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WORK MILL

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子どもたちから学ぶ、誰もがワクワクする空間の作り方。キーワードは「好奇心」?(AIC国際学院×ピープル×オカムラ)

京都にあるインターナショナルスクール・AIC国際学院京都初等部に、「好奇心はじけるラーニングラウンジ」が生まれようとしています。

これは、AICに通う小学1〜3年生の15人が自分たちのアイデアで好奇心を育める空間をつくるプロジェクト。運営は、AIC国際学院、おもちゃメーカーのピープル株式会社、株式会社オカムラです。

人が興味を示すモノやコトはさまざまです。参加した小学生一人ひとりの好奇心やアイデアをいかに引き出し、形にするのか。 大人にとっても大切な「好奇心」はどんなものなのかを、関係者6名にインタビューしました。

好奇心を形にするためのコラボレーション

まず、AIC国際学院とピープル、オカムラがタッグを組んだきっかけを教えてください。

オカムラ
轟木

まず、私たちをつなぐキーパーソンになったのが、一般社団法人チャレンジドLIFEの畠中直美さんです。

以前から、畠中さんとオカムラのWORK MILLメンバーは、さまざまな特性をもつ人の視点を取り入れたオフィスづくりなどのプロジェクトを一緒に行ってきたんです。

畠中直美さん。発達障がいのある子どもと家族の支援を行う一般社団法人チャレンジドLIFE代表。

畠中

はい。別の案件でピープルさんとAIC国際学園と一緒にプロジェクトを行っていたのですが、その際に「小学校低学年を対象に好奇心をテーマにした取り組みができる企業を探している」と聞きました。

そこに空間づくりのプロであるオカムラさんも加われば、さらなる広がりが生まれるのではないか、と。

ピープル
真下

ピープルのパーパスは「子どもの好奇心がはじける瞬間をつくりたい!」で、子どもたちの興味や関心をしっかり観察しておもちゃをつくってきました。

昨年、新事業プロジェクト「子どもPeople」を立ち上げ、まだしゃべらない乳幼児を観察するだけでなく、言葉で表現できる子どもたちと一緒に好奇心を形(商品)にする活動を始めていました。

おもちゃのアイデアの共創だけでなく、子どものアイデアの可能性をもっと知りたい!と思っていたところ、畠中さんから、学校と家具メーカーという異業種コラボの提案を聞きました。

これまでと違う角度から子どもの好奇心を探れるのではないかという期待と、むしろ私たちが子どもに好奇心とは何かを教わりながら共創できる可能性を感じました。

真下美奈子さん。ピープル株式会社で、新事業プロジェクト「子どもPeople」の立ち上げ・リーダー。

AIC
クマザワ

AICでは、自分にとっての幸せや生き方を、一緒に考えながら学びます。つまり、答えのない問いに対して考えることを日々行っているわけです。

もともと学内にあった「ラーニングラウンジ」をリニューアルし、子どもたちの自由な発想を引き出すというチャレンジはウェルカムでした。

ジョージ・クマザワさん。AIC国際学院京都校 校長。

オカムラ
轟木

普段は企業のオフィスやビジネスパーソン向け家具をつくっているため、子どもを対象にした空間づくりはオカムラでは初めての取り組みで。正直、期待と同時に戸惑いもありましたね。

株式会社オカムラの轟木咲野華。オフィス空間づくりだけでなく、Open Innovation Biotope“bee”のコミュニティマネジャーも務める。

オカムラ
轟木

私たちオカムラは「人を想い、場を創る」を掲げています。だからこそ、大人も子どもも関係ないし、逆に子どもたちから刺激やアイデアをもらえるかもとワクワクしました。

株式会社オカムラの大西清美。教育施設や医療施設の空間づくりを行い、Open Innovation Biotope“bee”のコミュニティマネジャーも務める。

オカムラ
大西

私自身、「お客様一人ひとりの快適な共創空間とはどんなものだろう」と考えていたとき、プロジェクトへお誘いいただきました。

教育機関の空間づくりはオカムラとして取り組んでいたものの、今回はどんなプロジェクトになるのか、楽しみでしたね。

一人ひとりの「好奇心」が見えてきた!

