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【クジラの眼 – 刻をよむ】第3回「個人と組織の相互成長につながる働き方改革とは」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 刻(とき)をよむ」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで毎月開催される“SEA ACADEMY” ワークデザイン・アドバンスを題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

―鯨井 康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

横並びが大大大好きな日本人。よその会社がやり始めるとすぐに「ウチは何でやらないんだ」となる。働き方改革もこれだけ世間を賑わせていますから、多くの会社でそんな叱責が飛んでいるに違いありません。改革の推進役を仰せつかった担当者は泡を食って世の中の動きを調べ始めていることでしょう。働き方改革の具体的な施策ってどんなもの?誰がどうやって推進している?成果って出ているの?
本日のセミナーはそんなニーズを持っている人にうってつけ。リクルートマネジメントソリューションズの藤澤さんに登壇していただき、全国161社もの会社に向けて実施した働き方改革に関する実態調査の結果を報告してもらいます。働き方改革の今を知り、これからの展望について一緒に考えていきましょう。(鯨井)

 

インスピレーショントーク(株式会社オカムラ 谷口美虎人)

谷口:今の働き方改革では、生産性の向上と長時間労働の抑制が盛んに取り沙汰されています。こうした組織寄りの目的をかかげることはもちろん必要ですが、働いている個人にもっとスポットライトを当てる改革も考えていくべきではないでしょうか。個人が持てる力を存分に発揮できる状態にした上で組織とのいい関係を築くような働き方改革だってあるはずです。

 

ー谷口 美虎人(たにぐち・みこと)株式会社オカムラ 
大学時代より「働く場」と「人」の関係に興味を持ち、ワークプレイスデザインを専攻。入社後、オフィス環境の提案営業を経て現職。現在は、ウェブマガジン・ペーパーマガジンの企画、編集に従事。ライフとワークについて考えるWORK MILL主催の共創プロジェクト「Work in Life Labo.」のディレクター兼研究員としても活動中。

 

谷口:そうした考えのもとで、弊社では「Work in Life Labo.」という研究プロジェクトを立ち上げて活動をしてきました。本日ゲストスピーカーとしてお呼びした藤澤さんとはそこでもご一緒させていただいています。研究活動の中で働く「時間」と「場所」の自由度について調査してみたところ、働き方の自由度があるとエンゲージメントが向上して働く人にも企業にも望ましい影響を与えることが分かってきています。働き方の選択肢を一人ひとりに対して広げていくという改革の可能性を強く感じているところです。

 

今「はたらく」のまわりにはたくさんの問題があります。社会環境では労働人口の減少。職場環境では仕事上の人間関係が複雑化し、コミュニケーションがうまくとれないという問題。プレゼンティズム※という言葉が使われるようになったことで分かるとおり、働く個人の健康面の問題もあります。個人と組織の両面から働き方改革を見つめ直し、双方がうまく成長していけるような改革を目指すべきだと私たちは考えています。そのあたりの話をこれから藤澤さんにしていただこうと思います。

※プレゼンティズム:出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題により、充分にパフォーマンスが上がらない状態のこと

 

プレゼンテーション(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 藤澤理恵)

藤澤:従業員規模300名以上の企業161社にご協力いただいて実施した、働き方改革がどのように行われているかを調べた結果と、そこから得た考察をこれからお話します。

 

ー藤澤 理恵(ふじさわ・りえ)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 研究員
人事制度設計のコンサルティングや、研修プログラム開発、組織調査などに従事したのち、現職。首都大学東京大学院・社会科学研究科・経営学専攻にて2015年修士号を取得後、博士後期過程に在籍中。企業人の社会貢献・プロボノ活動、育児休業、HRMの柔軟性などを題材とした調査を手がけ、組織を出入りする「越境」と、組織の柔軟性をテーマに研究を行っている。

 

藤澤:働き方改革へ託す想いや目的は各社まちまち。ダイバーシティ、法令順守、生産性向上、イノベーション、持続可能性、人間らしさ、充実感、幸せなどなど、本当に多様なものがあります。そこにはいろいろな文脈があって然り。当然答えは一つではなく、各社がそれぞれのストーリーを描いていくべきだと思います。そうした改革を推進するお役に立てればと思い、働き方改革の目的、どんな施策が行われているか、それから改革がどのように推進されているのかなどを明らかにする調査を実施いたしました。

