• HOME
  • 【クジラの眼-未来探索】 第3回「テレワーク推進の行く手を阻むものは何か ~テレワーク導入の課題を探り、これからの生き方・働き方を描き出す~」

【クジラの眼-未来探索】 第3回「テレワーク推進の行く手を阻むものは何か ~テレワーク導入の課題を探り、これからの生き方・働き方を描き出す~」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” ワークデザイン・アドバンスを題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

 

テレワーク・デイズも3年目を迎え、これからもテレワークを導入する企業・利用する個人は増加すると考えられます。ですがこれから導入、あるいは既に導入されている企業でもその運用についてはいろいろな課題を抱えているのも事実です。

 

今回話をうかがう岡山の笑顔溢れるワークスタイル創造提案業WORK SMILE LABOではテレワーク導入の3つの課題を克服し、事業収益の拡大と社員満足度を高めています。皆さんとテレワークについての課題を共有し、その運用の解決策を考えてみましょう。(鯨井)

 

イントロダクション(オカムラ 鈴木勇二

-鈴木勇二(すずき・ゆうじ) 株式会社オカムラ 共創センター エグゼクティブリサーチャー
オフィスデザインで多数のプロジェクトに参加様々なワークスタイルに適応するワークプレイスのデザインを通じ、オフィスワーカーの生産性や創造性の向上を目指し、調査・研究活動に従事。

少子高齢化が進む中、高齢者の方々を支え、子育てをしながら働く現役世代は男女を問わず9時から5時まで仕事をするというこれまでの働き方ではうまく回せなくなってきています。また、原則副業OKの時代が目の前に迫っていることも働き方を変えていかなければならない一つの要因ではないでしょうか。ですからテレワークという働き方をうまく活用することなしに今後の働き方を描くのは難しいのではないかと思います。

 

今「テレワーク・デイズ」という取り組みが行われています。これは2020年の東京オリンピック開催時の公共交通機関の混雑緩和を主な目的として3年前から毎年この時期に行われているもので、首都圏で働く人が自宅や都心以外の場所で働くこと、つまりテレワークにトライアルさせようとする活動です。

 

テレワークという働き方に期待を寄せ、導入を考えている企業は増えてきています。しかしその一方で、オフィス外で働く(働かせる)ことに不安を抱いている企業が多いのも事実です。そこで皆さんにテレワークに関する次のアンケートにお答えいただこうと思います。

 

質問1:貴方はテレワークの実施についてどのように感じていますか?

A テレワークはあまりしていない

B テレワークはサボっていると思われていないか

C テレワークで効率は上がるが、コミュニケーションが取りにくい

D テレワークではPCを覗き見されていないか

E 事務所にいるとテレワークしている人のフォローが大変

 

結果を見てみると、6割の方はテレワークをしていないかこれからしようと思っているようです。サボっていると思われることを心配している人が3割、効率は上がるがコミュニケーションが悪くなるという人が1割ほどいらっしゃるようです。(PCの覗き見、フォローが大変と考えている人はいませんでした)これらのことをすべてクリアされているWORK SMILE LABOさんから話をうかがい、後ほど皆さんと議論していきたいと思います。

 

プレゼンテーション(株式会社WORK SMILE LABO 石井聖博

-石井聖博(いしい・きよひろ) 株式会社 WORK SMILE LABO 代表取締役社長
岡山市出身、キヤノンマーケティングジャパン株式会社を経て、2015年から地域の老舗企業の4代目として現職につく。お客様へより良い働き方を提供する企業となるべく、まずは自社の働き方改革へ着手し、中小企業に特化したテレワークやICTを活用した多様な働き方改革に常に挑戦している。本社をライブオフィス化し、実際に働いている姿を見て体験頂ける”ワクスマ”に力をいれている。

 

3年前、自宅でも仕事ができる環境を整えなければならない状況が生じ、それを実現することによって問題を解決することができました。その結果、多くの企業でも抱えていると思われる経営課題を解決する事例をつくることができましたのでご紹介していきたいと思います。

 

WORK SMILE LABOは108年前に岡山で文房具屋として創業した会社で、その後コピー機やオフィス家具などを扱う石井事務機センターとして事業を展開してきました。昨年、株式会社WORK SMILE LABOと社名を改め、『「働く」に笑顔を!」を経営理念に笑顔溢れるワークスタイル創造提案業を営んでいます。従業員数は35名で、その男女の内訳は男性17名に対して女性が18名です。女性の方が多いのはこの業界では珍しいのですが、これはテレワークを含め働きやすい環境を整えたことで女性が勤めやすくなったことと、そのことを知って入社を希望する女性が増えたためだと思われます。

 

 

