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【クジラの眼-未来探索】 第14回「ニューノーマルのワークスタイル・ワークプレイスを考える指針とは?」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” を題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

イントロダクション(オカムラ 前田英里)

前田:ワクチンや特効薬が開発され新型コロナウィルスに対する脅威がなくなった段階を「ニューノーマル」とオカムラでは位置づけています。オフィスづくりに関わる多くの人は、ニューノーマルになったときに働き方や働く場をどのようにすればいいのか頭を悩ましていることと思います。そこで今回のセミナーでは、オカムラが今秋に発行したレポートをもとに、これからの働く「場」をつくる上で参考にしていただきたい考え方やデータをご提供します。

プレゼンテーション1「ニューノーマルの働き方、働く場データ集」(オカムラ 池田晃一)

池田:企業の経営者と従業員が、これからどのように、どのようなところで働いていきたいと考えているのかを調査してみました。その中からニューノーマルの働き方や働く場を考えていく上で役に立つ調査結果を紹介します。

オフィスの必要性

「あなたの会社にオフィスは必要か?」と聞いてみたところ、9割の経営者は必要だと答えていて、半数の人がこれからオフィスは重要になると考えていることがわかりました。一方でワーカーに「ニューノーマルにおいてどこで働きたいか」を問うてみると、自分のオフィスで働きたい人が半数以上を占めました。自宅で働きたい人がもっといると予想していましたが、実際はそうではないようです。

多くの人が自宅で働き、オフィスの人口密度が下がっていた状況で、今後「オフィスの床面積を変化させますか」と聞いてみると、6割の経営者は変化させないと回答しました。これは、ニューノーマルに向けてまだ不確定要素が多くあるので様子を見ている、あるいは、今後オフィスに従業員を戻すと考えている企業が一定数あるからだと考えられます。ワーカーには、余分な空間が減少すると答える人やWeb会議をする場所などの特定の空間が増加すると回答する人が多くいました。

リモートの効果

コロナ禍で多くの人がリモートワークを経験しました。そこで経営者に「リモートワークは企業の業績向上に有効だったのか」を聞いたところ、有効性を認める人と認めない人が拮抗していました。コロナ禍で業績が落ち込んでいる企業が多いため、リモートワークの有効性はまだ判断できないということだと思われます。また、「今後オフィスへの投資を変化させるか」を聞いてみると、変化させないと回答した人が半数以上を占めていて、結論を保留する経営者が多くいる様子がうかがえます。

ワーカーに対してリモートワークをすることで起きた変化について調べてみました。「チームの一体感」は、35%もの人が低下したと感じていて、「仕事のヒントとなる情報を得る機会」は4割を超す人が減少したと答えています。ちょっとした相談や雑談の中でヒントをもらうといった機会がリモートワークでは減ってしまうことがわかりました。

「あなたの作業はどのくらいオンラインに置き換え可能か」を聞いてみると、社内会議など5割ほど置き換えられる作業がある中で、偶然発生する会話は2割も置き換えられないと答えた人が多くなっています。リモートワークでは、自分の頭の外にある考えや仕事の潤滑油となるインフォーマルコミュニケーションはおこないづらいようです。

作業ごとに「リモートがはかどるか、オフィスがはかどるか」を評価してもらいました。集中して資料をつくり上げるといった個人作業はリモートワークの方がはかどると答えた人が圧倒的に多いのですが、それ以外の作業はオフィスの方がはかどると考えています。リモートワークに慣れたとはいえ、対面でおこなう作業はオフィスが勝っているようです。

機能空間の重要性

「ニューノーマルにおいてオフィスに求められる役割」についても聞いてみました。いろいろな回答に分かれましたが一番多かったのは「チームワークを高める場」という意見でした。また、「社員どうしがコミュニケーションをとる場」や「重要な意思決定をおこなう場」といった回答も多く、集まって一緒に活動する場所としてオフィスを使っていきたいとワーカーは考えていることがわかりました。

オフィスにはいろいろな機能空間があります。ニューノーマルになったとき、機能空間の重要性は変わるのでしょうか。

重要度が下がると思われているのは個人の執務席で、4割もの人が下がると回答しています。一方で重要になる機能空間はコミュニケーションするための空間で、社内用の会議室やインフォーマルコミュニケーションをとるカフェ、オンライン会議をするためのブースも重要度が増すと考えられています。また、チームで働くためのプロジェクトルームは6割以上の人から重要になっていくとの回答があり、仲間とともに働く場が求められていることがわかりました。

機能空間の重要度の変化をまとめると、固定席や収納・倉庫、大会議室など重要度が下がる空間がある一方で、フォンブース、カフェや食堂、プロジェクトルームなどのように重要になっていくと考えられている空間もある。つまりニューノーマルになったときにはオフィスの機能空間の組み換えをしなければならないのです。

最後に、経営者が「ニューノーマルで雇用したい人材」についてどのように考えているのかを見ていただきます。一番多かったのは「リモートでも仕事の成果を評価できる人」で、次が「仕事面でも精神面でも自律して仕事をこなす人」でした。今まで以上に自律性を発揮して、リモートという環境の中でもしっかりと成果を出していける人が求められるようになるのだと思われます。

