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コワーキング、グローバルで語るウィズコロナと業界の未来 ー オンラインカンファレンスレポート

コロナ禍により日本はもちろん世界においても大勢の人々がリアルで集まることが難しい状況の中、世界中から参加者が集まったオンラインイベントが開催されました。その名も「Hack Coworking Online」。2020年5月28日から30日まで3日間開催され、世界のコワーキングスペースの運営者、関係者が集結し、計1800名以上が参加しました。カンファレンスで議論された世界中のコワーキングスペースの現在、そして未来など、主催者である世界最大級のコワーキングスペース専門メディアCoworkiesの共同創業者ポーリン・ルーセル氏(Puline Roussel)によるイベントレポートをWORK MILLがお届けします。


2020年1月を覚えていますか? どんな新年の目標を立て、どんな1年間を思い描いていたでしょうか? あれから半年。世界が前例のないパンデミック(世界的大流行)に見舞われ、暮らしや働き方が大きく変化することになることを、誰が予想していたでしょうか。オフィスが少しずつ再開されていくなかで、誰もがこんな疑問を抱いているはずです。「新型コロナウイルス感染症によって、働き方はどう変わるのだろうか」と。

その問いへの答えを探り出す興味深い方法として、ある業界に注目してみましょう。それは、ここ10年にわたってワークプレイスのイノベーションや変化を後押しする原動力となってきた「コワーキング」業界です。

コワーキングスペースは、働く場を提供するビジネスであるため、新型コロナウイルス感染症によってそのビジネスモデルが甚大な影響を被ったことは言うまでもありません。その結果、何もかもを改めて、革新的なアイデアでサービスの幅を広げ、自分たちが提供するスペースの目的について考え方をがらりと変えることを迫られました。

私たちCoworkiesは、コワーキング業界における議論を活性化させようと、5月28日から5月30日の日程でオンラインカンファレンス 「Hack Coworking Online」を開催しました。世界的規模で開かれたこのイベントでは、各地から100のコワーキングコミュニティが会し、業界の未来について共に議論し、イノベーションを目指しました。以下では、イベントで取り上げられた主なポイントを紹介しましょう。

データからわかること

データを見ると、物事を大局的にとらえることができます。コワーキング業界を分析データから読み解くために、コワーキング市場調査企業Coworkintelをイベントに招き、同社がパンデミック中に世界のコワーキングスペース300カ所を対象に実施した調査の結果を発表してもらいました。それによると、ロックダウンが解除されてから市場が元に戻るまでには6カ月ほどかかる可能性があるそうです。元に戻るとは、具体的にどういう状態なのか。それは、コワーキングスペースに利用者が戻ってくる時のことを指します。

コワーキングスペースのインテリアデザインはどう変わるのか

新型コロナウイルス感染症の流行中ならびに終息後のワークスペースにとって、インテリアデザインは非常に気になるテーマです。あらゆる場所で物理的な距離を確保することが求められる新常態(ニューノーマル)を受けて、ワークスペースの設計やレイアウトはどう変化すべきなのかを、コワーキングスペースは模索しています。

「アフターコロナには、オフィスでの一人当たりの空間が広くなる」

タイ・バンコクのオフィスデザインファームPaperspace創業者、ソムバット・ガームチャルムサック (Sombat Ngamchalermsak)

新型コロナウイルスが流行する以前の各社は、オフィスのレイアウトを最大限活用することを念頭に、一人当たり平均で6㎡から10㎡を割り当てていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行で物理的距離を確保しなければならなくなったため(人との距離を約2m保つ必要があります)、企業が今後、従業員一人に割り当てるスペースは20㎡になります。これは以前のおよそ2倍です。

ただし、こうした措置は永遠に続くわけではありません。ソムバット氏率いるチームの調査によると、現在を起点に6カ月から1年以内には、コロナの前と後のレイアウトを組み合わせたワークスペースへとシフトしていくようです。それを予想したのが下の画像です。

