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世界は「アジア的価値観」を求めている ― 働き方から考える「日本らしさ」とは

これまで過去4号に渡って、欧米型の働き方やイノベーションを紹介してきた『WORK MILL with Forbes JAPAN』ですが、スタートアップやOMO(Online Merges with Offline)ブランドなど、優れたビジネスモデルを推進する経営者たちの多くが関心を寄せていたのは、「アジアの価値観」でした。そこで、2019年10月発刊の『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05』では、「ALTERNATIVE WAY-アジアの新・仕事道」をテーマに、東アジアへフォーカス。韓国、台湾、中国、そして私たちの暮らす日本の4カ国をめぐり、その価値観や働き方を探求しました。

 

発刊記念カンファレンスとして、10月9日に赤坂インターシティAIRで開催された「FUTURE WORK STYLE SESSION 2019 AUTUMN」では、「『アジア的』働き方」と題し、有識者や経営者などを招いてさまざまな角度から議論を深めました。今回はそのセッションを振り返りながら、「アジアらしい働き方」について考えます。

 

「いつでもどこでも働ける」からこそ、自分の価値観をクリアに

はじめのセッションは「WORK MILL アルム(同窓)」として、過去本誌に登場いただいたお二方を迎え、「10年後世界で活躍できる働き方とは」をテーマに対談していただきました。

 

 

一般社団法人at Will Work代表理事の藤本あゆみさんは、ISSUE 01/創刊号「コワーキングと働き方の未来 -WHY COWORKING?」に登場。現在はシリコンバレーを拠点にするアクセラレーター/VC、Plug and Playの日本支社Plug and Play Japan株式会社で執行役員CMOとしても活躍しています。そんな藤本さんは日本企業の優れた点として「綿密な情報共有」を挙げます。

 

「日本支社はまだ立ち上がって2年ほどですが、本国をはじめ、世界に30カ所ある各拠点へどんどん『日本のやり方』を輸出しているのです。日本の大手企業とスタートアップをつなげることも多いのですが、そこでは一歩先の気遣いや綿密な情報共有が必要となります。それで、メールテンプレやコミュニケーション方法など、かなり細かくマニュアル化されている。多くの人が新卒から『報・連・相』と口酸っぱく言われるので、それが当たり前になっていますよね。けれどもそれがシリコンバレーにとっては新鮮みたいで、『どうして日本はこれほど結果が出ているのか?』と、よく質問されるのです」(藤本さん)

 

 

株式会社レア共同代表でクリエイティブ・プロセス・ディレクターの大本綾さんは、ISSUE 02「THE DANISH WAY – デンマーク『働く』のユートピアを求めて」に登場。大本さんはデンマークのビジネスデザインスクール、KAOSPILOTで初の日本人留学生として「クリエイティブ・リーダーシップ」を学び、企業や教育機関、研究所などさまざまな組織に対して組織開発・人材育成プログラムを実施しています。

 

大本さんは日本企業が情報共有を重視する反面、意思決定に時間がかかってしまう弱点を指摘します。

 

「最近、南アフリカへ行って現地の方と仕事したのですが、メールと対面のコミュニケーションをうまく使い分け、スピーディに意思決定するのには目を見張るものを感じました。欧米型の組織ではジョブディスクリプションに基づき、専門分野を明確にして、その知識を活かして個人の裁量で意思決定をする。けれども日本では未だ新卒一括採用で、ジョブローテでまんべんなく業務に取り組み、上司におうかがいを立てて意思決定することが多いですよね。けれどももっと自分自身が課題を捉え、何を考え、どう未来を作るべきか。幅広い社会経験や専門教育に取り組んだうえで、よりクリアに自らの価値観を表現すべきなのではないでしょうか」(大本さん)

 

そしてこれからの10年で、さらにテクノロジーは進化し、働く場所や時間がフレキシブルになり、ますますオフラインの重要性が上がるだろうと藤本さんは指摘します。ただ、逆説的ではありますが、「10年後世界で活躍できる働き方」は、そういった環境変化に左右されないものだとも言います。

 

「『あなたと私は違う』ところからいかにスタートできるかだと思うのです。『私はこう思うけど、あなたはどうしたい?』『あなたを信頼しているから、ここは任せます。その代わり、ここは自分がやる』という意思決定ができることが重要なのです」(藤本さん)

 

大本さんもその意見に同調します。「日本では労働人口減少という重大な問題がある中、ますます海外と関わる機会は増えていくでしょう。まったく異なる価値観と接すれば、『暗黙の了解』は機能しません。個人としてどんな背景を持っていて、何を大切に思っているのか。そしてそれが他者と異なるなら、いかに着地点を見つけ、ともに達成する目標として何を目指すのか……。SDGsのように困難な課題こそ、達成するためには明確なビジョンと大きなストーリーを共有して、コ・クリエーション(共創)することが重要です。ただ、そこに何か決まった正解はなく、多種多様な答えが無数にある。そこからお互いに共有できる答えを見つけていかなければならないのです」

 

 

最後にはお二方から、日本企業で働く人々にエールが送られました。

 

