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会社と個人の狭間でゆれながら、すこやかに事業を生み育むポイントとは?(東海旅客鉄道株式会社・吉澤克哉さん、サイボウズ株式会社・前田小百合さん)

2026年8月21日、『マイプロジェクトが会社ゴトになるまで。サイボウズとJR東海に聞く!!新規事業のすこやかな育て方~会社でも「もっと、ぜんぶで、生きていこう。」イベント×連載シリーズ〜』が開催されました。

シリーズ4回目のテーマは「新規事業の育て方」。ゲストに東海旅客鉄道株式会社の吉澤克哉さんと、サイボウズ株式会社の前田小百合さんをお迎えし、新規事業をどのように育んできたのかをじっくり伺います。

モデレーターを務めるのは、森みたいな株式会社 代表取締役で「コアキナイ」という“らしさ”をいかした社会プロジェクトに取り組む嶋田匠さんです。

“あえて”JR感を出さないつながり方からのスタート

最初にお話いただいたのは、東海旅客鉄道株式会社の吉澤克哉さん。2023年から共創人口創出事業「conomichi(コノミチ)」の運営を行っています。

吉澤

みなさんは「関係人口」という言葉をご存じでしょうか?

旅行でその地域に訪れる人々を「交流人口」、その地域に住む人々を「定住人口」、この交流・定住だけでなく地域と何かしらの関わりを持っている人のことを「関係人口」と呼んでいます。

吉澤克哉(よしざわ・かつや)。2016年入社。東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部 係長・conomichiプロデューサー。2023年には3人の有志で始めた会社非公認ワーキンググループから、沿線地域の共創人口を創出する「conomichi」を事業化した。

吉澤

「conomichi」は、この関係人口を増やす仕掛けになれればと2023年6月に、社内有志で始めたプロジェクトです。

2022年頃から実証実験をスタートし、2023年の事業開始以来、34地域で5000人以上の方々と関係人口を創出してきたのだそう。環境省 第13回グッドライフアワードやグッドデザイン賞、国のモデル事業などにも採択されている。(提供画像)

吉澤

社内の認知度も上がり、会社の資料でも「関係人口」という言葉が使われるようになったのは、ひとつの成果だな、と感じています。

現在はそこから一歩進んで、地域資源や営みを自分ごととして育んでいける「共創人口」の創出に力を入れています。

里山や自然との関わりから都市で暮らす自分たちの生き方を考える講座「里山LIFEアカデミー」など地域の魅力を「再読」できる催し物がたくさん!(提供画像)

吉澤

振り返ってみると、「conomichi」スタート時にはあえてJR感を出さないようにしていました。というのも、全ての地域からJRが関わることを歓迎されるとは限らなかったからです。

たとえば、住民の方から駅や鉄道の運営に対して否定的な意見をいただくこともあります。社内の調整も一筋縄でいかない面もあるので、始めたばかりのころはあえて駅がない地域で企画を実施したりもしました。

吉澤さんがスタート時から大切にしている「風の人(地域外の人)」と「土の人(地域住民)」の考え方。この2つの人たちをどのようにつなげていくかを考えながら事業を営んでいるそう。(提供画像)

吉澤

開始から3年が経過した現在、プロジェクトのフェーズも変わってきました。

地域からお問い合わせいただくことが増え、会社の色を出しても影響なく進行できるようになりました。

特に日本の大動脈と言われている東海道新幹線を運営するJR東海として、「conomichi」は地域に眠る価値を循環させていく静脈のような役割を担っていければと考えています。

実は「0→1」に苦手意識がありました

続いては、サイボウズ株式会社の前田小百合さんです。2023年12月に小学生のための新たな学び場である「サイボウズの楽校」というフリースクールを開校し、3名のスタッフと共に運営を行っています。

Evoto

前田

私は大学生と中学生と小学生の母でもあります。2020年、次女が突然「学校に行きたくない」と話したことから教育への関心が高まったんです。

それで、ソーシャルデザインラボ略して「そでらぼ」に異動しました。「そでらぼ」は、サイボウズ流のチームワークによって多様な価値観の人が安心して暮らす社会実験を行っている部署です。

