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【クジラの眼-未来探索】 第18回「柔軟な働き方とオフィスの構築をどのように実現するか?~Work x Dが実現するデジタルトランスフォーメーションとは~」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” を題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

イントロダクション(オカムラ 庵原悠)

庵原:コロナ禍が続く中で多くの企業は働き方や働く場の見直しをしています。オカムラではウィズコロナを抜けた先、ニューノーマルの時代で企業が考えておかなければならないことを議論し「レジリエンス(しなやかさ)」を築いておくことが必要だと結論づけています。それを達成するためには「テクノロジー」「制度」「環境」三つの要素を見直して、働く人・企業文化を変えていかなければなりません。このことが働き方改革の本質だと私たちは考えています。

本日は、どのような働き方改革を実現していくかを「テクノロジー」と「環境」を中心に考えていきます。「テクノロジー」で言うと、既にさまざまなコミュニケーションツールが普及したことでテレワークが可能になっています。「環境」では働きやすいオフィスを構築している企業がありますし、働く場所を自身が選ぶABWという働き方を採用する企業も増えています。その「テクノロジー」と「環境」がつながることによってどのようなことが実現するかを考えてみることにします。

具体的には、オカムラが昨年発表したDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス「Work x D(ワーク・バイ・ディ)」を取り上げ、あらゆる空間・モノ・データをコネクトする新しいオフィスシステムが実現する新しい働き方とオフィスの構築、マネジメント方法などについて議論しようと思っています。

プレゼンテーション1「Work x Dとは」(オカムラ 下笹洋一)

下笹:コロナ禍で、多くの企業はテレワークでも可能な業務が数多くあること、むしろテレワークの方が効率的にできる仕事があることに気づきました。これまではオフィスに集まって働いてきましたが、今後働く場は、自宅やサテライトオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなどへ分散化していくと予想されています。

Work x Dは、そうした分散するワークプレイスの構築と多様な働き方のマネジメントを支援するデジタルトランスフォーメーションサービスです。あらゆる空間、物、データをつなぐことによって、これまで以上に便利で安全に働くことを可能にするもので、このあと登壇するビットキー様の「workhub」というプラットフォームをベースにして両社が協業して開発しました。

「ひとりのワーカー、ひとつのID、ひとつのアプリで」これがWork x Dの特徴です。入退館の管理システムや会議の予約システム、座席の予約システムなど、企業は多くのシステムを導入しています。利用者は、それぞれのシステムの使い方を覚え、個々にIDやパスワードを入力しなければなりません。システムを管理する側もセキュリティを個別に配慮しなければなりませんし、システム間の連携となると大きな負担がかかります。Work x Dでは、一つのアプリで複数サービスが使え、一つのIDでサービス連携ができるので、システム、IDの管理を簡易にできます。オフィスの“面倒”をまとめて快適にするのがWork x Dです。

現在用意しているソリューションメニューは、認証システム(スマートフォンによる電子錠ロッカーの開錠、専用端末による顔認証、検温)、予約システム(会議室予約、座席予約)、ゲスト管理システム(無人受付、入館証発行メール)、可視化ツール(ワーカーの所在場所、混雑状況)などです。また、他社のシステム(Microsoft 365、Google Workspace)や製品(セキュリティゲート、自動ドア)と連携することが可能になっており、今後、コネクトするサービス、製品を順次増していく予定です。

プレゼンテーション2「導入事例の紹介、基盤であるworkhubとは」(ビットキー 石政健人)

Bitkeyの紹介

石政:私たちは2年ほど前の創業以来「テクノロジーの力で、あらゆるものを安全で便利で気持ちよくつなげる」をミッションとして事業展開しています。あらためての話になりますが、DXとはデジタルの力であらゆるものを変革していこうとするもので、その目的はビジネスの収益性を向上させることや競争上の優位性を確立することです。

今、DXは急速に進んでいて、さまざまなデジタルサービスが普及しつつありますが、それぞれにIDとパスワードが存在するため、利用者としてはサービスごとに設定や登録をしなければなりません。企業としてはシステムを連携するのに時間とコストがかかるといった課題があります。

また、デジタルとリアルの間の時空間不一致という課題もあります。以前はパソコンやWeb、SNSといったデジタルの中でサービスが完結していましたが、Uberで車に乗る、Airbnbで泊まる、WeWorkで働くなど、リアルと連続性を持ったサービスが増えてきています。予約はデジタルでできますが、実際に使う際には本人の認証やID確認、鍵の受け渡しなど対面が必要なことも多く、双方に時間と空間を一致させないとそのサービスが受けられないという問題が発生しています。

私たちはこれらの課題を解決するために、あらゆるものを安全で便利に気持ちよくコネクトする事業を展開しています。例えば、ビットキーの顔認証システムでさまざまなサービスを受けられるようにするなど、既に各社が世の中に提供している”いいDX”をつなげて一つの体験として実現することを目指しています。

