• HOME
  • 【クジラの眼 – 刻をよむ】第2回「ウェルビーイングを実現し、生産性を高める組織づくりへ」

【クジラの眼 – 刻をよむ】第2回「ウェルビーイングを実現し、生産性を高める組織づくりへ」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 刻(とき)をよむ」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで毎月開催される“SEA ACADEMY” ワークデザイン・アドバンスを題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

 ―鯨井 康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

働く人の心を大切にすることによって組織の生産性をあげる。今回登壇してくれるのは、企業に対してそんなサポートしているSAI Japanのおおばやしあやさんです。人類にとって究極の目的である「幸せ」になることについて、哲学者のように堅苦しく教示するのではなく、あやさん流に柔らかく楽しくレクチャーしてもらえるはずです。話を聴き終わる頃に私たちは、いろいろなことがハッキリ見えてくるだけでなく、幸せな気持ちになっているに違いありません。(鯨井)

 

 

インスピレーショントーク(株式会社オカムラ 山田雄介)

山田:本日は、SAI Japanのおおばやしあやさんから「ウェルビーイングを実現し、生産性を高める組織づくりへ」というタイトルでお話をしていただきます。ウェルビーイング(Well-being)は一般的には個人の視点で語られることが多いと思いますが、今日は集団(チーム)の視点からも考えていく予定です。

 

―山田 雄介(やまだ・ゆうすけ)株式会社オカムラ
中学・高校時代を米国で過ごし、大学で建築学を学び、人が生活において強く関わる空間に興味を持つ。住宅メーカーにて住環境のプロデュース企画を手掛け、働く環境への関心からオカムラに入社。オフィス環境の営業を経て、現在は国内外のワークトレンドのリサーチやオフィスコンセプトの開発、ウェブマガジン・ペーパーマガジンの企画、編集と幅広い業務に携わる。

 

山田:ウェルビーイングが注目されている理由の一つとして、組織の生産性に影響を及ぼすことがあげられます。生産性の考え方はさまざまですが、一般的にはアウトプットの価値を時間やお金など価値を生み出すために要したリソースで割って求めることが多いと思います。例えばこれにウェルビーイングを掛け算するという考え方があるのではないでしょうか。従業員全員のウェルビーイングを示す値が0.5であれば生産性は半分になりますし、2.0であれば生産性が倍増することになるわけです。そう考えるとウェルビーイングは大事な経営指標になりうるのです。

 

このあとあやさんから、ウェルビーイングとは何か、多様性やチーム、そして生産性との関係についてお話をうかがいます。それではおおばやしあやさんに登壇してもらいましょう。

 

プレゼンテーション&ワークショップ(SAI Japan代表 おおばやしあや)

おおばやし:コミュニケーションツールの開発と研修講師をしているおおばやしあやです。私は5年間フィンランドでソーシャルサービスを学んできました。ソーシャルサービスというのは、クライアントとのコミュニケーションを通して目の前の人により良く生きていただくこと、そしてそれを介して社会問題を解決するというものになります。そこで得た考え方やメソッドが働く人のお役に立てばと思い、帰国して今活動をしております。

 

―おおばやし あや  SAI Japan 代表
フィンランド ラウレア応用化学大学(ソーシャルサービス学科)卒。フィンランド国家認定ソーシャルワーカー、コミュニケーションカードツール開発者(Cx3シリーズ)、研修講師。社会的視点を重視し、働く人のwell-being実現を通し生産性が上がる共栄共存の組織作りを目指す。会社を変えたい人をつなぐ「ヨコイト会」主催。

ウェルビーイングと生産性の向上の関係?

おおばやし:今の日本はとても生きづらい社会になっています。うつ病になって働く人は10人に一人といわれていますし、そうした人への職場でのケアは先進16カ国中最低です。うつ病に対する費用は2008年当時で年間3兆円。今はもっとかかっていると思います。ここで問題視すべきは間接費用(欠勤や早退で生じる損失や死亡に係る費用)の多さです。治療に要する直接費用が2000億であるのに対し、間接費用は2兆8000億もかかっているんです。さらにここにあらわれない問題もあります。うつっぽくなってくると、普段より仕事に時間がかかる、ミスが多くなる、同僚とのコミュニケーションをさけるといったことが起こります。人が幸せに生きていないことでどれくらいの損害がでているのか想像もできません。

 

 

おおばやし:うつには精神医学的うつと心理学的うつがあることをご存じでしょうか。精神医学的うつは脳の病気なので病院に行って薬をもらえば治る可能性があります。しかし心理学的うつの方は病気ではなくストレスが原因なので、病院に行っても薬が効かないんです。日本の雇用慣行が時代に合わなくなってきていることや人間関係の悪化などがストレスを引き起こすことになっているのかもしれません。そこでどうすれば良く生きられるのかを私たちは考えていかなければならないのです。

ウェルビーイングという言葉をご存知ですか?