「日本の未来に対して悲観論も多いですが、いまPlug and Playで働いていると、期待されていることも多いと感じます。働き方としても事業連携としても、いかにもっと楽しく、新しい面白いことが生み出せるか。一歩踏み出すことを躊躇しないで、チャレンジを楽しんでもらえたら」(藤本さん)

 

「社会に対して何をすべきか、何ができるのか。その問いに対する答えを個人として持っておくべきだと思います。そしてそれを小さい規模でもいいから、行動するのが大切です。私たちも小さな会社ですが、さまざまな方とパートナーシップを組むことで、見たい世界を見られるようになったなぁと感じます。これからはそういった働き方が重要なのではないでしょうか」(大本さん)

 

終身雇用、ジェネラリスト……「日本型雇用」も悪くない

続くセッションでは「社員がイキイキ働くチームのつくり方」をテーマに、英治出版株式会社代表取締役の原田英治さんが登壇しました。英治出版は社員数9名ながら、『ティール組織』や『U理論』『insight(インサイト)』など数々のロングセラーやベストセラーを出版しています。

 

 

原田英治さんはアンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)などを経て、1999年に英治出版を創業。まったくの門外漢から出版社をはじめました。当初から掲げたのは、「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」という経営理念。著者の思いを世の中に伝え、その夢を後押しする一手段として出版事業を位置付けたのです。

 

社員に「編集」「営業」といった職種はなく、本に携わる社員はすべて「プロデューサー」を名乗ります。原田さんと同様、異業種からの転職者がほとんどで、編集から営業まで一通り経験し、「ひとりでも出版できる」力をつけることを志向します。それはある意味、ジェネラリストを求める「日本らしい」働き方と言えるでしょう。

 

「『経営のプロになりたい』と外資系コンサルに入社したのに、専門性を高め、エキスパートになることが求められました。そこに違和感を覚えたのです。小さな会社ですし、ある意味社員が我が子のように思える。そうなると、社員たちが幸せになるためには、ひとりでも生きていける力……自分で出版できる能力を身につけることが重要なのではないかと考えました。そこで、科学的アプローチで分業化してきた西洋のアンチテーゼとして、社員が著者一人ひとりと対峙し、本を作るプロセスに取り組むことにしたのです」(原田さん)

 

昨今、年功序列、終身雇用といった日本型雇用に対する批判が強まっていますが、原田さんは疑問を投げかけます。「年功序列は確かにマズいかもしれないけど、企業側はなるべく社員が長く勤められるように組織制度を組み立てたほうがいいと思うのです。大手出版社の経営者から『60歳間近になってベストセラーを出す社員もいる。だから出版は面白いんですよね』とうかがったこともあります。労働の流動性が高い時代だからこそ、長く働いて、個人としての成長を実現できる仕組みづくりが企業には求められるのではないでしょうか」

 

 

「社員がイキイキ働くチームづくり」が垣間見られるのは、英治出版のユニークな編集方針です。多くの出版社では、編集者ひとりにつき、「年間で書籍○冊を企画する」「○万部販売する」などとノルマが与えられ、それをクリアするために無理やり企画をひねり出したり、ベストセラーと似た類書が乱発されたりといったことが起こります。

 

けれども英治出版では各社員に紐づいたノルマや予算はなく、編集会議では「売れるかどうか」といった話や損益シミュレーションも話しません。本の出版を決める方法もユニーク。編集会議で社員全員から拍手をもらうことができれば、企画にGoサインが出たことになるのです。

 

「収支が合うかどうかは、最終的に僕とプロデューサーで話し合えばいい。それよりも重要なのは、著者の情熱を受け取ったプロデューサーが企画を立て、みんなにその熱量を伝えること。みんなからのフィードバックを受けて、プロデューサーが改めてブラッシュアップして、十分に準備が整ったなと社員全員が思えたら、最終的に拍手で応援するのです。それは『合議制』というより、『相撲の立ち会い』に近いものかもしれません」

 

そしてもうひとつ特徴的なのは、創業当初から掲げる「絶版にしない」というポリシー。だからこそ、「未来にも読者がいる」と信じられるような、普遍的で優れたロングセラーが生まれつづけるのです。

 

原田さんはセッションの最後に、自社ではじめて出版した『起業家の本質』の言葉を用いて、こう語りかけました。「本には『起業家はリスクを冒さない』とあります。つまり、リスクがなくなるまで想像力を働かせ、リスクを排除することができなければ、やらない選択を取る自由もある。それが起業家なのです。けれども大企業で会社員として勤めている以上、それが難しいときもあるでしょう。そんなときは、他の誰かから想像力を『借りて』みるといい。最近、新たに『仲間と創る現実は、自分の理想を超えていく』という経営理念を掲げているのですが、仲間の想像力を借りることでリスクを排除し、不可能が可能になることもあります。『6degrees of separation(6次の隔たり)』……友達の友達を介して全人類とつながれるのなら、まずは目の前の人と対話してみる。その結果、信頼を築くことができたらいいのではないかと考えています」(原田さん)

