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社内からいいアイデアを生むにはどうすればいい? サッポロビールとNTTデータの新規事業サポートコミュニティに聞いてみた

新しいビジネスを生み出したい。多くの会社がそう願い、さまざまな取り組みをしています。しかし、新規事業がうまくいく確率は10%といわれる厳しい道のり。どういうことから挑戦していけばいいのでしょうか。

2024年7月30日、新規事業のアイデア創発ワークショップ「サッポロビール×オカムラ×NTTデータ BDS Field Trip」が、共創空間Seaで開催されました。

ともに取り組んだのは、社内の新規事業を促進する役割を担う、NTTデータ「BDSコミュニティ」とサッポロビール「WONDER WORKS」のメンバーの皆さん。

社内から新規事業を生み出すには、どのような取り組みが必要なのか、社内から新しい事業を生みだすために必要な工夫は何か。2社の裏側と実際のイベントの様子をレポートします。

新規事業を促進するコミュニティは、なぜ生まれたか

皆さんが運営されている、新規事業を促進するコミュニティや取り組みの立ち上がった経緯を教えてください。

小木曽

NTTデータのBDS(ビジネスデザインスプリント)コミュニティは、新規事業開発に関心がある社員が自発的に集まるMicrosoft Teams上の社内コミュニティです。

新規事業やイノベーションに対して社内で機運が高まったことがきっかけで、2020年11月に発足しました。現在は1000人を超える参加者がいます。

小木曽信吾さん。NTTデータで社内新規事業コミュニティ「BDSコミュニティ」を運営する。今回のワークショップではイベントのメインファシリテーターを担った。さまざまな企業に新規事業の支援や研修なども提供している。

小木曽

既存事業の部門で新規事業に取り組む担当者は孤独なんですよね。

共通の悩みも多いので、コロナ禍でリモートワークになったこともきっかけになり、コミュニケーションを取れる場として認知が広がりました。

ダイアグラム

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BDSコミュニティの月間アクティブ率は、なんと約90%に及びます。(提供画像)

橋爪

サッポロビールが実施する「WONDER WORKS」は、経営陣の「チャレンジしたいことに挑戦できる会社にしていこう」という決定から始まった取り組みで、2023年11月に正式に発足しました。

飲酒人口が減っている現代で、お酒に新しい価値を生み出すにはどうしたらいいか。現状を打破するためにも、新規事業に積極的に取り組める社風を作っていきたいと思っています。

橋爪巧さん。サッポロビールで容器開発などを経て、2023年9月より新規事業「WONDER WORKS」の事務局へ。

具体的にはどういう活動をしているんですか?

「WONDER WORKS」では、月に1度、社内外の人を呼んで新規事業に関する講演会などを開いています。

オンラインとリアル開催の両方で、毎回約200名は集まるのですが、同じメンバーの参加が目立つので、すそ野を広げていくのが課題ですね。

テキスト

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「WONDER WORKS」では参加者層にあわせてアプローチの仕方を変えている(提供画像)

あと社内向けSNSの中で、既存事業の中で新しい取り組みをしている人にコラムを書いてもらうなど発信活動もしています。SNSの参加メンバーは100人くらいですね。

畑佳輝さん。静岡県でサッポロビールの営業を担当する。新卒時は人事部に配属された。WONDER WORKSの中では数少ない営業職のメンバーとして、現場と新規事業をつなぐブリッジの役割を担う。

小木曽

BDSコミュニティでも、社内外で新規事業に挑戦する人たちに裏側を語ってもらう「BDS Radio」というラジオ番組風のコンテンツなどを制作しています。

最近は、新規事業に関する悩み相談やアンケートやインタビューの実施といった調査プラットフォームとしてBDSコミュニティを活用してもらうケースも増えてきました。

運営メンバーが企画しなくても、参加者同士で助け合っていただけるようになってきましたね。

100人や1000人の社員が参加するコミュニティって、どんなふうに運営しているんですか?

小木曽

BDSコミュニティは、私を含めて5名で運営しています。

有志で始まったので、あまり気負いすぎず、それぞれが仕事の空き時間で活動していますね。

「WONDER WORKS」は、コアにコミットする事務局が3名、ほかには営業職や技術職など年齢も所属もバラバラの社員8名が社内副業として参加しています。

社内副業メンバーは、社内公募で集まりました。私もその一人で、営業職としてアルコールの消費量が減っていることを肌で感じていて、危機感を抱いたことから応募しました。

それに自分のキャリアを構築する上で、社内外の人と積極的に関わりたいと思ったことも理由です。

新規事業が形になるまでのフォローはどうする?

新規事業のアイデアは、どのように形になっていくんですか?