おおばやし:ウェルビーイングとは、主観的に健康で幸福で、満たされ、心地よく、人生の質に満足している状態のことで、それは、身体的、物理的、社会的、精神的、および(ここが大事ですが)発展と活動の側面を含むもので、社会的にも支えられるものでなければなりません。ただ良く生きるだけでなく、「より」良く生きるととらえることが大事です。

 

ウェルビーイングは主観的なものですが、これを数値化するには客観的な数字を見ることになります。例えば、国連の「World Happiness Report」やOECDの「Better Life Index」などでは、GDPや平均寿命、社会システムとしての住宅、コミュニティ、教育などの指標が用いられています。この社会システムの充実が大切なことをマズローの5段階欲求説で見てみましょう。

 

※マズローの5段階欲求説:人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が充たされると、より高次の階層の欲求を欲するというもの

 

おおばやし:上の図は、システムの領域の底辺が小さければ最終的に到達する三角形の頂点の高さ(ウェルビーイング度)が低くなってしまうことを示しています。システムの領域をしっかりと築くことが大事ですし、企業でもこの領域を整えれば従業員の幸福につながるのです。

 

働く人のウェルビーイングを考えてみましょう。幸せに関することなので、いろいろな考え方がありますが、例えば、①職への満足感、②良好でフェアな就労状態、③仕事の質と仕事における健康、ととらえる学者もいますし、健康のことは置いておいて、やりがいや責任感、仲間に必要とされる、仕事が成功するなど主観的な項目をあげる考え方もあります。これらを先ほどのマズローの5段階欲求に当てはめたものをお示ししておきます。

 

 

おおばやし:ウェルビーイングは主観的な満足や幸福の感覚ですから、とらえ方は人によって違います。100人いれば100通りのウェルビーイングがある。とても多様なものなのです。各自が自分はどのように生きたいのかを考えた上で導き出された自分だけの理想の「働き方」と企業側が考える「働かせ方」とをうまくバランスさせることによって働く人のウェルビーイングは実現しうるのです。

ワークショップ「あなたが考える、ご自身のウェルビーイングとはどんなものですか?」

 

配布されたワークシート(下図)に、会場の皆さんご自身が考えるウェルビーイングを書き出すワークです。

 

人生でこうなることが幸せだ、働く上でこうありたいなどを主観的・感覚的に書くのですが、制限時間はたったの3分間。すぐにペンを走らせる人もいるけれど、多くの人はなかなか書き出せなくて、中にはずいぶんと悩んでいる人も…。

 

「人生」と「仕事」、皆さんがどちらから書き始めるのかを見てみたところ、7:3(もちろん大ざっぱな目の子勘定)で、「仕事」から書く人が多いようでした。やはり仕事は人生の一部分(Work in Life)にすぎず、その意味で小さなくくりである「仕事」の方が考えやすかったのでしょうか。それとも勤勉な日本人。仕事中心の人が多かったから固いほうから手をつけたのかもしれません。それはともかく、各自の回答の発表は後半のパートに譲って、あやさんの講義が再開されます。(鯨井)

 

最近よく聞く「多様性」とは何でしょうか?

