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WORK MILL

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これからの働き方:6つのキーワード

あまたのワークスタイルをリサーチし、あらたなワークプレイスをデザインするWORK MILLプロジェクト。このWEBマガジンは2015年12月に開設し、これまでに約70件もの記事がアーカイブされてきました。

多様な価値観に触れることを意識的に展開し、世代・業界・職種も多岐にわたります。あえて対象を広く設定し、多様な価値観に触れることを意識的に展開してきました。その一見まったく関係なさそうな領域の方々が、共通したキーワードに触れるケースが多くなってきました。また、記事の編集段階で見えてきたキーワード同士が、お互いに影響しあっていたり、補完し合っていたりするさまも確認できるようになってきました。

私たちが取材して見えてきた、これからの働き方に求められるキーワード。これからの働く個人に求められる資質、そして企業や組織に求められる仕組みの両側面から、これらをまとめて表現していきたいと思います。 

個人に求められる資質

・主体性(当事者意識)

働き方変革の議論の中で、「働く一人ひとりの多様な個性を尊重してほしい」「組織には多様な個性を認めてほしい」という意見はよく耳にします。しかし、個人の側は肝心の「尊重してもらいたい個性」を果たしてどれだけ明確に表現できるのでしょうか。自分は何者で、どんな個性があって、何がしたいのか。どのような目標があって、どういうことを実現したいのか。組織に勤める日本人の多くは、日頃これらの点についてあまり意識せずとも仕事が進むように設計された環境にいるので、おそらくうまく表現できないのではないかと思います。
 
この主体性という言葉が印象深く登場したのが、CRAZYの山川さんへのインタビューでした。山川さんは以下のように述べたうえで「意思のある人生」を「熱狂」と形容し、経営のモットーに据えています(参照記事)。

「主体性を持つこと」も、うちでは大切にしている考え方です。「従業員」という概念が、あまりよくないと感じていて。「会社に雇われている」って感覚を持ってしまうと、主体性が損なわれてしまいます。社員には「あなたが事業の主体、人生の主体だよ」と常に意識してもらえるように、働きかけています。(山川 咲)

女子高生起業家として一躍脚光を浴びた椎木里佳さん。同学年で同じく意志をもって人生を主体的に生きる宮島衣瑛さんとの対談で、主体性を持って働くことは面白いと表現しました(参照記事)。

今後、どこかよその会社に所属する可能性は、ゼロじゃないとは思っています。ただ、ほかの会社に入っても、いま自分が主体性を持ってやっていること以上に面白い仕事なんて、多分ないだろうなって。自分にとって一番面白いことを、自分で仕事にしていくのがベストじゃないですか。(椎木里佳)

ではその主体性を生むにはどうしたらよいのか。ケンブリッジテクノロジーパートナーズの白川さんは、椎木さんと同じく主体性をもって働くことが楽しさに直結するとしながらも、主体性は日々の所作から育まれるものと話しました(参照記事)。

社長が「主体性を持たないといけない!」と呼びかけて変わるものではないですからね。僕は、「主体性はワークスタイルからもたらされる」のではないかと考えていて。柔道や茶道の精神と同じく、主体性は日々の鍛錬や所作から育まれる……というのが、私がいま密かに温めている仮説です。だからこそ、日々の働き方やワークスタイルは、みんなが思っているよりずっと大事なはず。(白川 克)

一方フォワードの加藤さんは主体性とよく似た表現として当事者意識を挙げ、この当事者意識を育てることこそがプロ意識を生み、組織を強くすると語りました。当事者意識を育てるポイントについては、以下の3点を挙げています(参照記事)。

ポイントは3つあると思っています。1つ目は「コミュニケーション」。個人が目指している方向性と、会社が目指している方向性を結びつけてあげること。2つ目に「ルール」。個人のパフォーマンスを正当に評価するために、人事制度や表彰制度を整えること。特にルールは運用が命です。そして3つ目に「教育」。座学だけでなく日々のOJTも含めて、スキルを磨く機会の提供をすること。日頃からその会社で働くことの意味付けをしつつ、人が育つ場作りをしていくことが不可欠ですね。(加藤明拓)

