新しい大阪みやげを和菓子業界の未来の目玉商品に! 大阪・関西万博を機に生まれた「大阪ええYOKAN」開発の裏側とは
2025年に開催を予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きが目前に迫っています。
「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉える人が多いのでは?
その万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。
2025年に開催を控えた大阪・関西万博。日増しに期待感の高まるイベントに向け、普段は協働の機会が少ない地元和菓子店がタッグを組んで、新しい大阪みやげブランド「大阪ええYOKAN」の第1弾として、「パビリオン」というようかんを開発しました。これまでにないおみやげ文化の開拓を期待されるようかんの開発には、万博を勝手に盛り上げる「demo!expo」のメンバーが深く関わっています。
食いだおれの街と称されつつ、広島のもみじ饅頭や、京都なら生八ツ橋のような地域に密着した定番みやげが思い浮かびづらい大阪。そんな街にも、国内外から多くの人を集める大阪・関西万博の開幕が日に日に近づいています。
そこで、大阪の顔となるおみやげをつくるべく手を取り合ったのが、地元の和菓子業界です。明治20年創業の老舗・髙山堂の竹本洋平(たけもと・ようへい)さんを発起人に、大阪みやげの新ジャンルを開拓する「あたらしい大阪みやげ計画」が動き出したのは、2022年秋のことでした。約半年の試行錯誤を経て誕生したのは「大阪ええYOKAN」と名づけられた、従来品とは一線を画したようかん。大阪感に食感を掛け合わせて「ええ予感(YOKAN)」を感じてもらうことをコンセプトに掲げており、華やかな見た目は写真映えもばっちりです。
5月3日から9日にかけて、大丸 梅田店で第一弾の販売イベントが開催。メディアも多く取材に駆けつけるなか、和菓子店7店舗、高校1校がそれぞれに趣向を凝らした22種類ものようかんを販売し、合計約1万5,000個を売り上げる結果となりました。
こちらの記事で紹介している「大阪ええYOKAN」の「パビリオン」は、追加販売会が決まりました。
<阪急うめだ本店>
期間:2023年7月26日(水)~8月8日(火)
場所:1階「コトコトステージ12」
<大丸梅田店>
期間:2023年8月9日(水)~15日(火)
場所:地下1階「お菓子なパレード」
※販売内容は会場により異なります
販売情報:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000125491.html
普段から交流の場を持ちながら、コラボレーションの機会が少ない和菓子店のタッグは、どのような成果と期待を生み出したのでしょうか。開発を主導した竹本さん、広告畑からブランドコンセプトやデザイン開発などを担当した株式会社人間の代表取締役の山根シボル(やまね・しぼる)さんに、これまでの感触や苦労話、今後の展望を語ってもらいます。
「おみやげで大阪を面白く」が出発点
髙山堂と人間は、ともに大阪・関西万博の参加型プログラムであるTEAM EXPO 2025に共創パートナーとして登録し、民間からのボトムアップで万博を盛り上げる有志団体・demo!expoにも参加していますよね。今年4月に開催されたdemo!expoの「まちごと万博 大作戦会議」では開発段階の大阪ええYOKANもお披露目されました。「あたらしい大阪みやげ計画」が動き出した経緯を教えてください。
WORK MILL
山根
個人的にずいぶん前から新しい大阪みやげをつくりたいと考えていて、社内でも企画を出したことがあったんです。おみやげというジャンルのなかでも、大阪自体を面白く感じてもらえるものを開発しようと。なかなか実現できずにいたのですが、そこに竹本さんから声がかかったのが発端です。
竹本
人間のことは、万博の共創パートナーになる前から知ってました。そんな会社がいち早くパートナー登録したとわかって、俄然気になる存在になりました。僕も前から「大阪みやげといえばこれだ」というジャンルが存在しないことに問題意識を持っていて。
山根
なかなか思い当たらないですよね。
竹本
そう。当社には1970年の大阪万博で粟おこしを販売し、おかげさまで大ヒットした経緯があるのですが、あとが続かなかった。今回の万博は何かアクションを起こすいい機会だと考えていました。せっかくなら大阪らしい、面白い商品にしたい。それなら人間に相談しよう、と訪ねたおととしの人間酒場(※)が山根さんとの出会いでしたよね。
※人間酒場:株式会社人間が主催する「相談できる」クリエーター交流イベント。心斎橋PARCOのTANK酒場/喫茶などで不定期に開催されている
山根
最初は人間の掲げる「面白さ」とは結びつかない、純粋にまじめな人なんだと思っていました(笑)。でも、その後のEXPO酒場(※)にも頻繁に顔を出してくれて「本気で、変わったことがしたいんだ」と伝わってきた。その思いが炸裂したのが2022年7月18日、万博開幕1000日前のタイミングで開催された「1000日前だよ!EXPO酒場」でした。
※EXPO酒場:demo!expoが主催する、万博をテーマにした交流イベント。日本全国に「支店」を出し、企業やクリエーターをつなげ、万博成功へ向けたムーブメントを街中から起こすことを目的としている
竹本
あのときは今回の企画とは別で「1000日後の大阪みやげ計画」と銘打って、髙山堂単独で「ツッコミもなか なんでやねん」をはじめ3商品の試食と展示をしました。何度も通ったEXPO酒場で異業種の人たちと話すうちに、大阪みやげに新しいジャンルをつくろうという方向性が固まり、人間の協力も得ながらそれを形にした和菓子を、区切りの場で披露できました。
「1000日後の大阪みやげ計画」は、demo!expoが行っている、万博を盛り上げたい、もっと身近に感じたい人のための活動「勝手にパビリオン」の1つという位置づけでしたよね。周囲の反応はいかがでしたか?
