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共創のつながりが街を形成するヒントになる 「NEXT UMEDA」を考えるイベントで見えてきたこと

コロナ禍を経て、大阪・梅田には大きな変化が訪れました。建物さえあれば人が集まっていた時代に比べて、「わざわざ街中に出なくてもいい」という人が増え、じんわりと減っていく人影。

「建物中心の梅田」から、「人中心の梅田」にシフトチェンジし、さらに愛される街に進化するには――? 2022年4月24日、そんな課題意識を持った人々が集まり、トークイベント「NEXT UMEDA CONVERSATION」が開催されました。会場は、2022年春に竣工されたばかりの「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」です。

登壇したのは、阪急阪神ビルマネジメント株式会社の松岡一樹さん、ジョーンズ ラング ラサール株式会社の山田祐輔さん、そして株式会社オカムラの岡本栄理。それぞれの発表ののち、株式会社オカムラの遅野井宏がモデレーターとなり、「未来の梅田」について3人でパネルディスカッションを行いました。

松岡一樹(まつおか・かずき)
阪急阪神ビルマネジメント株式会社 取締役・常務執行役員。大学卒業後、10年間にわたり住宅開発に従事。2011年より梅田阪急ビル(現:大阪梅田ツインタワーズ・ノース)の開業準備・運営、2016年より大阪梅田ツインタワーズ・サウスのコンセプト等の企画・開発に携わる。2022年4月より現職。

山田祐輔(やまだ・ゆうすけ)
ジョーンズ ラング ラサール株式会社(JLL) オフィスリーシングアドバイザリー事業部に所属。2016年9月に入社し、JLL関西でオフィスリーシングチームの立ち上げを行う。関西エリアで10年以上のオフィス仲介並びにビルオーナー向けのリーシングサポート業務も並行して担い、国内外の企業からの移転・新規出店に関わる取引支援業務を多数受注。コロナ以降は、多くの企業からオフィスのあり方・考え方についての相談を受けている。

岡本栄理(おかもと・えり)
株式会社オカムラ 関西支社マーケティング部マーケティング推進室に所属。大学で社会学を学ぶ。株式会社オカムラでは経理、営業事務・秘書業務を経て2017年6月 より現職。社内研修の企画・運営をする傍ら、Open Innovation Biotope “bee”において社 内外をつなぐ様々なイベントの企画・運営を担当。

遅野井宏(おそのい・ひろし)
株式会社オカムラ DX未来研究所 所長、WORK MILLエバンジェリスト。学習院大学法学部卒業後、キヤノン株式会社に入社。9年半にわたりレーザープリンター新製品の事業企画を担当し、30製品の商品化を手掛ける。事業部IT部門で社内変革を4年間担当した後、日本マイクロソフト株式会社に入社。働き方改革専任のコンサルタントとして製造業を中心としたクライアントの改革を支援。2014年から岡村製作所(現・オカムラ)に入社。「WORK MILL」を立ち上げ、これからのワークプレイス・ワークスタイルのありかたについてリサーチしながら、さまざまな情報発信を行う。

NEXT UMEDAを市況から見つめる

最初にプレゼンをしたのは、ジョーンズ ラング ラサール株式会社(JLL) オフィスリーシングアドバイザリー事業部の山田祐輔さん。大阪のオフィスマーケットを紹介しました。

ジョーンズ ラング ラサール株式会社(JLL) オフィスリーシングアドバイザリー事業部の山田祐輔さん

2005年から現在に至るまでの、大阪エリアのAグレードオフィス(大阪市中央区・北区に位置する、延床面積1万5,000平方メートル以上、基準階床面積600平方メートル以上のオフィスのこと)の状況はどう変わってきたのでしょうか。

2022年3月現在、大阪のAグレードオフィスの空室率は3.9%。この空室率は、エリア内に新規ビルが竣工されて物件の供給が増えることで、跳ね上がります。

例えば、梅田のグランフロント大阪が竣工した2013年の空室率は過去最高の11.3%に。その後は、企業のオフィス増床のニーズが高かったことから、空室率は徐々に下がり、2019年には0.1%に。満室に近い状態になりました。

しかし2020年以降、新型コロナウイルスの影響で、各企業がオフィスを縮小。一方で新築ビルが供給されたことから、現在の3.9%にまで上昇したといいます。

本日、会場となった「大阪梅田ツインタワーズ サウス」をはじめ、新大阪や梅田、淀屋橋エリアにも大型オフィスの竣工が予定され、現在も大阪エリアでは新築ビルの供給が相次いでいます。しかしその一方で、コロナ禍を経験した企業がこれまでと同じ面積のオフィスを借りるのかどうか、なかなか見通しは立っていません。

「オフィスの新規供給と新型コロナウイルスの影響で、2024年まで空室率は増加していくだろうと予想しています」と山田さんは締めくくりました。

大阪梅田ツインタワーズ・サウスで実現したい「つながり」とは

続いての登壇者は、阪急阪神ビルマネジメント株式会社の取締役・常務執行役員の松岡一樹さん。2022年4月に竣工した大阪梅田ツインタワーズ・サウスのコンセプトメイキングについて、その裏側を語りました。