 

アジア的価値観は「人間らしさ」を取り戻すカギ

スポンサードセッションを経て、最後に登壇したのは、大学院大学至善館理事⾧であり、NPO法人ISL(Institute for Strategic Leadership)創設者の野田智義さん。「世界がいま、アジア的価値観を求める理由」と題して、現代社会における変化や課題から、アジア的価値観の有用性を考えました。

 

 

日本興業銀行入行後、ロンドン大学経営大学院(LBS)・インシアード経営大学院(INSEAD)助教授を経て2001年にISLを創設した野田さんは、15年に渡る欧米での生活を通じて、アメリカ型の市場原理主義に疑問を抱くようになったといいます。

 

「ハーバード・ビジネス・スクールで経営学博士号を取得したものの、アメリカモデルが世界で通用するとは思えなくなった。『アメリカ人になるための教育』から逃れるためにヨーロッパへ活路を求めたのに、LBSやINSEADは『アメリカ以上にアメリカらしい』MBA教育に傾倒していたのです」(野田さん)

 

ISLでの次世代リーダーシップ人材育成を経て、野田さんが見出したのは、「西洋の合理性と東洋の精神土壌の融合」というビジョンでした。2018年に開学した大学院大学至善館では、これまでのMBA教育から一線を画し、「西洋とアジアの価値観を橋渡しし、調和させる」独自の全人格経営リーダーシップ教育に取り組んでいます。

 

野田さんは、西洋とアジアの価値観を改めて定義します。「西洋ではキリスト教文明において、人は個人として神を信仰し、その本性として自由を追い求めてきました。一方、アジア的価値観は、『私』の中にも仏性やカミが宿り、自らの中に真実があって、他者や社会と共生する感覚がある。西洋が『個人』と『自由』に象徴されるなら、アジアは『全体』と『共生』。まるで陰と陽のように対になっているのです」

 

そして近代以降、西洋的価値観をもとに世界中へ広がってきた経済社会システムは、あらゆる工程を効率化し、大きな経済成長と利便性を生み出しました。けれどもその「システム化」の弊害として、これまでの社会における人間関係、そして人間という存在のあり方に大きな変化が現れているのではないか、と野田さんは指摘します。

 

「今日、コンビニに立ち寄った人のなかで、レジ打ちしてくれた店員さんの名前を覚えている方はほとんどいないでしょう。それだけ、私たちは金銭取引によってモノやサービスを享受することが『当たり前』になっているのです。本来、それは『有り難いこと』で、享受する私たちが『ありがとう』を言う立場のはずでした。けれどもシステム化によって、あらゆることが当たり前になり、モノやサービスを提供する店員さんが『ありがとうございました』と言うようになった。同時に私たちもまた、何らかのモノやサービスを提供する立場として、システムの一部と化しています。私たちは『代替可能な機械部品』となって、自らの存在意義を見失いつつあるのです。そう、私たちは安心安全・快適便利な暮らしと引き換えに『人間らしさ』を失ってしまったのです」

 

言わばその揺り戻しが起こるように、世界の名だたる企業やブランドではいま、持続可能性や自然との共生、人権の尊重といった倫理観や価値観に関心が寄せられています。それはまさに、アジア的価値観と重なるものです。

 

 

野田さんはあくまで、西洋的価値観を否定するのではなく、その合理性を踏まえたうえで、日本人がいつの間にか失ってしまったアジア的価値観を取り戻すことが重要だと話します。

 

「私たち人間というものは、矛盾した存在です。資本主義社会に生き、システムによる利潤や利便性を享受しようと求めながら、自らは『かけがえのない存在』として、人間関係の中にありつづけようとする。その二律背反性を自覚することで、アジア的価値観を取り戻せるのかもしれません」

 

そして最後に、野田さんはこんな提言を送りました。

 

「家族や同僚、友人、そして日常生活の中で出会う人に対して、『ありがとう』と言うことからはじめてみてはいかがでしょうか。こうして暮らせているのは、多くの人から支えられているからこそ。決して当たり前のことではありません。なんてことないかもしれないけど、騙されたと思ってやってみて欲しい。あなたが組織の長であれば、『ありがとう』の一言で組織の雰囲気は変わるはずです」

 

 

「『アジア的』働き方」をテーマに、経営者や有識者との対話によって日本企業の強みやこれから取るべきマインドセットが見えてきた今回の「FUTURE WORK STYLE SESSION 2019 AUTUMN」。

 

現在発売中の『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05』では、「BE PLAYFUL(道草試行)」「BE HARMONIOUS(和合革新)」「BE CIRCULAR(喜楽循環)」をキーワードに、セッションにも登場した英治出版をはじめ、日本や韓国、台湾、中国のさまざまな企業を紹介。ポスト資本主義におけるオルタナティブな働き方を探っています。ぜひご覧ください。

 

2019年11月26日更新
取材月:2019年10月

テキスト: 大矢 幸世
グラフィックレコーディング:成田富男(グラフィックカタリスト・ビオトープ )
写真:WORK MILL編集部

 

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