プロジェクトのアイデアは、すべて子どもたちからだそうですね。

フィールドワークから始まり、空間の設計、図面の制作、そしてプレゼンテーションまで、しっかりとプロセスを踏んでいますね。

AIC
アラオ

はい。まずは小学1〜2年生の中から、プロジェクトに参加したい児童を集めることから始めました。

「今のライブラリー(図書室)を、ゾクゾク・ワクワクするラーニングラウンジ」に変身させよう」「プレゼンテーションやちょっと大変な準備もあるけれど、楽しい体験ができるよ」と伝えました。すると、15名が参加を希望してくれました。

アラオ・タードリョウさん。AIC国際学院京都校で教鞭をとる。今回の「ラーニングラウンジ」のプロジェクトを担当している。

AIC
アラオ

児童たちに「どんなときにゾクゾクする?」「ワクワクって何だろう?」と問いかけながら、フィールドワークに出かけました。

学校周辺を歩きながら、見たり聞いたりして、自分が何かしら感じたものを「集めた」んです。つまり、子どもの好奇心探しです。

「集めた」とは?

AIC
クマザワ

心に響いた物を撮影してもらったのです。その写真をほかの児童に見せながら「なぜ興味を持ったか」「自分はどう感じたか」を自分の言葉にして、お互いにシェアしました。

そうすると、同じものを見ても「ワクワク」する児童もいれば、「ホクホクした」「ギョッとした」「しんみりした」したと表現する児童もいることがわかります。

AIC
アラオ

同じ場所で1日過ごしても、撮影する写真も感じることもそれぞれ違います。その違いを繰り返しシェアすることで、子どもたちは「好奇心は人それぞれ違う」「違っていいんだ」「違うって面白い」などを肌で学んだようです。

学校周辺をフィールドワーク(提供写真)
気になったものを写真で撮影している(提供写真)

ピープル
真下

子どもの好奇心のバリエーションって、大人の想像以上に豊かなんです。

だからこそ、この「好奇心を言語化する作業」と「シェア」は好奇心という概念の土台形成にとってとても大切で、じっくり丁寧に時間をかけました。

「好奇心」の意味って、大人もわかっているようでわかっていないかもしれません……。

ピープル
真下

ピープルの社員にとっても発見続きでしたね。

子ども一人ひとりの言語化によって、好奇心が生まれる些細なきっかけがあることを知ることができました。子どもたちの好奇心はとても奥深いので、これまでの観察にとどまらず、いろんなアプローチで子どもたちの内なる好奇心をもっと丁寧に深掘りする必要がある、と学びましたね。

優しさと思いやりとリスペクトで、15の好奇心が共生できる

AIC
アラオ

次の設計図制作では、児童の「好奇心」を限られたスペースへどう落とし込むかを話し合いながら進めました。

児童は1人5枚の設計図を描き、お気に入りの一枚をもとに模型を作りました。その後、オカムラやピープル、そして子どもたちの保護者などを招いてプレゼンテーションを行ったんです。

子どもたちが、それぞれの「ワクワク」や「ドキドキ」をどう配置するか考えながら作った模型。

部屋の模型の中に船がありますね!

ところどころに「わくわく」や「らんらん」、「ほわっと」と書かれた付箋が見えます。これは何ですか?

畠中

付箋は、子どもたちのプレゼンを見たお客様が、感じたことを書いて貼ってくれたものです。

子どもたちが「しんみりしてほしい」という意図でデザインした場所に、違った感想の付箋が貼られたりもするんですよ。

ピープル
真下

子どもたちはそのようなフィードバックを受けて、改めて絶対に採用したいと思うアイデアを5つに絞ります。

そこには、なぜ選んだのかといった理由と想いも必要です。それを自分たちの言葉にし、優先順位を付けてもらいました。

オカムラ
轟木

そうやって厳選した15名の子どもたちのアイデアを、オカムラ側でクレヨンを使って図面にしました。

15個のアイデアを元に、オカムラが空間の図面を制作。こちらには、フロア内に流れる川がデザインされている。

責任重大ですね! 真ん中の方に「かまくら机」と呼ばれるものがありますが、これはなんですか? 