世界3地域のコワーキングスペースが実施したパンデミック対応型レイアウトの事例

私たちは、世界各地のコワーキングスペース運営会社3社(ポルトガルのPorto社、米コネチカット州のMiddleburry社、米オレゴン州のBend社)を招き、それぞれの創業者を交えて、新型コロナウイルスの流行によって各社のレイアウトがどう変わったのかを話し合いました。下の画像を見れば、新型コロナウイルスの前後でレイアウトがどう変化したのかは一目瞭然です。ソムバット氏の話にもあった、一人当たりの空間が広くなるということがよく表れています。

「バーチャルワークを中心に物理的スペースをデザインする」

Herman Miller社、バーティ・ヴァン・ワイク(Bertie Van Wyk)

パンデミック中は、在宅勤務するしか方法はありませんでした。オフィスやコワーキングスペースのほとんどが閉鎖を余儀なくされたからです。それによって大きく変化したのが、会議やチームダイナミクスです。私たちはみな、オンラインツールで結びつき、試行錯誤しながらアジリティ(機動性)が向上する働き方を学び、それに順応してきました。それは今後も続きます。

オフィスのインテリアデザインとレイアウトの観点から見ると、影響を受けるのは、会議室や個人用の小型ブースです。従業員やコワーキングスペース利用者は、もはや大きな会議室を必要とせず、むしろ気軽に使える小型のポッド型スペースが重宝されるかもしれません。

コワーキングスペースの再開で得た教訓

パンデミックは、世界各地を異なるタイミングで襲いました。中国で始まり、アジア太平洋地域で勢いを増し、ヨーロッパで猛威を振るったのちに、北米と南米に深刻な影響をもたらしています。私たちはHack Coworking Onlineの場を活かし、再開まもないコワーキングスペースの関係者を招いて、教訓や知見を共有してもらいました。そうすることによって、その話を参考に、ほかのコワーキングスペースがうまく営業を再開していけると考えたのです。

「営業再開後、メンバーの利用頻度が変化したことに気がつきました。以前は毎日利用していただいていましたが、現在は週2、3回です」

ヨーロッパ最大のコワーキングスペースTalent Gardenの共同創業者兼CEO、ダビデ・ダットーリ(Davide Dattoli)

新型コロナウイルスが人類社会に目に見えない痕跡を残し、恐怖を植えつけたことは確かです。イタリアのミラノを拠点にTalent Gardenを運営するダヴィデ・デットーリ氏(Davide Dattoli)によれば、イタリア政府が推奨する安全策や物理的距離を確保する措置を徹底的に講じたにもかかわらず、メンバーはまだ完全に戻ってきていないそうです。その理由としては、公共交通機関の利用が懸念されていることがあります。また、コワーキングスペースにどんな利用者がいるかわからないことや、感染した可能性のある人と接触した利用者がいるのではないかという恐怖心があるのも原因です。

オンラインカンファレンスは2日目に入り、続々とスピーカーが登場しました。シンガポールを拠点にアジア太平洋地域一帯でコワーキングスペースを運営するJustCoのデザインディレクター、シルヴィア・ベイ氏(Sylvia Bay)は、メンバーを呼び戻すために使った秘策を教えてくれました。それは、再開にあたっての「準備プロセスや講じた対策や変更点すべてに関して、メンバーと十二分なコミュニケーションをとること」。恐怖や不安が蔓延する時代には、建設的な変化について十二分にコミュニケーションを図ることが、コワーキングスペース運営企業に対するメンバーの信頼と自信を深めることにつながります。

一方、リモートワークや在宅勤務は、ワークプレイス戦略を見直す規模の大きい企業にも影響を与えるでしょう。これにより、コワーキングスペースとの契約が増える可能性もあります。従業員が在宅で勤務することは、従業員と雇用者双方に変化をもたらすでしょう。新型コロナウイルスが発生した結果、従業員はオフィス以外で働く選択肢があることに気がつきました。雇用者側は、新しい働き方に向けて思考を加速させる必要性に迫られました。このふたつは、コワーキングなどフレキシブルスペースにとって有利に働きますが、重要度が大きいのは、チームとして働く従業員がそれぞれリモートワークをしても問題ないのだと、多くの企業が気づいたことです。