前田小百合(まえだ・さゆり)。日本IBMに勤務後、2018年にサイボウズ株式会社に営業職として入社。営業職との兼務で学校の働き方改革(学校BPR)のプロジェクトに関わる。2023年12月にサイボウズの楽校を立ち上げ、楽長として運営している。

Evoto

前田

サイボウズは「チームワークあふれる社会を創る」というパーパスを掲げる会社です。

それにともなって5つの文化も定義されているのですが、自分たちが主体的に行動することを後押ししてくれる文化が根付いているんです。

サイボウズの企業理念。「うちのパーパスは全社員が共感して入社してくれている」と前田さん。時代に合わせてブラッシュアップもされているようで、社員の声に耳を傾けて、最近も改変されているとのこと。(提供画像)

Evoto

前田

そういう文化もあり、「そでらぼ」では「サイボウズの楽校」立ち上げ以前より、kintone(キントーン)を活用したフリースクールの課題解決提案なども行ってきました。

ただ、先方の事情もありなかなか難しい。であればもう一歩踏み込んで、2023年に「じゃあ、私たちがフリースクールを作ってみよう」と開校することになりました。

オープンしたばかりの楽校の様子(提供写真)

Evoto

前田

現在は私が楽長として週2日ほど楽校に登校しながら、3名のスタッフと共に運営を行っています。

会社と教育現場とをうまく結びつけていきながら、このモデルを横展開できるように取り組んでいきます。

Evoto

前田

ただ、私自身はずっと「0→1」への苦手意識があって。

前職がシステムエンジニアだったこともあり、完成していないものを納品することに抵抗があって……。

「サイボウズの楽校」ができるまでにはたくさんの試行錯誤があったのだとか。(提供画像)

Evoto

前田

ただ、私の上司は「エフェクチュエーション」の考え方が好きで。「行動しながら目的を作り続ける」という手法で進めていくことで、プロジェクトを後押ししてくれました。

それで、少しずつ不確実性が高い時でも一歩が踏み出せるようになりました。

新規事業の“いい”生まれ方、“いい”育て方ってなんだろう?

ここからは、モデレーターの嶋田匠さんも交えながらクロストークが行われました。

嶋田匠(しまだ・たくみ)。2015年、リクルートキャリアに新卒入社。2018年に日替わり店長の「ソーシャルバーPORTO」を開業。その後リクルートキャリアから独立。2019年から「コアキナイ」というエコシステムを主宰。

嶋田

今回のテーマは「新規事業の育て方」ですが、育て方の前に「生まれ方」について伺いたいと思います。新規事業の“いい”生まれ方ってどんなものでしょうか?

吉澤

僕は「自分に主導権があるかどうか?」で面白さが変わると感じています。

「conomichi」の前にも新規事業の立ち上げを経験したのですが、2年くらいで自分の興味が行き詰まってしまって……。当時、「自分が面白いと思えるのはここまでかな?」という天井が見えてしまったんです。

「conomichi」の場合、自分のやりたいことが基軸にあるので、どんどんアイデアも湧いてきますし、今でも「面白い」が尽きません。

嶋田

自分の「やりたい」とつながって生まれた新規事業だと、自然とアイデアも湧き上がってくるんですね。

Evoto

前田

わかります!

自分の力を発揮できる方が、伸び率がいいですよね。新規事業って少人数でスタートするので、人を巻き込んでいかないと進みません。

うまく人が重なり合える状況にしておくと、いいのかも。共創人口の話とも少し似ていますね!

吉澤

たしかに。そういえば「新規事業たるもの賛否両論がないとダメだ!」って言われたことがありまして……。

賛成も反対もどちらもあることが大事というのは、「生まれ方」では意識していた部分です。

Evoto

前田

賛否両論……。私も本部長会議で事業の進捗発表をするのが「嫌だな〜」と思っていたんですよ。

「今月はこれだけ赤字です」なんて、言いたくないですから。みなさんも嫌ですよね?(笑)

吉澤

そうですよね(笑)。

Evoto

前田

でも、上司は「赤裸々に出していこうよ」って言うわけです。

怖い気持ちはありますが、ありのままを報告して「〇〇について、助言をいただけるとうれしいです」と相談すると、建設的な意見やコメントをもらえるようになりました。

吉澤

まちづくりの現場でも、いろんなことが決まった後に「これです」って伝えると反対意見がたくさん出てきてしまうんです。

でも、「どうしていきましょうか?」と相談すると住民たちが考える側、つくる側にまわってくれます。「進めるプロセスをオープンにしておく」というのは、どの場面でも大事なのかもしれませんね。

嶋田

たしかに、大切なポイントなのかも……。

次に、新規事業の初期段階で意識していたことを教えてください。上司や顧客など、関係する人たちにどう伝えていったんですか?

