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同じ場所は、二度とつくれない。東急・岩田健太さんの考えるコミュニティ開発

会社の外で、自分のやりたいことを形にしている人がいます。ただ、それを会社の中の仕事にまでうまく接続できている人となると、そう多くはいません。

東急株式会社の岩田健太さんは春まで渋谷スクランブルスクエア15階にある会員制の共創施設「SHIBUYA QWS」のコミュニティマネージャーを務めながら、2026年4月からは社内起業家育成制度を使って、東急株式会社の中で共創推進・コミュニティ開発を担う新しいチームを立ち上げました。そして、副業として下北沢・世田谷代田でシェアハウス「まちのば」を運営しています。

大規模な沿線開発と、住民8人規模の暮らしの場。両極にある2つの現場を行き来してきた岩田さんに、場づくりに共通するもの、そして会社の中で個を活かすためのヒントを伺いました。

岩田健太(いわた・けんた)
東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 共創推進・コミュニティ開発事業 事業責任者。新卒で東急に入社し、人事部門、官民連携によるインフラ事業の開発を経て、2022年より共創施設「SHIBUYA QWS」のコミュニティマネージャーを務める。2026年4月より現職。副業として2023年に「まちの株式会社」を設立し、下北沢・世田谷代田でシェアハウス「まちのば」を運営している。

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下北沢の住宅街の中に雨宿りやお祭りができるスペースが!

今日は、下北沢の「まちのば」に来ました。

住宅街の中を歩いてきたのですが、いきなりすごくオープンな場所がありますね。岩田さん、今日はよろしくお願いします!

Evoto

岩田

こちらこそ、よろしくお願いします!

なんだか、面白い場所ですね……。ここでちょっと休んだり、本を読んで行ったりしてもいいんですか?

Evoto

岩田

はい。建物はシェアハウスなんですが、1階部分はオープンスペースになっていて、雨宿りやちょっとした休憩所として誰でも使ってもらえます。

オープンスペースには、自由に読める本が何冊も置かれています。畳があるのも嬉しいポイント!

Evoto

岩田

まちのばは、「まちで何かしたい」人たちが好きなことや得意なことをシェアしながら、地域と繋がっていける場を目指して始めました。このスペースを使って、ポップアップイベントをすることもあるんですよ。

会社の新規事業と、副業のシェアハウス

改めて現在、岩田さんがどのような活動をされているのか、全体像を教えていただけますか?

Evoto

岩田

大きく2つあります。1つは新卒からずっと所属している東急株式会社です。今は新規事業を担当しています。

もう1つの活動が「まちのば」です。こちらは副業で運営会社として「まちの株式会社」という法人をつくり、このシェアハウスを運営しています。建物をまるごと借りて、入居者に住んでもらったり、イベントをやったりしているんです。

まちのばの縁側には、ここでの活動やイベントスケジュールがわかる掲示も。

「まちのば」は、いつから始められた事業なのでしょうか。

Evoto

岩田

2023年10月です。もともと近くにあるSHIMOKITA COLLEGEという居住型の教育施設に住んでいて、そこで出会ったメンバーと自分たちでシェアハウスを立ち上げようと始まりました。

そして、東急の仕事としては2026年3月まで共創施設「SHIBUYA QWS」にいらっしゃったんですよね。

Evoto

岩田

そうです。出向という形で、共創施設のコミュニティマネージャーとして、場の運営や共創のための仕組みづくりをやっていました。

その時の経験を活かして、今の新規事業の部署につながっているという流れです。

言い続けていたら、道ができた

岩田さんが現在のような働き方に至るまでの経緯も教えてください。

Evoto

岩田

東急に新卒で入社した後は人事部に配属され、組織開発や社内教育、働き方改革などを担当していました。

副業解禁の制度設計にも関わっていて、僕自身も副業を始めることになります。

Evoto

岩田

そのあとは社会インフラ事業部に異動し、官民連携の仕事を3年ほどやっていました。

「国や県が持っている施設を民間で運営してください」という提案を民間企業の合同チームでやるんです。

そんなお仕事もあるんですね。

Evoto

岩田

当時の一番大きい仕事は、広島空港の民営化でした。三井不動産と東急、そして地元の広島の会社さん10社ほどと一緒に特別目的会社をつくって30年間運営します、という提案をする。