不動産サービス企業JLL(ジョーンズ ラング ラサール)のフレキシブル・ワークスペースの専門家アダム・リス氏(Adam Lis)は、規模の大きい企業が人材とワークプレイスの戦略を見直すことで、従業員は働きたい場所や出勤頻度を以前よりも自由に選べるようになると見ています。そうした状況は、自宅に仕事用のデスクを置く余裕がない従業員が、自宅近くのコワーキングスペースを探すことに直結します。

前述したように、オフィスの目的はこれから変化していくでしょう。賃貸オフィスの需要は、毎日出勤する従業員の数が少なくなれば低下していくかもしれません。規模の大きい企業は、コワーキングを人材戦略に組み込むことで、優秀な人材を集めたり、離職者を減らしたりすることも可能になります。そうしたなかで、働くだけでなくネットワーキングも可能な刺激の多いワークスペースを、企業が利用するようになっていくでしょう。

リスの話は、のちに私たちがシリコンバレーのワークプレイスの専門家ネリー・ハヤット氏(Nellie Hayat)と議論した内容とかなり合致します。ハヤット自身の経験、またサンフランシスコでここ数カ月のあいだに目にした状況をもとにすると、グーグルやツイッター、フェイスブック、アップルなどの大企業はそれぞれ独自にワークプレイス戦略を見直しているようです。ツイッターはすでに、永続的な在宅勤務/リモートワークを認めると発表しました。フェイスブックは、今後5年で従業員の50%以上にリモートワークを許可していく方針です。ハヤット氏は、リージャスなどを展開し、ワークスペースを提供するIWG が公表した最近の調査結果を引用しながら、それら大手企業はワークスペースを30%ほど縮小させ、代わりにフレキシブルスペースを提供する業界を利用することになるだろうと述べました。こうした会社は、オフィス面積を縮小することで、オフィスの目的も再検討・再構築するでしょう。たとえば将来的には、実際に出勤するのは、チームと共同で新たにプロジェクトを立ち上げる場合や特別な機会に限られるかもしれません。それ以外は、会議から生産的な作業に至るまで、リモートでできるようになるでしょう。それが可能であることは、新型コロナウイルスへの対応時に証明されています。

新型コロナウイルスは、コワーキングやワークプレイス業界のチャンスを加速させるか?

新型コロナウイルスが世界経済全体に壊滅的な打撃を与えたことは疑いようがありません。しかし、危機が訪れたときの常ですが、新たなチャンスへの扉も開かれました。Hack Coworking Onlineでは、新型コロナウイルスが及ぼしたプラスの影響に注目することを重視しました。コワーキング業界も苦境に立たされ、一部の地域では今もまだ厳しい状況が続いています。したがって、このイベントを通じて業界に新風を吹き込み、よい知らせを広めたいと私たちは考えました。

新型コロナウイルスがコワーキング業界に呼び込んだ最大のチャンスのひとつが、サービスをオンライン上で提供する試みです。たとえば、東京のコワーキングスペース「Nagatacho GRiD」 を運営するガイアックスのブランディングディレクター、ナタリア・ダヴィドヴァ氏(Natalia Davydova) によると、同社はコミュニティイベントの大半をオンラインに移行したそうです。その結果、東京以外の在住者もイベントに集まり、コミュニティの仲間入りを果たしたというのです。新型コロナウイルスをきっかけに、Nagatacho GRiDは新たなサービスの提供も始めました。大企業を対象に、オンラインイベントの運営支援やアドバイスを提供するサービスもそのひとつです。

物理的空間からバーチャルなコワーキングへ

ロックダウン(都市封鎖)中、大半の国では、職場への通勤が一部、または完全に規制されました。人々が物理的に出勤できなくなったことで、コワーキングのビジネスモデルが丸ごと、厳しい状況に追い込まれました。スモールビジネス経営者やフリーランサーなど、新型コロナウイルスで深刻な影響を受けたメンバーは、コワーキングスペースを退会または休会しました。イベントも当面中止(あるいは延期)を余儀なくされ、見込んでいた売上を失ったコワーキングスペースは大きな痛手を受けています。