 

働き方改革はどのように取り組まれているのか

 

 

藤澤:図は働き方改革の成果実感についてたずねた結果です。一番成果が出ていると考えられているのは「長時間労働者・労働時間減少」で、半分近くの回答者が成果が出たと答えています。ただ、二番目の「業務効率・労働生産性の向上」を実感している3割とのギャップが気になるところです。つまり労働時間は減らせたのだけれど仕事量は追いついていない可能性があるのです。「新事業・商品開発、イノベーション進展」に至っては実感しているところは極めて少ないのが現時点での働き方改革です。また、働く個人として重要な「従業員の満足感・働きがいの向上」は2割弱の企業しか実感していません。改革のスコープにそもそも入れていない会社もあるようです。働きやすさや働きがいの向上を目指す改革はまだまだこれからといった感がしてきます。

 

 

藤澤:働き方改革で行われている施策を3つの群、【生産性向上】【多様化】【柔軟化】に分けて考えてみます。
【生産性向上】に含まれる施策では、「時間管理」や「業務改善」については導入率が高くなっていますが、「組織・事業デザインの見直し」や「生産性基準の評価」の導入は進んでいないようです。
【多様化】では、「均等処遇」は進んでいるものの「介護と仕事の両立」はまだまだといった状況です。
【柔軟化】の三つの施策はいずれも導入率が低いですが、順番をつけると、働く「場所」の柔軟化→「時間」の柔軟化→「所属」の柔軟化という並びになっています。

 

 

藤澤:こうした実態の中、労働時間圧縮の次のフェーズへの視点を考えてみたいと思います。
一つ目の視点は生産性向上のより深層部へのアプローチです。「これから導入したい」との回答が3割を超える“注目施策”は、「業務フローの改善」「内向き仕事の簡便化」「時間当たり生産性の評価」などになります。また、現在導入しているところは少ないけれど成果が出ている“隠れ有望施策”として「勤務間インターバル制度」「管理職の評価基準に部下の長時間労働抑制などを明記」が挙げられます。
二つ目の視点は組織の多様化、働き方の柔軟化です。こちらの“注目施策”は「正規・非正規雇用従業員間の処遇格差の是正」「介護と仕事の両立に関する教育」「在宅勤務やリモートワーク」となっています。“隠れ有望施策”は「子育て期の部下のマネジメントに関する管理職教育・イクボス研修」です。
こうした施策が今後の働き方改革の重点施策になっていく可能性があると思われます。

 

 

個と組織の関係性のシフト

藤澤:【生産性向上】が企業にとって最大の課題であることは言うまでもありません。先の図の【生産性向上】施策の中の「時間管理」は、それ以外の「業務改善」「組織デザインの見直し」「評価基準の見直し」が滞っているから行わざるをえなかったものと考えられます。つまり氷山でいえば「時間管理」が目に見えている部分で、海面の下にはそれ以外の施策の対象が原因として隠れているのです。
さらに深層を探ってみると、【生産性向上】の下に隠れている要因として【多様化】と【柔軟化】を入れる氷山モデルも描けそうです。そこでここからは実態調査のデータについて、【生産性向上】と【柔軟化】、【多様化】を組み合わせて分析した結果をお話ししましょう。

藤澤:改革の成果実感数を見たときに、生産性・柔軟化ともに平均以上の数の施策を実施している回答群は、生産性は平均以上だが柔軟化は平均未満である回答群に比べて、成果実感数が3倍にもなっていました。このことから、生産性向上と柔軟化施策の組み合わせが改革推進のスピードと効果を高める可能性があると言えるでしょう。柔軟化で一人ひとりが働き方を工夫できるようになれば既知の無駄を省ける、自己決定感が高まって仕事にオーナーシップを感じ責任感とモチベーションが高まる、といったことが、柔軟化と生産性向上が相互作用しあう理由だと考えられます。

 

