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コロナ後、リモートワークは続ける?地域別にみる世界の新しい働き方トレンド

昨年から続く世界的なパンデミックの中で、多くの人々がリモートワークを余儀なくされ、働き方は大きく変りつつある。ワクチンの普及が進み、パンデミック収束の希望が見えてきた現在、海外の企業はどのようにリモートワークと向き合っているのだろうか。コロナ後を見据えた各国のリモートワークの今後を、北米、ヨーロッパとアジアの3地域に分けて探っていく。

北米

アメリカ:政府主体のリモート化

ワクチン接種者が人口の半数を超えたアメリカでは、コロナは早くも沈静の兆しを見せている。一方でリモート人口はワーカー全体の43%と、コロナピーク時と比べさほど減っていない。これはコロナ前と比べ約8倍の数字だ。2021年2月に行われたGallupの調査によると、現在リモートを導入しているのワーカーのうち約30%が全ての業務をリモートで行っており、リモートワークの人気ぶりが伺える。

LinkedInのWorkforce Confidence Indexでは、所属する企業がコロナ後も在宅勤務を許可してくれると考えるワーカーが全体のおよそ50%であることがわかった。この割合は、IT(73%)、金融(67%)、メディア(59%)など、フレキシブルな働き方が将来的に重要になると考えている業界ではさらに高くなっている。

リモート化を進める動きは民間企業だけに留まらない。米国政府機関全体におけるリモートワーカーの割合は、パンデミック前の3%と比べ、現在では59%までに伸びている。バイデン氏は連邦政府だけでなく、国全体で柔軟な働き方を標準化する可能性があるとしている。政府での積極的な採用に伴い米国のリモート化は今後ますます加速するだろう。

ただし、国民全員が手放しでこの動きに賛同しているわけではない。オフィスでの業務とほぼ変わらない生産性や効率性が証明された一方で、リモートワークの弊害の一つとして仕事とプライベートとの境界が曖昧になることが挙げられており、リモートに不満を持つワーカーも一定数いる。2020年5月のCNBCによる統計では全体の60%がリモートワークにより公私のバランスを保つことが難しくなったと感じている。

ーCNBCによる”Workforce Happiness Survey Q4 2020”の統計結果を参考に編集部作成

リモートワークが非常に大きなトレンドへと成長した米国では、今後如何にリモートのデメリットを取り除き、国全体でリモートワークを取り入れたニューノーマルへと移行できるかが課題となるだろう。

カナダ:リモート化の波には乗れず?

カナダでは2016年にはわずか4%だったリモートワーカー人口は、コロナピーク時には約7倍まで上がったものの、全体の30%までにとどまっている。前出のアメリカにおけるリモート人口と比較すると、非常に少ない数字だと言える。

カナダの求人サイトによる統計では、企業の採用担当者の3人に1人(31%)がリモートワークを新たな常識として念頭に置いていることがわかった。企業側がリモート化へ意欲を見せている。しかし、同じ統計からリモートを経験したワーカーの大半は、いずれはオフィスに復帰するものだという認識を持っていることがわかる。コロナによりリモートワークを取り入れた企業では、ワーカーの13%がすでにフルタイムで職場に戻ったと回答しており、残りのうち62%も年内に戻ると予想している。

こういった統計から、カナダでは企業とワーカーのリモートに対する今後の見解の差が見て取れる。リモートワークのポリシーや今後のオフィス回帰に関して具体的なプランをまだ持たないカナダ政府の曖昧な政策がこの差を生み出しているのではないかと考えられる。政府のホームページでも、いつごろオフィスへ戻れるか、またはリモートを継続すべきかなどの決定を企業側に委ねており、具体的な日程などは記載がない。

カナダ国民の80%以上がコロナ後のリモートワーク継続を望んでいるものの、既に国全体でオフィス回帰が進んでいるのが現状だ。今後の働き方において、カナダではコロナ以前とほぼ変わらぬ姿へと戻っていく可能性が高いと言える。

ヨーロッパ

イギリス:リモートの次はハイブリッド

コロナ以前と比べ20倍の、人口のおよそ30%がリモートワーク中のイギリスでは、今後働き方はどのように変化していくのだろうか。

政府の行った統計から、企業のマネージャー、会計や事務など、資格や経験を必要とする職業は、そうでない職業や手先の器用さが求められる職業よりもリモートの機会が多い傾向にあることが分かる。また、専門職では、3分の2以上(69.6%)が何らかの仕事をリモートで行っており、企業だけでなく、国全体としてもリモート率が高いのが分かる。

リモートの普及が比較的進んでいるイギリスだが、企業だけでなく政府にも注目されているニューノーマルの形として、「ハイブリッド・モデル」がある。 ハイブリッド・モデルとはリモートワークとオフィスワークの両方を組み合わせた仕事形態のことだ。典型的なハイブリッド・モデルを採用している企業では、一般的に従業員にはリモートとオフィス両方の選択肢が与えられているが、職種によって柔軟度は様々である。

現在ハイブリッドのような柔軟で余裕のある働き方が従業員のウェルビーイングやメンタルヘルスに与えるメリットが明らかになっており、英国内で次世代のワークモデルとして呼び声が高い。Gensler社の調査によると、イギリスのワーカーの67%がハイブリッドモデルを希望しており、既に取り入れているワーカーからも、コロナ後の継続を望む声が上がっている。彼らはハイブリッドモデルに対して他の勤務形態のワーカーよりも、新しい働き方を試すことに抵抗を感じていない、パンデミック中の勤務がクリエイティビティに良い影響を与えているように感じている、など総合的な満足度が高い。