阪急阪神ビルマネジメント株式会社の取締役・常務執行役員の松岡一樹さん

松岡さんは、「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」を企画するにあたり、3つのコンセプトを掲げたそうです。

1つ目は、「つながる梅田の中心」。ビルを利用するテナント同士や、梅田もしくは大阪全体。大阪・梅田の中心地にあるビルとして、縦横のつながりを作りたい、つなぐ役割を担いたい、という思いを込めました。

2つ目は、「おもてなしサービスのあふれるビル」。入居するテナント企業によって価値観や求めるレベルは異なるものの、どんな方にも『おもてなしを受けた』と実感していただけるように精一杯のサービスの提供を目指しています。

そして3つ目は、「ウェルビーイングを実感」。企画がはじまった2016年当時、「ウェルビーイング」という言葉はあまり一般的ではなかった、と松岡さん。

しかし、当時謳われていた「健康経営」の先の「健康」を実現したい。フィジカル面だけでなく、働く上での健全さや精神衛生をよりいい状態にしたい。そんな一歩先を見据えて、「ウェルビーイング」という言葉を選んだといいます。

これら3つのコンセプトをもとに、ビルの12階にはオフィスワーカー専用フロア「WELLCO(ウェルコ)」を設置。カフェスペースや食堂、ラウンジ、バーなど、多様な働き方を支援する施設を集約しました。仕事に集中したいときは半個室のワークスポットや、疲れたときはマッサージチェアの利用も可能です。

また、「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」という名前にも運営をする阪急阪神ビルマネジメントのこだわりがあるのだと言います。

「今回は、社名の『阪急阪神』をあえて使いませんでした。それは、大阪以外の企業に利用していただく上で、『梅田』という街を認知してほしかったから。例えば東京では、梅田が大阪のどこに位置するのかすら知らない方も多いんです。地名の認知度を高めるとともに、このビルを中心に梅田をつくっていきたい。そんな思いを込めています」(松岡さん)

これからも続くことが予想される、ウィズコロナの時代。最後に、このビルを通した展望を松岡さんが語ります。

「このビルではリアルの出会いだけでなく、オンラインも交えて『進化型のつながり』を作っていきたい。イベントの開催なども従来型のコワーキングスペースよりもハイブリッドな形で行い、ビジネスの発展を生み出していきます」(松岡さん)

アセットと色眼鏡を外して、ゼロベースで梅田の未来を考える

最後に登壇したのは、株式会社オカムラ 関西支社マーケティング部 マーケティング推進室の岡本栄理。オカムラが運営するスペース「Open Innovation Biotope “bee”」のコミュニティマネージャーを務めています。

株式会社オカムラ 関西支社マーケティング部マーケティング推進室の岡本栄理

「人を想い、場を創る。」というオカムラのコーポレートメッセージのもとに運営されている共創空間スペース「Open Innovation Biotope “bee” (以下bee)」。多くの企業や機関とともに「働き方」を考えつくる「共創活動=イベント」を行なっています。

阪急阪神グループと共創空間スペース「Open Innovation Biotope “bee”」は、2020年より「NEXT UMEDAを考える」をテーマにした共同ワークショップを開催しました。

テーマは「梅田の価値を再定義する」。ビルを中心に人とトレンドが回っていた、これまでの梅田。しかし、コロナ禍によって働く場所と生活はシームレスになり、人々は街の中心地に限らず、さまざまな街で仕事や買い物をするようになりました。そんな今、梅田はどんな街を目指すべきなのでしょうか。

ワークショップ主催者の岡本が前提として立てたのは「これからは、『あの新しいビルに行きたい』という建物中心の考え方ではなく、まち全体で『働く・学ぶ・生活』がシームレスになるような、人中心のまちが求められるのではないか」という仮説。その上で「梅田がどんなまちに生まれ変わったら、ワクワクするか」という問いを元に、チームごとに議論を展開しました。

阪急阪神ビルマネジメント株式会社に所属する蔵本詠美さんもワークショップ参加者の一人。参加者からさまざまな梅田像が生まれる中で、蔵本さんのチームが掲げたのは「老若男女が混ざり合うチャレンジングな街」という言葉でした。

阪急阪神ビルマネジメント株式会社の蔵本詠美さん

「カテゴライズされた特定の人のための街ではなく、ボーダーレスな街にしたい。例えば、渋谷は若年女性が訪れることが多く、必然的に彼女たちをターゲットにした店舗も多い。そのため、東京で暮らしていると、『街に行動を決められている感覚』に陥ることがあります。今後の梅田は、特定の人だけが街に出向くのではなく、人が梅田で何をしたいかを決められる街にしたい。そうすれば、梅田ならではの魅力が生まれるのではないでしょうか」(蔵本さん)

会社や肩書きなどのフレームを外して、人々がゼロベースでアイデアを垣根なく共有できたのは、「共創活動だからこそ」と振り返る蔵本さん。「梅田の街づくりや働き方に興味のあるみなさんも、ぜひ『どんな街にしていきたいか』とフラットに考えて、梅田の魅力を発掘していただければ」と岡本が締めくくりました。