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「流行ではなく、本質」をデザインした靴 ― allbirds

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE04 LOVED COMPANY 愛される会社」(2019/4)からの転載です。


自然素材からつくられたシューズがいま注目を浴びている。エコの街・サンフランシスコから生まれたそのシューズに込められた創業者たちのビジョンに迫った。

世界一履き心地がいいシューズ

スタートアップの街・サンフランシスコ。さまざまな分野で革新の芽が出ているが、スニーカー業界に目を向けると、アメリカは既に大手メーカー4社が約7割の市場を占めているためシューズのスタートアップは難しいとされていた。そんななか、いまから3 年前「世界一履き心地がいいシューズ」というタイムズ誌のキャッチフレーズが世界に轟いた。それが、自然素材を使用したミニマルなデザインで、履き心地のよさを売りにした「Allbirds(オールバーズ)」である。

大量生産・大量消費のライフスタイルに疲弊した消費者たちはオールバーズが掲げる価値観に共感し、一気に脚光を浴びることに。現在までに調達した累計資金額は7750万ドル(約86 億円)以上にのぼる。いまや同ブランドのスニーカーを、サンフランシスコの街で見かけない日はない。

サスティナブルなシューズの誕生

優しい自然光が降り注ぐ、白が基調のクリーンな本社オフィス。そこで仕事をしている共同創業者のひとり、ティムは2012年までサッカーのニュージーランド代表選手だった。「選手時代、大手シューズメーカーから沢山のスニーカーが贈られてきたけど、どれも合成で大きなロゴと派手な配色が多く満足するものはなかった。当時のスニーカーブランドは、デザインと広告にお金をかけても素材はチープなものが多かったんです」とティムは話す。ティムは選手を引退後、ロンドンのビジネススクールに通い、祖国・ニュージーランドに約3000万頭いる羊のウールをシューズの素材に利用できないかと模索した。そこでひらめいたのが、最高級のメリノウールを素材にしたシンプルなデザインのシューズだった。

―ジョーイ・ズウィリンガー(左)
ゴールドマン・サックス、デロイトなどコンサルティング企業やベンチャーキャピタル勤務を経て、オールバーズを創業。バイオテクノロジーを専門としている。

―ティム・ブラウン(右)
ニュージーランド代表選手としてプロサッカー選手としてのキャリアを積んだ後、ロンドンで経済学を学ぶ。ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得した後、ジョーイと共に創業。

ティムの構想がある程度まとまった14年、Kickstarter(キックスターター)にウールシューズのプランを掲載。すると、たった4日間で12万ドル(約1300万円)もの資金が集まった。「その時確信したね。これはイケる!と」

その頃、もうひとりの創業者・ジョーイは、シリコンバレーでバイオテクノロジーの研究を通じてエコフレンドリーな素材を活用したプラットフォーム構築を模索していた。そして14 年、ジョーイが受けた一本の電話が運命を変える。「お互いの妻を介して知り合いだったティムから電話がきたときは興奮したね。お互い歳を重ねて別のキャリアを積んできたけど、目指すゴールは同じだった。だから、週末サンフランシスコのぼくの家に来ない?って誘ったんだ」

ティムはその時の様子を「何か動き出す予感がした。僕にはアイデアはあったけど、パートナーが必要だった」と語る。2 時間にも及ぶ電話の後、ティムは次の週にはサンフランシスコに飛んでいた。「ぼくはバイオテクノロジー分野で、自然資源を活用する方法を探していた。それはシューズでも同じ」とジョーイ。ニュージーランドに初めて訪れた開拓者が、“It’s all birds!”(鳥だらけ!)と発したと言われている一言がブランド名となり、15 年「オールバーズ 」は「キックオフ」した。

―オールバーズの店舗のドアノブは木製で、細かい部分にもブランドの世界観が込められている。クリーンな店内では材質ごとにシューズとともに、素材の説明も添えられる。中央の椅子は、試着の際にかがんで靴紐が結びやすいよう前後に揺れるようになっており、細やかな配慮が行き届いている。

―オールバーズの店舗のドアノブは木製で、細かい部分にもブランドの世界観が込められている。クリーンな店内では材質ごとにシューズとともに、素材の説明も添えられる。中央の椅子は、試着の際にかがんで靴紐が結びやすいよう前後に揺れるようになっており、細やかな配慮が行き届いている。

持続可能な素材を使ったシューズ─彼らにとって、エコ意識が高い消費者が多い地元のサンフランシスコは絶好のロケーションだった。「ぼくらが追求したのは、高品質でエコな素材であること。仲介業者や広告に費やす予算をすべて排除したD2Cにすることで、消費者にリーズナブルな価格で商品を供給できた」とジョーイ。

ティムは「シューズメーカーはシーズン毎にデザインを変えているから、ワンシーズン前のデザインは廃棄される。オールバーズはシンプルなデザインだから14カ月に1 度しか新作をつくらず、商品に対するフィードバックを熟考してから新作に着手するスローなプロセス。僕達が追求するのは流行ではなく、本質なんだ」と強調する。

店内に置かれている原材料のディスプレイ

シューズの素材はメリノウールのみならず、ユーカリの木、そしてサトウキビとどれも私たちの生活に身近にある原料だ。「自然素材の開発はこれからも可能性がある。地球のためのマテリアル・イノベーションを今後も続けていきたい」とジョーイ。彼らはシューズの販売とは別に「サスティナブル」をテーマにしたイベントを不定期に開催。再生資源を使ったアートや音楽、健康食を共有し、ブランドのビジョンや価値観に共感する若者たちをコミュニティー化している。

現在、オールバーズのショップはニュージーランドとサンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、ボストン、ロンドンの5 店舗だが、今後世界規模で8 店舗から10 店舗のショールーム展開を計画中とのこと。日本への上陸もそう遠くない。「商品をただつくるだけでは、持続可能なビジネスとは言えない。クリーンな工場や労働環境を整えたり、染色に用いる原料やリサイクル水の調達をしたりと目に見えないオペレーションの方が大変なのです」とティム。それでも彼は、笑顔でこう続ける。「環境に優しい素材開発や製造プロセスを構築し、消費者にとって正直な企業であり続けたいですね」

2019年11月14日更新
取材月:2019年2月

テキスト:関根絵里
写真:Donggyu Kim (Nacasa&Partners)
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04 LOVED COMPANY 愛される会社』より転載