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DAOから変わる働き方と組織のあり方とは? 「集まる力」を研究する会レポートvol.1(ゲスト・西村真里子さん)

Web3.0やDAO、NFTというキーワードが登場し、働き方や組織のあり方にも影響を与えようとしています。そこで、WORK MILLの山田雄介編集長と&Co.代表の横石崇さんは研究会を発足。シェア型書店「渋谷◯◯書店」に集まった有志メンバーと共に、今後の働き方と組織のあり方の可能性を探っていくことになりました。

2022年8月25日に開催された第1回のゲストは、テクノロジー・ビジネス・アートを縦横無尽に駆け回るプロデューサー・西村真里子さん。「DAO」をテーマに、リアルなお話を伺っていきます。

そもそも、DAOって何なんだ?

横石

まず今回のテーマの「DAO」という言葉、聞いたことあるって人はちょっと手を挙げてもらっていいですか?

ほとんどの方、手が挙がっていますね。でも「何の略ですか?」って言われると、「うーん……」ってなりますよね(笑)。

山田

横石

そうですよね(笑)。それでは早速、記念すべき第1回目のゲスト、HEART CATCH代表取締役・西村真里子さんにいろいろと聞いてみましょう。

西村

ありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします!

西村 真里子。HEART CATCH 代表取締役。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。

「WORK MILL with Forbes JAPAN7号」では、江戸時代の働き方を調べ、令和の社会に生かしていけないかを考えました。その中で、「連」というコミュニティに注目したことから、この研究会はスタートしたんです。

「連」は稼ぐためのビジネスコミュニティではなくて、やってみたいという価値観で人々が集まる場所。江戸時代には、身分や職業に関係なく、同じ価値観で集まった人たちがいろんな文化やパートナーシップを生み出していたんです。

この「連」は、現在のDAOと通じるものがあるのではないかと考えていて。

山田

中央が<江戸✕令和の持続可能な働き方>を特集した「WORK MILL with Forbes JAPAN7号」。2022年10月初旬まで、渋谷シェア型書店「渋谷◯◯書店」にて創刊号からの6号までのバックナンバーを、無料配布中です。

横石

改めて、DAOとはそもそも何なのでしょうか?

西村

DAOは「分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)」の略ですね。

まだきちんと定義されている言葉ではないのですが、自立しながらも、分散して離れたりしながら、同じ価値があるときに近づいて、同じ目標を達成する組織というイメージです。

この長い単語をスムーズに言える人、初めて見ました(笑)。

山田

山田 雄介。株式会社オカムラ WORK MILL統括リーダー/編集長。住宅メーカーを経て、働く環境への関心からオカムラに入社。オフィス環境や組織文化の研究からコンセプト立案などオフィスづくりに携わる。

西村

なかなか使わないですよね(笑)。

DAOの考え方は、ある意味、今日のイベントにいる私たちみたいな生き方と言えるかもしれません。

例えば、横石さんと私が何かを一緒にやりたいと思ったとき、集まった仲間同士がブロックチェーンをベースにした「スマートコントラクト」という契約書を気軽に結んで、お互いに目的を達成していく……。

そして、お金とはまた別の価値を証明するポイントのような「トークン」を、一緒に積み上げて新しいプロジェクトを起こす……。

横石

今、このDAOを通じて、Web3.0時代における組織のあり方や生き方、社会を変えていく可能性があると言われているんですよね。

今日、DAOを取り上げたのは、まさに僕らがやっている働き方や組織の話と直結するだろうと思ったからです。資本主義の現代でDAOが重要な要素の一つになってくるだろうなと。

横石 崇。&Co.代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー。ブランド開発や組織開発、社会変革を手がけるプロジェクトプロデューサー。アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」、集合本屋「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。

 

ちなみに、西村さんはどんなDAOに参加しているのですか?

山田

西村

今は3つのDAOに参加しています。NFT(※)ベース 3D アバターのMeebitsをメタバース上で活動しやすくする「MeebitsDAO」とNounsDAOエコシステムの運営と成長を支援する「SharkDAO」、そして「PizzaDAO」。

※NFT……非代替性トークン(Non-Fungible Token)の略語。偽造や改ざんができないブロックチェーン技術を取り入れることで、デジタルデータに固有の資産的価値を生み出すことが期待されている。

スマホ画面に表示された画像が「MeebitsDAO」に参加するためのNFTアートだそう。

西村

「MeebitsDAO」は、参加するためにメンバーシップトークン(General Membership Token)を購入しなければいけないDAOです。これからどういう形でMeebitsをメタバースやARに活かしていけるのか、自分たちの持っているNFTをどうやって発展させていくのかを考えています。

反対に、「ピザDAO」はロサンゼルスのカンファレンスで仲良くなった人に「参加して」と言われて入りました。活動も一緒にピザを食べる……という非常にゆるいDAOです。

一括りにDAOと名乗っていても、グラデーションがあるんですよね。

DAOは意思決定の仕方が特殊ですよね。従来のようにトップがいて、メンバーが従う組織とは、ちょっと違う。「MeebitsDAO」では、どうやって物事を決めているんですか?