おおばやし:ウェルビーイングの多様性について話をしてきました。ここで多様性について改めて考えてみたいと思います。多様性には「表層的なもの」と「深層的なもの」の二つがあります。表層的な多様性には、年齢や性別、人種、地域、言語など人口統計的に扱えるもの。対して深層的な多様性には、数値化できない性格や価値観、知識、技術などが含まれます。日本ではまだまだ表層的ダイバーシティの方が着目されていますが、米国の研究によれば、いくらこちらの多様性がある組織をつくっても生産性は伸びないということです。

 

生産性や創造性を高めるのに大事なのは深層の方なんです。多様性のあるチームが稼働して初めのうちは表層的な多様性を意識することでチーム内に摩擦が生じ、生産性は次第に落ちていきます。しかしそれを乗り越えたある時点からは、今度は深層的な多様性が効いてきてチームのパフォーマンスが上がっていくのです。多様性が受け入れられている心理的に安全な状態(ダイバーシティ&インクルージョン)では、一人ひとりがチームの目的を達成するために自分にしかできないことを探し、それを行動に移します。結果としてチームの想像力は高まり、目的をクリアすることができるのです。

 

ところで、「チーム」とは…?

おおばやし:今日は「チーム」も課題のひとつです。チームとは、特定の目的を達成するために作られた、内部で相互作用をし合う人間の集まり、と定義できます。多様な人が共通の目的のために協働する。これがチームの活動ということになります。

 

ですからこのチーム内の理想的な人間関係は、目的達成に向け協働するための対等な関係性を保つことになります。誰もが欠かせない役割を持っているという意味で全員が対等であるべきですし、上下関係はなく互いに尊重し合う関係性をもつべきです。リーダーはたまたまそのときリーダーシップをとる役割の人であって、違う局面では他の人がリーダーシップをとるのが理想的なチーム運営。そのためにはフェアで円滑なコミュニケーションが欠かせないと言えます。

 

 

おおばやし:チームにできることはなんでしょう。第36代アメリカ大統領リンドン・ジョンソンは「私に解決できる問題はそれほどないが、私たちに解決できない問題はない」とチームの素晴らしさを語っています。一方で漫画家の手塚治虫は「チームには相乗効果があるが、相殺効果もある」と述べています。チーム内のコミュニケーションや人間関係の良し悪しでチームのパフォーマンスは大きく変わるということなんだと思います。
チームワークの内面的利点には、相乗効果の他に「一体感」「役に立つ喜び」「成長」「感謝」などがあげられます。そしてこれらは、働く人のウェルビーイングの要素と深く関係していることに気づかされます。人は一人だけで幸せになるのは難しくて、「人間」というくらいですから、人と人の間で関係性を持ちながら、貢献したり、成長したり、幸せになっていくのだと思います。

今さらおさらい「生産性」

おおばやし:次は生産性について考えてみます。生産性の算出式は、生産性=産出(output)/投入(input)です。この生産性には「物的生産性」と「付加価値生産性」があります。物的生産性は、生産するものの大きさや重さ、個数などといった、物量を単位とする生産性。付加価値生産性は、さまざまな形で手を加えることによって企業が新たに生み出した金額ベースの価値を扱うものです。最近企業に求められているのは、いうまでもなく付加価値生産性。物的生産性が機械やAIで置き換えられるのに対して、付加価値生産性は、企業理念、人や心の領域に係っているものです。

 

その企業が存在する理由や何を提供することで社会貢献するのかについて強く共感できれば、その人は幸せに働いていけるのだと思います。自分の人生や働く意味を考え、それと企業理念が合えば合うほど、やりがいを感じながら満足して働くことができるのです。そしてその結果、企業の生産性は高まっていくに違いありません。

 

感性コミュニケーションエクササイズ『深層の多様性を体感してみよう』

信頼関係をベースにした協働的・創造的チームをつくることを目的に、あやさんが開発した『C×3BOOSTER』。これは三つのC、Cooperative(協働性)、Creative(創造性)、Communication(コミュニケーション)を高める、カード形式のコミュニケーションツールです。

 

カードには、「あなたのラブリーな弱点を教えてください」「最近クスッとしたことはなんですか」「あなたがカッコイイと思う単語はなんですか」などの質問が書かれています。4~5人のチームに分かれて、最初の人が1枚カードを引いて質問に答えます。そのカードを次の人、次の人と回していき各自が自分なりの答をチーム内で発表し、最後にその質問についてチーム内で話し合います。ここでのルールは、①直感で話す、②聴く人は回答者の様子を観察する、③楽しむ!の三つだけ。さあ、エクササイズのスタートです。(鯨井)

