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国営デザイン・コンサルファーム DDCの全貌 ― クリスチャン・ベイソンさん

 

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE02 THE DANISH WAY デンマーク 「働く」のユートピアを求めて」(2018/3)からの転載です。

 

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1月、デンマークの空にはどこまでも雲が広がっていた。私たちは起業家や大企業社員、クリエイターたちに話を聞いて歩いた。幼稚園からビジネススクールまで、学びの現場を訪ね、一般の家庭にも上がり込んだ。そして探した。幸せの源泉は、働き方の理想郷は、どこにあるのか―。 

 

デザイン・シンキングを世に広めたといわれるアメリカのIDEO。「私たちはその一歩先を目指します」。国を挙げてデザインに注力する、その理由とは。

 

──デンマーク・デザイン・センター(以下DDC)は、どのような組織なのですか。

 

DDCは、デンマークの国立機関で、デザインをさまざまな分野に活用することを目的に1978年に設立されました。国内の企業や行政が、デザインを通して新しい価値を生み出すために多くの支援をしています。デザインのもつ効果についてのデータ収集や分析、情報提供も行っています。

 

DDCでは企業に対し、いくつかのサービスを提供しています。例えば、「ホライズン・スキャニング」。テクノロジー化が進んだ世界で、将来大きなインパクトをもたらす兆候をいち早く特定しようとする活動です。「デザインアカデミー」という管理職向けのプログラムも提供しています。目指しているのは、デザイン領域のリーダーやスペシャリストの育成です。新しい製品やビジネスを生み出すために、企業や組織のマッチングを行う「トランスフォーム・プログラム」というサービスもあります。これにより、多くのコラボレーションが生まれています。

 

また、DDCでは毎年、デザイン分野で最も優れた業績を残した人や企業を表彰する「デンマーク・デザイン・アワード」を主催しています。

 

──日本でデザインという言葉が使われる場合、多くは「意匠」を指します。DDCでは「デザイン」をどのように定義しているのでしょうか。

 

デンマークの家具は世界的に有名ですが、それだけでなく、街や公共機関などあらゆるところにデザインが根付いています。私たちには「デザイン・ソサエティ」としての自負があります。デザインは、デンマークのDNAともいえるでしょう。

 

デンマークが生んだ数々の名作家具にはもちろん誇りをもっていますが、これはデザインのごく一部にすぎません。私たちはもっと広くデザインをとらえています。デザインを行うためのメソッドやマインドセット……成果物だけでなく、プロセスも含めてデザインなのです。

 

デザインは、それがもつ美学と機能性をビジネスとかけ合わせたときに、初めて強い効果を発揮できます。これを私たちは「ストラテジック・デザイン」と呼んでいます。デンマークでは、13%の企業がビジネスにデザインを戦略的に取り入れ、好業績を挙げているというデータもあります。

 

近年はデザインシンキングという考え方が世界的に広まっています。IDEOやスタンフォード大学のd.schoolはこの考え方を広めたとても素晴らしい存在ですが、DDCはその一歩先を目指しています。私たちが見据えるのは、デザインシンカーではなく、デザインリーダーの輩出です。

 

デザインリーダーに求められるのは、未来の創造。DDCでは企業のリーダーがデザインの活用について視野を広げられるようなプログラムをたくさん用意しています。

 

「実験」が2つの世界を融合させる

 

―コペンハーゲン中心部にあるDDCのオフィス。プロジェクトマネジャーやアートディレクターなど、約30人の少数精鋭チームが働く。SXSW 2018では北欧デザインをテーマにしたパネルを主催している

 

──日本ではデザインやクリエイティブの重要性が叫ばれているものの、依然、ビジネスとの融合が起きていないのが現状です。どうすれば、両者をうまくかけ合わせられるのでしょうか。

 

融合がなかなか進まないのは、よくわかります。マネジメントとクリエイティブの世界というのは全く異なるものです。まさにDDCは、この2つの世界の架け橋になって、イノベーションを起こすためにあるのです。