オカムラ
轟木

これは「ケンカをした友だちと2人で入って、話をしたら仲直りできる場所」あるいは「カッとしたら1人でこもって頭を冷やす場所」です。

このように、一つひとつの要素にちゃんとストーリーがあるんです。

オカムラ
大西

空間の真ん中にはルーレットがあり、回して今日の自分の好奇心を決めるそうですよ。大人はなかなか思いつかない発想ですよね。

ここまでのお話を聞いていると、とても小学1〜3年生がこなしたとは思えません……! 設計図だって、子どもたちは5枚も描いたそうですね?

ピープル
真下

はい。1枚目は、子どもたちなりに「実現可能なものを」と配慮して描いていたようです。

でも、進めていくうちに「こんな空間ができたらいいな」「楽しいだろうな」と、現実より先に理想を思い浮かべるようになっていく様子が印象的でした。

「これはできなさそうだから」と諦めるのではなく、思い浮かんだ理想をまずは描く。アイデアをどんどん膨らませているのが、そばで見ていてもわかりました。

(提供写真)

畠中

私も設計図を5枚描くと聞いて「大変だ!」と思ったんですが、むしろ3枚目辺りからストッパーが外れたみたいで。描くスピードもアイデアも加速していきました。

感心したのが、フィールドワークで見つけた自分のお気に入りを応用していたことです。

「あの時のシャイニングな窓を表現したい」と言ってデザインしたのが、キラキラした壁なんですよね。組み合わせやアレンジ力がすごい。

AIC
アラオ

保護者からも、「大人の想像を簡単に超えていく自由で柔軟なアイデアに驚いた」「自分の言葉で話そうとする姿に成長を感じた」といった声が寄せられました。

また、自分だけの好奇心だけでなく、友人の特性や好奇心までも盛り込もうとする姿勢も見られましたね。

たった3カ月で、すごい成長ぶりですね。

オカムラ
轟木

そうですよね。実は当初、オカムラが描いた図面に対して、子どもたちが「もっと自分のアイデアを入れて」と主張するかもと想定したのですが、それもありませんでしたね。

ピープル
真下

むしろ「このAちゃんのアイデアって面白いもんね」とお友達の採用を喜び、リスペクトしていました。自分の好奇心を追求できたからこそ、他者の好奇心にも興味が湧くんですね。

15個の好奇心を1つにできるのだと、子どもたちから教わりました。

AIC
クマザワ

最初から「そもそも好奇心というのは人それぞれ違うんだよ」と伝えていたのですが、こうしたプロセスをしっかり踏んだからこそ、改めて理解していたようでしたね。

みんなの好奇心をまんべんなく実現した空間づくりができたと思います。

子どもから学んだ「好奇心あふれる空間」とは

大人も「好奇心って大切だな」と学べそうなプロジェクトですね。

オカムラ
大西

その通りです。普段、メーカーとして「リラックスできるように」と考えた空間が、人によっては仕事スイッチが入ったり、想定外の使い方をされたりしたことがありました。

私たちが「使う人のために」と想定したことが、利用者にとってはそうでないかもしれない。

それに気づいた当時、「メーカーの“こうあるべき”という考えを押し付けるのではなく、もっと利用者起点で快適な環境や空間、場所を作ることはできないか?」と思ったんです。

オカムラ
轟木

そもそも、全員が快適だと思う空間を作るのは難しいんですよね。

でも、このプロジェクトを通して、相手へのリスペクトがあれば、一人ひとりの好奇心や特性はそのまま取り入れながら、みんなが快適な空間づくりが可能なのだと気づきました。

畠中

「僕はここがにぎやかだから好き。でも、Bちゃんは静かな場所が好きと言っていたから大丈夫かな?」と、ごく自然に気遣う児童もいましたよね。

自分と他の子とは違う、と理解できていたからこその発言です。

ピープル
真下

「この空間で静かにしていたい」と思うのも一つの好奇心なんですよね。自分に向けていた興味や関心が、お友達へ向かった。まさに好奇心の広がりだと思います。

畠中

子どもたちは友達だけでなく、自分自身とも対話を重ねてきました。

その様子を見ながら、大人も自分にとってのワクワクや居心地の良さ、あるいはぎょっとすることは何なのか、丁寧に向き合う作業が必要なのではないかと感じました。

今回、オカムラの他の社員さんたちにも模型を見ていただきましたが、その時の皆さんの反応がすごかったですね。

プレゼンテーションの日は、オカムラをはじめ多くの関係者に向けて「理想の空間」を発表(提供写真)

