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万博をきっかけに躍動する若い力。開催前から盛り上げに奔走する学生たちの胸の内とは?

2025年に開催を予定している大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで、1年を切りました。

しかし、「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人事」に捉えてしまう人が多いのでは?

その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している企業・人々がいます。

本連載では、大阪・関西万博に向けて「勝手に」生み出されたムーブメントに着目し、その仕掛け人たちの胸の内を取材していきます。

万博開催まで1年を切り、存在感を徐々に増しているのが、大学生たちの取り組みです。万博ムードを盛り上げる団体を運営したり、企業とのコラボレーションに取り組んだりと、活動内容はさまざま。学業にサークル、アルバイトと、ただでさえ学生生活は忙しいはずです。

それにも関わらず、「自分も万博の一部」「万博をみんなが楽しめる場にする」と西山美里さん(関西大)、鈴木刀麿さん(奈良先端大)、小池美咲さん(同志社大)は話します。なぜ万博に夢中になるのか? そして、何をめざしているのか? 異なる立場でそれぞれ活躍する学生三人の対話から探ります。

左から、西山美里さん(関西大学 環境都市工学部3年)、鈴木刀麿さん(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学領域 修士課程2年)、小池美咲さん(同志社大学 政策学部4年)

関大万博部
「1人でも多くの人に万博のワクワク感を伝えたい!」。 そんな想いを持つ関大生たちが仲間となってSDGs推進など日々の学びをベースとし、それぞれが「輝く」ことができるユニークな企画づくりに挑戦。 開催期間中のパビリオン内での展示や、大学内外での機運醸成イベントなどを目標に、日々活動に取り組んでいる。

Co-Lab-Gears(コラギア)
学生の共創チャレンジを支援する産官学連携のプロジェクト。 正式名称は、大阪・関西万博TEAM EXPO 2025「次世代共創造リーダー育成プロジェクト」と呼び、このプロジェクトは、2025年までに社会課題を解決し、SDGs達成に導く「次世代共創リーダー」を1000人輩出することをめざしている。

NAIST起業部
最先端の研究を行いながら、ビジネスにおいても活躍し、社会にイノベーションを起こすことを志す学生が集っている。起業をすることだけが起業部の目的ではなく、志の高い仲間とのネットワークづくりや、ビジネスに強い技術者の育成なども目的に含まれている。



のめり込むきっかけは三者三様。いつのまにか万博に夢中に

西山

私は「大阪・関西万博を周りから盛り上げる」という目的を持つ「関大万博部」で活動しています。長崎県出身で、以前から大阪の文化に興味があったんです。コロナ禍で本をたくさん読んでいたところ、姉にもらった本に「太陽の塔」のことが詳しく書いてあり、そこから1970年の大阪万博に興味を持つようになりました。

そのころ建築について勉強したいと思っていたので、当時のパビリオンや、岡本太郎さんと建築家である丹下健三さんの関係にも惹かれ、絶対に大阪の大学へ行きたいと両親を説得しました(笑)

2023年、関大で万博部が立ち上がると聞いて「私も何かやりたい!」と思って入部しました。関大も万博も名前に「関西」が入っていて、「関西大学の学生なら、やらずにはいられない」と思いました。

小池

私は大阪出身で、同志社大学に通っていますが、万博が大阪で開催されると決まってから、どんな形でもいいから関わりたいと考えていたんです。アルバイトでもボランティアでも、どうにかして運営に携わりたいと思っていたところ、「Co-Lab-Gears(コラギア)」の存在を知りました。

コラギアは「TEAM EXPO 2025」プログラム ※1)とも連動していて、活動を続けるうちにいろいろな人に出会いました。もともと社会課題にはそこまで関心がなかったのですが、出会った人たちから、さまざまな考えを吸収することで、自分の世界や視野が広がっていきました。

※1)「いのち輝く未来社会のデザイン」の実現をめざすプログラム。企業・行政などが「共創パートナー」として参画し、SDGsの達成に貢献するための「共創チャレンジ」を展開している

