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変革するWeWork、リスク回避のIWGなど ― 世界のフレキシブルスペース事業者の今

新型コロナのパンデミックの影響により、多くの企業がリモートへ移行した。CBREの調査によると、オフィススペース市場では2021年にかけリーマンショック以来の不況が予想される。働く場の提供を生業とするフレキシブルスペース業界は大きな打撃を受け、事業者の倒産や規模の縮小などのニュースが相次いだ。世界のフレキシブルスペース事業者は今どのような状況で、どう模索しているのか?

WeWork

2010年にサービスを開始して以来快進撃を続けてきた業界最大手、WeWork。一昨年から経営不振やコロナによるユーザーの減少などが続き、以前ほどの勢いはなくなっている。

ーLink Square Shinjuku オフィス WeWork 公式ウェブサイトより

2020年度にはプレオープンまたは不採算のものから世界中で100以上の店舗閉鎖を余儀なくされた。また、ニューヨークでのロックダウン中の事業閉鎖後も家賃を請求されたとして元テナントから訴訟を起こされるなどパンデミックにより散々な目にあった。

一方でコロナ禍はまさに変革の機会になったとも言えるのではないだろうか。パンデミックに順応するためWeWorkがとった新しい方針のいくつかには、従来のシステムの改善とも取れるものがいくつかある。例えば、これまでの会員限定だったサービスプランではなく、メンバーシップのいらないオンデマンドや、オールアクセスパスなどの選択肢を提供しよりオープンな仕組みへと変更している。

さらにWeWorkは、教育機関と提携し、学校外で学生が勉強できる場を提供するなど、以前と異なったやり方でサービスの幅を広げようとしている。実際に変革の成果は出ているようだ。昨年8月に北米大陸限定で開始された新しいオンデマンドシステムの利用者は、今年に入ってから予約数65%増、収益は70%増となっている。

Knotel

2015年創業の大手コワーキングスペース事業者Knotelは、一時期ライバル社のWeWorkも凌駕するほどのスピードで業界トップクラスまで上り詰めたものの、現在では経営は順調とは言い難い。今年2月に破産申請を行い、その資産を投資家で商業不動産仲介会社のNewmarkが7000万ドルで買収すると発表した。

ーKnotelのフレキシブルデザイン Knotel プレスリリースより

パンデミックの影響による倒産だと思われがちだが、実際のところKnotelはコロナ以前から既に訴訟や立ち退きなど複数の問題を抱えていたらしく、同社の連邦破産法適用申請は避けられなかったと考える業界関係者もいる。また、2020年には複数のテナントオーナーから訴訟を起こされており、ロックダウン時にオフィスが空になったときに家賃の支払いを止められたと主張する者もいる。パンデミックが始まった直後の2020年3月、Knotelは従業員の30%を解雇し、さらに20%を一時帰休させた。

NewMarkによる買収を受けて、これからどのような再生を図るのか、目が離せないところである。

Hera Hub

2011年にアメリカで創立された女性起業家向けのコワーキングスペースを提供する企業、Hera Hub。現在全米に6つの拠点を持っており、2015年にビジネスモデルのライセンスを取得して以降、事業の躍進はコロナ禍でも続く。パンデミックによりスウェーデン支部の閉鎖を余儀なくされたものの、現在サンホゼやソルトレイクシティといったアメリカの主要都市への事業拡大の計画が着々と進められている。

ーHERA HUB SORRENTO VALLEY HERA HUB公式サイトより

パンデミックにより全テナント閉鎖に追い込まれたThe RiveterThe Wing といったライバル同業者がコロナ禍で低迷している一方で、Hera Hubはビジネスを好調に維持している。その秘訣は、女性に焦点を当てた独自の「豊かで協力的な文化」だ。自身も女性起業家である経営者のフェレナ・ハンソン氏率いるHera Hubは一般的なコワーキングスペースの提供だけでなく、女性起業家向けコミュニティの提供やセミナーなどの開催も定期的に行っている。そういった包括的なサービスが、コロナ禍においても安定したニーズを保てている一つの要因だろう。

リモートワーカー向けのソーシャルな場へのコンセプト変更が多く見られる同業他社と比べ、HeraHubはあくまで女性起業家の育成、エンゲージメントに重点を置き続けている。一時的なトレンドに左右されない、創業当初からの一貫した経営方針も強みになっている。

IWG

1989年創業でイギリスに本籍を置く、RegusSpacesといったフレキシブルスペース企業の親会社、IWGも業界の中でコロナ禍において非常に優秀に立ち回っている企業の一つである。2020年5月には3億9,000万ドルの資金を調達する意向を明らかにし、世界各地のオフィス拠点を倍増させると発表した。コロナ以前にはWeWorkのようなスタートアップ企業に押し負けていたIWGであったが、昨年6月にはWeWorkから香港の銅鑼湾(コーズウェイベイ)地区にある3万平方メートルのスペースを譲り受けた。