既存のアセットをデジタル化するだけだと分断の課題が発生し、競争優位性の獲得や「気持ちよさ」まで至らないため、最終的に、使われない、喜ばれない、逆に手間が増えるといったことになると考えています。ビットキーでは、DXされたものをコネクトすることによってエンドユーザーに本質的な体験性や利便性を提供することができると考えています。このコネクトというミッションを暮らしのシーン、働くシーン、非日常の心が動くシーンに展開して事業を進めているところです。本日はその中の働くシーンを中心にお話ししようと思います。

workhubとは

workhubは、働く空間において、人と仕事の間のあらゆるものをつなげるという発想で、​新しい働き方に即した体験を提供することができるコネクトプラットフォーム​で、オフィスだけでなく、工場やコールセンター、コンビニなど、さまざまな場面で活用していただいています。

workhubの利点は、既存のハードウェア・ソフトウェアにつなげて活用できること。それによって利用者はシームレスでわかりやすい体験ができること。さらに、固定化された使い方ではなく、コネクトするモノやサービスなどを選択できるため、利用の幅が広いことです。入退館システム、受付予約システム、スマートロッカー、会議予約システムなど、それぞれの領域に便利なツールは登場していますが、​システム間が分断されているため全体の利便性が高まりません。それらをつないで使いやすくすることがworkhubの特徴だと言えます。

活用事例

workhubを活用した事例を3つご紹介します。一つ目は、本社の受付を無人化した事例です。以前は、お客様の来訪時に受付スタッフが使用予定の会議室の利用状況を確認し、代表担当者に内線で到着を連絡、その後、関係者の社内招集を経て受付に迎えに行っていたのですが、workhubを介したシステムによって、社員へのご到着通知や会議室の空室確認・解錠といった一連の流れを自動化できました。

二つ目は、コワーキングスペースにおいて顔認証を利用した入退館、無人受付、​会議室予約などを包括管理した事例です。会員は顔認証で入館・入室できゲストは受付に設置したタブレット端末に、予め会員が発行したQRコードをかざすだけで、エントランスのドアのカギが解錠され、入室することができます。。会員向けの個室や一般向けの会議室の管理などコワーキングスペース全体の管理も含めて、全てworkhubが活用されています。

三つ目は、1フロア1,000坪のオフィスで既存のアセットにworkhubをつなげ全体の管理・運営を容易にした事例です。多くのビルには制御盤があり、電子錠やカードリーダー、フラッパーゲートなどにつながっています。この制御盤とworkhubをつなげることにより顔認証ですべての入口の解錠が可能になっています。

目指している働き方

オフィスビルとworkhubをコネクトすることで、エレベーター、扉、フラッパーゲートといった入退館のセキュリティに関する部分、空調や照明といった室内環境の管理、オフィス内へのランチのデリバリー許可といったサービス系のシステムとの連動が可能になり、オフィスビルをスマートビルディングに変容させることができると考えています。

複数拠点を持つ企業であれば、ビル・フロア・エリアといったそれぞれの入退権限の階層管理や、従業員・業者・ゲストにとっての「マルチな解錠手段の提供」と​「柔軟で効率的な権限付与」をworkhubのシステム上で実現できます。さらに、今日働く場所を検索し、その場所をワンタップで予約すると自動的にその場所に入るためのデジタルカギが発行される。入室したログをもって、誰がどこで働いているのか可視化することもできます。コワーキングスペースやシェアオフィスまで導入範囲を広げれば、将来的には自宅の近くで今空いている場所を探すことも可能になります。


Work x D
が実現する働き方とオフィスのDXとは?(石政 × 下笹 × 庵原)

他社のシステムとの連携とは具体的にどんな形なのか?オカムラ製品としかリンクしないのか?

庵原:Work x Dがもたらす新しい働き方やオフィスにおけるDXについて掘り下げていこうと思います。まず、Work x Dと連携できる他社のシステムやつなげられるハードウェアについて、あらためてお聞かせください。

石政:システムのつなげ方には二つのパターンがあります。Microsoft365とGoogle Workspaceとはアドインするかたちで連携をはかっています。既に使っているソフトウェアからworkhubを使えるようにするのが一つ目のパターンです。二つ目は、既存のシステムから情報を引き出してworkhubに取り込むパターンで、必要に応じて情報を選別して連携をはかっていくやり方です。

下笹:現時点で連携している家具はオカムラの電子錠つきロッカーだけですが、今後デジタル技術を利用した家具が開発されれば、連携の対象にしていくつもりです。さらに、オフィスのIoT化という構想の中で、いろいろな家具の情報、例えば椅子の位置や机の使われ方などさまざまな情報を取り込んでいきたいと考えています。

新築ではなく、既存のオフィスにも対応可能なのか?メリットはあるか?

庵原:新築のオフィスビルだけでなく既存のオフィスへも対応できるとの話でしたが、その際のメリットについてお話しください。

石政:既存のオフィスに対しても、もちろん使われているシステムの形式にもよりますが対応することが可能です。その際、Work x Dの構想のような、オフィス全体のセキュリティやオフィスのあり方にアプローチすることによってより大きなメリットが生じると考えています。

Work x Dによって、どんな働き方の世界、オフィスやオフィス以外の場が作り上げられるのか?