 

2つの世界をつなげるために何が必要か。わたしは「実験」だと考えています。DDCでは、「Design Journey」という名前で、デザインを用いて自社製品やサービスをブラッシュアップするためのプログラムを行っています。現在、参加企業は約1,000 社。そこではユーザーにアプローチするための新たな戦略やプロトタイプをつくって迅速にテストするメソッド、最先端のデジタルテクノロジーの活用法などを学びます。

 

実験で重要なことは2つあります。まず、やりやすい規模から考えること。実験の準備に時間を取られていては本末転倒です。もうひとつは過去の事例を分析するのではなく、前例のないことに注目すること。それにはリスクが伴いますが、DDCではそのリスクの抑え方についても学びます。

 

──DDCと企業が組んで、最もうまくいった事例を教えていただけますか。

 

Solarという企業の例を紹介しましょう。同社は従業員2,000 人規模の会社で、もともと大工や配管工向けの製品を販売していました。彼らはDDCのプログラムを通じて、既存のユーザーである大工や配管工のその先にいる消費者と直接つながれば、ビジネスチャンスが広がるという気づきを得ることになります。

 

そこで同社は、「Home Bulb」という消費者向けアプリをリリースしました。これは一般家庭の電力消費などの管理を一カ所で行えるもので、大工や配管工を検索する機能もあります。このアプリによって、同社は一般家庭にいる人に直接アクセスできるようになり、ビジネスの領域を広げることに成功しました。

 

デザイナーは指揮者である

──近年、「オープンイノベーション」という言葉が盛んに使われていますが、日本でうまくいっているケースは多くありません。成功の条件はどこにありますか。

 

私はデザイナーが成功のカギを握ると考えています。オープンイノベーションによって、フィリップスやプロクター・アンド・ギャンブルなど成功した企業ももちろんあります。でも、「外からアイデアを取り入れて、はい成功」なんていう単純な話ではありません。風通しをよくし、外から新しいアイデアを受け入れて、変化を起こす。これは、とても大きなチャレンジで、覚悟が必要です。そこで重要な役割を担うのがデザイナーです。

 

デザイナーというのは、分野横断的にいろんな人と仕事をする職業です。デザイナーだけでは決してモノはつくれません。マネジャー、エンジニア、ブランディング担当……いろんな人と一緒に仕事をするからこそ、デザイナーは「オープン」になるための指揮者のような役割を担えるはずなのです。

 

──日本ではデザイナーの給料や社会的地位はそれほど高くありません。どうすれば、優秀なデザイナーを増やすことができるでしょうか。

 

実はデンマークでも、似たような現状があります。その理由のひとつとしては、デザイナー自身がビジネスのマインドセットをもっていないという点もあると思います。DDCでは、デザイナーがビジネスセンスを身につけるための教育プログラムを用意し、彼らが活躍できる土壌をつくっています。

 

──デザインはデンマークの未来にとってどのような役割を果たしますか。

 

デンマークをデンマークたらしめる、最大の差別化要因だと考えます。デンマークは「サステイナブル」や「グリーンネーション」という言葉で語られることもありますが、こうした特徴をもつ国はほかにもあります。しかし、DDCのような組織があり、国を挙げてデザインを国民のよりよい暮らしに生かそうとしているのはデンマークならではでしょう。デザインが経済成長を促し、高い福祉サービスの提供も可能にしてくれるのです。

 

 

―クリスチャン・ベイソン

Danish Design Centre CEO。コペンハーゲン・ビジネススクールにてPh.D.を取得。コンサル企業Rambøll Management、デンマーク政府のイノベーション研究所MindLabを経て、2014年より現職。国内最大のデザインスクールKADKの役員も務める。『LeadingPublic Design』など著書多数。

 

2020年6月24日更新
2017年1月取材

 

テキスト:溝上万美子
写真:デイビッド・シュヴァイガー
※『WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE02 THE DANISH WAY デンマーク 「働く」のユートピアを求めて』より転載

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