サルは毛づくろいをすることで相手との親しい間柄をつくります。毛づくろいをされる方はいい気持になるのですが、する方も脳内にエンドルフィンが分泌されて幸せな気分になるんだそうです。人は毛づくろいの代わりに会話と笑いなどを使って仲間をつくるように進化しました。しかも集団でいるときにエンドルフィンが出るとその効果は倍増するらしく、集団の構成員に強い愛着がわくのです。人と仲よくなるとき、そしてチームをつくるときには、楽しい会話が欠かせないんですね。

 

C×3カードでしていたことはまさにそれ。笑いを誘うような設問をもとに会話が広がっていくところが素晴らしい。エクササイズをやる前と後とでは、会場の雰囲気がグッと和らいだ感じがしましたし、部屋の温度が少しだけ上がったように思えました。

 

場が暖まったところで、先ほどのワークで各自が書き出した人生と仕事のウェルビーイングを一人1分間発表して、チーム内でシェアしました。さきほどのエクササイズの効果は抜群。今日初めて会った人同士とは思えないすっかり打ち解けた雰囲気の中でそれぞれのウェルビーイングが発表され、ウェルビーイングの多様性をみんなで確認することができました。(鯨井)

 

まとめ

おおばやし:今日のテーマ、ウェルビーイングと生産性の問題には一つの正解はありません。それぞれの企業、それぞれの方が考え、トライ&エラーを繰り返して自分なりの答を導き出していただきたいと思います。
ウェルビーイングな状況は生産性やチーム力の向上の基盤となるでしょうし、生産性が高まり利益が出れば、ウェルビーイングの土台となるシステムの整備に投資ができ、一段階上のウェルビーイングが実現されることでしょう。ウェルビーイングの実現と生産性・チーム力向上は両立しうるものですし、相互に影響し合いながら上のステージへとスパイラルアップしうる関係にあるのです。

 

山田:ウェルビーイングと多様性のインクルード、そして生産性。これまで普通に使ってきましたが、三つの関係性は意識していなかったので、これらをバラバラに捉えていたように思います。でも今日のお話やワークを通じて、三つの言葉がつながりました。ウェルビーイングは一人ひとり求めるものが違います。つまりきわめて多様なもの。各自の多様なウェルビーイングがインクルードされないと組織の生産性は高まらないということです。

 

それから、『C×3 BOOSTER』のエクササイズで皆さんがつながって、会場の雰囲気が良くなったことも印象的でした。相手を深く知ること、つまりお互いのウェルビーイングの深層的なところを共有することが、ビジネスの第一歩なんだと改めて理解できました。今日手に入れた知識やメソッドをそれぞれのビジネスで活かしていただければと思います。

 

幸せになるために、幸せの中身を考える

誰もが幸せになりたいと思っています。そのためには、自分にとって幸せって何なのか、どんな状態でいることが、何があればウェルビーイングなのかを私たちは考えておかなければなりません。言われてみれば当たり前のことですが、ほとんどの人はそれをせずに生きています。幸せになることを毎日ぼんやりと夢見ているだけでは青い鳥はやってこないのです。幸せになるには、幸せについてしっかりと考えていなければなりません。
そして幸せの中身は日々変わっていくものですから、毎日、毎週、毎月、横着な人はせめて毎年元旦くらいは幸せについて考えてみるといいのかもしれません。

 

ちなみに講演終了後、レポーターの特権(?)で、講師のあやさん自身のウェルビーイングを訊いてみました。あやさんのウェルビーイングは…
・人生のウェルビーイング:おいしいものを食べて、行きたいところに行く。自然の中で過ごしたい。
・仕事のウェルビーイング:子供たちが幸せになって欲しい。そのためにまず大人たちを笑顔にさせる。
だそうです。なるほど、なるほど。いいですね。

 

さらにちなみに、私がワークショップ中に書き出していたのは…
・人生のウェルビーイング:酒とタバコと音楽と。
・仕事のウェルビーイング:やりたいことをやりたいようにする。
でした。あやさんの教えに従って、しばらくしたらまた考えてみたいと思います。
このレポートを読んでいただいた皆さんも、ぜひ自分のウェルビーイングを書き出してみてください。

 

今回はこのあたりで失礼します。次回までごきげんよう。さようなら。(鯨井)

2018年7月5日更新
取材月:2018年5月

テキスト:鯨井 康志
写真:大坪 侑史

 

最新記事