庵原:オフィスのデジタル化、DXによってどのような働き方の世界が見えてくるのか、オフィス以外の働く場も含めて展望をお聞かせください。

下笹:働く場はオフィスから分散し、シェアオフィスやコワーキングスペースで仕事をする人が増えてきました。そういった場所で働くことを推奨する企業も増えています。駅の構内に設置されるようになったワークブースを使って仕事をする人も増えています。働く場の選択肢は広がってきていますが、それらの場所を予約するとき、それぞれのホームページやアプリケーションで予約をしなければならず、予約のたびに面倒な思いをしているのではないでしょうか。契約しているすべてのワークスペースをWork x Dでまとめて管理していれば、空いている場所を検索し予約するときとても便利になります。そのような世界を実現したいと考えています。

石政:オフィス以外への適用例ですが、ビットキーは甲子園球場と顔認証による入場管理の実証実験を始めています。これが実現すると、入場待ち時間の軽減や非接触入場の実現など、球場における顧客体験が改善されます。Work x Dでつながっていくと、ワークシーンから一歩踏み出した世界でもコネクトされた未来図が描けるのではないかと考えています。

庵原:最後に、今後のオフィスや働き方に期待することをうかがいます。

石政:仕事をする時間は人生の中で多くを占めるので、そこがもっと便利になるといいなと、一人のワーカーとして思っています。企業は働く場の選択肢をワーカーに与えるようになってきていますが、自由に選択できるといっても検索が煩雑で選択肢が使いきれないのであれば、せっかく与えられた自由を享受したことにはなりません。Work x Dでシステムをつなぎ合わせることで、ワーカーがどんどん便利に働いていける世界をつくっていければと考えています。

下笹:私たちは今、オフィスの面倒をまとめて解決するためにWork x Dでシステムとオフィスをつなげる段階にいます。今後は、そこから得られた情報をビッグデータとして解析し、ファシリティマネジメントに活かしてオフィスの最適化を図っていきたいと考えています。さらに、働き方をより快適にするためにさまざまなサービスをつなげ、人をつなげることでワーカー一人ひとりの能力を最大化したいと思っています。

おわりに ~氾濫と決壊~

日頃持ち歩いているカードがどれだけあるのかを財布を開けて調べてみました。交通系のカード、銀行のカード、クレジットカード。運転免許証、映画館の会員カード、自販機で煙草を買うときのカード、そして会社の施設に入退館するときに使う社員証。これでも人よりも少ないのかもしれませんが、年々増えることにうんざりしてしまいますし、用途に応じて出し入れするたびに面倒くさい思いをしている私です。

システムについて言えば、公私で利用しているシステムの数は数える気にもならないほどたくさんあります。IDとパスワードは多くなりすぎて私の頭は飽和状態。というよりも既に崩壊しています。すべてのシステムがコネクトされ、本人認証はオール「顔パス」。少し怖い気もしますが、ゆくゆくはそうなってもらいたいものです。

今、いろいろなシステムに入るときに費やしている時間は僅かなものかもしれませんが、それが積み重ねればそれなりな時間になるはず。その時々に感じる違和感やイライラの蓄積は、私たちのパフォーマンスを損ねているに違いありません。せめて仕事で使うシステムとそれに関係するハードウェアはひとつのプラットフォームに乗っていて、これから使うことをことさら意識することなく使えるようになるといい。そこにあることを利用者が忘れている。でも使うときはスッと入ることができる。そんなストレスフリーな環境で仕事がしたいものです。

ちなみに私は「マイナンバーカード」はまだ持っていません。これ以上カードを増やすのが嫌だからではありません。念のため。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回お会いする日までごきげんよう。さようなら!(鯨井)

登壇者のプロフィール

-石政健人(いしまさ・けんと) 株式会社ビットキー CXO Office Manager of Business Development
ビットキーにてセールス・カスタマーサクセスを担当後、Workspace事業部においてオカムラとのアライアンスを担当。Work x Dのつくる「働く空間」の価値を広く伝えるために、オカムラとの共同開発、マーケティング、共同提案に参画している。

-下笹洋一(しもざさ・よういち) 株式会社オカムラ マーケティング本部 Work x D開発部
大学卒業後、綜合警備保障株式会社に入社。自律移動型警備ロボットの研究開発に従事し、警備システムの開発や、社内システムの更新・運用などに携わった。2019年よりオカムラに入社し、現在は「オフィスの面倒をまとめて快適にする」Work x Dの担当として従事している。

-庵原悠(いはら・ゆう) 株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 WORKMILL X UNIT デザインストラテジスト
既存のデザイン領域を越えた価値創造のためのクリエイティブメソッドや共創の場づくりの研究を行いつつ、それらを活かし、製品開発やイノベーションセンター、コワーキングスペースなどの空間設計、領域横断プロジェクトの発足、新しい組織の働き方のコンサルティングなど、さまざまなデザイン・コンサルティングプロジェクトに携わる。慶應義塾大学SFC研究所 訪問研究員、 中央大学 非常勤講師(2018年)。

2021年3月4日更新
取材月:2021年1月

テキスト:鯨井 康志

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