山田

西村

コミュニケーションはDiscord(※)上でとっていて、みんなフラットに意見を言い合える関係性です。

DAOはフラットで自分たちの価値観で自主的に動くのを理想としながら、活動を頑張っている人にみんなが投票する形で、議題の可否を決めていくという考え方を持っています。

とはいえ、「MeebitsDAO」は、LarvalabsからYuga LabsにCryptoPunksと同時にMeebitsのIPが移行されたこともあり、設立から1年以上経った現在でも分散型自律組織にはなりきれていないのが現状です。

※Discord……アメリカで開発されたコミュニケーションツール。音声とテキストの両方で、やりとりができる。

新しい組織のあり方だが、現代の価値基準が目立つところも

横石

リーダーを投票による多数決で決めるカルチャーを持つDAOが多いんですか?

西村

そうですね。でも結局、リーダーとしてふさわしいかよりも、その人の活動量、発言の大きさだけで見てしまうんですよ。DAOは今後の新しい組織のあり方だと思いつつも、過渡期はやっぱり誰かリーダーがいないといけないのかな……。

また、個人的には、多数決で決めることが本当に正しい結論に辿り着くのか?とも疑問に思います。DAOの理想には、まだ追いつけていない印象ですね。

まだ誰もDAOの組織作りが分からないから、みんなが知っている民主主義をDAOの中に持ち込んで、葛藤しながらチャレンジしているのかもしれませんね。

山田

横石

ちなみにDAOに参加する条件は、お品書きのように決まっているんですか?

西村

「Meebits DAO」は非常にシンプルで、「メンバーシップトークン」と呼ばれるNFTを購入したら参加できます。

メンバーシップトークンで面白い動きがあるんですよ。現在、「VeeFriends」というNFTコレクションがアメリカで高く売れています。創始者はアメリカでは有名なテレビ司会者で、そのメンバーシップトークンを買うと、彼が主催するイベントに参加できる。そこに豪華なゲストが来るので、購入者のステータスになるんです。

でも、私は別にこういう話を自慢したいわけではなく、むしろ嫌気が差していまして……。今のDAOの界隈は、現世の資本主義的なギラギラした考えがどうしても目立ってしまうのです。

横石

おそらく、ここにいる人たちも資本主義的な世界とDAOにも結びつきがあるのは、なんとなく感じていると思います。なぜ、そうなってしまうんですかね?

西村

今の私たちが生きている価値基準で見ないと、問題が可視化されないからではないでしょうか。

これから、どうしたら理想に近づけるのか。嫌だなと思うものを洗い出して議論して、行動を起こすタイミングになってきているのかなと思います。

横石

DAOを語るのであれば、まずはDAOに入っておかないと。Web3.0の特徴は参加だからこそ、みんなで前に進みたいですね。

西村

そういえば、ニューヨークで市長選に出馬しようとしているアンドリュー・ヤーンさんが、アジア人差別をなくすために「GoldenDAO」を設立したんです。目指すのは、アジア人コミュニティを結束させ、アジアンヘイトに対抗するための活動をまとめ上げるコミュニティ。

最初、「GoldenDAO」のトークンに貨幣価値はほぼなかったのですが、人気が出て、どんどん価値が高まっていきました。しかし、それでは本当に入りたい志があり、トークンが買える人しか入れなくなっていきます。

だから、どうやって価値を設定するのか、DAOの使い方をよく考えることが重要になってくるのかなと思います。

価値観に共感する人たちが集まり、よりフラットな社会に

横石

「DAOを作りたいです」と言ったら、僕でもすぐにできるものですか?

西村

「これをやります」と宣言を出すこと、そしてトークンを使う場合はそのトークンがどういった形で参加した人に戻ってくるのかなどのゲームルールを決めれば、DAOは作れますよ。

横石

トークンは、DAOの価値観に共感した人に配布できると思うんですけれど、そのトークンはDAOの中でしか流通させない、といったようにルールを決められるのですか?

西村

はい、大丈夫です。でも、別に貨幣に交換したいわけではないなら、ポイント制のイメージでやってもいいんじゃないでしょうか? 例えば、「真里子さんは、今日イベントで話してくれたから10ポイント!」みたいな。

WORK MILLのDAOだったら、山田編集長にちなんで「YAMADAO(ヤマダオ)」ですかね(笑)。

YAMADAO! いいですね(笑)。

山田

西村

例えば、YAMADAOの価値を高めたいから「今度、WORK MILLの雑誌を5冊友達に配ってくるよ!」とか……。

こんなふうに最初のゲームルールとしては、ポイント制でトークンを捉えても全く問題ないと思います。

横石

それこそがDAOでトークンを配布する意味ということですね。

この先、DAOの発展としてはどういう展開を予想していますか?