オカムラ
大西

模型を見た後、みんな初心に立ち返っていましたね。「自分はどんな空間づくりがやりたかったんだっけ」「設計をするってこういうことだよね」「こういうワクワクを実現したかった!」と止まりませんでした。

オカムラ
轟木

なかには「励まされた」と泣き出す社員もいて! それだけ子どもたちの好奇心がストレートに伝わったんだと、私も感動しました。

プレゼンに対する感想

改めて皆さんに伺います。こうした子どもたちの好奇心から、大人は何を学べるでしょうか?

ピープル
真下

一人ひとりの個性をとことん追求すると、バラバラになるどころか、みんなが居心地の良いチームワークにつながるのだと確信しました。

好奇心を爆発させた結果、互いを認めることができ、共創が生まれる世の中につながる可能性が見えた気がします。

改めて、子どもの頃からある好奇心の芽をつぶさず、好奇心はじける商品を提供していくことの大事さも感じました。

好奇心全開な子どもたちと共創できる「子どもPeople」の活動のチャレンジを今後もっと広げていきたいです。

畠中

金子みすゞさんの詩の一節である「みんなちがって、みんないい」という本質を体験させてもらいました。

違うからこそあの設計図ができて、相手をリスペクトする心が育まれる。個性を追求すれば、温かい世界が生まれるのだと体感できました。この経験は、子どもにとっても財産ですね。

AIC
アラオ

「人が正義だと思っていることは正しく、自分が正義と思っていることは間違いだ」という戒めの言葉があります。私は正義という言葉を好奇心に置き換えても良いと思います。

児童たちには、自分とは異なる好奇心が相手にもあると知り、同時に自分を認める心を持ち続けてほしいと思います。

AIC
クマザワ

好奇心を「無駄なもの」「生産性を下げるもの」などネガティブに受け止める大人もいます。一方で私たちは、常に好奇心は大人が子どもから学ぶべきではないかと思いました。

オカムラ
轟木

オカムラのデザイナーとして、常に「人を想い、場を創る」を意識してきました。

でも、今回のプロジェクトを通じて「私に足りないのは好奇心だな」と痛感しました。好奇心を前面に出して何かを語る人や、それを聞いている人がいるだけで、その場に良い空気が醸し出されます。

好奇心は、その人の個性です。ワークシーンでも、もっと前面に押し出して良いのかもしれません

オカムラ
大西

私も空間をつくる立場として、「既成概念を覆すような好奇心や思い切ったチャレンジがないと、新しい空間は生みだせないのでは」と思いました。

この模型を見てください。ここに小さな椅子があり、真ん中にピンク色の広い机のようなものがある。これ実は机ではなくてベンチなんですって。

手前にあるピンク色の机らしきものは、実は大きなベンチだった

これがベンチ?

オカムラ
大西

とても個性的ですよね。でも子どもたちは「これはベンチだよ、当たり前でしょ?」って反応なんです。

このエピソード一つとっても、既成概念にとらわれた私の頭はかき乱されましたね。

いよいよプロジェクトも最終段階です。轟木さんと大西さんは、これから子どもたちの15のアイデアを実際に空間として形にします。意気込みを聞かせてください。

オカムラ
轟木

ドキドキですが、子どもたちの思いの詰まった好奇心をぜひ形にしたいですし、私自身見てみたい! がんばります。

オカムラ
大西

空間で遊ぶ子ども、そして大人が遊ぶ様子も見てみたいですね。絶対に好奇心を刺激される空間になると思いますよ。

一人ひとりの好奇心を追求することが、良いチームワークを生み、結束力を高めるといった仕組みが良くわかりました。ありがとうございました。

2024年3月取材

取材・執筆:國松珠実
写真:古木絢也
編集:桒田萌(ノオト)