とはいえその主体性に気付く経緯もやはり人それぞれ。一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)の辰野さんは、グローバルシチズンシップというテーマが自分事になった瞬間についてドラマチックに語っていただきました(参照記事)。

目の前に座っていた白髪でよぼよぼのおばあちゃんが突然震えながら、大声で私に向かって「何言ってんの! アナタが続けていくんでしょ!!」って怒鳴ったんです。(中略)ビックリでしたし、かなり怖かったです。でも、その瞬間が私の人生のターニングポイントでした。「あ、そうか。平和は願っていれば訪れるものじゃなくて、自分たちで創り続けていかなきゃいけないんだ。誰かが創り続けてきたから、今の平和があるんだ」という気づきが、私の心に痛烈に突き刺さったんです。(辰野まどか)

実はWEBマガジンの最初のインタビュー記事である先駆者に聞くシリーズを皮切りに、この主体性というキーワードは何度も登場してきました。それだけ今後の働き方を考えるうえで、極めて重要なキーワードではないかと捉えています。2016年11月に開催されたTOKYO WORK DESIGN WEEKにおいても、担当したセッションのメインテーマに据えて各分野の専門家と議論しています。WORK MILLで議論したのとはまた異なる専門性から主体性を語っていますので、合わせて各メディアから配信されているレポート記事をお読みいただけますと幸いです。

・素直さ

白川さんと主体性の話をする中で、現場での様々な体験から学ぶにあたり「そんなことは教えられるまでもない!」とプライドが邪魔をするシーンを題材に「主体性を育むためには素直さが大切」という話を交わしました(参照記事)。

良い意味でのプライドなら歓迎できますし、そこに素直さも共存していると嬉しい。うちの会社では、日々の仕事の中で「自分を変えなければ」と気づく社員は、よくいます。ただ、プライドと素直さの両立を意識的に成立させるのは、なかなか難しい。(白川 克)

加えて変化を受け入れる素直さも重要なものと言えそうです。CRAZYの山川さんも、変化に前向きな姿勢の重要さを説きます(参照記事)。

「現状の決まりごとも、常に変化し得る」という前提があるからこそ、柔軟な意見が出てくるんですよね。物事が変わることに対して厭わない姿勢は、今の状況に甘んじて停滞することなく、前進し続ける力につながります。(山川 咲)

不確実性がますます高まる世の中においては、固定観念にとらわれない姿勢が重要です。

・覚悟

経済産業省でIoT政策を推進する津脇さんとの対談で出た覚悟という言葉。「確固たる信念と情熱をもって物事に取り組む」という表現はよく目にするものですが、これを踏まえつつ一種のヒリヒリとしたニュアンスを含む覚悟という表現に壮絶な意志の強さを感じ、背筋が伸びる感覚を覚えたことが昨日のことのようです(参照記事)。

何か少しでも現状を変えるということは、現状で利益を得ていた人、現状で問題ないと思っていた人に、何らか不利益を発生させることになります。「よくやった!」と言ってくれる人がいる反面、誰かが「なんてことしてくれたんだ!」と言うことがほとんど。全員が喜ぶ変化なんてなかなかないものです。「後ろ指をさされない」ように生きたいと思いますが、仮に後ろ指をさされてでも、少しでも前に進めたほうがいいと信じるに足る政策があるとすれば、関係者と対話を重ねたうえで、その覚悟を持ってしっかりやっていきたいなと思います。(津脇慈子)

また、先日公開した銭湯「サウナの梅湯」経営者である湊さんへのインタビューでも、覚悟という言葉が登場しました。業界も職種も異なるものの、大きな変革やチャレンジに対面する者の意識として、共通する要素があると感じた瞬間でした(参照記事)。