生産性を向上させるために、働く場所や時間、所属の柔軟化は有効な施策であるように思われます。しかし一方で、こうした施策はこれまでの慣習から懸念をもって見られてしまう心配もあるのです。離れた場所だと、サボるのではないか、会社への忠誠心が無くなるのではないか、評価だって難しい…。こうした懸念を持つ企業はここ1~2年でずいぶん減ってきている感触もありますが、心配のタネは尽きないようです。ですが、柔軟化施策を進めると成果実感が大きく跳ね上がるという調査結果が出ている限り、ここに賭けてみてもいいのではないかと私は思っています。
目の前で長い時間働いてくれているだけで「彼(彼女)は良くやってくれている」と献身性に対しても仕事の成果に対しても良い評価をしてしまいがちだった私たちですが、そろそろこうした慣習と決別しなければなりません。「献身」と時間、「成果」と時間を切り離していくことこそが働き方改革の本質のひとつだと私は考えているのです。

 

 

藤澤:最後にもう一度働き方改革とは何を変えることなのかを考えてみましょう。
生産性を高めていくためには、時短や働く人の多様化を前提条件とし、これまでの業務は滞りなく行った上でこれまでにないものを生み出していかなければなりません。そのときに何を変えなければならないか。時短・多様化の前提条件では「献身」と時間の切り離しが求められるのです。これまでの業務を遂行するところでは「成果」と時間を切り離さなければなりません。さらに仕事・組織への「愛着」と「誇り」を結びなおすことが新しい価値創造の推進につながると考えられます。これこそが、生産性と個の幸せを高めていく「個と組織の関係性のシフト」なのです。

 

クロストーク(藤澤理恵×谷口美虎人)

谷口:お話いただいた内容に関連していくつか質問させていただきます。
働く場所や時間の選択肢が用意されていても選べない場合があるという話がありました。私自身の実感としても、すぐに柔軟な働き方に移行するのは難しいように思えます。どうすれば働き方をうまく選べるようになるのでしょうか。

 

藤澤:これまでやったことのない働き方で自分の生産性が維持あるいは向上できるのかは分かりません。ですからまずは一度経験してみるのが大切です。そのためには、どこでどのように働けば生産性が上がるのかを試せる環境や職場の雰囲気づくりを進めるのがいいと思います。それから柔軟な働き方を導入するときに大事なのは、何のための柔軟化なのかをみんなで共有することでしょう。柔軟な働き方をする目的やストーリーを全員で納得している土壌が無ければ、新しい働き方にチャレンジするのが難しくなってしまうからです。未経験の働き方を試すと当初は生産性が落ちるとも言われています。それでもそれを乗り越えれば生産性は向上していきますし、働くことに対する価値観が変わり、主体性が芽生えていくのだと思います。

 

 

 

谷口:ありがとうございます。もう一つ質問させてください。
個人と組織の関係の中で、従業員のライフキャリア形成は働き方改革の目的のひとつとして挙げられると思います。キャリアの形成はもちろん自分自身でするものですが、それを支援するための制度設計は働く個人にとって重要な施策であるはずです。ライフキャリア形成に対する企業の取り組みについてお話いただければと思います。

 

藤澤:働き方改革の目的としてライフキャリア形成を重視しているかを訊いてみたところ、40%ほどの会社は長期的にも短期的にも重視すると回答しましたが、逆に重視していないと答えた会社も2割以上あったのです。あくまでも働き方改革の目的としては重視していないということで、ライフキャリアの形成事態を軽く見ているわけではありませんが、4社に1社もが重視していないという事実には少し驚かされました。企業主導のワーク・シフトが個人のライフ・シフトに大きな影響を与えるのは間違いありませんし、逆に個人のライフ・シフトのニーズに応えられない企業は従業員との結びつきを失っていきます。企業は個人のライフ・キャリアに無関係ではいられません。。調査した中でも、働き方改革に着手して年数が経つにつれてライフキャリア形成にかかわる施策の導入が進む傾向があることが分かります。最初のうちはスコープに入っていなかったけれども数年経つとライフキャリア形成にも目が向くようになるのでしょう。どうせ後から加えるのであれば、これから改革を始める会社は、従業員のライフキャリア形成を働き方改革の目的に初めから据えて取り組むといいのかもしれません。

 

谷口:ありがとうございました。ここからは参加者の皆さんにいくつかのグループに分かれていただき、ここまでの話に関してでも日頃かかえていらっしゃる問題でもいいので話し合ってもらい、後ほど質問やご意見をいただこうと思います。

 

 