テレワークを始めたきっかけ

病気がちの小さいお子さんを抱える女性パート社員が保育所から頻繁に呼び出され、休む側も休まれる側も負担を抱えることになり、彼女は仕事を続けることが難しい事態になってしまいました。また、出産後も仕事に復帰するのは難しく退社してしまうことが多くなってしまう状況もありました。少ない人数で運営している企業としては、代わりになる人を育てるのは大変で、業務に与える影響は小さくはありません。

 

こうしたことは私のところだけでなく、世の中の多くの中小企業が抱えている問題ではないでしょうか。働き方を提案する企業として自らがまず何とかしなければならないと考え、自宅で働くことのできる環境を整えた次第です。これが今から3年前テレワークを始めたきっかけで、今では全社員がテレワークをするようになっています。

 

テレワークの導入効果

仕事とプライベートの両立
内勤者が自宅で仕事をすることで仕事とプライベートの両立ができるようになりました。子供による急な休みに対応できるようになりましたし、仕事の合間の休憩時間に家事をすることでゆとりが生まれ子供に接する時間が持てるようにもなりました。

 

生産性の向上
当初は生産性が落ちると思っていたのですが、やってみるとこれは反対で、生産性が上がることが分かりました。これは、在宅勤務する本人は自宅でさぼっていると他の人に思われたくないので頑張るし、オフィスで働いている人間は、電話や来客応対といったその人ができない仕事の穴を埋めようとして分業化が自然と進みチームの結束力が高まったことが要因だと考えられます。内勤者へのテレワーク導入した結果、内勤メンバー全体の残業時間を1年後には50%ほども削減することができました。

 

翌年には全体の6割を占める外勤者に対してもテレワークを導入しました。外回り中のすき間時間を利用して事務処理や打ち合わせができる環境を整えオフィスに戻らなくてもいいようにしたところ、外勤メンバーの残業時間も削減できました。

 

結果としてテレワークの導入によって会社全体で41.3%も残業時間を削減することができたのですが、実は重要なのは残業時間の削減ではなく、生産性がどれだけ高くなったかを見ることなんです。労働時間を減らすことだけを実現しようとすると、積み残しの仕事が増えてお客様に迷惑をかけることになったり、時間内で終わらなかった仕事を自宅に持ち帰る人間はモチベーションが落ちてしまったりするといった新たな問題が発生します。ですから効果を見る場合には生産性の指標で評価することが大事なのです。

 

私どものこの間の売上は104.8%になり粗利は113.6%と伸び、そして人時生産性は107.6%と向上していることが分かりました。人時生産性は一人の従業員が時間当たりに生み出す成果を示す指標で、営業担当者だけでなく内勤者の生産性も評価できるようにしています。この人時生産性を最重要視して評価を行うようにしていて、従業員にはこの指標を意識して働くように意識づけをしています。そしてこの意識を持つことがテレワークの成否を左右すると私は考えています。

 

ブランディングの向上
テレワークを含めた働き方改革をいろいろなメディアで取り上げてもらった結果知名度が上がり、お客様からの問い合わせが急増しました。なによりも効果があったのは採用の面でした。山陽新聞が毎年調査し発表している岡山県内の大卒者就職希望企業ランキングで、私共は名だたる企業に混ざって6位にランクインしました。これはテレワークをはじめとした働き方の多様化を学生にアピールした結果だと考えています。特に多くの女子学生に共感してもらえたようです。

 

また、中途採用の場合には、求人欄に「在宅勤務可」という文言が大きな効果を発揮するようで、応募者数は向上し、優秀な人財からの応募も増えています。

 

テレワーク導入のポイント

テレワークはオフィス外で働くことですが、その際のポイントは、いかに職場と同じ環境を会社外で整えることです。そこには3つの課題があります。一つ目は「労務管理」。二つ目は「コミュニケーション」。三つ目は「情報セキュリティ」です。

 

労務管理
出退勤申請と現在の居場所の入力を携帯電話でも行えるようにクラウドを利用した管理システムを導入しました。また、クラウド型のログ管理システムによって従業員の作業時間と作業内容を管理しています。さらにテレワーク規定を設けて、会社外での働き方を周知徹底しています。

 

コミュニケーション
Web会議システムを活用して離れた者同士でもコミュニケーションをとれるようにしています。

 

情報セキュリティ
社内のデータはすべて共有サーバーで管理しており、アクセスできるデータをPCごとに制御できるようにしています。また、PCはシンクライアント化していて、持ち出すPCの中にはデータは保存されていないので、盗難などにあっても情報が外部に漏れないようになっています。ただしセキュリティレベルが高いこの対策はコストがかかるため、現時点では経理情報など重要なデータを持ち出す場合のみに活用しています。

 

中小企業のテレワーク導入のポイント

導入の際には、既存のソフトやサービスを活用してコスト面や導入面のハードルを下げることが大切です。また、運用面では社内ルールと規定を作り、不足している部分を補うことをお勧めします。運用していく際には、全職種の生産性を見える化して、特に先ほど触れた人時生産性を評価に連動させることでテレワークを推進すべきです。全員を対象としたテレワークを考え準備に長い時間を割くよりも、とにかく少人数でもいいので始めることが何より重要だと考えています。