原動力、とはちょっとズレているかもしれませんが、「覚悟」は大事だと思います。周りから「うまくいくわけないから絶対にやめろ」と言われても、「自分はこれなんだ!」と貫ける覚悟、ですかね。これ、僕が銭湯をやる時に周りに相談して、みんなから言われたことです(笑)
たまに「銭湯を始めたいんですけど」と若い人から相談されることがありますけど、結局僕も「絶対にやめた方がいいよ」と同じことを言うんですよ。けれども、そう言われて踏み留まってしまうなら、多分やらない方がよくて。僕は「やめた方がいいよ」とは伝えつつ、そういう大変な状況を織り込み済みで飛び込んでくるなら「楽しいよ、やった方がいいよ」ってことも、合わせて言ってあげたいなと思っています。(湊三次郎)

これからのビジネスパーソンは組織における既存の価値観と戦いながら、新しい価値創造を推進していくことが一層求められていくことになります。こういったある種、悲壮な覚悟をもって変革に当たる姿は、次世代の期待と共感を呼ぶのかもしれません。

組織に求められる仕組み

・セーフティーネット

恥の文化の影響や強い同調圧力の存在から、日本社会は失敗に対して冷たい態度をとりがちです。イノベーションを阻害する要因としても語られるこの失敗の不寛容について、ケンブリッジの白川さんはセーフティーネットが必要だと説きます(参照記事)。

そうですね。急に新しい業務を「ひとりでやり切れ」なんて言われてしまうと、楽しさよりプレッシャーが勝ってしまう。「主体性を尊重する」ことと「責任を負わせる」ことは、似ているようで根本的に違います。「ピンチの時に手を挙げられる」といった救済の仕組みがないのに、責任だけ背負わされたら、逃げたくなってしまうのは当然のことです。そこには、挑戦を支えるセーフティーネットの整備が必要になってきます。(白川 克)

白川さんは、これからのビジネスを生き抜くためには知的生産をし続ける力が必要とし、枠組みを壊すとか、組み替えるとか、「昨日とちょっと違う仕事」が求められていると語りました。そしてその知的生産は「そもそも難しいこと」なのであり、セーフティーネットがないと心身が持たないと表現しています。

・新たな役割の設定

組織のパフォーマンスを最大化するためには、今までにない役割を帯びた人材を組織の中に置くことも解の一つです。例えばスウェーデンにあるデジタルプロダクトスタジオustwo(アストゥ)で設定されている「コーチ」という役割(参照記事)。

一言でいえば、「チームの目的を達成するためのプロセスを設定し、実行すること」でしょうか。チームの目的とはあくまで、「ユーザーに価値を提供すること」。チームの仕事としてはプログラミングやテスト、フィードバックなどさまざまなフェーズがありますが、本来的にはソフトウェアがユーザーに届くまでは、私たちの仕事には価値がありません。ですから、できるだけ早くソフトウェアを完成させるために、それを妨げる要因を取り除いていく必要があります。
(中略)プロジェクトマネージャーがきちんと優先順位づけを行っているかどうか、サポートすることも私たちの仕事です。「やる必要のない会議」なども無駄なことのひとつでしょう。そうやってすべてのプロジェクトの無駄をなくしていくことで、数週間分の作業を節約し、本当に価値のあるものを生み出すことに専念できるのです。(Petter Mellander)

また、顧客の変革を支援する立場として、コンサルティングを行う立場もこのコーチに近い役割が求められていると言えそうです。「答えはすでに本人の中にある」とするならば、その答えを挽き出すのが社外コンサルの役割。そもそもコーチ(coach)には馬車という意味があるように、共に走りながらゴールを目指す馬車であり伴走者のような役割が、様々な局面で変化を乗り切るために必要になってきています。

