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サステナブルな社会をつくるために、アートができること ー 美術家・長坂真護さん

私たちが暮らすなかで日々生じるさまざまなゴミ。燃やせるか、燃やせないか。あるいはリサイクルできるかで分別され、専門業者によって然るべき工程で処理されます。でももし、資源ゴミとして処理されるはずだったものが、何らかの理由で処理されないまま海外で打ち捨てられているとすれば──。

美術家でMAGO CREATION代表取締役の長坂真護さんのスタジオには、ガーナのスラム街から電子廃棄物が届きます。そのゴミにはゲーム機や携帯電話……見慣れたガジェットが紛れています。「リサイクルには膨大なお金と労力がかかる。ただ捨てるだけのものにそれだけのコストを払うか、二束三文でコンテナごとガーナに送って、なんとかしてもらうか。後者を選ぶ業者もいる、ということです」。長坂さんはガーナで理不尽な現実に直面し、電子廃棄物をアート作品に使うことで、貧困や環境汚染の問題を訴えるだけでなく、その収益で現場であるガーナ・アグボグブロシーにリサイクル工場を建てようとしています。

「アートの力を信じている」という長坂さんはなぜガーナへ行き、電子廃棄物を使ったアートをつくりはじめたのか。前編ではその経緯や思いについて、日本橋にあるスタジオで話をうかがいました。

「電子廃棄物の墓場」で暮らすガーナの人々

WORK MILL:長坂さんは独学でアートをはじめられたんですよね。

長坂:そうですね。もともと路上アーティストとして、美人画を描いたり水墨画のライブペインティングをしたりしていました。海外で個展を開いたり、新宿にある商業施設のキャンペーンに起用されたりして、それなりに満足していたんですけど、どこかむなしさがあったんです。

そんなとき、パリで同時多発テロが起こって。ちょうど上海で個展をしていたのですが、いてもいられなくなって、終わってすぐにパリへ飛んだんです。100名以上の方が亡くなって、死の恐怖に包まれたパリに1カ月くらい滞在して、僕に何ができるんだろうと考えていました。それまでは、No warのような争うことへの反対を表現する作品をつくっていたのですが、そんなアートは意味がないのではないかと……。でも、あるとき空に浮かぶ満月を見て心が穏やかになるのを感じ、満月のアートの制作をはじめました。この思いを昇華して、アートの力で世界を平和にできないかな、と。帰国後、たまたま、『Forbes』でフィリピンのスモーキーマウンテンの記事を見つけました。僕らが普段意識していなくても、これほどの貧困が現実としてある。ものすごく衝撃を受けて、社会問題に目を向けるようになったんです。

ー 長坂真護(ながさか・まご)
MAGO CREATION株式会社 代表取締役美術家。1984年福井県出身。上京し文化服装学院に入学。卒業後、新宿でホストに。ナンバーワンになり自らのアパレルブランドを立ち上げるが、一年で廃業。2009年に路上アーティストに。2017年6月ガーナのスラム街・アグボグブロシーを訪れ、環境問題や健康被害、貧困問題などの深刻さに衝撃を受ける。電子廃棄物を再利用しアート作品を制作販売。2018年に「MAGO ART AND STUDY」、2019年に「E-Waste Museum」を設立。その様子を追ったドキュメンタリー映画『Still A Black Star』が米Impact DOCS Award 2020で4部門を受賞

WORK MILL:ガーナのアグボグブロシーを訪れたのは、なぜだったのですか。

長坂:社会問題についてリサーチしていくなかで、アグボグブロシーには世界中から謎のルートでいらなくなった電子機器が集まってきて、「電子廃棄物の墓場」になっていることを知りました。電子機器は、僕にとって身近なものだったんです。20代の頃、本当にお金がなかったので、台湾やアメリカとかでスマートフォンの最新機種をまとめて買ってきて、日本で転売する「せどり」みたいなことをやっていたんです。5、6台買えば10万くらいの儲けになって、それを元手にまた海外へ行って……。ガジェットが好きでしたし、僕の生活を支えていたものがそんな運命をたどっていることを知って、他人事に思えなかった。それで2017年にはじめてガーナへ向かいました。

いろんな記事で調べてはいましたが、なかなかイメージが湧かなかったというか、規模感まではわからなかった。でも実際に行ってみると、ゴミが地平線の手前まで広がってるわけですよ。あたり一面、ゴミの海原のなかで人々が暮らしている。彼らは電子機器のコードを燃やして、銅とか金属を取り出しているんです。それを1キロ200円、250円とかで売って、生計を立てている。国際市場価格からすれば、相当安い金額です。そして電気コードを1キロ100円くらいで仕入れて、また金属を取り出す。利益率は低いし、燃やすときの有毒ガスで健康被害は深刻なものとなって、30代で亡くなる人が大勢いる。それが日常です。資本主義がもたらした経済格差が、そんな状況をつくり出しているんです。