WORK MILL
竹本
いろいろな反応を得られましたが、実際に形にできて、どんなおみやげをつくりたいかを同業の仲間に理解してもらえたのが一番大きな収穫でしたね。それまでも周囲に構想を話していたんですが、なかなか趣旨を飲み込んでもらえずにいたので。
山根
実物を見せる効果ってやっぱり違うと思います。突貫で仕上げた商品ながら大阪らしさを表現できていた。万博のイメージカラーの青と赤を使った饅頭なんか、お客さんにめちゃくちゃウケてましたよね。
競争から共創へ歩みを進める大阪の和菓子店
その後はどのように活動を展開していったのでしょうか。
WORK MILL
竹本
2022年の秋に「あたらしい大阪みやげ計画」に衣替えして、「1000日後の大阪みやげ計画」での成果を持って改めてオファーをかけていきました。
山根
竹本さんに招待された業界団体の会合では、名刺交換の相手が全員和菓子店の人っていう初めての経験もしました(笑)。この時点でテーマは竹本さん考案の「競争から共創へ」に固まりました。
竹本
「みんなで協力して、1つのジャンルをつくる」っていうね。あるテーマを設定して、店ごとに商品を開発するという。
山根
それから地道に活動内容を伝えて仲間を集めて。老舗はもちろん、日頃から意欲的なビジネスを展開しているところにも声をかけて、最終的に和菓子店、高校、そして人間の9団体でプロジェクトを進めることになりました。
竹本
いつもはつながりのない業界だけに、山根さんは苦労も多かったと思います。
山根
オンライン会議やデータ作成用のツールの使い方から説明しましたもんね(笑)
竹本
そこからでしたね(笑)。山根さんが全体をコーディネートしてくれて、とても助かりました。
山根
ちょうど社内でプロジェクトマネジメントを勉強していたタイミングで、実践にはいいプロジェクトが舞い込んできたなと。普段は企画だけを担当することが多いんですけど、今回は議事録の作成、タスク整理、スケジュール管理などにも注力しました。
いろいろなお菓子があるなかで、ようかんに決まった理由はなんですか?
WORK MILL
竹本
ようかんにするアイデアは、中心メンバーである和菓子工房 あん庵の松田明(まつだ・あきら)さんから出てきました。ようかんは小豆と砂糖、寒天を煮詰めて型に流し込むシンプルなレシピなので、大がかりな設備投資がいらない。この業界は包あんや焼きなど工程ごとに職人がいて、特定のお菓子を専門にする店が多いだけに、参加のハードルを下げるのが重要でした。
ようかんをつくることが決まった結果、「大阪ええYOKAN」というブランド名が導き出されましたよね。
山根
でも正直、購入する側からするとようかんって選択肢に入りづらいですよね。饅頭やせんべいなら、おみやげとして定番化したものも思い浮かぶんですけど。
竹本
そう、和菓子屋の僕でも買わない(笑)。ようかんが現在の形になったのは数百年前のことで、今回参加してくれた大阪本家 駿河屋の源流である駿河屋の煉羊羹(ねりようかん)が、豊臣秀吉に献上されて有名になったといわれているんですけど、それから今まで目立ったイノベーションがないんです。
山根
竹本さんでも買わないって相当ですよ(笑)
竹本
ただ、新幹線開業で国内旅行が身近になったころは、おみやげの定番品だったそうで。製法がシンプルなので、各地にご当地ようかんが登場したみたいです。そう考えると、ようかんが新しいおみやげのジャンルを築くのも自然だなと。
山根
複数店舗が参画するにあたって、今回はようかんをより広く定義しましたよね。大阪らしさと食感の面白さを基本にしつつ、あとは見た目がようかんっぽければOKっていうことで。
竹本
煉羊羹には小豆と糸寒天が欠かせないけど、食感を変えるにはおのずと違う素材を使わないといけない。色合いをマットにする小豆や白いんげん豆を使わないことで、透明感を表現した「ようかん」もOKにしました。表現の幅が広がった結果、最終的には22種類もの商品ができた。
山根
「パビリオン」という商品名も、たくさんの店舗が参加していることを表したもので。別々の店が同じ名前のもとで商品開発をするうえでこだわったのは、見せ方です。共通のパッケージをパビリオンに見立て、そこにキューブ状のようかんを入れて「出展」するというフォーマットにしました。デザインにも在阪クリエーターを起用して、地元発というコンセプトの強化を狙っています。
万博が終わっても残り続ける「置きみやげ」に
そしていよいよ今年5月3日から9日に大丸 梅田店で初の販売イベントが開催されました。手応えはありましたか?
