1日限定のクイズレストラン開店! 外食するハードルを「えらぶことの楽しさ」に 万博関連イベントリポート
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2025年に開催を予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで500日を切りました。
「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉える人が多いのでは?
その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。
1日限定のイベント「クイズレストラン」が2023年11月15日に開催されました。外食をする一連の流れがクイズ形式になるというディナーイベントで、企画・主催は障がい福祉サービス事業所などに社員研修を行う株式会社Lean on Meとdemo!expo。2024年4月から、障がいがある人への「合理的配慮の提供」が法的義務化され、2025年開催の大阪・関西万博での対応の準備も進められています。
障がいについての一般的な知識を広め、障がいがある人もない人も、フラットに楽しめるようにと企画された今回。多くの笑顔が見られたイベントの様子と携わったメンバーの思いをお伝えします。
入店から退店まですべてがクイズに
外食をするときに「文字情報だけでは理解しづらい」「言葉での意思表示が困難」という障がいや特性のある人がいます。また、子ども連れや高齢者との食事でもサービス内容や環境など、気になることはいろいろ。
今回のイベント「クイズレストラン」は、外食のステップをクイズ形式で進めるから、苦手なことがある人もそうでない人も、一緒に楽しく体験できるというものです。
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会場は、大阪府高槻市のピッツェリア&カフェ「SUNDAY’S BAKE 569」。
一体どのような体験が待っているのでしょう?
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それでは、行ってきます!
「いらっぴゃいませ!」扉を開けるとクイズでお出迎え、希望をゆっくりしっかり伝えられる工夫
お店の扉を開けると、スタッフがお出迎え! そして即クイズが出題されます。
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「いらっ◯ゃいませ」◯に入る言葉は?
3つの選択肢が提示されていますが、安心してください。どれを選んでもちゃんと中に入れてくれますよ。私は3つ目の答え「ぴ」を選択。クイズレストランってどんな感じなんだろう? と少し身構えていたので、「いらっぴゃいませ〜!」の言葉で緊張がほぐれました。
お次はテーブル席のエリアを選ぶクイズ。
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「にぎやかなエリア」と「おちついたエリア」、イラストも書いてあってわかりやすい! 騒がしい音やまぶしい光の中では落ち着かない方も、快適に食事ができる環境を選べます。
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エリアを選ぶと、動物のシルエットが描かれたカードが手渡されます。
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なるほど! ぴったりと絵が合う席を探して着席。「お好きな席へどうぞ」と言われても、あれこれ考えてしまって座りづらいですもんね。
席に着くと、サービススタッフが今日のディナーの流れを説明してくれます。
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卓上には、面白そうなものがいろいろ置いてありますよ。
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一般的なレストランではあまり見かけない数字の札や早押しボタンも気になりますが、注目アイテムはこちらの「絵カード」。
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「お水のおかわりをください」「外に行きたいです」など、自分の状態や希望を伝えるシートが用意されています。声をかけづらくても、シートを渡せば意思が伝わります。
一通り説明を聞いたら、ジャジャーン! クイズです!
あなたが飲みたいのはどっち?
①ソフトドリンク
②アルコール
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う〜ん、今日は②で! ツールを使うのも楽しい〜!
続いて、ドリンクの種類を選び、飲み物に氷を入れるか入れないかも選びます。確かに私の周りにも氷が入った飲み物を避ける人がいるし、逆に私はビールでもワインでも氷を入れたい派。
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なるほど、こうやって普段から「苦手」と強く意識していないことでも、段階を踏んで聞いてくれたら伝えやすい! ということは、もっとたくさんのハードルやバリアーを感じる人にとっては、なおのことのはず。クイズレストランの流れがなんとなくわかってきました。
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さて、お客さんが増えてにぎわってきたので、いろんなテーブルを見てまわりたいと思います!
クイズで盛り上がりながら、大人も子どももワイワイ・ゆったり
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元気な「おつかれわっしょ〜い」という声がテーブルから聞こえてきました。乾杯の言葉もクイズで決まります。
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こちらは意見を出し合う親子とお友達。3人とも違う答えを選んだようですが、最終的に「大人みたいに『おつかれぃ〜』って言いたい!」というお子さんのチョイスでした。
前菜の前には間違い探し。お題は「左の絵とちがうところは?」。
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こうした間違い探しを含め、今回のクイズレストランで出題される問題は実際のエピソードをきっかけに生まれたものばかり。例えば間違い探しなら、ミスや違いの発見が得意な人が多いという特徴がある、自閉スペクトラム症の方の話から生まれています。また、このようなエピソードや、外食の際に困る人はどのような状況で困るのか、それをどう解決しているのかが会場内にパネルで紹介されていました。
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間違い探しの景品は、美味しい前菜! 3種類から選ぶことができます。さらに同じ食材でも、味付けの濃さや食感の違いによって食べられない人もいるので、メニューの選択肢も考えられて用意されていました。
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用意してあるカトラリーもさまざまです。
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銀色のナイフとフォークもあれば、先の尖っていないものも。さらに、クリップやプラスチック粘土で市販のカトラリーに工夫したものもあります。
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柄の部分を握りやすくするためや、口の中にカトラリーを入れすぎないストッパー代わりなど、普段からカトラリーに器具を加えて使っている人や、作業療法士さんにお話を聞いて準備したそうです。
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前菜のあとはピザorパスタの提供。好きなほうを選ぶと、クイズが出題されます。これですでに9問目。
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パスタを選んだ人に出題されたのは、
カルボナーラに使う食材は、チーズ、牛乳、〇〇〇
〇〇〇に入る文字は?
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この◯に入る文字を答えてもらうのですが、答える方法は早押し……!? ではなく、同じグループ内で手分けして、答えを一文字ずつコースターに書いてもらいます!
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簡単な問題かと思いきや、クイズは焦ると答えが出ないもの。お母さんは「ちょっと待って、大人でもわからへん!」と声をあげ、周りの人がすかさず「ほら、LとMのパックがあるやつ! 最近高いやつ!」と助け舟。
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ピザを選んだ人には、さらに切り方が出題されます。
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時計をイメージした「◯時の位置」という表現は、視覚障がいのある人や、右と左をすぐに判断しづらい左右盲の人にとって方向や配置などがわかりやすいそう。
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今回の解答はシートに直接ペンで記入するのですが、こまか〜く12等分に分けているテーブルもあれば、なかなか難解なオーダーも!
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ちょっと心配でしたが、スタッフが華麗にカット。
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こちらのピザをオーダーしたのは、Lean on Meが運営する作業所に通う人たちとそのご家族のグループ。
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お話を聞くと、普段の外食ではほかのお客さんの迷惑になるんじゃないかと人目を気にして壁向きの席を選ぶこともあるんだとか。この日は普段よりも長めにお店に滞在して、ゆっくり食事を楽しむことができたそうです。
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ゆったり滞在できる工夫はお店の2階にもありました。この日は特別に「センサリールーム」を設置。
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センサリールームとは、強い光や音などの過度な五感への刺激を遮断することで、落ち着いて感覚刺激を受け取りやすくする空間です。まだ一般的な認知度は低めですが、サッカースタジアムや空港などに取り入れられているカームダウンスペースもその1つです。感覚過敏のある人だけでなく、誰もが落ち着けてリラックスしたり、気持ちを切り替えたりできる空間として、2025年の大阪・関西万博でも設置されるそう。
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強い刺激から守ってくれる心地よい空間は、感覚過敏の人が受けたストレスを軽減させたり、興奮した状態を落ち着かせてくれたりします。
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この日はセンサリールームも多く利用され、子どもたちが2階でのんびりしている間に1階でゆっくり食事ができたという親子連れの声も。センサリールームは、感覚過敏の症状がある人や幼い子本人はもちろん、付き添う人の気持ちを軽くする効果もあります。
苦手なことやできないことは人それぞれ ちょっとした工夫で選択肢が増える
そろそろメイン料理が選ばれはじめたテーブルもあるようなので、レストランのほうに戻ります。メイン料理に関するクイズは「選べない人が最も多い料理はどれ?」というもの。
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問題を書いたボードには、3種類のメイン料理と写真、それぞれ入っている食材が記載されていてスタッフが読み上げます。このクイズによって、ヴィーガンやイスラム教徒、ヒンドゥー教徒、卵・牛乳・小麦といった三大アレルギーがある人が選べない食べ物を学べるという仕組み。「クラスの子がアレルギーで、給食のときに聞いた!」「でもこれが食べられないっていう友達もいたよ!」とワイワイ話し合う子どもたちのテーブルもありました。
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クイズに答えたら、景品のメイン料理を選べます。解答の選択肢になっていた、鶏肉のロースト、牛肉のグリル、鰆のパン粉焼きから1つ選ぶのですが、どれも美味しそう〜!
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写真付きのパネルを見せるやいなや、指をさして選んだお客さんがいました。同席のお母さんいわく、普段はバイキングなど、自分の目で実物を見て食材と量がわかる料理を好むという息子さん。メニューの写真がないところでは、お母さんがネットで検索して写真を見せながら説明するそう。「今までは考えたことがなかったけど、こういうレストランなら息子1人でも行けるかも」と驚きながら答えてくれました。
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また別のテーブルでは、ピザを選ぶときに「『マルゲリータ』『マリナーラ』『ビスマルク』って言葉だけ聞いても、大人もわかんないよね」という声も。確かに! 写真1つ、説明1つでも日常的に「あったら嬉しいな」という配慮ってありますよね。
いよいよ終盤、12問目はデザート問題!
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もちろん当たっても外れても、ちゃんと美味しいデザートで締めくくれますよ。
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今回のイベントはチケットの事前購入制なのでレジでのお会計はありませんが、帰る前にこちらの「領収証」が手渡されます。
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最初のページにはメッセージが書かれていて、開いてみると、今回のクイズレストランのクイズ制作の背景が紹介されています。
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ラストのクイズでお見送り。お店を出るときにスタッフからかけられる言葉を選んでもらいます。
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あなたがお店を出るときにかけられる言葉は?
①ありがとうございました。
②いってらっしゃーい。
③またね!
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「じゃあ全部!」と元気よく答えた少年たち。
「ありがとうございました。いってらっしゃい。またね!」
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お客さんたちの笑顔から、楽しいディナーだったことが伝わってきます。
クイズだから気軽に楽しめて、じっくり考えて理解できる
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今回のために集まったスタッフは、役者やホテルで働く人など人を楽しませるプロもいれば、福祉関係ではない業種の人や学生などさまざま。「自分の職場でも生かしたい」ということで協力してくれた人も。オープンの直前までミーティングを重ねて、現場を盛り上げていました。
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その結果、子どもから大人まであらゆる人が楽しめるイベントに。お客さんたちからあたたかい言葉も寄せられました。
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会場になった「SUNDAY’S BAKE 569」の店長・貞方直也(さだかた・なおや)さんは「初めての試みでどうなるか予想できなかったですが、お客さんに喜んでもらえてよかったです」とニッコリ。もともと幅広い層のお客さんが来るので、バリアフリーの配慮はしていたそうですが、今後も積極的に合理的配慮を取り入れていけたら、と話してくれました。
そして、demo!expoのメンバーであり今回の企画に携わった、作家のしまだあやさん。
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「福祉のことを、勉強や研修で学ぶのもいいけれど、クイズで学ぶのも楽しいかなって思ったんです。また、『クイズ』といわれたら気構えず好き勝手に答えられるし、普段は選ばない答えにも挑戦できます。クイズにすることによって、接客するスタッフ側もお客さんに対して気をつかいすぎないし、お客さんからの反応もいい。想像していたよりもずっといい効果がありました」としまださん。
実際に参加したお客さんから「クイズ形式のおかげで『時間をかけて自由に考えていい』という気持ちになれる。1つずつ要望を聞いてくれるから、言いそびれることもないし気楽でよかった!」という感想があがりました。
また、用意してあった絵カードやカトラリーは、普段から必要不可欠なものとして使っている人たちがいます。それらが特殊な配慮ではなく、みんなが遊ぶツールの1つになじんでいたことにも当事者の喜びがあったそう。ツールの背景を知らない人でも、クイズやアイテムで遊びながら、知識を深めることができました。
しまださんからはこんな言葉も。「今回のクイズ制作の背景には、さまざまな人との食事の経験があります。大きな音が苦手な人や、同じ料理でも提供温度や環境で食べられるかが変わる人など、特性はいろいろ。いつも一緒に仕事をしている人でも、聞いてみると『実はこれが苦手』ということも。構えすぎずに『あなたのことが知りたいから聞く』という気持ちで近づいてみてほしいです。自分と違うことは怖いかもしれないけど、あと一歩踏み込むことで、新しい視点が取り入れられるし、自分の捉え方や考え方の軸が増えるはず。共感も大切だけど、実は違うこと、他者に共感されないことにこそ豊かさがあると信じています」
求められる配慮、家族や周りの人の気持ちも楽に
「クイズレストラン」の共催者である株式会社Lean on Meの代表である志村駿介(しむら・しゅんすけ)さん。福祉事業所や一般企業に向けて、知的障がいや発達障がい、精神障がいがある人と接する上で必要な知識を学ぶ研修サービスを提供。3年前ほど前から公益社団法人2025年日本国際博覧会協会にアプローチし、大阪・関西万博の来場者ガイドラインの作成や、スタッフ研修のアドバイザーとして関わっています。大阪府高槻市では初めての万博関連のイベントを開催したいと考えていたときにdemo!expoと出合い、「クイズレストラン」の企画が生まれました。
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「クイズレストラン」開催の経緯を教えてください。
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志村
2024年4月から障がいのある方への「合理的配慮の提供」が義務化されます。それに伴って大手飲食チェーン店や銀行、鉄道を始めとするインフラ系の企業などが対応を意識し始めました。
でも、まだ万全ではないのは知的障がい・発達障がい・精神障がいのある方への対応です。例えば、話し言葉だけでは理解しにくい方に対して資料を見せてマーカーを引きながら説明するなど、伝え方を増やすことが大切です。
今回のイベントで、障がいに限らずまずは見た目ではわからない「困りごと」を知ってもらう機会を作れたら、という思いがありました。
「食」にスポットを当てた理由を教えてください。
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志村
イギリスには「自閉スペクトラム症フレンドリーレストラン」があり、料理を作る工程や食べる空間への配慮がされていました。そういった取り組みのおかげで、「自閉スペクトラム症の方の特性はこういうもの」と周りの人も知っていますし、お店などで接客する方も必ず障がいのある本人に話しかけます。同伴者に対応を求めがちな日本とは対照的ですよね。自立した相手としての向き合い方に配慮があることで、家族や一緒に過ごす人のハードルも下がるんです。すると精神的なゆとりが生まれて外出がしやすくなって、お店側にも経済的なメリットが生まれるはずです。
また言葉でのコミュニケーションに頼りすぎない接客は、障がいのある方だけでなく高齢者や外国人、さまざまな特性がある方にとってもよい効果が期待できます。
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大阪・関西万博に向けての思いを聞かせてください。
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志村
大阪・関西万博では、センサリールームを数カ所に設置することが決まっています。1970年の大阪万博で点字ブロックの認知が広まったといわれているように、2025年の大阪・関西万博をきっかけに、今度は知的・発達・精神障がいの方への配慮を知ってもらえたらと思います。興味や関心を持って一歩踏み込んでもらえるように、取り組みを進めていきたいです。
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多くの人たちを笑顔にした「クイズレストラン」。しっかりと知識をつけて問題に向き合うことも大切ですが、まずは一歩踏み出すことで新しい気づきがあるはずです。そうやって自然に周りの「困りごと」に気づいて動けるようになれたらいいですよね。
2024年の法改正、そして万博開催の2025年に向けて身近に求められる配慮や知識を得るきっかけになるイベントでした。
2023年11月取材
取材・執筆:狸山みほたん
撮影:後田琢磨
編集:かとうちあき(人間編集部)