民間ボトムアップの力で「勝手に」大阪・関西万博を盛り上げたい「demo!expo」とは
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2025年に開催を予定している大阪・関西万博。各国の叡智やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで、1000日を切りました。
しかし、「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人事」に捉えてしまう人が多いのでは?
その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している企業・人々がいます。
本連載では、大阪・関西万博に向けて「勝手に」生み出されたムーブメントに着目し、その仕掛け人たちの胸の内を取材していきます。
個人や団体にかかわらず、どんな人も万博の主人公になることを目指す「demo!expo(デモエキスポ)」。2021年に、株式会社人間をはじめとする民間企業5社から熱意ある人々が立ち上げた有志団体です。
関西各地で交流イベント「EXPO酒場」の開催や、「1000日後の万博開催が楽しみになるビール」や「大阪おみやげ企画」の開発など、多くのビジネスパーソンやクリエイターで協力し合い、万博を「勝手に」盛り上げようと取り組んでいます。
どうして万博を盛り上げたいのか。裏側にどんな想いがあるのか。「demo!expo」の参加メンバーである株式会社人間の花岡さん、株式会社三菱総合研究所の今村治世さん、株式会社オカムラの岡本栄理さん、そして「あたらしい大阪おみやげ企画」で和菓子の開発に取り組んでいる株式会社髙山堂の竹本洋平さんにお話を伺いました。
大阪・関西万博を通して有志で集まった「demo!expo」
皆さんは、企業に所属しながら、大阪・関西万博を盛り上げるべく「demo!expo」にも参画されていますよね。どのような経緯でメンバーになったのでしょうか?
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WORK MILL
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花岡
株式会社人間では、万博の開催地が決定する前からさまざまな活動をしてきました。その流れでたくさんの仲間を巻き込むうちに、違うフィールドにいる人たちが集まってくれたんです。
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今村
僕は、万博を主催する公共側である博覧会協会の仕事をしてきた立場でもあるんです。当時は、万博を通してさまざまな企業と手を取り合う公式の参加型プログラム「TEAM EXPO 2025」を設計してきました。
その活動の中で、株式会社人間の花岡さんと知り合い、「demo!expo」が主催する「EXPO TEAM CAMP 2022」に参加したんです。
イベントのクオリティが非常に高く、メッセージも伴っていて、「民間が自ら立ち上がって万博を盛り上げるって、めっちゃおもしろいやん」とそれまでにない可能性を感じたのを覚えています。
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今村
万博って、すごく大きなイベントである一方で、「万博に興味がある」という人や企業のための拠り所が少ないんです。スポンサーになれない中小規模の会社や個人だと、公に関われる機会は多くありません。
それに当然、公式のイベントは失敗が許されないため、どうしても保守的になってしまいやすい傾向があります。すると、いわゆる「やんちゃ」なことを仕掛けるのをためらってしまい、無難な活動に収まってしまいがちになる。これは仕方がないことだと思います。
そんな中で、外野から「この指止まれ」と言ってくれている人が、花岡さんだったわけです。
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岡本
私の場合、オカムラが「TEAM EXPO 2025」の共創パートナーとなり、2025年日本国際博覧会協会主催のトークセッションイベント「EXPO PLL Talks」を担わせていただいていて。そこで、万博関連のイベントを積極的に発信しているメンバーとして花岡さんに目をつけられて(笑)、声をかけてもらいました。
今村さんと同じように「万博って規模は大きいものの、実際に関われる人は限られているのでは」と思っていたんです。だから、花岡さんのように、勝手にでも盛り上げようとしている人たちと手を取り合えたら、絶対に楽しいだろうなと思って。
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まったく違う分野にいながらも、「万博」を共通点に集まったわけですね。それぞれの業界のプロフェッショナルが揃っているのも魅力的だと感じましたが、いかがでしょうか。
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WORK MILL
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花岡
そうですね。それぞれの持ち場のスキルによって、自然と役割分担されています。三菱総合研究所の今村さんは、情報をまとめて分析するシンクタンカー。オカムラの岡本さんは、人を巻き込む「共創」の役割。
この場にいるメンバーのほかに、クリエイティブに強い株式会社ワントゥーテンの⻑井健⼀さんや株式会社parksの久岡崇裕さんも参画していて。私を含めて、コンテンツや空間を作るクリエイターの役割を担っていますね。
現場からボトムアップで「万博」を盛り上げていく
「demo!expo」のプロジェクトに関わっている方は、20代後半から40代が中心なんですね。
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WORK MILL
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今村
大きな組織の経営をイメージしていただければわかると思いますが、国内ではその多くで年功序列の仕組みが引き継がれているがゆえに、指示系統が自然とトップダウン型になってしまうことが往々にしてあります。万博も然りです。
一方で「demo!expo」は、年代や肩書は関係なくフラットな関係性で取り組んでいるため、ボトムアップ型で進めることを意識しています。
また、有志団体なので必然的に「やらされ仕事」ではない人しか参画しておらず、自然とモチベーションも高く、意思決定も速い組織になっていると思います。
目先の利益だけ重視していないからこそ、他の現場にはない熱い温度感が生まれているわけですね。
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WORK MILL
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花岡
ただ、ビジネス的な文脈ではないとはいえ、それぞれきちんと思惑はあります。
例えば、「demo!expo」のプロジェクトの一環で「EXPO酒場(※)」というイベントがあるのですが、兵庫県と奈良県の酒場の店長は、市役所の職員さんなんです。地域における万博への熱を高めたいという思いのもと、活動を行なっているわけです。
ほかにも、和歌山の店長は林業に関する事業をやっている会社の代表で、淡路島の店長は現地の事業者と若者をつなぐ仕組みづくりを行なっています。それぞれが「万博」という枠組みを通して個々のビジョンを達成したいと思っている。
※「EXPO酒場」…「万博を勝手に楽しみたい」という人のための1日限定酒場イベント。万博に興味がある人が集まり、語り合う場所になっている。7月18日に関西6箇所でオープンし、今後も開催を予定している。
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花岡
