バーチャル化しても変わらないコワーキングが提供する5つの価値と8つのテーマ
コロナ禍の後押しもあり、身近な存在になってきたコワーキングスペース。しかし、少し前にさかのぼると、日本でのコワーキングスペースの知名度は全く高くありませんでした。リアルな場での新しい人との出会いがしづらくなったコロナ禍。そんな今、あえて「Co-Working」をするのはどうしてなのでしょうか? コワーキングスペース運営者の皆さんに語ってもらいました。
私が運営する「カフーツ」は、2010年5月15日に神戸に開業した日本で最初のコワーキングスペース。2022年で満12歳になります。
当時、ネットでビジネスする小規模事業者とそれをサポートするウェブ制作者が一同に会して学ぶ勉強会を運営していたのですが、「月に1回だけ集合するのではなく、常時、メンバーが集まれる場所がほしい。ついでにそこで仕事もしたい」という要望があり、海外のコワーキング事例を参考に開設するに至りました。
そういう経緯もあって、現在も主にウェブ系のフリーランサーやスモールビジネスの事業主に、「仕事」と「学び」の場所として利用されています。
コワーキングスペースが提供する5つの価値とは?
「コワーキングとは何か」を表すものとしては、2005年ごろ、サンフランシスコ周辺のコワーキング事業者によって「コワーキングの5大価値」として以下のように提唱されており、カフーツもオープン以来この価値を提供するよう運営しております。
「コワーキングの5大価値」
・Accessibility(つながり)
・Openness (シェア)
・Collaboration (コラボ)
・Community (コミュニティ)
・Sustainability (継続性)
これらの意味については、ブログに書いておりますので、よろしければ参照ください。
コロナ禍でもユーザーとのリレーションシップを維持できた
カフーツはわずか12席しかない極めて小さなコワーキングです。今回のコロナ禍では、いわゆる「3密」を避けることが感染防止になるとの認識でしたので、ここがクラスタにならないよう、実は約2年の間、リアルスペースは休業していました。
開業以来、コワーキングの管理をしながら、同時に自分もコワーカーの1人としてカフーツを利用していたので、空白期間による利用料の売上よりも、他のコワーカーとの接点を失うことに不安を感じました。
そこで実行したのが、オンラインイベントの開催です。リアルな場所に足を運べない代わりにネット上で集まってセミナーやトークセッションなどを行うことで、お互いの消息を確認し合う。
そうすることでユーザーとのリレーションシップをある程度カバーできましたし、ユーザー側もオンラインでのコミュニティ(=コワーキング)の参加の仕方を習得してくれました。これは大きな変化だったと思います。
また、オンラインイベントは地域を限定せずどこからでも参加できるので、全国各地の参加者との新しいつながりを作れたことも収穫でした。
そしてこの経験が、今後、リモートワークもしくはハイブリッドワークが常態化する社会における「新しいコワーキングのあり方」を模索する機会にもなりました。
コロナ禍でもコワーキングする理由
一言でいえば、コワーキングは地域の人たちがそれぞれの目的や課題を持って集まってくるローカルコミュニティです。もちろんここに、今後はオンラインでのつながりが加わりますが、コミュニティであることに変わりはありません。
人はひとりでは仕事はできませんし、生きてもいけません。そのためには、誰かとつながってコトをなすためのスキームが必要です。コワーキングはまさにそのスキームであり手段です。
コワーキングスペースはただのスペース(空間)ではない、とぼくは考えています。重要なのは、ハコではなく、そこで活動するヒトです。人が人を呼び、つながりを広げていくことでさまざまな活動が起動します。
コロナ禍においてもそのことはいささかも変わりません。むしろ人間関係が制限される今だからこそ、コワーキングというスキームが求められています。
これまで毎日オフィスに行けばそこに同僚がいた企業人の方々は、特にそう感じているはずです。なかには在宅ワークで孤独感に苛まれ、メンタルを害するワーカーも少なからずいます。こうした人たちにとってコワーキングはただのオフィスではなく、人と人をつなぐ場として有効です。
ただし、コワーキングにおける活動とは必ずしも「仕事」に限りません。
8つのテーマをまとめた「コワーキング曼荼羅」
ぼくは2016年以来、全国各地のコワーキングスペースを訪ねて巡る「コワーキングツアー」というイベントを断続的に続けています。
コロナの間は自由に動けませんでしたが、2021年11月までに、92カ所のコワーキングスペースにおじゃまして多くの人たちと交流してきました。
このイベントを通じて得た知見は、コワーキングは個々のワーカーのためのただの作業場ではないこと。地域に暮らし働く人たちのあらゆる課題や果たしたい目的と、それを解決・達成するリソースが交差するハブであること。人々がつながりコラボすることで、結果的にローカル経済を駆動するエンジンとなっている、ということです。
そこには、大きく8つのテーマ(課題)があります。それを図にしたのが「コワーキング曼荼羅」です。
8つのテーマは、コワーキングというスキームを利用して行われていることであり、そのままセミナーやワークショップのテーマにもなり、コラボやビジネスへと発展することもあります。
大都市圏のコワーキングの利用経験しかない方には、不思議に映るかもしれません。しかし、地方のコワーキングでは、おおむねこれらのテーマが動いており、今後増えるであろう都市圏の郊外型コワーキングでも同様だと考えています。
ちなみに「コワーキング曼荼羅」の「健康」にはメンタルヘルスケアも含まれており、在宅ワークで孤独感を感じているワーカーを想定しています。
「オンラインコワーキング」から「バーチャルコワーキング」へ
オンラインイベントの効果からもわかるように、今後は必ずしもリアル(物理的)な場所に出かけなくても参加できるコミュニティがオンラインでも整備され、リアルとオンラインの両方でアクセスできるコワーキングがユーザーに支持されると考えています。これが、いわゆる「バーチャルコワーキング」への入口になる可能性は極めて高いと思います。
ただ、個人がバーチャル空間で快適に仕事できるハイスペックな環境を整えることは、今はまだ現実的ではありません。ですが、コワーキングスペースが提供することは可能です。
そうすると、まるでeスポーツにおけるネットカフェのような存在のコワーキングがローカルにも現れることになります。ユーザーは、そこからバーチャル空間にログインし、バーチャルで仕事をする。
そして一区切りついたら、今度はローカルコミュニティで人々とリアルに交流する。そんなふうにバーチャルとリアルの両面の機能を兼ね備えたコワーキングが現れるはずです。
また、海外ではNFT(非代替性トークン)を取り入れたコワーキングがすでに開業しています。コワーキングのメンバーシップをNFTで発行し、ユーザーがそれを自由にリースしたり売買したりできることで、ユーザーを順に数珠つなぎにしてユーザー層を広げるとともに、そのメンバーシップの価値を上げる手法です。
NFTの可能性については賛否あるにせよ、これからは新しいテクノロジーとの融合によって、これまでにない価値がコワーキングからもたらされる可能性は否定できません。
ただし、バーチャルであろうがリアルであろうが、ユーザーの課題解決や目的達成のためのコミュニティとして機能することには変わりはないと思います。
そして、そこでもAccessibility(つながり)、Openness (シェア)、Collaboration (コラボ)、Community (コミュニティ)、Sustainability (継続性)という「コワーキングの5大価値」が提供され続けると考えています。
編集:ノオト