調査をしている中で、ニューノーマルで企業が描く働き方のシナリオは一つではないということに気づかされました。これを機に、働き方の柔軟性を高めていこうとする考え方(成長シナリオ)があれば、ウィズコロナである現在程度の働き方を今後も続けていこうとするやり方(維持シナリオ)もあります。リアルで働く部分をもう少し取り入れてやっていこうとする働き方(折衷シナリオ)、コロナ禍以前のように全員が集まって働いていく(回帰シナリオ)というのもあり、これも決して間違いではありません。これらのシナリオの中から、どのシナリオが自社のパフォーマンスを最大化できるのかを考えてニューノーマルの働き方や働く場を決めていくことが大事だと考えています。

プレゼンテーション2「ニューノーマルのワークプレイスを考える指針」(オカムラ 神山里毅)

神山:働き方や働く場所がどうなっていくのかを考える上で参考にしていただきたい情報をご紹介します。

これからの働き方のシナリオを考える

コロナ禍がいったん収まったとしても今後いつ再び不測の事態が起こるかもしれません。そうなったときにも事業を安定的に継続させ成長し続けていけるよう、企業は「レジリエンス」を築くことが必要であると我々は考えています。レジリエンスとは柔軟性と強靭さを兼ね備えている状態のことで、なにか不測の事態が起きても対応していける働き方と働く場を今から前向きに考えておく必要があるのです。

NEW NORMAL 11:これからの働き方を考える10+1の視点

オカムラは、ニューノーマルのワークプレイスを考えていくための指針(ダウンロードはこちらから)をまとめています。いまだ不安定な“COVID-19”の影響はいったん脇に置いて、まずは大局的な視点で考えるべきと考え、グローバルな視点で社会情勢や技術革新などを踏まえたオフィス関連統計や国内外産官学の文献や論文、レポートなどからキーワードを抽出し、分類整理をおこないました。その結果導き出したのが「NEW NORMAL 11」と呼んでいるフレームワークです。

個人、チーム、組織、DX(デジタルトランスフォーメーション)、成果の5つのカテゴリーから成るこれら11(10+1)の視点は、一つひとつがニューノーマルにおける働き方や働く場を検討する際に欠かすことのできない重要な視点になると考えています。

個人の視点:1「Character個性」 2「Autonomy自律性」 3「Well being自分らしさ」
チームの視点:4「Skill技術」 5「Collaborationつながり」 6「Emotion感情」
組織の視点:7「Boundaryless境界のなさ」 8「Culture共通概念」
DXの視点:9「Technology:科学技術」 10「Knowledge-working知的業務」
成果の視点:11「Performance成果」

働き方の「集積」と「分散」

これまではオフィスに集まって仕事をするのが当たり前のことでした。この状態を私たちは「集積」と呼んでいます。それがコロナ禍で一変。働く場所はオフィス以外に自宅やシェアオフィス、サテライトオフィスと多様化していき、これらの中から働く場所をワーカーが選んで「分散」して働くスタイルへと変わりつつあります。

働く場が「分散」するこの流れは今後も続いていくと考えられます。それは「分散」する働き方に通勤時間や移動コストの削減や自由度の高いWeb会議の設定、多様なワーカーの雇用が可能になることや、個人の自律性が向上するといった数多くのメリットがあるからです。

しかし「分散」にはデメリットがあることもわかってきました。チームや組織の一体感の低下や雑談などのコミュニケーションチャネルが減ってしまうこと、ワーカーの帰属意識の低下やマネジメントのしにくさ、生産性低下などを心配する声もあがっています。

「分散」の働き方において 特に重要な3+1つの視点

今後もリモートワークは続いていくと思われますので、「分散」のメリットは最大化し、デメリットは「これからの働き方・働く場」をしっかりと考えてカバーしていかなければなりません。「分散」が今後スタンダードになっていくと仮定したとき、「ニューノーマル11」の中で重要になる視点はどれなのかを私たちは議論し、次の4つ(3+1)だと結論づけました。

2「Autonomy自律性」 6「Emotion感情」 8「Culture共通概念」+ 11「Performance成果」

今後リモートワークを積極的に取り入れ「分散」して働いていこうとする企業では、特にこの4つの視点に着目して働き方や働く場を考えていただければと私たちは考えています。一つの視点ごとにオフィスに求められる機能や環境を具体的に見ていきましょう。

これからのオフィスに求められる機能・環境

2「Autonomy自律性」
ワーカーの自律性を引き出して生産性を高めていくために働く場はどのようにあるべきか。まず、人間工学にもとづく疲れにくい家具が用意されているといった働きやすい快適な環境を整備することがあげられます。集中して作業をおこなえる環境や邪魔されずにWeb会議などをおこなえるよう遮音された環境を用意することも大切です。また、バイオフィリックデザインなどが施されたストレスを軽減させる環境を整える必要もあるでしょう。

