円安に物価高、新紙幣発行とお金の話題が絶えない2024年。お金に関する情報を見ない日はありません。
とくに昇進や独立、家族、趣味など、仕事やプライベートが様変わりしていく20〜30代は、お金との付き合い方にも変化が現れやすい時期。
「貯金なども自己流でやってきたけれど、このままでいいのかな?」と漠然とした不安を抱えることも……。
今回は「お金は人生の選択肢を広げられるツール」と語るやさしいお金の専門家・横川楓さんにインタビュー。20〜30代が自分らしく生きていくために、これだけは知っておきたいお金の使い方の基本を学びます。
横川楓(よこかわ・かえで)
1990年生まれ。経営学修士(MBA)、ファイナンシャルプランナー(AFP)などを取得し、「やさしいお金の専門家/金融・経済アナリスト」として活動。一般社団法人日本金融教育推進協会代表理事。「誰よりも等身大の目線でわかりやすく」をモットーにお金の知識を啓発、金融教育の普及に取り組んでいる。著書に『ミレニアル世代のお金のリアル』(フォレスト出版)、『お金の不安と真剣に向き合ったら人生のモヤモヤがはれました!』(オーバーラップ)。
高校では金融教育が必修科目の時代に!
横川さんは「やさしいお金の専門家」という肩書きで活動されていますが、なぜお金の専門家になったのでしょうか?
横川
きっかけのひとつは、実家が会計事務所を経営していたことです。そして、もうひとつが幼い頃に両親が離婚したことです。
離婚してすぐは会計事務所を経営していた母方の祖父の家に住んでいたのですが、ある時、母と二人で暮らすことになったのですが、引越し先はとても古いアパートだったんです。その後、母親がひとり親向けの制度を利用し、新しくきれいな公営住宅へ引っ越すことができました。
「お金や知識のある・なしで、こんなにも生活が変わるのか」と思ったのを覚えています。
なるほど。それが横川さんの原体験なのですね。
そこから専門家の道に進まれたのはどういった経緯からでしょうか?
横川
親が離婚をしたり、実家が会計事務所だったりと、お金の知識に触れる機会が多かったこともあり、私自身は若くして、お金の知識があるほうだったのですが、周りの友人をみているとそんなことはなく。
そうはいっても「世の中に出回っているお金の情報は20代の人々が理解するには難しいのでは……?」と思うことが多くなって……。
「お金のことをもっとやさしく、わかりやすく伝えたい」という思いが、今の仕事につながっています。
お金の専門家として、具体的にどんな活動をされているのでしょうか?
横川
横川
個別相談や講演、書籍・Webメディアを通じてのお金の啓発活動、ラジオ番組のパーソナリティーなどもしています。
また、お金に関するゲームやマンガなどの企画・監修をすることも。
横川
はい。2022年には、金融教育についての初の非営利の業界団体である一般社団法人日本金融教育推進協会を設立しました。
横川
この協会では、学校での授業をしたり、先生方をサポートしたり、企業のサポートをしたり、金融教育のイベントを開催したり、金融政策に対する提言を行ったりもしています。
2022年4月に成人年齢が18歳に引き下げられ、高校生も親の許可なしでクレジットカードやローンの申し込み、新NISAなど証券口座の開設が可能になったんです。
今まであまりお金の知識がないのを、「学校ではお金のことは習わなかった!」と言い訳していたのですが、学校でもしっかり教えてもらえる時代になったんですね!
横川さんが学校に行ってお話しすることもあるのですか?
横川
学校へ直接行って、授業をすることもあります。
また学校の先生向けに、授業のアドバイスも行っています。他にも、金融教育に関するイベントを開催しており、その中で小中学生、大学生向けに日本銀行本店&貨幣博物館見学ツアーを開催などもしています。
兎にも角にも「家計簿アプリ」
横川さんは個人相談も受けているとのことですが、どのようなお金の悩みが多いのでしょうか?
横川
横川
特に働き始めたばかりの年代の方だと、「ちゃんと貯金や投資をした方がいいんだろうけど、何から始めたらいいかわからない……」なんて相談もあります。
具体的に何を始めるか。それこそ、どこでも教わらない気がします。
横川
ただ、「お金がない」と相談される方には、ある共通点があるんですよ。
横川
なるほど……。確かに、家計簿って少し億劫なイメージが……。
横川
家計簿は自分のお金を振り返るために大切なものです。つけなければ、自分がお金をどんなふうに使うのかといった傾向や、ない原因にも気づくことができません。
たとえば、『Moneytree』や『マネーフォワード ME』など家計簿アプリは口座やカード番号を登録しておくだけで、自動的に使った金額や残高が記録されるので、ストレスなく家計簿がつけられます。
手書きや手入力の家計簿より、アプリの方がいいのでしょうか?
横川
紙に書くと面倒になって続かないことが多いため、口座やカードと紐づけられる家計簿アプリの方がおすすめです。
家計簿の主な目的は「振り返り」です。「今月は〇〇にこれだけお金を使ったから、残金がこれくらいなんだ」という振り返りができなければ、次の行動にも移すことができません。
普段から何にお金を使っていて、お金がない原因はどこにあるのか。まずは現状を把握することが大切です。
「余白の時間」における予算のかけ方は?
それでは、30代のお金の使い方で「こんな特徴がある」といった印象はありますか?
横川
不景気の中で育った世代なので、比較的堅実な考えの方が多いように感じます。
NISAを始めた人も多いですね。いつ何が起きてもいいように資産形成しておこう、というのが30代の課題意識かもしれません。
あとは、20代前半に比べて「お金がない!」という切迫感が薄れてくる人もいますよね。余白の時間とお金の使い方に悩む人も多そうです。
横川
その通りで、趣味にお金を使う人も多い世代です。
ただ、給料だけではどうしても入ってくるお金に限界があるので、お金を増やす努力をしつつ、好きなことにもお金を使う人が多いように感じます。
確か、横川さんもご自身の趣味である推し活を「必要経費」とおっしゃっていましたよね?
