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多様性・居場所・安全性ーータイと秋田で感じたコワーキングの未来(TAOHUB/TANEHUB・MOE)

コロナ禍の後押しもあり、身近な存在になってきたコワーキングスペース。しかし、少し前にさかのぼると、日本でのコワーキングスペースの知名度は全く高くありませんでした。リアルな場での新しい人との出会いがしづらくなったコロナ禍。そんな今、あえて「Co-Working」をするのはどうしてなのでしょうか? 今回は、タイのタオ島で「TAOHUB」、秋田県山本郡三種町で「TANEHUB」を運営するMOEさんに聞きました。

はじまりはネット環境を求めて

インドネシア・バリ島の中心にある、長期滞在者が多く住む芸術の町・ウブド。2014年当時は、カフェに入ってもWi-Fiは十分なスピードが出ず、携帯のプリペイドに1日500円も払う毎日だった。

私が、人の出入りはすごいけど看板は小さくて何か全くわからない不思議な建物=「Coworking Space HUBUD(フブド)」に辿り着いたのは、ネット環境を求めてのことだった。

デジタルノマドの聖地であった「HUBUD」に踏み込んだあの日は、私のコワーキング記念日。かといって、HUBUDのコミュニティにすぐに馴染めたわけではない。

私にとってのHUBUDを使うメリットは、スタッフとのつながりだった。毎日の挨拶、ちょっとした地元の情報、何かあればHUBUDスタッフが情報を教えてくれるだろうという安心感。

私の暮らすタイのタオ島にも、こういう場所を作りたい。そう思って、私のCoworking道がスタートした。

デジタルノマドの楽園・TAOHUBのスタート

「人をつなげるデザイン」。若い頃、そんな言葉を自分のウェブサイトに書いた。そうか、私はそんな前からつなげることに興味があったのか……と驚いたが、私は何をするにも「つながる」に注目しているのかもしれない。一人では生まれない「Co(共同)」のパワーだ。

2016年1月、タオ島のコワーキングスペース「TAOHUB」はスタートした。「常夏の島で暮らす生活を」というコンセプトを掲げるデンマークのプログラマー集団・Jungle Codersに立ち上げ時を手伝ってもらい、一時期は彼らだけで20人近くのチームになっていた。

残念なことに、就労ビザ取得費用によって彼らはタイでの活動をあきらめ、ヨーロッパのキプロス島に移動した。私から学んだコミュニティビルディング(と彼らに言われた)でコワーキングスペースを立ち上げ、大成功させている。ぜひ遊びに行ってあげてほしい。(Hügge coworking space Paphos

夕方には、夕日+ビーチ+ビール。土曜の夜はメンバーの誰かがシェフになり、ディナーパーティ。ハイキングやシュノーケリング、時にはヨガ。

働く時間も職種もバラバラ、生まれ育った場所も文化も違うメンバー達。欧米のお客さまが大半を占めるTAOHUBは、日本人の私を受け入れてくれている。TAOHUBのウリは、私の笑顔とカタコトな英語での歓迎だと言われたこともあるくらいだ。

一人ひとりがありのままで受け入れられている、という雰囲気作り。お互いを思いやる心。こと、楽しいことを自分たちでやってもらうこと。運営が仕掛けて全てを回すのではなく、メンバー達に主導権があるスペース作り。コワーキングスペースのスタッフに求められているのは、周りをサポートをすることだった。

CoworkingSpace = HOME

現在、私は秋田で「TANEHUB」という空き家とその家財道具を活用した「コワーキングスペース+シェアハウス=コリビング」という事業を展開している。

亡き父の故郷である秋田県山本郡三種町は、空き家問題が深刻だった。そんな場所で、デジタルノマドがTAOHUBに滞在するのと同じように2〜3カ月を過ごしていく。

日本人にとっては、秋田のど田舎でそんなことが可能なのかと思われる事業だが、この場所だからこその魅力がたくさんある。

旅行客にはできないローカルコミュニティの体験。すでに価値がなくなってしまった、と思われていることの価値を再提言すること。そんなことに取り組みながら、デジタルノマドが快適に安く日本で過ごせる拠点作りをしている。

TAOHUB・TANEHUBが大切にしているのが、ランチを一緒に食べること。

「同じ窯の飯を食うことの大切さ」「一つのものをシェアするアジアの文化を……」なんて話よりもシンプルに。毎日の食事を考えるのが面倒なメンバーに、お手頃な価格でご飯を出す。そのタイミングで新旧メンバーが話せるし、私はおせっかいな母親役を担う最高のチャンス。HOME感をつくる大きな要素になっている。

コロナになり、様々なことができなくなったけれど、タオ島も秋田も自然に囲まれているからこそ健康的な生活をのんびりと送ることができた。

TAOHUBのメンバーは、こんな時に常夏の島にいられるなんて幸せだ。きれいな夕日のビーチでビールを飲む姿を毎日SNSにアップし続けては、地元の友人から羨望の眼差しを受けていただろうと思う。

コロナ禍が続く中で、徐々に帰国するメンバーも増えたが、TAOHUBで2年以上過ごす人もいる。入国制限が大分ゆるくなった今、誰よりも先にデジタルノマドが動き出し、TAOHUBにも新しい人が入りはじめている。

オンラインでもCoworkingのつながりは感じられる

コロナになってから、私はオンラインの世界である「みんなのバーチャルコワーキングジャパン」に夢中になった。

多くの日本人の方と知り合って、仕事をしている時間を共有することで生まれるゆるいつながり、居心地のよさ、つながりの多様性を再認識できた。

コミュニティビルディングに興味のある方は一度足を伸ばして、ぜひ運営にも関わってみてほしい。

Coworkingの新たな役割

世界中のコワーキングスペースのオーナーやスタッフ達が一堂に介するイベント「CUAsia2020」に参加したとき、「Belong=所属する」という言葉が気になった。

自由な生き方、デジタルノマド、Colivingなどを中心のテーマにしていたCUAsiaで「所属する」を考えることで、コワーキングの世界の変化を感じた。

コロナで世界が大騒ぎしはじめたころ、「TAOHUBには入らないけど、タイの滞在の情報がほしい、人と知り合いたいからイベントに呼んで」と言われたことがある。その時は、「所属する人の安全を守ることが大切なので、今はメンバーではないあなたをTAOHUBに出入りさせることはできない」と伝えた。

働き方・生き方改革で個を大切にする方向に進むが、人はひとりではいられない。情報があふれる世界で、正しい情報をローカルの目線で見極め、安心して仕事に打ち込める環境をつくること。安全性の提供は、これからのコワーキングスペースの任務の一つになる。

自然にあふれ気持ちよく伸びができる場所、おいしいご飯とシンプルな生活の中で、仕事を順調にこなす場所。遠方ですが、一度足を運んでいただけましたら、タイのTAOHUBと秋田のTANEHUBが「HOMEを感じるHUB」とならせていただきます。

編集:ノオト