・個人として尊重すること

 冒頭に述べた「主体性(当事者意識)」があるからこそ、その対になる組織側の対応として、個人として尊重することが意味を持ちます。一見当たり前な表現ではあるものの、日本人は他者を「個人として尊重」することがあまり上手ではないと感じます。たとえば若い世代に対しては、経験が浅いとか実績がないとかいった単純な物差しを当てて短絡的な評価をしがちになるもの。この点について高校生のころから事業を立ち上げた宮島さんは、子ども扱いではなく個人として接することの価値を述べています(参照記事)。

僕、高校の時から、地元の千葉県柏市にあるコワーキングスペースを拠点にしていて。そこには大人たちもたくさんいたんですけど、3年間通っていて一度も子ども扱いをされたことはなかったです。ビジネスやお金の話をシビアにする代わりに、1人の人間として対等に接してくれました。学校の先生も、お世話になった方々は「生徒としての宮島」と「外で活動している宮島」を分けて考えてくれていて。今振り返ると、とても恵まれた環境だったなと思います。(宮島衣瑛)

また、横浜高校野球部の元監督である渡辺さんも、 年長者が高圧的・一方的にならないような若い世代への接し方を「人格の調整」と表現しました(参照記事)。

まずは、われわれ上に立つ者が、若い子たちに対する洞察力を磨くことですね。
(中略)彼らの内面的な面まで入っていき、「何を考えているのか?」を知ることです。われわれは自分の経験をもとに若い人と接するけれど、そこには理解や感覚のギャップが当然ある。だから、お互いの人格と人格を調整しなくてはならない。(渡辺元智)

ベストセラー「LIFE SHIFT」でリンダ・グラッドンさんから問題提起されたように、寿命が100年に達する時代にあっては、学ぶことと働くことは分断されたものではなく、いつまでも学び続けることが大きな意味を持つようになります。単純に年長者が年少者に対して「有難い教えを授ける」ということではなく、相手の専門性や個性をしっかり尊重したうえで学びあう姿勢が益々大切になってくると考えます。
また、お互いの意見を尊重して対話する人間関係があることは、一層複雑さを増すこれからの課題解決には不可欠な要素ではないかと感じます。

GiFTの鈴木さんは、相手を尊重しながら対話を重ねた先にある相互理解の価値を熱く語っていただきました(参照記事)。

船の中での共同生活のルールは、すべて自分たちで決めなければならないんです。例えば、「イスラム教徒の参加青年が祈りのために使用するプレイングルームはどこに用意するのか、イスラム教徒以外もその部屋を使っていいのか」「ムスリムの参加青年が半数近くいる中でお酒の扱いをどうするのか」「女性の肌の露出はどこまでOKなのか」など、問題提起がなされる度に皆で話し合って解決していく。宗教の違いもありますから、お互いの立場や価値観の理解に時間がかかることもあります。ただ、そうやってお互いに主張して、みんなが納得する落とし所をひとつずつ見つけていくと、全員をつなぐ世界観が生まれてくるんです。(鈴木大樹)

まとめ

職種や立場、年代を超えたさまざまな意見の中から見えてきたこれら6つのキーワード。それぞれ特別目新しいわけではなく当たり前に見える言葉ですが、これらすべてを兼ね備えている個人・組織が果たしてどれだけ存在するでしょうか。個人は改めて自分の「個」をしっかりと持ち、それを表現できるようになっていること。そして組織はその個人の能力と挑戦の環境を提供し、いきいきと活躍できるような支援ができること。こうした意識を共有し、対話できる職場環境が増えていけば、日本の働き方は大きく変革できるのではないかと考えます。

WORK MILLでは今後も多様な分野の方々への取材を予定しています。これらのキーワードの意義を再確認しながら、また新たなキーワードの抽出にも意識を向けながら、「働き方」という対象を見つめ、発信していきたいと思います。

2017年7月25日更新

 

テキスト:遅野井 宏
写真:遅野井 宏
イラスト:野中 聡紀