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「透明性」でアパレル業界の不正直に立ち向かう ― EVERLANE

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE04 LOVED COMPANY 愛される会社」(2019/4)からの転載です。


物的にも精神的にも満たされた私たちは、大量生産・大量消費の時代がもう終わりを迎えていることを知っている。世界の消費者の意識が変わりつつあるいま、企業はどのような変化を求められているのだろうか。その最前線を、アメリカで垣間見たのだった。 

エバーレーンの各商品には、意味とストーリーがある。タイムレスなデザインと抜群の着心地のよさの裏に流れるのは「業界を変えたい」と試行錯誤するCEOの熱い使命感だった。

「よいものを安く買う」を理想の買い物と定義するなら、素材選びからタグ付けまでの工程をオープンにし、透明性を持たせてはどうだろう── そんな発想から生まれたEVERLANE(エバーレーン)は、これまでの消費者の疑問や要望をすべて解消した。これからはバーゲンを待つ必要もない。なぜなら、一年中「バーゲン」ならぬ、無駄な在庫管理と宣伝コストを排除した「適正価格」なのだから。

「モダンベーシック」と提唱するこの新世代のカジュアルブランドは、どの大手のブランドとも異なる独自のコンセプトを持つ。サイトに登場するモデルは、肌の色や髪の色、体格もさまざまで国際色豊かな容貌。メークはナチュラル、またはノーメークで「日常」を演出している。毎日を快適に過ごすための素材は、肌触りと着心地を重視した高品質。カラーはモノクロかニュートラル色の無地が大半だ。使用されるレザーはイタリア製、カシミアはモンゴル製、デニム生地は日本製などどれも世界中から選りすぐりの素材ばかり。しかし、顧客に支持される理由はそれだけではない。今このブランドがミレニアル世代の顧客を引きつける、その魅力はどこにあるのだろうか。

その理由は、地球に優しく消費者に正直なブランドであること。製品に付いているタグには製造工程の分類が開示されている。こんなところにも、エバーレーンの創業者でCEOのマイケル・プレイズマンが掲げる哲学「徹底した透明性」が注ぎ込まれているのだ。

徹底した透明性

「僕が起業したのはふたつの理由。ひとつは持続可能なビジネスで社会に影響を与えたかった。もうひとつは、労働環境と地球環境に配慮したサプライチェーンを構築し、業界に影響を与えたかったから」と語る同氏は、シリコンバレーの出身。カーネギーメロン大学を卒業後、ベンチャーキャピタルに勤めながら、ファッション業界の闇と不正に大きな疑問を抱いていたという。同氏がエバーレーンを起業したのは2010年、25 歳のとき。「これまでのアパレル業界は不正直だった」とマイケルは語りだす。「一見すると華々しい世界だが、その裏では自然環境破壊や児童労働、人権侵害が横行していた。

安いコストで大量生産し、大量廃棄もされている。このままではファストファッションが地球を破壊するのではないかという危機感から、これを正したいと思ったんです」実際、エバーレーンでは商品はすべて売り切りで廃棄はしない。すぐ売り切れてしまう人気商品にはウェイトリストを作成し、その供給量だけを生産する。在庫保管にかかる費用は顧客に還元するという考え方だ。しかし創業当時は、良い商品をつくって透明性を主張するだけでは大きな変化は起こらなかった。一方的なメッセージの発信ではなく、それを応援してくれる顧客、企業や投資家の力が必要だったのだ。それからマイケルは、SNSでの発信や講演、メディア露出やイベント開催などさまざまな方法でメッセージを発信した。「正しいことをしたい、ただそれだけでした」

消費者マインドを変える教育

同社の発信するメッセージが消費者の心を動かし始めるのに、あまり時間はかからなかった。偶然のタイミングで、環境汚染問題や児童労働者問題などがSNSを通じて広く知られるようになったのだ。「多くのファッションブランドは貴重な真水を過剰に使って土地を枯らしたり、ゴミとなる新しいプラスチックの製造を続けた。企業が正さなければ、この悲惨な悪循環は阻止できない。社会にインパクトを与えるには、消費者の意識変革が必要だと感じた」

同社のサイト上では、すべての商品の素材や人件費など各項目のコストを詳細に記載し、一般市場とエバーレーンの小売価格の差も提示されている。また、各国にある工場で縫製やアイロンかけをする工員の姿が動画で公開されている。清潔で緑にあふれた工場で働く工員は皆明るく、建物はLEED(環境に配慮した建物に与えられる認証)建築基準を満たしている。さらに、店内には前述の工程をイラストでわかりやすく説明したカードも置かれる。