質疑応答、クロージング(会場の参加者×藤澤×谷口)

Q1:副業に関してどのように考えていらっしゃいますか?
藤澤:経産省が発表しているデータを見ると、お金のためにやむなく副業を持つ人と力が余っているハイキャリアの人の副業とに二極化しています。その間に位置する普通の人が選べる副業が増えていかないといけないのではないでしょうか。人事部から外部に向けて社員の副業を斡旋するような仕組みも今後必要になるかもしれません。

 

Q2:選択して働くことの優位性を会社にアピールするのが難しい。いい方法はあるでしょうか?
藤澤:働き方を選択できるのが全ての人にとって望ましいわけではない可能性があることをまずは認識する必要があります。生産現場の人達は場所も時間も固定的にならざるを得ません。彼らが望むよりよい働き方は例えば計画有給がきちんと取れること。これを実現するために、発注する側が柔軟な働き方をするなどして発注の遅れを防ごうという話で、柔軟性と生産性とそれぞれのよりよい働き方のストーリーがつながりました。こんな展開で働き方改革を実現させた事例があるのです。

 

Q3:自由な働き方の制度があっても実践できていない人もいるのでは?
藤澤:私が勤めているリクルートグループでも会社によって進め方はまちまちです。テレワークを始めたばかりのところでは、自宅には働く環境がないとか通信環境が遅いといった課題をクリアすることから初めています。とにかく一度トライしてみて生産性が上がれば続けるし、上がらなければオフィスに出社する従来の働き方に戻せばいい。新しい働き方でうまくやっている人の成果や受けている恩恵が社内に広がると徐々に柔軟な働き方は広まっていくように思います。

 

 

 

谷口:働き方改革は生産性を向上させることが第一の目的。でも成果をさらに高めるためには生産性を高める施策だけを実施するのではなく、柔軟な働き方や多様性を実現する施策を合わせて実施するのが望ましいというお話をいただきました。これから働き方改革に取り組む会社の担当者だけでなく、着手したものの改革がなかなか軌道に乗らなくて困っている方にとっても役に立つ内容だったのではないかと思います。
藤澤さんと一緒に実施した「Work in Life Labo.」の調査では、働き方の選択肢が与えられた人の中には働き方を選ぶのにストレスを感じてしまう方もいることがわかっています。提示された働き方に対する捉え方は一人ひとり様々です。答えは決してひとつではありません。このことを忘れずに働き方改革を推進していかなければならないと思います。

 

 

小説『N氏の笑えない改革』

N氏は勤めている会社の働き方改革のおかげで毎日午後の六時に帰宅できるようになりました。会社を出るのがどんなに早くても十時過ぎだったこれまでのことを思えば、こんなに早く帰宅できるのは夢のような話です。家族揃っての夕食。馴染みのなかったゴールデンタイムのテレビ番組なんかを見た後にゆっくりとお風呂に入ってみたりもする。少し前までは考えられないような生活です。
だけど、子供たちは食事を食べ終えるとさっさと自分の部屋に引き上げてしまうし、テレビはどのチャンネルに回してもあまり面白くない。風呂から上がったら最早することもないので、まだ眠くはないけど寝てしまう。そしてN氏は一人思うのです。「こんなはずじゃあ無かったのに」と。
「せっかく自分の時間ができたんだから何かしなければ」「そうだ。やりたいことが無いのならこれから作ればいいんだ!」……。こうしてN氏の改革は働き方改革から次の段階、すなわち自分改革へとステップアップ?していったのでした。めでたし、めでたし。

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N氏のような本末転倒的な事態に陥らないよう(それでも自分改革できればそれはそれでいいのかもしれませんが)、私たちは最初からワーク・シフトと共にライフ・シフトをセットで考えておくべきなのではないでしょうか。いやいやむしろ、まず一人ひとりが自分の人生について見つめ直し、それを実現するために会社から提示された働き方からどれを選ぶのが最良なのかを考える。この方が正しいのかもしれません。何と言ってもワーク<ライフ。どう考えたって「Work in Life」なんですから。

今回はこのあたりで失礼します。次回までごきげんよう。さようなら。(鯨井)

2018年8月9日更新
取材月:2018年7月

テキスト:鯨井 康志
写真:大坪 侑史

 

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