イギリス政府もハイブリッドに対する見解をより一層深める努力をしており、政府が率先して進めているよりフレキシブルな職場づくりは、今後国内において企業の「ハイブリッド」化を加速させていくだろう。

ドイツ:性別、立場、職種によるリモート格差

パンデミック以前から既にリモートワークが非常に盛んであったドイツでは、2019年時点で企業の40%が従業員にリモートワークを許可しており、2014年の22%と比較すると大きな成長が見て取れる。

2021年1月27日、ドイツではパンデミックに伴い「職業安全条例(Home Office Ordinance)」が発効された。オフィスでウイルスに感染するリスクを最小限に抑え、すべての従業員の安全と健康を確保するための条例だ。雇用主は対象となるワーカーに対しリモートで働く選択肢を提供することが求められている。職種を問わず、国内全てのワーカーに対し条例は有効であり、ワーカーはリモートという選択肢を受け入れることが推奨される。さらに、この条例には、様々な理由からリモートでは業務を行うことのできないワーカーを保護するための追加ルールが含まれている。これらのルールは民間企業、公的機関両者に適用されており、国としてリモート化を促進する動きが見られる。

ハンス・ベクラー財団の新しい調査によると、2021年1月末時点で、ドイツ人ワーカーの24%が、主に自宅で仕事をしていることが明らかになった。また、ドイツ企業の約70%がリモートワークの長期計画を立てており、コロナ後様々な業種でリモートワークへの本格的な移行が多くみられる様になるだろう。

しかし、全員が等しくリモートワーク生活を享受しているわけではない。ドイツの大手法律事務所の行った統計を見ると、リモートワークの機会はすべてのワーカーに等しく与えられているわけではないようだ。データではドイツ西部では東部よりも、男性は女性よりも、大学の職員は中等教育機関の職員よりもリモート業務可能なワーカーが多い状況だという。

ドイツでリモートワークがニューノーマルとして定着しつつある中で、障壁となるのは如何にしてリモートワークを平等に可能にしていくかだろう。今後ドイツ政府がどのような政策でリモート化を推し進めるのか、注目していきたい。

アジア

インド:未だ滞るインフラ整備

インドでは現在、人口の70%が少なくとも週に一度はリモートで働いている。2018年には既におよそ60%のワーカーが定期的にリモートで業務を行っていたことから、インドはコロナ以前からのリモート大国だと言える。

しかし、求人サイトIndeedが行った2020年度の調査によると、インド企業(大企業67%、中堅企業70%)は、グローバル企業(大企業60%、中堅企業34%)とは対照的に、パンデミック後のリモートワークに賛成していない。また、ワーカーたちも同様に、全体の59%がリモートワークを好んでいないという結果が出ている。さらにベルギーのIT企業が2020年にインド国内で行った統計ではなんとアンケートに答えたワーカーの77%がリモートで疲れ切っていると回答しており、リモートで業務を行っている人口と、その人気は比例しないことが分かる。

それを受け、インド国内では今後のリモート化を疑問視する声も非常に多い。理由として、リモートに適した環境が極めて少ない、またそういった環境を整えることが困難であることが挙げられる。都会で仕事をするワーカーの多くは、小さなアパートに家族と住んでおり、デスクなど、リモートに必要な機材を置く場所がない。また、個人宅でインターネット回線などのインフラ整備が整っていることは稀で、そういった背景からもリモートによる苦労が絶えない状況だ。インドが今後リモート化を進めていくのであれば、まず課題となるのはインフラの整備だろう。

シンガポール:リモートワーク先進国

コロナ前から既にリモートワークが盛んであったシンガポール。2019年には企業の80%が全てのワーカーに対しリモートを認めており、公的機関では10人のうち9人がリモートワークの機会を得ていた。2019年にタフツ大学フレッチャースクールが各国のコロナ以前のリモート適正を測った調査でも、シンガポールは全体として非常に高いスコアを記録した。

―タフツ大学フレッチャースクールの調査結果をグラフで表したもの。縦軸がデジタルプラットフォームの堅牢性、横軸はトラフィックサージに対するインターネットインフラの回復力。

コロナ禍の現在では、約60%のワーカーが在宅ワークをしており、そのほとんどがフルタイムで行っている。シンガポールの厚生省は一時、コロナ患者の減少に伴いリモートの規制を緩め、オフィスに75%までのワーカーが戻ることを許可していたものの、現在は再びリモートワークを全国的に義務付ける形になっている。また、リモートワークで急遽必要になった家のWi-Fiや機材にかかった代金は控除されるなど、政府によるケアも手厚い。

シンガポールでは80%のワーカーが、自宅で仕事をしたい、あるいは柔軟な働き方をしたいと答えていることが、2020年の大手シンガポールメディアの調査で明らかになった。それに加え、政府もコロナ後のリモート化推進に尽力していくようだ。CNAの記事で紹介されているとおり、ローレンス・ウォン国家開発相は今年5月に自身のFacebookに「大多数の労働者は今後も自宅で仕事をすることが予想されます」と投稿している。そして彼は雇用主に対して、在宅勤務を「ニューノーマル」として受け入れるよう呼びかけている。 シンガポールでは今後も政府主導のリモート化が加速していくだろう。

リモートワーク普及に大切なのは格差の解消

現在世界中で需要が飛躍的に伸びているリモートワークであるが、国によってその向き合い方や人気は様々なことが見て取れる。また、リモートに対する政府の動きも大きく違っている。今後リモートワークをより普及・定着させるために重要なこととして、職種や性別、ネット環境などのインフラにおける「格差」の解消が挙げられる。公平なリモートワーク環境の整備こそがどの地域においても鍵となるだろう。

2021年8月12日更新

テキスト:松尾舞姫