ふと棚を見ると“So you wanna use less plastic?” と書かれた冊子を見つけた。その裏には、プラスチックゴミを減らすために私たちが使用するべき10アイテムのイラストがあった。環境に配慮するビジネスは循環し、商品を選ぶ消費者のチョイスもそのひとつなのだというメッセージ、つまりエバーレーンなりの消費者の意識変革に対する働きかけなのである。

「サンフランシスコにはサスティナブルな企業を歓迎する空気がある。リラックスした雰囲気と、行き過ぎた資本主義に対抗した人間本来の生き方、自然との共存を追求したヒッピー文化のルーツがあるのです。先人たちが築き、残してきた持続可能な暮らし方。例えば農業や地産地消という概念、オーガニックや食育などの文化はいまも受け継がれています」とマイケル。時代が変わった今でも小ロット生産、クラフト、持続可能なライフスタイルを好む地域性は、エバーレーンのミッションにとても近い。「僕らがビジネスをやる場所として、最適なロケーションだったんです」

安価と高品質の両立

立ち上げ時から関わっているヘッドオブクリエイティブのアレクサンドラ・スパントは、「伝えたいメッセージが多い中で、ミニマルな空間づくりは難しかった」と店舗オープン時の苦労を語る。「あらゆる制限をして、店内の開放感あふれる空間を楽しんでもらいたい。ミニマルの良さは、その服を着たときに自分にフォーカスできること。服を身につけることは自分らしくあること、つまり消費者たちのアイデンティティーの確立でもあるんです」

アレクサンドラとマイケルが知り合ったのは、11 年のとき。アレクサンドラがロサンゼルスのファストファッションブランド「アメリカンアパレル」で働いていたときのことだった。そのときマイケルは、Tシャツを主軸としたカジュアルブランドの立ち上げを思案していたという。「当時彼は26 歳。私はモデル事務所でスタイリストをしていたこともあるので、アパレル業界には詳しかった。ロサンゼルスでTシャツ流通を視察に来たマイケルは、その価格のギャップに驚いていました。原価はこれだけなのに、ブランドを付けるだけで10 倍もの価格を付けるのはクレイジーだって」

マイケルはこの業界で誰もしなかった「透明性」を徹底させ、高品質でアフォーダブルなカジュアルウェアを提供することで、本当の価値を世の中に浸透させていこうとした。同社はオフラインでもビジョンやメッセージを伝えている。「フラッグショップでは、地元の人たちと音楽やドリンクを楽しみながら集うイベントを不定期で継続しています。これは創業したときから続けている活動で、店舗がなかったころは、狭いオフィスでやっていたんです。「100% SF」とプリントされたエコバッグのおみやげ付きでね」

そんな草の根活動のかいもあってか、全米では年間7000 軒以上のアパレル小売店舗が閉店する中、エバーレーンはその収益を伸ばし続けている。アレクサンドラは「エシカル (倫理的)な観点が消費者のマインドに根付き始めている」と話す。「このメンタリティーは食品業界も同じ。倫理的な観点からモノを選ぶ人が増え始めています」同社が一貫して追求する「透明性」は、ついに世界を代表するカジュアルブランドたちにも影響を与え、工場のコストやプロセスの公開に踏み切る企業も出始めているという。「正しい価値観を創造する」マイケルの飽くなき挑戦は、人々に支持され、地球にインパクトを与えている。

―エバーレーン
サンフランシスコにて創業されたアパレル企業。「透明性」をテーマに掲げ、生産プロセスや中間コストなどを公開。製造過程も環境に配慮した方法で行っているなど、社会貢献意識が強いミレニアルズを中心に支持されるブランドになっている。サンフランシスコの店舗には「100% HUMAN」「100%SF」とプリントされたトップスが販売されており、これはポジティブな人権支援を意味しているそう。この売上金はACLU(アメリカ自由人権協会)と地元の低所得者支援組合に寄付されるとのことだ。今年の2月には日本版のウェブサイトもオープンし、日本からでも手軽にエバーレーンの商品を購入できるようになった。

―マイケル・プレイズマン EVERLANE CEO
サンフランシスコ出身。カーネギーメロン大学でコンピューターサイエンスと経済学を学んだ後にニューヨークに本拠地を置くVCへ入社。その後2010年にエバーレーンを創業した。

2020年4月8日更新
取材月:2019年2月

テキスト:関根絵里
写真:金東奎(ナカサアンドパートナーズ)
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04 LOVED COMPANY 愛される会社』より転載