西村

16歳でお小遣いをつかって投資デビューした「ミス・ティーン・クリプト」というインフルエンサーの女の子がいるんですが、2021年に開かれたNFTのカンファレンスでこんなことを言っていたんです。

「NFTで絵を作るのに最初は両親に手伝ってもらったけれど、そのあと流通させていけば、銀行口座いらないじゃん!」と。

つまりDAOが理想形になると、NFTアートやトークンを作り、その特典の中で生活できる人がでてくるかもしれない。

そうすると、わざわざ銀行口座を作る必要がなくなり、会社や仕事の枠組みもどんどんフラットになっていく。それが回っていけば、価値観やビジョン、目指すゴールに共感して人が集めやすくなるのではないでしょうか。

今の世の中は、「株式会社がいいよね」「大卒が必要だ」とかが共通認識になっている社会です。DAOが浸透すると、こういった考え方がどんどん溶けてなくなり、共感で人が集まり、トークンが回ることで生きていけるのではないかな、と。

小さいDAOの経済圏がたくさんできると、どのDAOに所属しているのかが問われていきそうですね。

新しいDAOもどんどん生まれると思うので、自動的に自立分散が浸透していきそうな気がしました。

山田

DAOは人との繋がりをより強くする

最後に、会場にいる参加者からも質問を取り上げ、一緒に考えていきました。

DAOによって働き方はどう変わっていくと考えていらっしゃいますか?

質問者

西村

DAOがなくても、もうすでに私たちは働き方、暮らし方、自分のアイデンティティを考え始めていると思っています。

会社に属さなくてもDAOを活用して、「私はこういうスキルがあって、こんな想いを持っているから、そのために頑張る」と、働き方=暮らし方が当たり前になっていく中で、1つの選択肢がDAOなのかなと。もしかしたら私たちよりも後の世代に起こることなのかもしれませんが。

横石

DAOにたくさん所属できるのは、自分のライフスタイルやワークスタイルを選べることにもつながるんですね。

1社だけに勤めていなくても、自分の好きなもの、やりたいことを最適化するために働けるといいなと。

西村

そういえば今度、Code for Japanが主催するシビックテックのカンファレンスに出るのですが、「カンファレンスの登壇料は現金ではなく、NFTになりますがいかがでしょうか」と言われて、「そうきたか!」と。このNFTが今後価値を持つかは分かりませんが、Code for Japanに関わった勲章的な感じがしますよね。

現金に換金できる価値じゃなくて「参加していたんだ! すごいね!」となったら幸せだなと思います。

DAOのNFTをいかに積んでいくかは、善を積むような感じに近いんですかね。

山田

西村

10年後に、みんなが「へー!」と言うか、「えー!?」と言うか、どうなるかはあなた次第……というところでしょうか。でも、そんな繋がりが楽しいですよね。

横石

イベント冒頭で「連」の話をしましたが、僕は「連」は関係性のデザインだと思っていて。「インフォーマルで関係を繋ぐことで新しいことを生み出そう」みたいなイメージです。

DAOも関係性を「もう1回やり直そうという動きの一つだろう」と捉えているのですが、真里子さんの話を聞いているとワクワクしますね。

西村

私もDAOを新しい働き方、新しい繋がりや仲間のあり方と捉えると、なんだかワクワクしちゃうんですよね。

価値が貯まっていくのが分かるから、効果として絆が生みやすくなるのかな?

横石

確かに! そうかもしれませんね。

小難しく考えてしまいがちですが、こうやってDAOについて話してみると身近な考え方に通ずるとわかりますよね。

会場のシェア型書店「渋谷◯◯書店」は、新たなカルチャーを創るコミュニティを目指しています。江戸時代の創造的コミュニティ「連」に通ずる場所として、「WORK MILL with Forbes JAPAN7号」で取り上げました。

西村

そうそう。実は、本質的にはすでにみんなやっていることだと思います。

DAOはまだ発展途上で、これから作っていくものだと考えると、現在のあり方に固執する必要性はないと思いました。これから変化して、どんどん増えていく。それがまさにDAOの本質なのかな、と。

<江戸✕令和の持続可能な働き方>特集のためにいろいろ調べた時、当たり前かもしれませんが、この「連」と「DAO」のように形態は変われども、コミュニティに対する人の営みは同じだな、と思いました。

そして、テクノロジーが発展するからこそ生まれる新しい働き方や組織のあり方があり、その変化する形態を考え続けていかないといけませんね。今後も、みんなでどんどん探求していけると嬉しいです。

山田

西村

今日、私が話したDAOの定義は、もしかしたら他の人から「違う」って言われるかもしれません。

でも、DAOは人と繋がる上で新しい仕組み。繋がりたい人とか、すでに繋がっている人たちをより結束させるもの、くらいに捉えるのがいいんじゃないかな、と。

なので、あまり小難しいDAOの解説に踊らされなくてもいいと思ったりしますよ。本日はありがとうございました!

2022年8月取材

取材・執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)