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アートと経済の仕組化で貧困・環境問題解決へ ― 美術家・長坂真護さん

私たちが暮らすなかで日々生じるさまざまなゴミ。燃やせるか、燃やせないか。あるいはリサイクルできるかで分別され、専門業者によって然るべき工程で処理されます。でももし、資源ゴミとして処理されるはずだったものが、何らかの理由で処理されないまま海外で打ち捨てられているとすれば──。

 

美術家でMAGO CREATION代表取締役の長坂真護さんのスタジオには、ガーナから電子廃棄物が届きます。そのゴミにはゲーム機や携帯電話……見慣れたガジェットが紛れています。「リサイクルには膨大なお金と労力がかかる。ただ捨てるだけのものにそれだけのコストを払うか、二束三文でコンテナごとガーナに送って、なんとかしてもらうか。後者を選ぶ業者もいる、ということです」。長坂さんはガーナで理不尽な現実に直面し、電子廃棄物をアート作品に使うことで、貧困や環境汚染の問題を訴えるだけでなく、その収益で現場であるガーナ・アグボグブロシーにリサイクル工場を建てようとしています。

 

「アートの力を信じている」という長坂さんはなぜアーティストでありながら、貧困や環境問題の解決を目指しているのか。後編では、その課題解決の方法やビジネスモデル、そして叶えたい未来像について伺いました。

 

・記事前編_サステナブルな社会をつくるために、アートができること ー 美術家・長坂真護さん

 

ジャンルを超えることで見えてきた突破口

WORK MILL:2020年はコロナ禍によって海外への渡航が制限されて、活動に影響があったのではないでしょうか。

 

長坂:この1年はガーナへ行けませんでした。これまで1年のうち半年は海外暮らしでしたから。予定していた仕事もいくつかなくなって、マズいと思っていましたが、だからこそ頭のなかを整理して、仕組みを構築していこうと考え直しました。一つは、ギャラリーの全国展開。銀座と大阪、滋賀、福井に「MAGO GALLERY」をオープンして、作品を委託販売してもらっています。ギャラリーからは加盟料をいただくものの、作品を仕入れる必要もないし、僕らとしては作品を預かってくれることで倉庫と契約する必要もなくなる。売れたら売上も折半。2021年には全部で8カ所になる予定です。もう一つはオンラインギャラリー。ギャラリーに足を運ぶことなくオンライン上で作品を買える仕組みをつくりました。オンラインで作品が売れたら、その作品を収蔵しているギャラリーに5%の手数料が入ります。

 

WORK MILL:アート作品は一般的に画廊やギャラリーが作家と契約して、ギャラリスト(美術商)が販売を行いますよね。長坂さんのように自ら販売を行うのは、業界的に異例のことでは?

 

ー 長坂真護(ながさか・まご)
MAGO CREATION株式会社 代表取締役美術家。1984年福井県出身。上京し文化服装学院に入学。卒業後、新宿でホストに。ナンバーワンになり自らのアパレルブランドを立ち上げるが、一年で廃業。2009年に路上アーティストに。2017年6月ガーナのスラム街・アグボグブロシーを訪れ、環境問題や健康被害、貧困問題などの深刻さに衝撃を受ける。電子廃棄物を再利用しアート作品を制作販売。2018年に「MAGO ART AND STUDY」、2019年に「E-Waste Museum」を設立。その様子を追ったドキュメンタリー映画『Still A Black Star』が米Impact DOCS Award 2020で4部門を受賞

 

長坂:業界のタブーを破りましたよね(笑)。だいたいどこかのギャラリーと契約したら、「他とは取引しないで」と言われるんです。でもギャラリーは何人もいい作家を抱えていて、個展のチャンスは年に1、2回くらいしか来ない。人の目に触れる機会を最大化しようとしたら、こうするしかないんです。僕の目的は、一刻も早くリサイクル工場を建てることだから。

 

最近わかってきたのは、僕の抱く違和感って、ものすごいチャンスに変わるんです。ギャラリーと契約して、年に1、2回しか個展を開けなくて、下手したら売上の2割くらいしか入ってこない。そこに疑問を感じたんです。自分で画材まで用意しているのに。今は作家自身がSNSで発信できるし、ファンがSNSで直接オーダーすることもできます。情報がどんどんシェアされる時代だからこそ、より多くの人に、パブリックに知られることで相対的に作品の価値が決まります。

 

WORK MILL:もともとはギャラリストが若手作家を見いだし、評価することでその作品の価値を高めていく役割を担ってきましたよね。

 

長坂:でもアート業界って、不透明な部分が多いと思うんです。僕はそれをオープンにした。「そんなことしたら、業界を干されるよ」と忠告してくれる人もいましたが、幸い百貨店での展覧会はどんどん決まっていますし、「うちもギャラリーを開きたい」と多くの方に声をかけていただいています。その多くはもともと事業をされている方で、地元で多くの顧客を持っている。そして、ギャラリーの仕組みをお伝えすると「そんなに良心的な条件なんですか」と驚かれるんです。

 

WORK MILL:確かに、小売なら商品を仕入れるのが当たり前ですね。業界を超えることで突破口が見えてくるのかもしれません。そういう意味では、長坂さんがビジネスカンファレンスであるIndustry Co-Creation ® (ICC) サミットに登壇されたのも異例でした。スタートアップの経営者が登壇する場、というイメージですから。