WORK MILL
竹本
「これ、なんなん?」「かわいい!」と足を止めてくれる若いお客さんが目立ちました。こんなにカラフルな見た目のようかんは初めて見たという声も多くて、「ようかん=黒くてでっかいかたまり」という固定観念を覆せたと思います。名前も良かった。たとえばフランス語の「なんとかシャブリ」みたいな名前だとなんのお菓子かが伝わらない。誰もが知る「ようかん」というワードに新しい価値、可能性を生み出せたなと。
山根
ようかん自体の開発期間はわずか1カ月ほどでしたが、和菓子職人の皆さんには想像以上の対応力や柔軟性があると実感しました。いままでは伝統や作法を重んじるお堅いイメージがあったんですけど、凝ったものをつくりたい企画者の思いにしっかり応えてくれた。
竹本
業界の根っこには強い信頼関係がありますからね。そのなかで僕が先頭を切って突っ走れば、周囲はついてきてくれるだろうという読みもありました。新しいものがつくれることを意気に感じる職人もいるので、まだまだ余力はあると思います。
山根
若手にベテラン、男女の比率までバランス重視のチーム編成でしたが、みんなが意見しやすい雰囲気でうまく機能していましたよね。高校生が売場に立つから注目される印象もあった。仲間内でも発見があったんじゃないですか?
竹本
うーん、普段は百貨店と取引のない「街の和菓子屋さん」にとっては、労力に見合った利益があったか疑問は残りました。初回ということで採算は二の次で、文化祭的なノリで楽しめた面はある。ただ、生産者である僕らの懐が潤わないことには新しい文化が続かないので、ビジネスモデルの確立を急がなければというのが率直な感想です。
山根
パッケージのコスト感、売場づくりなどについて、参加店の皆さんから盛んに意見が出ていたのは、さすが商売人だなと思いました。広告業界で仕事をしていると、見せ方に関してコスト度外視になることが少なくないですから。ビジュアルやPRの手法は広告業界の文化を持ち込めました。今後はすべてのメンバーにメリットのある仕組みをつくりたいですよね。
成果と課題の両方が見つかったわけですね。2025年に向けて、今後はどんな展開を考えていますか?
WORK MILL
山根
先日の打ち上げ会で、駿河屋さんが持ってきてくれたお菓子のデザインが描かれた菓子見本帳を見ると、江戸時代の資料なのに現代でも使いたくなるようなデザインばかりで。大阪城に献上する際のカタログだったという話も面白かった。今後の商品開発に取り入れて歴史背景もからめられれば、ストーリー性も増すと思います。
竹本
普通の紙袋に入れて、お酒や醤油の横にぼんって置くのには驚きましたけど(笑)
山根
確かに(笑)。ともあれ、おみやげで大阪を面白くしたいという思いが形になって、これからは駅などでも販売される商品に成長させたいと思いました。特定の和菓子店が儲かるのではなく、売場全体が盛り上がるとうれしい。参加団体も少しずつ増やして、そういう流れをつくりたいです。
竹本
新しいおみやげをつくるのはもちろんですが、大阪ええYOKANは未来の業界への置きみやげにもしたい。万博を盛り上げる一過性の存在にするのではなく、大阪の新しい和菓子文化として定着させることで「これをつくっていれば商売安泰」といえるものに高めたいと考えています。看板商品があるかないかがビジネスに大きく影響する業界ですから。
山根
「競争から共創へ」を掲げていますが、その先に競争があるのがビジネスとしては健全ですよね。大阪ええYOKANという枠内で切磋琢磨してほしい。
竹本
仲よしこよしなだけでは業界も発展しませんからね。そこまで道筋をつけたあかつきには、山根さんと2人で「情熱大陸」に出演できればうれしいです(笑)
2023年5月取材
取材・執筆:関根デッカオ
写真:西島本元
編集:かとうちあき(人間編集部)