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【クジラの眼-未来探索】 第5回「オリンピック・パラリンピック開催中の働き方はどうすべきか?~2020TDM推進プロジェクト運営事務局と考える~」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” ワークデザイン・アドバンスを題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

 

 

イントロダクション(オカムラ 垣屋譲治)

垣屋:いよいよ2020年、東京にやってくるオリンピック・パラリンピック。開催期間中、関係者と観客の輸送で道路と鉄道は大変な混雑が予想されている中、我々はどのように働くべきでしょうか? 2020TDM*推進プロジェクト運営事務局の平石さんに大会時の交通の見通しをご説明いただき、弊社オカムラのテレワーク・デイズ*での取り組みをご紹介しながら、参加者の皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

*TDM(Transportation Demand Management)
交通需要マネジメントのことで、自動車の効率的利用や公共交通への利用転換などによる道路交通の混雑緩和や、鉄道などの公共交通も含めた交通需要調整をする取組のこと。

*テレワーク・デイズ
2020年の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、総務省や厚生労働省などの行政機関が、東京都や経済界と連携して展開している国民運動で、会期中に予想される都内の交通混雑を回避するため、企業・団体・官公庁に対してテレワークを活用するよう呼びかけている。

 

 

-垣屋譲治(かきや・じょうじ)株式会社オカムラ フューチャーワークスタイル戦略部 WORKMILLリサーチャー
オフィス環境の営業、プロモーション業務を経て、「はたらく」を変えていく活動「WORK MILL」に立ち上げから参画。2018年の1年間はロサンゼルスに赴任し、米国西海岸を中心とした働き方や働く環境のリサーチを行った。現在はSea を中心としたオカムラの共創空間の企画運営リーダーを務める。

 

 

 

プレゼンテーション1(2020TDM推進プロジェクト運営事務推進本部 平石浩之)

平石浩之(ひらいし・ひろゆき)2020TDM推進プロジェクト運営事務局 企業支援担当
2018年度より東京2020大会中の交通混雑に伴う業務影響対策を企業に働きかけ中。
数百超の企業・団体との相談実績を踏まえ、通勤や業務移動、配送、物品受領の対策ポイントを周知・啓発。
民間シンクタンク所属交通計画、対策関連研究員。

 

 

東京2020大会輸送と企業活動との両立に向けて

平石:2020TDM推進プロジェクトは、東京都、国、大会組織委員会によって組織されたものになります。私は日頃、民間のシンクタンクで交通計画や交通対策を手掛けておりまして、2020TDM推進プロジェクト運営事務局の手伝いというかたちでこちらにお邪魔しています。

 

大会スケジュールと規模

2020年の東京大会は、オリンピックが7月24日~8月9日、パラリンピックが8月25日~9月6日に開催され、期間中両大会を合わせて、選手1万6000人、メディア関係者3万6000人、観客1000万人が東京に集まります。選手は晴海の選手村から、メディア関係者は東京ビッグサイト設置のメディアセンターから各競技会場へ毎日バスを含む6万台に相当するピストン輸送を行います。主たる通行道路の首都高の1日の利用車数100万台に大会中は6万台が加わることになります。

 

また、1日最大80万人と試算されている観客は、競技会場の最寄りの鉄道の駅から徒歩で会場に向かっていただきます。通常東京を出入りする1日の鉄道乗客数は800万人と言われていますので、こちらは期間中最大で1割増しとなることを予測しています。

 

重点的な取組が必要な期間と大会時の交通の見通し

こうしたことを踏まえ私たちは、図のオレンジ色の点線で囲った期間で交通対策が必要だと考えています。何らかの規制をしないとどのような影響が出るのでしょうか。まず自動車は、首都高の交通量が通常の100万台に6万台加わると渋滞状況は平均して2倍に、特に混むところでは3倍に悪化すると試算しています。鉄道は、会期中のピーク時、車内でスマホの操作ができないほど窮屈な状態、4月の朝ラッシュで遅延が生じたときのような状況が首都圏の広範囲で起きると懸念しています。

 

 

大会時の交通混雑緩和に向けて

何の対策も行わないとかなり悲惨な状況になることが予想されますので、私どもでは3つの対策を用意しています。
1つめは「交通需要マネジメント」です。これは、企業の皆様に協力していただき、少しずつ交通量を減らすことに協力いただくものになります。

 

2つめは2019年の7月24日と26日に試行した「交通システムマネジメント」です。首都高の料金所を閉鎖や、環状七号線の都心に向かう青信号を短くするといったことにより、都心に入る車の数が減るという対策になります。

 