横川
あらかじめ推し活のための予算は決めているのでしょうか?
横川
私の場合は、スケジュール帳にグッズの販売日やイベントの日をメモし、事前に必要な金額を把握しているようにしています。
突発的にソーシャルゲーム課金することもありますが。
横川
「今月は使いすぎたから、節約しよう」
「来月はイベントがあるからできるうちに貯金しておこう」
など臨機応変に調整するのがポイント。
家計簿で振り返りをしているので、突然の出費にも対応ができます。
やりたいことを継続していくためにも、お金の使い方の振り返りは大切なんですね。
横川
ちなみに推し活って、急に明日コンサートがある、明日グッズが発売されるってことがほとんどないので、あらかじめ心の準備ができることの方が多いんですよね。
家計簿で現状把握できていれば、毎月使えるお金も把握できるようになります。
とはいえ、欲しいものや行きたい場所に歯止めが効かなくなってしまうことはないのでしょうか……。
横川
もちろん誘惑はあります。でも、借金とリボ払い(※)だけは絶対にしない! これをルールにしておくと良いでしょう。
(※)リボ払い……正式名称はリボルビング払い。クレジットカードの返済方式の一つ。実際の利用金額が高くても、実際に設定した一定の金額を毎月返済していく方式。ただし返済手数料が高く、あと残りはいくら返済すればいいのかが初心者には分かりにくい。そのため、気がつかないうちに実際に借りた金額よりも返済額が大幅に増えてしまうことがある。
横川
推し活をしていると、地方遠征で数十万円飛ぶなんてケースもあります。
でも、上手にお金を使えているのであれば、それは幸せなお金の使い方だと思うんです。
自分の身の丈以上のお金を使わないことを最低限のルールにしておくこと。そうすれば、生活水準を保ちながらバランス良く趣味が楽しめるはずですよ。
なるほど。きちんと余白のお金を確保しておけば、起業・独立や学び直しなどにも予算をあてることができそうですね。
関連記事
推し活のプロ・ライターの横川良明さんが考える、お仕事と推しごとのちょうどいい関係性
モチベーションを上げたり、日々の生活を潤わせたりしてくれる、「推し」の存在。日々仕事に励むビジネスパーソンが誰かを推すことで、どんな良いことがあるのでしょうか? 推す行為がキャパシティオーバーになって「推し疲れ」を防ぐ方 […]
続きを読む
まずは、一次情報をチェック
資産運用についても、最近は情報が溢れすぎていて、「何から取り組んだらいいかわからない」という人も多くいます。
横川
今はSNSやYouTubeでもたくさんの情報がありますからね。情報を得る上で大切なことは、正確な情報にアクセスすることです。
横川
はい。まずは政府や金融機関のサイトを見てください。
2024年1月1日にスタートした「新NISA制度」について詳しく知りたいのであれば、金融庁が公開している一次情報を確認するのがいいかと思います。動画やデータをつかって、初心者でもわかりやすく解説されています。
その次に銀行や証券会社が伝えている情報を確認しましょう。
金融庁のサイトがあるのを知りませんでした。お金に関する知識は、ショート動画やSNSで眺めてしまうことがほとんどです……。
横川
SNSやYouTubeでインフルエンサーさんなどが発信している情報も、全てが間違っているわけではありません。
ただし、中にはPR案件もあるのでそこに利益が発生し、少し盛られた情報であったり、何かのサービスへの誘導があったりする場合も。
また顔が見えていない方の情報は、ネットリテラシーの部分で注意が必要です。
言われてみれば本当にその通りですね。勝手に政府や金融機関のサイトは難しそうなイメージを持っていましたが、意外と読みやすいですね……!
横川
シミュレーターもあり、とってもわかりやすいですよ。
使い方は人それぞれ。自分が一番幸せになれる使い方を
横川さんが考える「お金」との上手な付き合い方を教えてください。
横川
お金は、自分のやりたいことの選択肢を増やすために必要なツールだと思っています。
お金があれば、自分がほしいものが買えて、行きたいところに旅行ができて、お家や車なども買うことができます。
数値に捉えて、そこに向かうためのツールとして考えることもできるかもしれませんね。
横川
はい。あくまでもツールなので、推し活に使いたい人もいれば、住環境に使いたい人、グルメに使いたい人、旅行に使いたい人、家族のために使いたい人、本当に人それぞれの使い方があります。
自分が幸せになれる使い方をしてもらいたいですね。
横川
貯金や資産運用にまわす分、生きていく上で必要な衣食住の生活費、そして自分が幸せになるために使う分とある程度決めておくといいでしょう。
横川
家計簿をつけることで、自分が何にどれくらい使っているか把握できるようになれば、自分が使いたいもの、節約できるものも可視化されます。
毎月使うお金も変動するので、臨機応変に対応できるようになれば、きっと「お金がない」と悩むことも減りますし、より将来の選択肢も増えますよ。
2024年6月取材
取材・執筆=つるたちかこ
アイキャッチ=サンノ
編集=桒田萌(ノオト)
関連記事
0円で社長を貸し出したら何が起きた? 「和える(aeru)」矢島里佳さんと考える、お金と働き方の関係性
「0円で社長を貸し出します。お役に立てた場合のみ、ご自由なお礼の形にていただけると嬉しいです」 こんな投稿を見かけたら、あなたは何をお願いし、何をお返しするでしょうか? 今回紹介するのは、日本の伝統を次世代につなぐ企業「 […]
続きを読む