大阪・関西万博開幕1年前に開催された「共創」イベント(2024年4月20日開催)。イベントを通して、世代を超えた仲間づくりを目指した

鈴木

僕は、個人的なつながりがきっかけで万博を盛り上げる活動に参加しています。2024年8月、奈良先端科学技術大学院大学(以下、NAIST)を会場に「EXPO酒場」※2)が開かれ、運営主体をNAIST起業部 ※3)が務めました。同じ研究室に所属する起業部部長から誘われ、副店長として運営に参加したんです。

また、大阪・関西万博に合わせて開催する「けいはんな万博2025」※4)の活動にも参加していますが、こちらもとある企業の社長から声をかけてもらって関わるようになりました。

※2)万博を盛り上げたい人たちが集う交流イベント。各回を「支店」と称し、関西を中心に全国で開催。「共創チャレンジ」の一つでもある

※3)最先端の研究を始め、ビジネスに強い技術者の育成や志の高い仲間とつながることを目的としている

※4) 2025年に開催される大阪・関西万博と同時に行われるイベント。けいはんな学研都市という、先端技術の研究が行われているエリアで、「未来社会への貢献~次世代への解~」をテーマに、科学技術を生かした未来の生活を体験できる

熱い人たちとの出会いが、私たちの原動力

鈴木

正直、万博にずっと興味があったわけではないんです。西山さんと小池さんは、長期間活動していますよね。

西山

自身の関心はもちろんあるのですが、熱い思いを持つメンバーに囲まれていることが大きな原動力です。関大万博部は発足2年目ですが「一緒に万博を盛り上げませんか?」という呼びかけに応えてくれる新入生が予想以上に多く、部員は170人を超えました(2024年8月現在)。

また、千里山キャンパスがある吹田市は大阪万博(EXPO’70)の開催地でもあり、学外でも「万博」に思い入れがある人によく出会います。そのおかげもあってか、熱量を保って活動できている実感がありますね。

小池

同志社は関大万博部のような組織がなく、今のところ学内では表立った動きを感じることは少ないんです。

私はコラギアの活動を通して他大学とも連携し、さまざまな人と関わっていますが、それこそ関大万博部や大阪大学の学生はすごく熱くて驚いています。トークセッションに呼んでもらったり、イベント運営を手伝ったり、そのたびに刺激をもらっています。

周囲の人から影響を受けてモチベーションアップしている、という西山さんの話はとてもよくわかります。

鈴木

万博の活動を通して、特にインパクトの大きかった出会いはありますか?

西山

私は、岡本太郎さんを好きなデザイナーと出会えたとき「いいね、もっと語り合いたい」って言ってもらえたことがうれしくて。学生と社会人っていう立場の違いはあるんですけど、話が盛り上がって……万博部に所属しているからこその出会いでした。

EXPO TRAIN 阪急号に関大万博部が参加したときの一コマ。関大万博部のメンバーは1970年代風のアイテムを身にまとい、乗客をもてなした

小池

素敵! 普段会えない人たちに会えるのは万博の活動に取り組んでいるからこそですよね。私はこれまで複数の学生団体に所属してきましたが、いち学生が企業にメールを送っても、相手にしてもらえることは少なかったんです。それが、万博関連となると興味を持ってくれる企業が増えました。

特に、TEAM EXPOに関わる人たちはもれなく全員熱量が高いし、学生に対してもフラットに接してくれるんですよね。

西山

鈴木さんは大学院生で、より研究の比重が大きい生活だと思いますが、EXPO酒場の運営は大変だったのでは?

鈴木

たしかに、NAISTは大学院なので、研究を優先する学生が多いです。そのため、EXPO酒場の開催にあたり、「みんな無理をせず、一人ひとりが少しずつ努力を持ち寄れば大きな成果が出る」という運営をめざしました。

「EXPO酒場」や「けいはんな万博」の活動で気づいたのは、自分は組織づくりに興味があるんだな、ということです。どんなプロジェクトも、一人で完結することってほとんどないですよね。僕は、仮に組織のメンバーの誰かが研究で忙しくてチームを抜けたとしてもプロジェクトがうまく回るようなシステムをつくるのが面白くて熱中できたんだと思います。

得意分野で輝き、不得意に向き合う

西山

私が「万博、万博」と言い続けているからか、祖母も長崎から来る気満々みたいです(笑)。学生や家族のような身近なところでは万博を楽しみにしている人が多いのですが、ニュースではネガティブなトピックが流れてくることもありますよね。私は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のときと同じで、始まればきっと世間は盛り上がると思っているんですけど、お二人はどうですか?

小池

私は大阪・関西万博とコラギアの活動を分けて考えている部分もありますね。万博は社会に働きかけていく手段の一つだと捉えています。私自身、そんな万博に関心があり、同じく万博という共通の関心を持った人たちが集って一つのチームのようになり、全員でやりたいことを進めている感覚があります。

鈴木

小池さんは、外部との関わりや自分がいる「場」をうまく使っている感じがしますね。自分たちの活動を「万博」に乗せてさらに盛り上げていくって、面白いアイデアだと感じます。

あと、関大万博部は熱量を持って万博に向き合っていて、素敵な組織ですよね。「なぜ、自分たちが万博に興味を持ったのか」という根本的な部分を聞けたら、関西以外の人とつながるきっかけにもなりそうだと思いました。

二人とも共通して、外部への声かけに積極的ですよね。どういう風に発信して、仲間を見つけているのか知りたいです。

小池

今まさに、どうやったら周りの人たちを巻き込めるか考えているところなんです。「万博は知ってるけど……TEAM EXPOは知らない」という声もあります。こんなにも熱意のある人たちがいると、全国に広めたいんですよ。

関大万博部のメンバーの増え方を聞いてすごいと思ったのですが、西山さんはどんなことを意識しながら活動していますか?

西山

私は「万博をみんなが楽しめる場にすること」を意識しています。関大万博部はいわば、お祭りが始まる前から屋台を始めて、お祭りを盛り上げようとするチームなんです。万博開催前の段階から笑顔でみなさんを出迎えよう、とイメージしていて、それが伝わっているのかもしれません。

万博が始まったタイミングで参加するんじゃなくて、せっかくなら、準備段階から参加して、盛り上げたほうが楽しいですよね。

小池

私がまだ出会えていないだけで、万博に向けて活動している学生ってたくさんいるんだなと。万博は社会課題を考える機会でもあるので、こうして万博をきっかけに、「何かやってみたい」と考えている学生が多くいることに希望を感じています。

鈴木さんは理系の力で万博を盛り上げようとしていて、文系の私からすると大変だと思うけど、特技を活かしているのが素敵だなと思いました。

鈴木

理系の力を活かす、というのは自分たちでは意識してなかったかもしれません。でも「EXPO酒場」で提供したコンテンツを振り返ってみると、NAISTの特色はかなり出ていますね。

小池

というと?

鈴木

会場では鳥のキーウィを忠実に再現したロボットを展示したり、日頃の研究で応用したものを発表したんです。

8月4日のEXPO酒場開催時に展示された、飛べない鳥のキーウィロボット

鈴木

あと、謎解きを制作している学内の団体とコラボして「究極の二択」というウェブアプリケーションをつくりました。参加者に「遊びに行くなら海? 山?」のような二択を出すアプリです。全8問の解答が一致した人たちに景品を贈呈しました。

NAIST起業部のメンバー山﨑さんがウェブブラウザ用に開発した、究極の二択ゲーム
ユーザー(回答者)は「遊びに行くなら?」という質問に対し、「A:海 or B:山」と、スマホの画面をタップし回答する

西山

こんなのつくれるんですか! 万博関連のイベントの参加メンバーでやったら盛り上がりそうです。

鈴木

どれもEXPO酒場のためにつくったというより、普段大学院で研究していることの延長でした。

運営部では、集客活動にデータサイエンスを活用しました。例えば、他大学のサークルにSNSでメッセージを送ったとき、ChatGPTで生成した勧誘文と定型文ではどちらが効果があるのか分析しました。そういう意味では自分たちの強みを再認識できる機会になったかもしれません。

学業も万博も全力! モチベーションキープの秘密

西山

小池さんは学外に飛び出して、大阪大学や企業とも一緒に活動していますよね。その行動力はどこから湧いてくるんですか?