 

テレワークを含めた働き方改革を成功させるポイント

働く環境をつくっても従業員の働くことに対する意識が変わらなければテレワークは成功しません。社員全員が自らの生産性を意識した上で行動することで初めて成果が出るのです。そのためには評価制度において評価するポイントを「時間軸」から「成果軸」へと変える必要があります。何時間仕事をしたかではなく、どれだけ成果を残したかを評価しなければなりません。私どもでは、人時生産性、つまり1時間当たりの成果を評価ポイントの中で高くすることと、数値化しやすい営業職だけでなく、間接部門でも成果を数値化する工夫をしています。

 

 

クロストーク(石井 × 鈴木

 

鈴木:働いている人たちにどのような環境を与えればイキイキと働くことができるのかをうまく掴んでマネジメントされておられますが、特に工夫されていることがあればお聞かせください。

 

石井:一人ひとりが人間なので、人間の本質を理解することが大切だと考えています。さらに言うと、一人ひとり家庭環境が違います。また一人の人間であってもライフステージはその時々によって変わっていきます。ですから一律で同じ働き方を押しつけるのではなく、そのときにふさわしい働き方をチョイスできるという考え方を持つことが大事だと考えています。

 

鈴木:オカムラでも「主体的に働こう」という考え方を提唱しています。どのようにすれば自分は生産性を高められるのかを一人ひとりが意識して行動していかなければならないと考え、自社の働き方改革を進めているところです。

 

ここで皆さんに二つ目のアンケートにお答えいただこうと思います。

 

質問2:貴方はテレワークの導入に何が重要だと思いますか?

A テレワークはあまり必要ない

B テレワーク勤務中のコミュニケーションが重要

C 業務達成度の見えるかが重要

D 情報漏洩を防止するための社内ルール・管理ツールが重要

E 事務所にいる人とテレワークしている人のチームビルドが重要

 

皆さんが一番重要視したのはCの「業務達成度の見える化」で支持率は60%でした。次がEの「チームビルド」27%、Cの「コミュニケーション」13%と続く結果となりました。テレワークの導入する場合どれもが重要な要素だと思うのですが、この結果を受けてコメントをお願いします。

 

石井:繰り返しになりますが、テレワークを導入する際に最も注力すべきなのは、皆さんのアンケート結果の通り、業務の見える化であり、その先にある仕事の評価だと思います。そのときに重要なのは、成果の数値化が難しい間接部門を含め全職種に対して生産性を数値化することです。評価するときにもう一つ大切なのは、部門同士や個人同士を比べて評価する「相対評価」ではなく、個人ごとの「絶対評価」をする点にあります。一年前に比べて数値がどのように推移したかを見ていくべきなのです。

 

鈴木:個人の成長をマネジメントしていくのが大切だということなのですね。本日はテレワークの導入を進める上で参考になるいろいろな考え方を自社の事例通じて話していただきました。参加者の皆さんの中でテレワークの導入を考えておられる方は、ぜひ今回得た情報を活かしていただければと思います。

 

 

 

おわりに ~テレワーク、その功罪と可能性~

私はこの原稿をオフィスではなく自宅で書きました。毎月このSea Academyのレポートを作成していますが、通常オフィスで書くときには一日半を要してやっています。それが今回は自宅で誰からも邪魔をされずに作業したので、朝から初めて夕方には終えることができました。時間が経つのも忘れて没頭できたのは良かったのですが、おかげで仕事を終えた時、自分がこれまでの味わったことのないくらいに疲労していることに気づき、びっくりしてしまいました。一つの作業にとことん専念するとそうしたことになりがちです。いわゆる「ワークホリック」というやつの初期状態だったのかもしれません。

 

自宅にせよサードプレイスにせよオフィス以外のところで働いてみると、オフィスにいるときと比べてどれだけ集中できるかがよく分かります。逆にオフィスでは、上司や同僚、部下などから話しかけられるたびに仕事を中断していたことに気づかされます。他の人から話しかけられることの中から双方がその後の仕事に役立つインスピレーションを得る可能性はあります。大きな発見や発明につながることだってあるでしょう。テレワークによって失うかもしれないそうした機会は、オフィスで働くときに挽回するよう心がける必要があるのかもしれません。

 

しかしともかくも、個人作業を効率よく遂行するのならテレワークするに限ります。まだテレワーク未体験の方はとにかく一度チャレンジしてみることをこの場を借りてお勧めする次第です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。次回までごきげんよう。さようなら。(鯨井)

 

 

2019年11月7日更新
取材月:2019年7月

テキスト:鯨井 康志

最新記事