ーRegusのスペース例 Regus 公式ウェブサイトより

同社はリスクを分散したビジネスモデルにより、コロナ禍においても事業拡大やテナントオーナーへの大幅な割引を行えている。例えば複数のフランチャイズの所有は、急速な業績成長は見込めないものの、運営リスク軽減において非常に影響が大きい。

世界の主要都市にテナントが集中するWeWorkと比べ、IWGのフランチャイズは、地方都市や郊外の市町村や島々などにも多く拠点を持つことを可能にしている。実際、人口の多い都市部の行動制限が続くパンデミック下において、これらの遠隔地にあるオフィスはIWGの安定した業績に大きく貢献している。

リモートワークが主流になり、世間ではオフィスの存在意義が疑問視されつつある。しかし、IWGのブログによると、同社CEOマーク・ディクソンはコロナ禍でも自社ビルの稼働率は向上しており、今後もセンターオフィスの需要は尽きないとしている。ポストコロナ の新しい働き方として英国内で注目されるリモートとリアルとを組み合わせたハイブリッドワーク。このトレンドは企業が都心に本社を置く一方で地方や従業員の自宅近くに小規模なサテライトオフィスを構えるという「ハブ&スポークモデル」の需要も加速させている。地方郊外のオフィスの必要性の高まりはIWGにとっていい追い風になるかも知れない。

Workbar

2009年創業のWorkbarは米国でWeWorkに替わるコワーキングスペースとして取りざたされて久しい。特に近頃経営不振が続くWeWorkとは対照的に、同社はボストン市近隣に構える16のオフィス拠点を一つも閉鎖することなく、安定した営業成績の拡大が続く。

ーWorkbar ARLINGTON   Workbar 公式ウェブサイトより

世界中にスペースを展開する同業他社と比較し、あくまでボストン市から20分圏内に留まる経営スタイルがWorkbarの大きな特徴だ。Workbarを使用する企業はワーカーにオールアクセスパスを配布することで、ワーカーはいつ何時場所を問わずワークスペースを利用できるというフレキシブルな仕組みになっている。

また、一つの地域に多くのワークスペースを設置することでコミュニティを強固なものにしている。リモートワークにより他人との繋がりを断たれ、孤独を感じるワーカーが急増する中で、こういった要素がWorkbarの根強い人気に繋がっているのではないだろうか。

 コミュニティに重きをおく一方で、Workbarは感染対策にも注力する。昨年からは、所有する各オフィスにカスタムメイドのクリーニングステーションを設置、除菌用UVライトや消毒液などの感染防止用のアメニティグッズへも惜しまず投資を続けている。また、いくつかの拠点ではコロナ前からのレイアウトを大幅に変更しオープンスペースを全てプライベートスペースへ改装するなど、コロナ対策の徹底ぶりが伺える。

そうした動きの背景には、やはり創業当時からの福利厚生、ウェルビーングへの意識の高さがあるだろう。2018年にはバックベイ地区の施設がコワーキングスペースでは初の WELL認証を受賞している。ユーザーが心地よく過ごせる環境づくりへの日々の努力がコロナ禍での経営を支えたのだろう。ボストンだけでなく、他の地域でのサービス展開にも期待したい。

未曾有の事態における安定、その鍵とは?

今回、フレキシブルスペース企業がどのようにパンデミックを乗り越え、今後どこに向かっているのかをまとめた。同じフレキシブルスペース業界の中でもフランチャイズを複数抱えるIWGなど安定した企業成績を保ち続ける者と、KnotelやWeWorkなどの雲行きの怪しい者のコントラストは非常に興味深いものであった。

前者は後者と対比して、より顧客に対して誠実であったと言えるのではないだろうか。WorkBarでは、社内だけでなく、拠点を持つ企業にも福利厚生を提供し、衛生面などにも重点的に力を入れ、利用者が過ごしやすい環境づくりを徹底している。IWGのRegusはテナントオーナーに特別な条件なしに割引を提供し、Hera Hubは一時的な流行に流されることなく従来のテーマを貫いている。

コロナ後にフレキシブルスペースは必要か?

今後、コスト削減のため、リモートメインに切り替え、恒久的にセンターオフィスや本部を閉鎖する企業もあれば、不要なオフィススペースを捨てて、より柔軟で予算に合った形を選ぼうとする企業もあるだろう。そういった企業に対し、コミュニケーションやエンゲージメントの場を与え、またフレキシブルで場所や時間に縛られないワークプレイスとして機能するフレキシブルスペースの需要は加速していくのではないだろうか。

コロナにより多大な打撃を受けたフレキシブルスペース業界であるが、コロナ後、過去最大の需要を得る可能性を秘めている。目まぐるしく変化していく情勢の中で、それぞれのフレキシブルスペース事業者がどのように適応し、新たな価値提供していくのか、今後も注視していきたい。

2021年9月30日更新

テキスト:松尾舞姫