小池

今は、成長させてくれた人たちへの恩返しがモチベーションになっています。人との出会いを通して自分の世界を広げてもらった実感があるので、何か返すことはできないかと考えているんです。

自分が成長したエピソードでいうと、今は人前で話す機会も増えましたが、大学入学当初はひどいあがり症で……後ろの席から見ている人にも、手と足が震えているのがバレるほどだったんです(笑)。

鈴木

今の姿からは、まったく想像ができません(笑)。自分を変えてくれた人たちに恩返ししたい、という思いが強いんですね。

小池

はい。もちろん今後もさらに成長していきたいですが、同時に人のために動きたいという思いが強くなっていますね。関わっているプロジェクトは、自分がパンクしない限り全部妥協しないと決めています。

鈴木

西山さんはチームをまとめる立場ですが、何が大変ですか?

小池

私も気になります。身近な学生は、万博関連の活動を優先したい人、卒論を優先したい人など考え方がさまざまで……。聞いてみたいです!

西山

メンバーの足並みがそろわなくて、頭を抱えることは私もあります。真面目な人が多い分、やっぱり学業が忙しかったり。うまく進まないこともいろいろと経験してきて、今心がけているのは、信頼関係を築くことですね。

小池

関わる人数が多い分、お互いのことをより深く知ることが大切なんですね。そんな気付きを経て、行動で変えたことはありますか?

西山

ささいなことでも「ありがとう」「よろしくね」と声をかけるようにしています。一人では絶対にできないことばかりなので、励まし合う環境や何気ないコミュニケーションがやっぱり大事だなって感じますね。人をまとめるのは得意じゃないんですけど、人と接しながら多くのことを学んでいます。

学生からさまざまな世代、地域へ“熱伝導”を起こすために

西山

関大万博部は、現在9つのプロジェクトが並走しています。すべて成功させて、全員が笑顔で万博を迎えるのが今の目標です。

小池さんは「全国に活動を伝えたい」とも言っていましたよね。学生以外の世代や関西の外の人に思いを届けるには、何が必要だと思いますか?

小池

これまでの活動を振り返ると、いろんな人に会うことが本当に大事だと感じています。自分たちだけの力では情報発信にも限界があるけど、出会った人たちが、さらに周りの人に広げてくれる。関西以外の地域で開催したイベントで、特に実感しました。

万博やそれに関連するアクションについて、周りの人に話したくなるようなイベントやきっかけを、私たちはつくるべきだと考えています。

鈴木

完全に自分一人から発生する「思い」って少ないのかもしれませんね。強い思いを持った人に接して自分が形づくられていくというか。その人の話をまた誰かに話して……という形で伝播していくのかなと感じました。今日二人の話を聞いて、僕も面白いプロジェクトを見つけて参加したいなと思えました。

そんな中、西山さんは最初に影響を受けたのが太陽の塔で、岡本太郎さんが残してくれた「作品」なのは興味深いですよね。

西山

自分でも不思議な縁を感じます。しかも今回は、大学名と同じ「関西」がタイトルについているんです(笑)。私たちも「盛り上げなきゃ」という思いは常にあります。

小池

今、それぞれやっていることは「自分も万博の一部なんだ」という、ある種の決意表明のようにも思えてきました。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、8つのテーマ事業があります。

それらの事業から得られる体験は、他者や地球のために一人ひとりが少しの努力を始め、世界の人々と未来を共創する挑戦につながると考えられています。私たちの活動は三者三様ですが、それぞれにこのエッセンスがあるなと感じました。万博開幕まで、そして開幕してからも、人やチームとの関わりを大事にしながら、活動を盛り上げていきましょう!

2024年8月取材

取材・執筆:山瀬龍一
撮影:牛久保賢二
編集:人間編集部/南野義哉(プレスラボ)