3つめは「公共交通輸送マネジメント」を用意しています。こちらの主な対策は、始発の前倒しや終電の後ろ倒しになります。首都圏の鉄道は、特にピーク時おいては、これ以上増発することができない状況で運行されています。したがって、ここではピーク時を避けて移動していただくよう利用者の皆様にお願いするしかないと考えています。

 

 

 

交通需要マネジメント

競技会場周辺は当然のこと、多くの人が通勤する大規模ビルがある地区や車両の行き来が多い地区などでは特に対策を講じなければなりません。私どもでは重点取組地区として16地区を指定させていただき、協力をお願いしています。そして、この重点取組地区では交通量を30%減、その他の都内全域では10%減を具体的な目標としてお願いしています。これは休日並みの交通量ということで、実現されれば先ほどお話しした車両6万台、人80万人の移動との両立が可能になると考えています。

 

これらの目標を達成するには、各企業の皆様の協力が欠かせません。大会時の交通遅延は想定されるリスクですので、今からご準備いただき、事業継続計画を立てていただきたい、というのが私どもからのお願いしたいことになります。

 

競技会場周辺の規制などと交通システムマネジメント

車の移動の問題にはあまり関心がないかもしれませんが、渋滞が起きれば宅配便が時間通りに届かなくなりますし、ビルに入っているコンビニに物が並ばなくなるなど、日常生活、業務活動に大きな影響があるのです。会期中には、交通規制として、競技場の周辺には進入禁止エリアや通行規制エリアが設けられますし、一部の道路区間にも大会関係車両の専用レーンや優先レーンが指定されます。また、路上工事規制がかかっている地域では主に日中の路上工事が許可されなくなります。

 

入居されているオフィスビルが規制エリアに含まれているか否か、通勤や物の輸送に対する影響について事前に確認し、それぞれで対策を立てておく必要があります。なお、規制エリアなどの詳細情報はTDM推進プロジェクトのホームページ(https://2020tdm.tokyo/)に掲載されていますので、ご覧いただければと思います。

 

 

交通需要マネジメントの具体取組

大会輸送と経済活動を両立させるために、会期中の混雑を避ける準備をお願いしていますが、人の流れと物の流れとに分けて、準備を進めるに当たっての視点を整理しておこうと思います。

 

人の流れに関しては、雇用主の理解と行動が必要になります。時差ビズやテレワークなどの制度を整備していただくことや、大会中に夏季休暇を組み込むといった運用ができるような準備を進めていただければと思います。また、混雑緩和に協力する機運を盛り上げることも重要なポイントになります。実際の事例として、「スムーズビズ大賞」を受賞した日本電気株式会社では、お盆の時期に取っていた全社一斉夏季休暇を2020年は1週間前倒しにして、オリンピックの会期中に休みをとる計画を立てています。物の流れでは、荷主の理解と行動が必要になります。サプライチェーン全体の協力のもと、配送時間やルートの変更を検討していただければと考えています。

 

 

 

プレゼンテーション2(オカムラ 鈴木勇二)

-鈴木勇二(すずき・ゆうじ)株式会社オカムラ フューチャーワークスタイル戦略部 エグゼクティブリサーチャー
オフィスデザインで多数のプロジェクトに参加。様々なワークスタイルに適応するワークプレイスのデザインを通じ、オフィスワーカーの生産性や創造性の向上を目指し、調査・研究活動に従事。

 

 

2019年度オカムラのテレワーク・デイズへの取組

全社働き方改革の促進を目的として、2019年度のテレワーク・デイズに参加しました。生産事業所を除く、全事業部門を対象に首都圏1,500名、全国の支社500名、計2,000名に対象を拡大し、更に在宅の環境が仕事には適さないとの意見を検証する為、後半の2週間では首都圏に分散するシェアオフィス250拠点を利用しながらの調査となりました。

 

その結果、在宅・サテライトオフィス利用者何れもが、シェアオフィスを積極的に利用していたことが分かり、ロケーションと利便性の関係性が見えてきました。「23区内」「23区に隣接するエリア」「隣接県の郊外」の居住者とエリアでの利用率を比較すると、シェアオフィスの利用場所は社員の居住するエリア全域を満遍なく利用していることがわかります。更に23区内の居住者は主に山手線内のオフィスを利用し、23区隣接エリア居住者は居住地と山手線内、他県郊外居住者は居住地と勤務地の中間で仕事や育児に対応しやすい場所を利用するという傾向が見えました。

 

次に仕事がはかどったかを尋ねてみたところ、「集中作業ができる」「通勤によるストレス軽減」などの理由で仕事がはかどったと答えた人は525人いたのに対し、「働くための環境整備」など作業に支障が生じて仕事がはかどらなかった人は41人に留まりました。試しにやってみたらとてもうまくいったと多くの参加者が実感することのできたトライアルになったと思っています。

 

 

 

ディスカッション・質疑応答

 

垣屋:オリンピック・パラリンピック開催時の働き方について会場のみなさんから質問をお寄せいただき、登壇者からそれに対して回答してもらうことを通じて、議論を深めていこうと思います。

 

Q:今まで経験したことのないことについて、どのように対策を取ればよいのか分かりません。みなさんは、どのようなことを想定して、どのような対策をとるのでしょうか?

A平石:TDM推進プロジェクトのホームページに30例ほどの取組事例を掲載していますので、そちらを参考にしてください。また、プロジェクトにご登録いただいた企業には、個別に相談を申し込んでいただければ、それ以上の情報提供も可能です。

 

Q:会期中はシェアオフィスが混雑すると思います。結局、在宅勤務になってしまうのでしょうか?

A平石:シェアオフィスは朝混雑するので、時間帯をずらして利用ほしいと考えています。また、需要を見越して例えばNewWorkでは50拠点増やす予定だと聞いていますので、シェアオフィスの混雑も少し緩和されるかもしれません

 

Q:時差出勤を検討する場合、何時から何時にすれば混雑緩和につながるのでしょうか?

A平石:遅く来て早く帰るようにすることです。六本木のある外資系企業には10時出社17時前退社を勧お願いしています。通常の帰宅時間は競技観戦者の午後の部と夜の部の入れ替えがあり、観客で混雑する可能性が高いので早めの退社を勧めています。

 

Q:テレワークする際の労務管理はどうしていますか?

A鈴木:所在管理は「Outlook」のスケジューラーでやっています。自分の居場所は本人が入力しますので虚偽の申告はいくらでも可能です。ですが、そこを疑ったり、どこでどのように働いたかを評価するのではなく、できあがった成果を中心に評価することが大事だと考えています。

 

Q:メーカーの場合、開発や製造などはテレワークできません。何か対応策はありますか?

A鈴木:弊社でもセル生産の製品は時短勤務者でも対応できるようにしています。その人の事情に合わせ、どうすれば柔軟な働き方が可能になるのかを考えてみて下さい。

 

Q:制約があってテレワークすることのできない人から不満の声が上がることを理由にテレワークを実施しない上司がいる場合の対応策は?

A鈴木:まずできる人、できる部署から試行し、そこでのノウハウを社内に展開していけばよいと思います。

 

 

 

登壇者からの一言(平石・鈴木)

 

鈴木:TDMの施策の1つであるテレワーク。初めてトライするのには勇気が必要かもしれません。しかし、とにかくやってみることが大事。やってみることで、新たな効果を発見することもありますし、やってみなければ、どこに不具合があるのか見つからないのです。最初から全員で実施するのは難しいかもしれません。できる範囲からでいいので、最初の一歩を踏み出してみてください。

 

平石:今回皆さんにお願いしているTDMの対策は、2020年のオリンピック・パラリンピックのための一過性の対策だと考えないでください。将来、通勤するのが難しい人を雇用でき、自社の生産性を高め、仕事の効率性を高めるような新しい働き方を導入するための投資と捉えて、主体的に取り組んでいただければと思っています。TDMにご協力いだきますよう、よろしくお願いします。

 

 

おわりに「2020に向けて」

TDMに協力することを通じて、私もオリ・パラに間接的に参加することができます。交通混雑の緩和に一役買うことは、2020大会を特別な思い出にするチャンスなのかもしれません。だから私は、会期中は可能な限り会社を休んで競技を観戦したいと思います。アスリートたちの活躍から勇気をもらえれば、休み明けからはいつも以上のパフォーマンスを発揮できるはず。数日間休んでいた分など、あっという間に取り戻すことができるに違いありません。

 

2020大会はほぼ60年ぶりの東京開催です。今から60年後に再びオリンピックがやってくるとしたら、そのときの未来の会社員たちは、どんな働き方をしているのでしょうか。AIや通信技術、モビリティや物流システムが大きく進歩している世界。きっと何の対策も講ずることなく普段通りに働いている傍らで、大会は粛々と運営されていくに違いありません。その頃の人たちに、2020大会でのドタバタ劇(そうならないことを祈っていますが)を失笑されないようにみんなで準備を進めていきたいものです。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。次回までごきげんよう。さようなら。(鯨井)

 

 

 

2020年2月6更新
取材月:2019年12月

テキスト:鯨井 康志
写真:大坪 侑史

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