小木曽

BDSコミュニティは、あくまでアイデアを出して磨く探索フェーズに価値を置いているので、ローンチまで伴走することはありません。でも、それでは出口がないので、社内ビジネスコンテストと連携しています。

たとえば、社内ビジネスコンテストに参加した社員がBDSコミュニティを活用し、約1年半かけて「ロボット活用による現場業務変革サービス」を発表をしています。この社員はBDSコミュニティでアイデアの壁打ちやアンケート調査をしました。

社内のビジネスコンテストと連携したきっかけは何だったのでしょうか?

小木曽

社内ビジネスコンテストの担当者が、BDSコミュニティに入ってくれたことがきっかけですね。

社内ビジネスコンテストは回数を重ねるうちに応募数が減ってしまうことが良くあります。そこで、アイデアを作り、磨く場としてBDSコミュニティやコミュニティ主催のワークショップなどを役立ててもらっています。

なるほど。「WONDER WORKS」はいかがですか?

橋爪

当社も、2024年中に「WONDER WORKS」主催のビジネスコンテストを行う予定です。すでにアイデアがいくつか集まっているので、順調な滑り出しですね。

約5年前にサッポロホールディングスとして実施したビジネスコンテストでは、家族とのコミュニケーションで家事負担軽減と「食」の楽しさや喜び創出を目指す「うちれぴ」というサービスが始まりました。

その事業化をリードしたメンバーも「WONDER WORKS」に参加しているので、ビジネスコンテストの計画やフォローまでサポートできる予定です。

実際に新規事業立ち上げ経験のあるメンバーがいると心強いですね。

橋爪

そうですね。我々としては、まず「WONDER WORKS」の取り組みを社内で広く知ってもらうことと、ミドルマネジメント層の意識をより高めることを目標にしているんです。

ミドルマネジメント層の意識?

橋爪

部下にチャレンジを促す風土を現場から作っていくイメージですね。

来年はビジネスコンテストを通じて新規事業を盛り上げ、社内の認知を広げたいです。

最終的には、既存事業に従事しながら、一定の割合で新規事業に対しても考えを割く習慣づくりをしていきたいと思っています。

既存事業と新規事業の間にある溝をどう埋めるか

今のお話にもつながりますが、既存事業と新規事業に携わる人の間には、仕事内容の違いから認識に溝が生じることもあります。どうカバーしていますか?

橋爪

大きな課題ですよね……。新規事業のアイデアを出してくれる社員は優秀な人が多いし、既存事業としてはなかなか手放せないんだろうと…。

上司としても「思い切って、やってこい」とは簡単に言いづらい実情がありますよね。

小木曽

既存事業の社員が新規事業に取り組む場合、時間の配分は大きな悩みですよね。周囲の理解も得にくい中、新規事業に時間が取れないことも多いので、結果的に自分で時間のやりくりをしている方も多いと思います。

でも、会社としては、その働き方だとやりがい搾取になりかねないので、バランスが難しいです。

橋爪

とはいえ、新規事業への挑戦は、本来、既存事業のパフォーマンスアップにもつながるはずなんですよね。

その関係性を広く認知できたら、社内の雰囲気も変わるんだろうと思います。

小木曽

そうですね。新規事業は失敗することも多いですが、うまくいかなかったことからも学びはあるし、それが既存事業のどこかで役立つかもしれないんですよね。

会社としても、新規事業の促進が社員のエンゲージメントや成長に繋がる側面を重視して、もっと促していいと思います。自分がオーナーシップを持って考え、行動することで得られる学習と成長という観点で、十分意味がありますから。

橋爪

そう考えると、人事部の理解は大切ですよね。

「WONDER WORKS」はサポートメンバーに人事部も入っているので、頼もしいです。

橋爪

とはいえ、当社にもベンチャー企業への3カ月間の研修に率先して手を挙げるマネジメントもいて。

「挑戦するムードをつくろう」という人たちがすでにいるのは素晴らしいと思っています。

社会人として勤務年数が増えると、自社に対して理解が深まる分、外の世界に疎くなるところがあるので、現場レベルで視野を広げる取り組みはしていきたいですね。

小木曽

業務時間のうち20%で新しいことに取り組む」という会社もたくさんありますよね。

しかし、これまで既存事業にだけ取り組んできた人からすると、時間だけ与えられても何をすればいいのかわからないことが多いと思います。

そういう部分をBDSコミュニティや「WONDER WORKS」さんのような取り組みでカバーできるといいですよね。

小木曽

加えて、NTTデータにはBDSコミュニティの名前の由来にもなったビジネスデザインスプリント(BDS)という「新規ビジネス企画ドリル(問題集)」(※)があります。

そういったものを活用して、みんなで挑戦してみるのも面白いと思います。

※ビジネスデザインスプリント……新規ビジネス企画ドリル(問題集)は、NTTデータが「普通の会社員でもできる、新規ビジネス企画の第一歩」をコンセプトに開発をした、問いに向き合いながらアイデアを磨くメソッド。

3社で考えた、「お酒×はたらく」の新アイデア!