「demo!expo」の役割は、いろんな人が自走できるような仕組みを作ること。これがなければ、万博が「公共側から依頼されたわずかな企業しか携われない、トップダウン型のイベント」になってしまうという危機感があります。
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岡本
本当にその通りで、「demo!expo」のような場所がなければ、万博は大多数の人にとっては他人事のまま、「高尚なイベント」で終わってしまいそうな気がしていて。
だからこそ、まずは私たちが楽しみながら「万博」の看板を掲げてどんどん人を巻き込んでいく。そのためには、ハードルの低さが大事なんだと思います。
そんな思いで生まれたのが、「頼まれていないけど、でも、やろう。」というインパクトのあるキャッチコピーです。これを生み出した株式会社人間の演出力はすごいなと改めて思いました。
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今村
こんな一見「くだらない」と思えるような演出も、民間企業ならでは。表現を変えるだけで、「自分も参加したい」と思う人がぐっと増えるはずです。
1000日後、大阪に新しいお土産を作る
竹本さんは、「あたらしい大阪おみやげ企画」も展開されているそうですね。
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WORK MILL
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竹本
はい。僕が経営する髙山堂のみならず、和菓子業界の有志で、お土産となる和菓子の監修・開発に携わっています。
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竹本
髙山堂は大阪の地で生まれ、1970年の大阪万博にも出店しました。それで、大阪と万博に対して、和菓子で恩返ししたいという気持ちで企画に参加しています。
それだけでなく、万博を起爆剤に、和菓子業界を盛り上げたいとも思っていて。「和菓子離れ」と言われて久しく、業界の萎縮に危機感を持っている同業者も多くいます。万博をきっかけに、さらに和菓子が文化として根付いてほしい。そんな気持ちで挑戦しています。
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現在、具体的な「お土産」は開発中とのこと。どんなものが生まれそうでしょうか?
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WORK MILL
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竹本
あまり固定概念を持たず、アフター2025も50年、100年と文化として残るお菓子を考えています。
また、前回の大阪万博が開催された1970年に流行していた大阪名物の「粟おこし」を現代的に解釈したものや、「なんでやねん」というツッコミどころ満載のモナカなど、株式会社人間さんのアイデアをもらっています。
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「demo!expo」ならではのコラボレーション開発ですね。伝統的なものという印象が強い和菓子業界ですが、こうした「共創」は斬新なイメージを受けます。
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WORK MILL
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竹本
髙山堂はこれまで多くの異業種の企業とコラボレーションしてきたので、自分としてはごく自然なことでした。今後は、同じマインドを持っている同業者ともさらに手を取り合いたいですね。
オープンマインドとリスペクトで、フラットな関係性を維持する
皆さんのように会社や業界の垣根を越えて、何かに取り組む姿は、多くのビジネスワーカーにとってもある種のロールモデルになるのではないかと思います。
このような「共創」を行う上で、どんな姿勢を大切にするべきでしょうか?
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WORK MILL
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花岡
まずは楽しむこと。そのためにオープンマインドを兼ね備えているといいですよね。
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岡本
確かに、ただの会議でも「楽しむ」ことが大切な気がします。
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今村
専門性を持ち寄ったボランティアという意味で「プロボノ」という言葉があります。「demo!expo」に集まっているメンバーは、それぞれが業界の「プロ」なんですよね。
だからこそ、お互いをリスペクトすることも大事ですよね。
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花岡
相手を尊重する気持ちを共通意識として持っていたいですね。
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今村
あと、これは企業の枠を超えて活動しているから言えることですが、他企業・業界の方と触れ合うことで、「一個人」としての自分を自覚できるようになりました。
一つの組織だけにいると、どうしても上下関係や肩書きが先行しがちです。しかし、他のプロフェッショナルの方と専門性を発揮し合うと、自然と自分を個として見つめられるようになるんですよね。
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岡本
多くの人の場合、普段の仕事中で、「自分」の中のほんの一部しかさらけ出さないですよね。ビジネスの場であれば、なおのこと。
でも、「demo!expo」ではメンバー同士で語り合う瞬間が多く、熱い気持ちがどんどんみなぎってくるんです。気づけば、自分自身のすべてを投じて関わっている感覚です。
2025年まで、予測不可能なまま走り続ける
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今村
僕は公共側の立場から万博に携わっていたとき、「本当にここから熱狂は生まれるのかな」と、大きなうねりを起こした1970年万博を思いながら、モヤモヤしていたことがありました。
でも、今こうして「demo!expo」の一員として活動することで、2025年には良い意味で「狂った踊り」が見られるんじゃないかと期待しています。
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花岡
そうですね。「demo!expo」は公の立場として会場に入れるわけではありませんが、会場外を盛り上げることはできる。
1970年の万博が今でも語り継がれているように、自分たちの取り組みも何らかの形で後世に残していきたいですね。
今後は「EXPO酒場」を中心に、関西だけでなく全国各地でプロジェクトを展開していく予定があります。さらにこの輪を広げていきたいです。
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岡本
「EXPO酒場」に限らず、これからもどんどんプロジェクトが生まれていくと思います。活動を始めた頃には考えられなかった「共創」がたくさん生まれていて、そんな予定調和ではない展開も楽しい。
「万博」という一つのお祭りに向かって、たくさんの人が一緒に心を沸騰させられる瞬間を生み出していきたいです。
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2022年9月取材
取材・執筆:桒田萌(ノオト)
撮影:古木絢也
編集:鬼頭佳代(ノオト)