6「Emotion感情」
リモートワークでは共通の体験や感情を共有することは難しい。そこでオフィスは、そのようなことを支援する対面コミュニケーョンの恩恵を受けられる場にしていく必要があります。具体的には、チーム内の連携や一体感を高める「部室」のような空間やホワイトボードなどを使って活発に議論する場、自社のプロダクトやサンプルなどの実物を前に検討を繰り返す場、部門を越えた交流・雑談を生み出すきっかけとなる場などがオフィスには欠かせません。

8「Culture共通概念」
リモートワークが続くと帰属意識が低下し、孤独感を感じてしまうワーカーが増えていきます。これからのオフィスにはエンゲージメントを高める機能を持たせなければなりません。出社すると企業ブランドや企業文化を感じることのできる空間になっているとか、若い人材を育成しメンタリングする「1on1」のためのスペースが用意されている。また、自社に対する帰属意識を再確認できるよう、社外の人とコラボレーションをするための場も有効だと思われます。

11「Performance成果」
オフィススペースの縮小を迫られていたり、社員が自宅で本当に生産性を発揮できているのかフォローしなければならないとか、自宅で働きにくい社員 にシェアオフィスを用意しなければならない、働く場所ごとに働き方をサポートする必要が生じたり、社員の所在確認をする手立てを考えなければないなど、今多くの企業はたくさんの悩みや課題をかかえています。

そうした状況の中で組織として成果を出していくためには二つの大切なポイントがあります。一つ目は「「ライトサイジング(right sizing)」という考え方です。これは、出社する人数が減るからオフィスを縮小しなければならないと短絡的に判断するのではなく、オフィスに本当に必要な機能は何かといった機能の棚おろしから始め、縮小したことで浮いたファシリティコストをどこに投資していくのかを含めて最適化を考えていく概念です。

二つ目は「柔軟な働き方のサポート体制」です。働く場がたくさんできて多様化したとき、ワーカーが自律性を持ってそれぞれの働く場を使いこなしていけるよう、しっかりとしたサポート体制を整えておく必要があると私たちは考えています。

おわりに ~オフィスにはもう戻らない~

デスクワークする人は、同じ時間同じ場所に集まって働く。これがこれまでの常識です。勤務時間は9時から5時で勤務場所はオフィス。これがこれまでの常識です。けれどもこの働き方と働く場所の常識にそんなに長い歴史はありません。17世紀に起きた産業革命以降に生まれ、その後定着していったものですから、たかだか100年ほどのあいだ居座っていた常識にすぎないのです。

情報処理と通信技術の目覚ましい革新のおかげで、今や私たちはオフィスに集まらなくても仕事ができるようになりました。コロナ禍で在宅勤務を強いられたことで、オフィスに行かなくてもある程度仕事ができることに気がつきました。しかし、それでもなお、仲間とじかに会わないと、深く語り合えないし、きちんとした情報はままならず、心の底から共感し合うことはできない(もしかすると社内恋愛もできない)と信じています。

時間と場所を共にするところをオフィスと呼び続けるのならば、オフィスはやはり必要です。ただしそれは以前のようなオフィスではなくて、ニューノーマルにおける、「分散」して働く時代におけるものでなくてはなりません。100年前のオフィスワーカーが見たら「これがオフィス?」「ここで仕事をするの?」そんなふうに思われるような「場」になっているかもしれません。

私たちにはもはや以前のオフィスに戻るという選択肢は残されていない、と考えておく方がよさそうです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回お会いする日までごきげんよう。さようなら!(鯨井)

登壇者のプロフィール

-池田晃一(いけだ・こういち)株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 ワークデザイン研究所 リサーチャー
18年間研究に従事。専門は場所論、グループワーク分析。2012年からテレワークを含む柔軟な働き方の研究をおこなっている。2015年より休職し、東北大学大学院医学系研究科助教(広報・コミュニケーション担当)に着任。2016年より現職。単著『はたらく場所が人をつなぐ』、共著『オフィスと人のよい関係』『オフィス進化論』。博士(工学)。

-神山里毅(かみやま・りき)株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 WORKMILL X UNIT クリエイティブディレクター
2002年入社。オフィスデザイナーとして企業のオフィスや研究開発施設の企画・設計業務に携わってきた。その後、経営組織論を学ぶべく社会人大学院に進学しMBAを取得。現在はデザインと経営学をバックボーンに「はたらく」の周辺領域全般でコンセプトから空間、プロダクト、エクスペリエンスデザインまで幅広くディレクションを担当している。また同社のWORKMILL も立上げから参画しリードしてきた。オフィス等に関する各種アワード受賞多数。

-前田英里(まえだ・えり)株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 共創センター
2017年オカムラ入社、オフィス研究所に在籍しリサーチ業務に従事。現在は共創センターにて、自社ブランディングや社内の働き方改革、イベントの企画・運営等に携わる。

2020年12月17日更新
取材月:2020年11月

テキスト:鯨井 康志

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