2024年7月30日(火)には、サッポロビール、NTTデータ、オカムラの3社でアイデア創発ワークショップを開催。各社から営業や企画など約30名が参加し、会社の垣根を超えて、新規事業に関する数名ずつのグループワークを行いました。

最終的なゴールは、参加者全員がそれぞれ「良さそう!」と思えるアイデアを2〜3つずつ持ち帰ることです。

今回のテーマは「お酒×はたらく」。まずは「Introduction」として、サッポロビールの畑佳輝さんとWORK MILL山田雄介編集長から、それぞれが専門とする「お酒」と「はたらく」を取り巻く環境やユーザーの変化について紹介しました。

ワークショップは完全にアナログ。パソコンやスマホ、タブレットを一切使わないというのも新鮮です。

インプットを終えたら、早速アイデア出しをスタートです。大きな流れとして、前半でアイデアを発散し、後半でクイックに収束していきます。

アイデアの発散、どこまで増やせる?

前半の発散で使うのは「フォースイノベーションメソッド」。オランダ出身のハイス・ファン・ウルフェン氏が開発した世界的に使われているメソッドです。本来は20週間かかる方法ですが、今回はその一部を体験します。

グループでは、まずアイデアをたくさん出す「Brain Dump」に挑戦。「お酒×はたらく」の「アイデア」をふせんに自由に書き出していきます。

・キーワードでシンプルに
・単語を組み合わせる
・具体的ではなくてもOK
・1アイデア1ふせん

このように考えやすくなるヒントが提供され、ふせんの枚数がどんどん増えていきます。

この時点で集まったアイデア数はなんと377!

次は、さらにアイデアを膨らませていく「If Apple Do」へ発展。あるシチュエーションを想定し、アイデアを広げていきます。

その視点は「もしあなたがアラブの石油王だったら?」など、とてもユニーク。組み合わせによって、普段は考えない意外な角度のアイデアも……? 

会場も盛り上がり、新たに157個のアイデアが登場。この時点で出てきたアイデア数はなんと合計534個まで拡大!!

どういう視点で収束させる?

ここからは収束のフェーズとして、良いアイデアを選び出す「Idea Pick」に入ります。「確実にウケそう」「自分が好きなサービスになりそう」「何か感じる……」などの視点から、好きなアイデアを1人3つ選び、グループに持ち帰ります。

そして、アイデアをまとめる「BDS Quick Work」へ。選んだアイデアを元に、NTTデータが提供するBDSのメソッドにあてはめて課題仮説を膨らませ、サービスやユーザーの体験を想像していきます。

皆さん、個人ワークに臨むのは真剣な表情……!

共創での新規事業、大変だけど楽しい!

最後に1アイデアにつき3分間で、出てきた案をグループ内で「Share」。生まれたての赤ちゃんのようなビジネスアイデアを、グループメンバーで優しくフィードバックしあいながら育て、グループとして発表するものを絞り込んでいきました。

各グループを代表して発表されたのは、「オフィス循環アルコールロボット」「アフターファイブ特化型ワークスペースシステム」「覆面ロボット・ファイトクラブ」など、字面だけでもワクワクするキーワードばかり。

正午から18時半までの長尺イベントでしたが、共創空間Seaの中には休憩時間も惜しんでさまざまな意見や質問が飛び交いました。最後の懇親会まで和気あいあいとした雰囲気の中、会は幕を下ろしました。

フォロワーや積極的な参加者を大切にしたい

ワークショップ、ありがとうございました! 想像以上にたくさんの、しかも個性的なアイデアが集まりましたね。

橋爪

ワークショップ、とても面白かったですね! 各社の参加者の皆さんからも思いがけないアイデアが沢山出て……。ぜひ、またご一緒したいなと思っています。

BDS Radioと「WONDER WORKS」で連携したいですね。

小木曽

ありがとうございます。ぜひぜひ、よろしくお願いします。

取材の最後に、改めて新規事業へ今後どう取り組んでいくのか、意気込みをお聞かせください。

橋爪

当社としては、まずは全体を底上げすることを目標としています。イノベーターやアリーアダプターといった層を対象にして、行動を引き出すことに注力したいですね。

その後からついてくる人が出てくれば、社内全体の風土も変わっていくだろうと期待しています。

小木曽

NTTデータには、なんらかの形で社会貢献したいと考える社員が多く、新しいことに興味を持つ社員も多いです。

一方で、BDSコミュニティには、投稿は読んでいるけど、発信はしないというシャイな社員が大勢います。けれど、それって、別に悪いことじゃないんですよね。彼らがいることで全体の盛り上がりにつながっていると思います。

小木曽

盛り上がりがあれば、面白いと思った人がチャレンジする雰囲気ができます。

大企業では、そういったフォロワーシップをリスペクトしていくことも大切なのではないでしょうか。

ありがとうございました! 

現実的なヒントがたくさんありました。これからも、どうぞよろしくお願いします。

2024年8月取材

取材・執筆=ゆきどっぐ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト