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これからの企業は、未来へ“種”を撒かなければいけない ー Seoul Work Design Week 2019レポート

アジアを起点とする新たな働き方や経営哲学にフォーカスした『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05』。東アジアに目を向けて、韓国、台湾、そして日本の企業、経営者、街や人々を徹底取材。アジアで見えてきたオルタナティブな働き方や経営哲学を新たな“仕事道(しごとどう)”として紹介しています。今回はISSUE05で取材をした韓国で開催されたTWDWの韓国版TWDW「Seoul Work Design Week」の様子をスペシャルレポートとしてお届けします。
 
 
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アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」(以下、TWDW)が、今年も11月18〜24日に開催されました。フリーランサーの増加やギグエコノミーの拡大、コワーキングスペースの一般化など、近年加速する「仕事」や「会社」の変化を予見するようにして始まったTWDWは、今年で7年目を迎え、のべ来場者数は3万人を突破。現在は東京のみならず大阪や滋賀、熊本など各地でイベントが行われています。

 

なかでも注目すべきは、2018年から始まった韓国版TWDW「Seoul Work Design Week」(以下、SWDW)でしょう。建築家ザハ・ハディドによる設計で知られる大型展示施設、東大門デザインプラザで行われるSWDWには、SMエンタテインメントやLINEといった国内大手企業から豪華スピーカーが参加。11月12〜15日に行われた今年のSWDWには、Airbnbといったグローバル企業や気鋭の農業スタートアップとして『Forbes US』でも取り上げられたMANNA CEAのような新興企業まで、多くの領域から20人を超えるスピーカーが登壇しました。

 

最終日の15日に行われたセッション「New Company」には、日本からTWDWオーガナイザー・横石崇さん(以下、横石さん)とロフトワーク代表・林千晶さん(以下、林さん)が登壇し、講演を行ないました。「企業が10年後も続くためには?」という問いを巡ってふたりが紹介した日本企業のあり方や最新の取り組みは、韓国の人々にどのように受け止められたのでしょうか?

 

 

日本の働き方をめぐる試行錯誤

最初に登壇したTWDWオーガナイザー・横石さんは、まずTWDWの成り立ちを説明するとともに、日本の働き方事例や企業文化、「会社」のあり方について語りました。「2011年に日本では大震災が起きて、国中が暗いムードに包まれていました。でもこれから働いていくのはぼくたちの世代だし、自分たちが主導権を握って未来をつくるための場所が必要だなと感じたんです。従来の社会は“はしご”を登るように一本の道を進んでキャリアを形成してきたけれど、これからは“ジャングルジム”のように縦横無尽に動きながらつくっていける。さまざまな働き方の可能性があるんですよね」

 

かくして始まったTWDWは時間をかけて広がっていき、現在は台湾や中国でも開催する可能性を模索しているといいます。開催地や登壇者が異なれど、TWDWで行われるどのセッションにも共通しているのは、自分の働き方は自分でつくるしかないと考えている人が多いことだと横石さんは語ります。

ー横石 崇(よこいし・たかし) Tokyo Work Design Weekオーガナイザー/&Co.,Ltd.代表取締役
1978年、大阪市生まれ。多摩美術大学卒業。広告代理店、人材コンサルティング会社を経て、2016年に&Co., Ltd.を設立。ブランド開発や組織開発をはじめ、テレビ局、新聞社、出版社などとメディアサービスを手がけるプロジェクトプロデューサー。毎年11月に開催している、国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では、7年間で、のべ3万人を動員した。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。著書『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

 

続けて横石さんは、日本で行われているいくつかの働き方事例を紹介。今年、日本マイクロソフトが実施した「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」のように週休3日制を取り入れる挑戦的なものから、本人の代わりに退職手続きを進める“退職エージェント”までその種類はさまざま。まばたきの動きを監視し眠そうにしている人にエアコンの冷気を集中させるシステムなどディストピアを感じさせる取り組みや、名前が“お辞儀”するようにハンコを押していく独特の企業文化が紹介されると、会場からは困惑の声とともに笑い声もあがります。

 

「10年後自分の会社が残ってるかどうかより、日本という国がきちんと残ってるか心配です」と横石さんが苦笑するとおり、少子高齢化に伴い日本社会は変革を迫られており、従来の終身雇用制が崩壊しつつあるのも事実。ただし、高齢化を迎えているのは韓国も同様でしょう。働き方改革をめぐる日本の試行錯誤は、韓国の人々にとっても自分ごととして受け止められたはずです。

ー日本企業のハンコ文化を例に日本の働き方を解釈

 

1,000年企業が大切にしてきたもの

一方で、日本には100年以上つづく企業が数多く存在しており、なかには1,000年以上続く会社も珍しくありません。横石さんは1,000年以上続く会社は世界に13社あり、そのうち8社が日本企業であることを明かします。なかでも横石さんが注目するのが、578年に設立され1,500年近い歴史をもつ企業「金剛組」。神社仏閣を中心に手掛ける建築会社である同社は、世界最古の会社として知られています。

 

「ぼく自身、昨年鎌倉のシェアオフィスをプロデュースしたことで、歴史を意識することが増えました。それは目先の売上や事業のスケーラビリティを考えることではなく、もっと普遍的な仕事のあり方を考えることでもあるなと。たとえば金剛組は職人さんをものすごく大事にしていて、職人の技術・誇り・つながりを守ろうとしている。こうした姿勢がブレないからこそ会社が存続してきたし、地域からも愛される存在になっているのだと感じました」

 

ときにその抽象性ゆえに軽んじられることもある理念こそが企業の存続にとっては重要なのかも知れません。「日本で倒産する会社の7割は、本業をおろそかにした結果潰れているといわれています」と横石さんが語るとおり、理念を軽視したことで事業の軸がブレていき、自分たちが何をすべきかわからなくなっていく企業も少なくないのでしょう。

 

最後に「当たり前の話をするようで恐縮なんですが」と横石さんが紹介した金剛組の企業理念は、「いつの時代でもどんな人に見られても恥ずかしくない仕事をすること」。「金剛組にはその精神が根付いていて、1,000年前の人や1,000年後の人に見られても恥ずかしくない仕事を目指している。この普遍のフィロソフィーを守るからこそ、1,500年もの間会社が続いてこられたのだと思います」

 

現在韓国には1,000年以上の歴史を有する会社は存在しませんが、金剛組の理念は韓国においても通用するものでしょう。「これからの働き方」や「未来の会社」について考えようとするとしばしばデジタライゼーションやプラットフォームの話になることが少なくないですが、横石さんの語るとおり、こうした理念が根底になければ働き方の議論も陳腐なものになってしまうのかもしれません。

 

未来は不均等に散らばっている

続いて登壇した林さんは、近年ロフトワークが手掛けているいくつかの取り組みを紹介。2000年に設立されたロフトワークは、今回のセッションが投げかけた問い「企業が10年後も続くためには?」の重要な実践例でもあるはずです。現在「クリエイティブ・カンパニー」を名乗っている同社は、いかにして会社を未来につなげようとしているのでしょうか。

 

「今日は若い人、あるいは若い気持ちをもった人に知ってほしい取り組みを日本からもってきました」と言ってまず林さんが取り上げたのは「100BANCH」。35歳未満の人々による100を超えるプロジェクトを集める100BANCHは、未来をつくるための取り組みです。

ー林 千晶(はやし・ちあき) ロフトワーク共同創業者 代表取締役
早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材の新たな可能性を探求する「MTRL」、オンライン公募・審査でクリエイターとの共創を促進する「AWRD」などのコミュニティやプラットフォームを運営。グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員「産業競争力とデザインを考える研究会」、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」取締役会長も務める。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。

 

「いま35歳未満の若者が実現したいと思っていることが、10〜20年後には当たり前の未来になっていると思うんです。未来は突然やってくるものではなくて、わたしたちのなかにすでに不均等に散らばっているものですから。だからさまざまなジャンルで若者がやりたいことを知ることは未来を知ることでもあると思って、100周年を迎えたパナソニックという企業とともに100BANCHを始めました」

 

かつてアメリカの作家ウィリアム・ギブスンが「すでに未来は存在する(Future is already here)」と語ったように、わたしたちが今後迎える未来の片鱗はすでにいたるところに散らばっています。林さんが紹介した100BANCHのプロジェクトが扱うのは「可動産」「昆虫食」「未来言語」など、衣食住からコミュニケーションにいたるまで豊かなオルタナティブの可能性を示すものばかり。プロジェクトのなかには実際に企業の協力をえて事業化が進んでいるものも少なくありません。

 

「バラバラな未来は、バラバラのままだと見過ごされてしまう。でも、100BANCHのような場所が若い人たちの声を集めることで、それは時代の変化として受け止めてもらえるようになるんです」と林さんは語り、散逸する未来をつなぎ合わせていく重要性を説きました。

 

クリエイティブが未来をつくる

つづいて林さんが取り上げたのは「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」での取り組み。この事業は、岐阜県・飛騨の森にクリエイティブを持ち込むことで林業に新たな可能性をもたらしています。日本の森林率は非常に高いことで知られていますが、一方で木材の自給率が非常に低いことも事実。コストの観点から合理的な判断を行なったといわれればそれまでですが、果たしてそれでいいのかと林さんは語ります。

 

「日本の林業は針葉樹を主に扱うので、広葉樹の活用があまり進んでいないのが現状でした。まだ活かしきれていない広葉樹をもっと活用できないかと思って立ち上げたのがヒダクマです。現地の古い家屋をリノベーションし3Dプリンターなどを備えたファブリケーション施設をつくりつつ、大工やバーテンダーなどさまざまな人を招いて森の新しい価値を探そうとしているんです」

 

ヒダクマの特徴は、天然の木材や組木構造のような伝統的な資源を最新のテクノロジーと組み合わせることでしょう。キャットタワーなど木材を使った家具はすでに販売も進んでおり、世界中から注文が集まっているといいます。それは単に新たな森林の活用方法を開拓するだけではなく、建築やプロダクトのデザインに新たな可能性をもたらすことでもありました。

 

今回林さんが紹介したふたつの取り組みはは、どちらもこれまでのビジネスの観点からすれば避けられるようなものかもしれません。しかし、林さんは20年前にロフトワークを立ち上げたときのことを振り返り、「自分でやりたいと思ったことは、必ず形になっていくはず」と語って講演を締めくくりました。「昔、クリエイティブはお金にならないと言われて多くの人から企業に反対されました。でも、いまはクリエイティブ産業こそが世界の主要産業になりつつある。これまでは国同士で差別化することが重要だったけれど、いまは世界共通の課題を見つけるようになっていますよね。これからは“企業”ではなく“プロジェクト”という単位で国を超えて人々がつながっていくし、誰かに反対されてもきっとどこか同じ思いを抱えている人はいると信じています」

 

100年後に向かって“種”を撒くこと

1,000年以上続く会社の理念をたどりながら会社が本当に大切にすべき考え方について語った横石さんと、クリエイティブ産業という新たな仕事を通じてオルタナティブな未来へ社会をつないでいこうとする林さん。ふたりの講演の内容は大きく異なっていましたが、どちらも「未来の会社」のあり方を考えるうえで大いに示唆に富むものでした。

 

とくに林さんが注力する「クリエイティブ」はこれからの社会を考えるうえで欠かせないものといえるでしょう。「この新たな産業は少なくとも今後100年は有効だと思うんです」と林さんは語ります。「かつてはものづくりによって社会の課題を解決することが当たり前でした。でも、いまは同じような商品が溢れてしまったのでプロダクトデザインではなくエクスペリエンスデザインが重要になっていますよね。そのうえで、これからはよりよい体験をつくるクリエイティブの価値が高まっていくはずです」

 

人工知能の進化やデジタライゼーションの加速によって、わたしたちの仕事はある意味で今後減っていくはずです。だからこそ、自分がやりたいことをクリエイティブによって実現するチャンスも増えていくのかもしれません。林さんはドイツの哲学者、ハンナ・アーレントを引き、「Labor」「Work」「Action」と3種類あるなかでもこれからの仕事は「Action」になっていくはずだと語りました。

 

仕事がAction化していく時代にあってこそ、横石さんが語った金剛組の姿勢も改めて重要になっていくでしょう。セッションの最後に「あなたにとって“仕事”とは?」と尋ねられた横石さんは、「未来に向けて種を撒くこと」だと答えました。「いま目の前にいる人を楽しませることも大切だけれど、10年後や100年後、あるいは1,000年後の未来に向けて種を撒くことを忘れてはいけません。お金だけではなく、未来につなげていくことを考える。それこそが“仕事”ではないでしょうか」

 

お金やスケーラビリティではなく、未来の社会を考えること。100年後の社会のために、種を撒きつづけること。それはまさに、TWDWやSWDWが実践していることだといえるかもしれません。かつて朝鮮半島の百済からやってきた職人が立ち上げた組織が金剛組として1,500年の歴史を有するにいたったように、TWDWが撒く“種”はいまや国境を超えて海外でも“花”を咲かせ、これからの社会をつくっていこうとしています。

 

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いま、世界中がアジアン・ワークスタイルに注目しています!2020年春には、TWDWとWORK MILLによるアジアの働き方に関するイベントも開催予定です。乞うご期待!

 

2019年12月17日更新
取材月:2019年11月

 

テキスト:石神俊大
写真:伊原正美

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