Evoto

前田

「チームワークあふれる学校を一緒に作っていきたい」というサイボウズの楽校のコンセプトを発信して、共感する人に集まってもらえることは意識していました。

ただ、「サイボウズなのに小さい学校なのね」と保護者の方に指摘されたこともあります……(笑)。

でも、私たちは学校を大きくするよりも、「小さい学校がたくさん生まれればいいな」と思っていて。そうやって、みなさんが欲しいものと私たちができることをフラットに共有していくことはやってきましたね。

吉澤

僕はとにかく「やれます」「やります」を言い続けていた気がします。

自治体のみなさんの話をとにかく聞きに行っていたので、そこで聞いた言葉や情報は社内での説得材料になりました。

「〇〇という意見がありました。それを踏まえて、自分はこれをやりたいです」というように、意識して切り分けて伝えていたように思います。

嶋田

新規事業の“いい”育ち方についてはどうですか?

吉澤

僕が“いい”と思うのは、決めすぎないこと。事業と一緒に自分自身も成長するので、最初に決めたことと乖離が生まれるんですよね。冒頭でお話した「大動脈」と「静脈」もこの前生まれたばかりでして(笑)。

決めて、動かしていくことは事業にとって大切なプロセスです。でも、「決めたことを変えていいルールにしておくこと」が新規事業を育てる上では大事なのかな? と思っています。

Evoto

前田

事業だけでなく関係する人間の幅も広がりますからね。言葉にすれば共感する人が増えてくるので、プロジェクトメンバーと共に自分たちの幅も広げていく。

評価というか……、感想をもらいながら事業を育てていくと、振り返った時にちゃんと道ができていて、そこにストーリーが寄り添った事業になるのかな? と思います。

新規事業のお悩みは、複雑で多様! ディープな議論が繰り広げられる会場

イベントの後半は、3名の登壇者が参加者と話せるテーブルトークが行われました。

「新規事業は孤独で……。どうやったら仲間を見つけられますか?」
「アイデアの種はどこから見つけているんですか?」
「お金と事業のバランスに悩んでいます……」
「自分だけモヤモヤしてしまって、なかなか事業が前進しない」
「人を巻き込むってお話がありましたが、どうやったらいいの!?」

など、各テーブルでは時間たっぷり、ディープな意見が交わされていました。

参加者さんのお悩みに、登壇者と同テーブルのみなさんが議論する「お悩み相談会」になっているテーブルも

「実はこの新規事業は、異動をしないために立ち上げたんですよね」と吉澤さん。ここだけの話や裏話もたくさんお伝えいただきました!

「風土」の作り方について議論する前田さん。新規事業が生まれやすい環境をどう社内で醸成するかは、頭を悩ませる部分です。

テーブルトーク後には、本日の内容を振り返りながら、改めて新規事業の“すこやか”な育て方について話されました。

吉澤さんは「温室で手厚い支援のもと育てることは、すこやかなのか?」とぽつり。この一言から議論が盛り上がり、再びトークへ!

吉澤

「どう人を巻き込んでいくか?」にお悩みの方も多かったですね。

いろんな人と出会い、紆余曲折を経験し、ちょっぴり怪我をしておくくらいがすこやかな育て方なのかもしれませんね(笑)。

Evoto

前田

自分の中に正解がないと、流されてしまいますよね。

だからこそ、自分自身がすこやかなあり方、働き方を意識しておくことも大事です!

始まる前は新規事業への不安を抱えていた参加者のみなさんでしたが、とびきりの笑顔でご帰宅される様子が見られ、新しい価値観をインプットできたイベントになったようです。

『会社でも「もっと、ぜんぶで、生きていこう。」イベント×連載シリーズ』、次回開催が決まり次第、またWORK MILL上でお伝えします。どうぞお楽しみに!

2026年8月取材

執筆=つるたちかこ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)