 

長坂:そうですよね。僕もICCサミットのことを初めは知らなかったんです。もともと、エミー賞を受賞したこともある監督と『Still A Black Star』という映画を製作委員会方式で制作していたのですが、自分たちで資金を集めなければならなくなって。どうやって資金を調達すればいいんだろうと、ある経営者に相談して教えてもらったのが、クラウドファンディングとICCサミットだったんです。

 

結果、僕ら含めて10社のスタートアップがプレゼンするなか、グランプリをいただきました。ジャンルが全然違うから、新鮮だったんでしょうね。たくさんの投資家さんから「ぜひ出資したい」と申し出を受けました。クラファンでも3000万円以上を集めることができました。さらに、映画は「Impact DOCS Award」というアメリカの映画賞で4部門を受賞。順調にアメリカでの公開が決まれば、作品の価値がもっと上がるのではないかと考えています。

 

世の中の問題をアートで解決したい

WORK MILL:それにしても2017年にはじめてガーナを訪れてから、わずか3年余で驚くほどの変化ですよね。

 

長坂:でも僕のやっていることって、世の中になかった技術を生み出すのでもなんでもなく、めちゃローテクなんですよ。絵を描くのだってリサイクル工場をつくるのだって、何も新しいことではない。アートの世界に経済合理性を混ぜ合わせた人がいなかったから、新しかった。まったく違うものを掛け合わせて、「やる」ってところまでコミットする人がいなかったってことなんだと思います。

 

 

WORK MILL:今でこそSDGsが声高に叫ばれて、貧困、環境汚染と解決しなければならない問題があると誰もが認識していますが、なかなかそこまでやり抜こうとする人が出てこないのも確かです。長坂さんはどうして行動することができたのでしょうか。

 

長坂:僕って超「現実至上主義」というか、実際にそこへ行って現実を見なければ何もわからないと思っているんです。これだけ情報が多い世の中で、ネットで記事を読めば、なんとなく「こんなもんか」ってわかった気になるじゃないですか。それってある種の偏見で、自分の頭で決めつけた世界なんて、ちっぽけで浅はかなものです。その場所に行かなければわからないことがたくさんあるし、実際に行動しなければ真実にたどり着けない。パリに行ったときもガーナに行ったときもそんな感じで、そこで見つけたヒントが問題を解くカギになるんです。

 

たとえば、さっき「日本のアート市場は小さい」とおっしゃっていましたが、これほど成熟した国で、掘りつくされたはずの市場で、これほど未開拓の土地があるなんてみんな思わないでしょう。でも実際は年々市場規模が拡大していて、大きな可能性があります。僕はニューヨークに1年半ほど住んでいましたが、世界中からアーティストが集まって、夢を信じて暮らしているけど、良い席に座れるのは一握り。ほとんどは爪に火を灯すような生活をしている。ましてやアジア人の僕には厳しい戦いです。日本だからこそ、100億の売上を目指すことができるんです。

 

WORK MILL:会社では「2030年に100億円を集めてガーナにリサイクル工場を設立する」という目標を掲げていらっしゃいますね。ただ一方で、地域間格差があるからこそ、長坂さんの作品が成立しているとも言えます。もしリサイクル工場が完成すれば、作品にも影響するのではないでしょうか。

 

長坂:僕はずっとこの状態を維持しようとは思っていません。工場が完成して、住民に雇用が生まれ、健康的に働ける環境が整えば、ガーナのプロジェクトは終了すると決めています。僕らがいなくてもリサイクル工場を運営していけるように、ガーナで信頼しているスタッフの一人に日本へ来てもらって、リサイクル工場の設置交渉やノウハウを学んでもらおうとしています。彼らには祖国を変えたいという思いが強いから。

 

アートの価値がもっとも高まる瞬間って、どんなときだと思います? 作家が亡くなったときだと思うんです。もうそれ以上作品が作られることなく、希少性が高まるから。つまり、ガーナのプロジェクトが終わって、もうこれ以上ガーナに関する作品をつくらないとなれば、一気にその価値が高まることになる。作品に「仮想の死」を与えるんです。

 

 

長坂:世界にはまだ多くの貧困地域があります。僕は新たに「MAGO」という会社を立ち上げて、さまざまな国の問題を解決する会社にしたいんです。アートの力を仕組み化して、「次、この国に取り組みます」と右手を上げればすぐに100億集まるような状況にまで持っていきたい。それが理想です。

 

WORK MILL:それを実現するために、これからどんなことに取り組もうとされているのですか。

 

長坂:今僕の周りで動いているのは投資家や資産家などごく限られた軸の人たちです。でも社会を変えて、問題を解決するには、世代を超えて、いろんなところに足を運んで、情報をシェアしてくれる別軸の人たちを巻き込むことが重要です。だから2021年はこの軸を強化して、みんなが参加できるプロジェクトに取り組みたい。さらに、日本だけではなく、グローバルに展開する軸作りにも注力していきたいと思っています。

 

いずれ、ガーナのゴミを原料に作られたTシャツや他のものもグッズとしてつくって販売する予定です。グッズを買ってもらうことでガーナにあるゴミを減らすことができる。そうやってみんながサステナビリティを学びながら、新しい経済を回していくような仕組みができたら。

 

2021年2月16日更新
取材月:2020年12月

 

テキスト:大矢幸世
写真:長野竜成

 

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