WORK MILL:そこで電子廃棄物を使ったアートを着想されたのですか。

長坂:すぐにアイデアが思い浮かんだわけではありませんでした。ガーナの人たちと数日一緒に過ごして、帰り間際「また来るから」と告げると、僕が着けているガスマスクを指さして、「じゃあ今度はそれを持ってきてよ」と言われたんです。でも僕には貯金もないし、彼ら全員分のマスクはとてもじゃないけど買えない。だから、足元に埋もれた電子機器の残骸を持ち帰ることにしました。

電子機器のボディに使われているプラスチックは、彼らにとっては邪魔なもの。リサイクルできないから、そこらへんに埋もれているわけです。でもプラスチックは土に還らないから、長く残すアートに適している。それで、はじめは額縁に使ってみることにしたんです。アグボグブロシーの青年を描いて、その周りを電子ゴミで囲んで額縁にした。すると、その絵が50万円で売れたんですよ。彼らは日当5ドルで働いているのに、僕の絵は一日で50万円。なんだこれ、って。とてつもないアートの力を感じました。

それと、帰国後に行なったライブペインティングのスポンサーがたまたま当時ガーナで自分が使っていたガスマスクのメーカーだったんです。それでガーナの現状を直談判して、ガスマスクを提供してくれることになりました。そのマスクを持ってまたガーナへ行ってしばらく滞在して、電子ゴミを持って帰ってくる。そのゴミで作品をつくって、売って、得たお金でまたガーナへ行く。2018年には現地に「MAGO ART AND STUDY」という学校を、翌年には「Mago E-Waste Museum」という美術館を設立しました。現地でスタッフを採用して、子どもたちに勉強や絵を教えてもらっているんです。

WORK MILL:現地の方は驚いたでしょうね。

長坂:「『また来るね』と言って、本当に来たのはおまえだけだよ」と言われました。そもそも「また来るね」って、自分の身を保障するために言うようなものなんですよ。「もう二度と来ない」なんて言おうものなら、何をされるかわからないなと。僕も体調崩したりひどい目に遭ったりして、『もうここに来たくない』と思うことがなかったわけではない。それでもやっぱり、ガーナの抱えている問題を解決したい。問題提起にとどまらず解決しなきゃ意味がないって、足を運びつづけたから、彼らに信じてもらえるようになったんだと思います。

「このお金は、僕のものじゃない」

WORK MILL:長坂さんの作品は、高いもので1000万円以上の価格で取引されています。他の国と比べると日本のアート市場はまだ小規模だと思うのですが、可能性を感じさせますね。

長坂:僕もはじめは驚いたんです。ガーナの絵を描くようになって、数十点作品ができた頃、どこかで個展を開こうと思ったのですが、日本ではほとんどギャラリーとのコネクションがありませんでした。それで、僕の作品をコレクションしてくれている経営者の方に相談してみたんです。すると、有楽町にあるホールを3時間提供してもらえたんです。「アートで世界を変える」と宣言して、ガーナの作品群を展示させてもらった。そこで、現代アートのコレクターの方から「この作品を正当な価格で取引したい」と、1500万円を提示していただいたんです。僕のアパートにも足を運んでくれて、他の作品と合わせて2500万円で買ってくれることになりました。

当時、高くても100万円だった僕の作品に10倍以上の値がついて、ある日突然、僕は1000万プレイヤーになった。2500万円あれば、地元なら一軒家が建てられるんですよ。人生初の体験で、舞い上がっても不思議じゃなかった。果たしてこれが一過性のものなのか、本物なのか。自分でも半信半疑でしたが、僕は冷静でいられた。その後もガーナへ足を運んで、作品をつくりつづけて、大阪梅田で行った展示会には2万人以上の方にお越しいただいて、年間600点つくっても追いつかないくらい、たくさんの人のもとに作品が渡った。この1年で3億円を売り上げることができました。「たまたま」じゃなかったんです。

WORK MILL:作品が高く売れた時点で、満足してもおかしくないですからね。

長坂:会社は数億円売り上げがあるけど、僕の給与は総売上の5%です。それで十分。だって、僕のお金ではないから。もともとはアグボグブロシーにいる彼らのお金で、僕は預かっているだけ。だから彼らにそのお金を返して、還元すれば彼らはハッピーになれるし、僕も幸せになれる。僕が作品をつくればつくるほどガーナから物理的にゴミが減って、お金が生まれて、ガーナに学校や美術館を建てることができて、リサイクル工場を建てる資金になる。彼らの問題を解決して、サステナブルな社会をつくるために投資していきたいんです。


前編はここまで。後編ではその課題解決の方法やビジネスモデルについてうかがいます。

現在、長坂さんは自身の活動を追ったドキュメンタリー映画“Still A Black Star ”のクラウドファンディングに挑戦中です。詳しくはこちら
https://camp-fire.jp/projects/view/324202?fbclid=IwAR1a4lcsDkUMi5TWoKAtMypVy_yhDDpgbJ1h-ka3RdshLWfp_41SnGn5qqY

2021年2月10日更新
取材月:2020年12月

 

テキスト:大矢幸世
写真:長野竜成