

その発言をきっかけに参加者がハッとした顔になり「こういう瞬間だね」と、「こどもの着眼点からのワクワク」が腑に落ちていました。 万博を盛り上げるのにも、大人が全力で楽しむ姿を見せることが重要なのかもしれません。

後半には、奈良出身のシンガーソングライター、やましたりなさんの音楽ライブもあり、みんなお酒を片手に夏フェスのような雰囲気に。火を囲みながら歌うキャンプの定番スタイルに合わせるように、華を添えてくれました。

やましたさんは名曲のカバーを披露

きれいな歌声をBGMに、トークはわいわいと賑やかに盛り上がりました。

想いを持つ人とのトークで種火が大きくなった

2時間のトークセッションを終えて、参加者に感想を聞きました。

紙芝居屋として活動するガンチャン。「こども」がテーマのトークで種火役を務めました

「今回のトークセッションはもちろん、前回参加した『まちごと万博 大作戦会議』の参加者と温めていたアイデアについて、今回出会った新しい人と話せたので、自分の種火が大きくなった感覚があります。大人が楽しみながら万博を盛り上げる活動を積極的にしていきたいな」

また今回は、大阪・関西万博に関わる企業のメンバーも多数参加していました。

「夜」がテーマのトークで種火役を担当した名定さん

サントリーホールディングス株式会社の大阪・関西万博準備室に所属する名定幸代(なさだ・さちよ)さんは、知人からの紹介がきっかけでdemo!expoを知り「すぐに行動に移せる風土が良い」と本イベントにも参加。

「サントリーは大阪で生まれた企業なので、創業の地・大阪を盛り上げたいという想いがずっとありました。万博閉園後にお酒を飲みたい人のために、閉園後に盛り上げられる場所を地元の飲食店と一緒に作れたら。そういうプラットフォームや場所を求めて今日は参加しました」

サントリーは水上ショー出展事業だけでなく、別の関わり方でも万博を盛り上げられないかと模索しているそうです。

盛り上げるためのアイデアは生まれたか質問すると、イベント後の活動を想像させる答えが返ってきました。

「別の参加者から2泊3日の万博関連ツアーを考えていると聞きましたが、2泊分の夜ご飯の予定は決まってないらしいんです。サントリー製品を取り扱っている飲食店に来てもらえたら良いなと考えています」

「今後も積極的に(demo!expoに)参加していきたいです」と話す森下さん

パナソニックホールディング株式会社のプラットフォーム本部に所属する森下浩充(もりした・ひろみつ)さんは、以前花岡さんと一緒にとあるイベントに出演しました。大阪のまち全体で万博を盛り上げるdemo!expoの万博プレイベント「まちごと万博」に関わりたいそうです。

今回のトークでは「未来を感じた」と話します。

「大きな企業に所属しているとどうしても、効率を追求して複数プロジェクトを連携しがちです。スマートかつより良い状態を求めてとる行動ではありますが、企業に所属しているがゆえの忖度が、たまに積極的に動く個人のモチベーションを削ぐこともある。万博をきっかけにもっと自分を出して社会に貢献したい! と思う個人が動きやすい環境を作れたら。EXPO TEAM CAMPのような社外イベントは想いを持っている人と出会えるし、個人にスポットが当たるきっかけにもなりますね」

森下さんは今回テックがテーマのトークに入り、参加者とロボットやメタバース関連で一緒に企画をやってみようという話も出たそうです。

この日に話を聞いた人たちが、近いうちに新しい活動を始めているかもしれません。

一人ひとりが主体者となって万博を盛り上げよう

21時を過ぎ、閉会式が行われました。

demo!expo運営メンバーである岡本さんは「万博というつながりでこんなに人が集まってうれしい。これからもイベントを開催するので、一人ひとりが主体者となって盛り上げましょう!」とあいさつ。

最後は参加者全員で「万博盛り上げるぞー!」「えいえいおー!」と、大きな掛け声でイベントは終了しました。終わった後も話し足りないのか、お酒を飲みながら議論し続ける人の姿も。

今回のように万博に関わりたい! 自分も何かしたい! と思う個人は多く、実際にアイデアを持っている人も実はたくさんいます。

demo!expoは、何かしたい、でもどうしたら良いのか分からないといった人に関わってほしい、万博は誰もが盛り上げることができると伝えよう、とイベントを開催しています。

実際に想いがある人たちが出会うと、少し話すだけで「こうしたら良いんじゃない?」「一緒にやりましょう」と動き出すことができる。何よりも、イベントという体験を通して考えるからこそ、大人もこどももワクワクする万博がイメージでき、すぐに行動に移せるのかもしれません。

参加者たちがゆるっと集まりつつ、でもトークセッションではしっかりと自分の想いも伝える。そんな和やかな雰囲気と万博への熱量で、2025年の万博がより楽しみになった1日でした。

2023年5月取材

取材・執筆:森木あゆみ
写真:西島本元
編集:かとうちあき(人間編集部)