200ページくらいの提案書を数カ月かけてつくって。それが通ったら会社をつくってください、と言われてやっていく。

だいぶ毛色が違いますね。

Evoto

岩田

でも、実はこれ「まちのば」でやっていることと同じで。オーナーさんに提案して、土地と物件をまるごと借りて、中身は自分たちでやる。自治体でいうと「コンセッション」というモデルなんです。もちろん、規模は全く異なるんですが。

だから僕が「まちのば」を始めるときも、「これは超スモールコンセッションだな」と思っていました。

なるほど、共通点があったんですね。ちなみに、異動はご自身で希望されたんですか。

Evoto

岩田

いえ、会社からの辞令です。ただ、「事業をやりたいので、お金を稼ぐ経験をさせてください」とずっと言い続けていました。

その後のQWSへの出向は自分の希望です。とはいえ、出向なので、いつかは戻らなきゃいけない。じゃあ、「戻ってから何をする?」と考えたときに、会社の今ある部署の中に「これをやりたい」と思える選択肢がなかったんです。

だったら「これまでやってきたことを一番活かせるポジションを自分で提案しよう」と考えました。

それが新規事業だったのですね。

Evoto

岩田

はい。

東急には、社内起業家育成制度があって、社長にプレゼンして承認されれば、専任で事業検討が認められるんです。その提案が通り、異動しました。

具体的にどのような新規事業を?

Evoto

岩田

東急グループの中に、場づくりや共創を進めていくための専門チームを作ろうとしています。私たちは、渋谷や二子玉川をはじめ、沿線のいろいろなエリアで場づくりを行っています。

ただ、そのノウハウは現場を担当した人だけにとどまっていることも多くて……。グループ内にコミュニティ運営のノウハウはあるのに、バラバラに散らばっているという課題があるんです。

なるほど。

Evoto

岩田

だからこそ、僕は東急グループに「この地域で場づくりをしたい」という問い合わせが入ったとき、「こういうつくり方ができますよ」と提案できるハブ役になろうとしています。

すでにノウハウを持つ社内でのさまざまな人たちの力を借りながら、ハードから実際のソフト面の運営までを伴走できるチームをつくりたいんです。

同じ場所は、二度とつくれない

QWSとまちのば、全く違う2つの場を運営される中で、共通して見えてきたものはありますか?

Evoto

岩田

最近やっと言語化したのですが……、場づくりには必ず「文脈」があるんですよね。

「まちのば」の場合、下北沢という立地があって、地主で物件の所有者であるオーナーさんがいて、そこに場をつくりたい僕がいる。しかも、SHIMOKITA COLLEGEなど下北沢の中につながりが存在している。

これら関係するものすべてがベン図の円だとすると、全部が重なった真ん中の部分が「文脈」に当たると思っているんです。

なるほど。一つでも違ったら、別の「文脈」が生まれるんですね。

Evoto

岩田

はい。これまで「QWSのような場をつくりたい」といった相談をたくさん聞いてきたのですが、なかなか真似してできるものではありません。

QWSは、人やカルチャーが集まる渋谷の再開発の中で、「社会貢献ができる場所をつくる」というコンセプトがあった。さらに、東急とJRが運営するという条件が組み合わさって、どういう場所を作るのがベストなのかを考えた結果、生まれました。

この場所だから、QWSが生まれたんですね。

Evoto

岩田

はい。だから、僕らとしても「QWSと同じものはできないので、カスタマイズしながらご自身でつくらないといけないですよ」と伝えるんです。

「文脈」をちゃんと理解し、その上で何が必要なのかを考える。そこで初めて、ハードとソフトの要件が決まっていくんです。

とはいえ、「文脈」が見えても、場づくりは誰でもできることではないと感じます。知識やスキルをどうやって身につけてこられたのでしょうか?

Evoto

岩田

実体験とインプットの2種類があると思っています。

実体験は、大学までずっとラグビーをやっていたので、合宿しながらみんなで過ごしたこと。そして、新卒1年目に同期で寮生活をした経験が大きいです。

この共同生活によって生まれるいいものと、逆にストレスになるものが、実感として自分の中にありました。

インプットのほうは?