そんな状況に直面した彼らはどう対処したのでしょうか。バーチャル空間へと移動したのです。たとえば日本では、大阪にあるThe DECK をはじめとする複数の独立系コワーキングスペースが協力して、バーチャル空間にコワーキングコミュニティ を立ち上げました。そのために使ったのがオンライン会議ツール「Remo」 です。簡単に言えば、Remoを使って、オフィスのレイアウトをバーチャル上に再構築したのです。

メンバーはログインすると 、オフィスのロビーに入ります。そこで、各部屋で開催されている無料イベントを確認し、参加できるところを選びます。各部屋には、入室済みのメンバーが選んだテーマが設定されています。下の例を見るとわかるように、「English speaker」は英語を話す部屋です。「集中席」と書かれた部屋では、入室後にカメラをオン、マイクをミュートに設定する決まりになっています 。

バーチャル空間に作り上げられたこの取り組みの興味深い点は、コワーキングコミュニティ同士が図らずも結びついたことで、メンバーが学ぶチャンス、ネットワークを広げるチャンスが広がったことです。

Hack Coworking Online 開催中に、このバーチャルコワーキングスペースを立ち上げたThe DECK創業者でCEOの森澤友和氏 を招き、ライブで詳細を話してもらいました。観ていた参加者は、みな驚くような体験ができたようです。バーチャルコワーキングについて詳しく知りたい方は、私たちがロックダウン中に書いたこちらの記事(英文)をお読みください。

総括すると、このオンラインカンファレンスでは、コワーキングやフレキシブルスペースを提供する業界の未来は明るいことが浮き彫りになったのではないでしょうか。市場が回復するまでもうしばらく時間がかかりますが、コワーキングには、バーチャル空間と現実空間での取り組みをうまく使い分けるという新たなアプローチがあることがわかったのです。これからの数カ月は、これまでにない斬新なアイデアが確実に誕生する興味深い期間になるでしょう。

オンラインハッカソンによって出てきた未来の種

Hack Coworking Onlineは、単なるオンラインカンファレンスにはとどまらず、ハッカソンも開催され 、目覚ましいアイデアが生まれています。世界各地から集まった計13チームが、テック製品やノンテック製品の考案を目指して競い合いました。特に印象的だった3チームをご紹介して記事を締めたいと思います。※スライドショー参照

― Lockr By Thunder Dogs ハッカソンで誕生した テック製品をひとつ紹介しましょう。チーム名「Thunder Dogs」が考案した「Lockr」は、チャレンジパートナー企業WelcomrのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使ってデザインされた、荷物取り扱いツールです。荷物に触れる人数を減らし、安全性を高められるのが特徴です。Lockrに関心がある方は、イベント中にチームが行ったピッチプレゼンテーションをこちらでご覧ください。

― Gamifying community building By Infostud Hub ノンテック製品で関心を引いたアイデアが、セルビアのコワーキングスペースがデザインした「Gamifying community building」という、ゲーミフィケーションの要素を取り入れたコミュニティ構築法です。具体的に説明すると、コワーキングスペース用の通貨を作り、メンバーがスペースやほかのメンバーとやりとりを交わすたびに、報酬として通貨が獲得できる仕組みになっています。たとえば、イベントに参加するたびにコインが1枚獲得でき、それが溜まったら、ほかのメンバーやスペースからサービスを購入できるのです。

― Coworking Healing Guide By Millepiani イタリア・ローマのコワーキングスペースがメンバーとともにハッカソンに参加して開発したのが、「Coworking Healing Guide」です。目的は、コワーキングスペースのパーソナルスペースを、室内設計を活かしたり、テクノロジーを使わないソリューションで見直したりするなどして、より親しみやすく改造すること。居心地がよく、誰もが安心できるワークスペースが構築できます。

Hack Coworking Onlineの誕生秘話はこちら

2020年7月23日更新
イベント開催月:2020年5月

テキスト・写真提供:Coworkies Pauline Roussel