Evoto

岩田

学生時代にラグビー部でチームビルディングをしていたのですが、人事になってから組織開発を体系的に学んだ時、「あれはこういうことだったんだ」と説明できるようになったんです。

同じことが空間づくりでも起きていて。「なんとなく良かったよな」という実体験がベースにあった上で、場づくりや都市計画についてインプットする。すると「こういう要素があるから楽しいんだ」と自分の中で説明がつくようになったんです。

説明できるからこそ、人に「じゃあ一緒にやりましょう」と言えます。

属人性は、排除するのではなく場に宿す

今までのお話を聞きながら、「岩田さんだからできたのでは……?」と感じる人もいるかと思います。場づくりと属人性については、どう考えますか?

Evoto

岩田

属人性をどれだけ排除するか、という動き方もあるんですけど、僕はむしろ逆で。「この人がいるからできる」というのは合っていると思うし、僕自身はそれでいいと思っているんですよ。

たとえば、「まちのば」も、僕がいなきゃできないと思っています。もし僕じゃない人が作ったら、それは「まちのば」ではない。

それも一つの文脈なのかもしれませんね。

Evoto

岩田

だから、むしろ属人性をどれだけその場所に反映できるかについて考えています。

フォーマットや仕組みはある程度あると思いますが、そこでしかできないものと運営する当事者の視点をちゃんと入れることが大事なのです。

岩田さんは、まちのばでの活動をまとめた「まちと暮らし」というZINEも制作。自分たちの活動の文脈も、記録し言葉で残している。

Evoto

岩田

社内で「それって岩田がいないとできないんじゃないの?」と言われることがあるんです。

でも、「僕は全部を全部やりきるんじゃなくて、そこに必要な人を当てはめる役割なんです」という言い方をしています。最近は、「プロデューサーに近いかもな」と思っています。

Evoto

岩田

たとえば、このエリアでコミュニティを作りたいという話があったら、必要なプロセスは示しつつ、その土地にすごく思い入れのある人を社内から探してアサインするなどのチームビルディングをやる。

そのあとはプロジェクトマネジメントをしながら、その人たちが自分の思いを場に発揮できるように支え続ける。これが、自分の役割だと思っています。

いい場所をつくりたい人へ知識を届けられる人に

最後に、今後の野望を聞かせてください。

Evoto

岩田

世の中にもっといい場所が生まれてほしいと思っているんです。

組織にも地域にも、強い想いのある人はたくさんいます。だからこそ、その人たちが望む場所をつくるための武器やスキル、知識をちゃんと届けられる人になりたいんです。

そうしたら世の中に、場所に想いを持ち、責任を持って場をつくり続ける人が増えていくはず。「自分はこの場所が好きで、生きがいとしてやっているんです」という人がもっと出てきたらすごく嬉しいですね。

規模を大きくする、という方向ではないんですね。

Evoto

岩田

一気に数千人に対してアプローチすることはすぐにはできませんから。

でも、小さなコミュニティを立ち上げる人を数十人支援できたら、その周りにいる多くの人たちが幸せになるんじゃないか……とは思っています。

小規模のコミュニティを作りたい人たちがいい場所をたくさんつくったら、自分も楽しいし、その人たちも楽しいし、周りの人たちも楽しい。そういう社会になるといいですよね。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
初めてお会いしたときから、その後のメッセージのやり取りに至るまで、醸し出す雰囲気が柔らかく、それでいて、やることはやる!決めたことはやりきる!というぶれない芯を持った、とても魅力的な方だなと感じました。
大企業ゆえに避けられない制約もありながら、一方で、大企業だからこそ、その組織の仕組みを上手にハックしながら、ご自身のキャリアを自らの手で切り拓かれているようにも感じました。
「コミュニティ」や「共創」という言葉が世間に広く浸透し、その意味するところが少しずつ曖昧になってきている昨今。だからこそ、ご自身の意志をしっかりと持った岩田さんが導く、これからのコミュニティ開発のあり方に、とても興味津々です!
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)

2026年9月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト