働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

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縄文生活でわかった「働くこと」と「生きること」。二人組YouTuber週末縄文人の仕事観

「それなりに日々忙しく働いているけれど、人生って、仕事って、本当にこれでいいんだっけ?」

そんなモヤモヤした気持ちを抱えながらも、なんとなく毎日が過ぎてしまう。気づけばまた一つ歳を取った……。多くの人に身の覚えがある話ではないでしょうか。

「生きる実感を求めた都会のサラリーマンが週末に山に籠り、現代の道具を一切使わずにゼロから文明を築いていく」というコンセプトのYouTubeチャンネル「週末縄文人」。

いまやチャンネル登録者数11.1万人の人気を誇る縄(じょう)さんと文(もん)さんですが、お二人もかつてはそんなモヤモヤを抱えたサラリーマンだったそう。

週末縄文生活から見えてきた「働くとは」「生きるとは」。じっくりお話を聞いてきました。

―週末縄文人(しゅうまつじょうもんじん)
背の高いほうが「縄(じょう)」、がっしりしているほうが「文(もん)」の二人組。どちらも30代のサラリーマン。同じ会社に勤める仲良し同期。休日になると山にこもり、現代の道具を一切使わずに自然にあるものだけでゼロから文明を築く「週末縄文人」として、YouTubeにその過程を公開している。縄文時代から始めて、最終的には江戸時代くらいまで文明を進めることを目標としている。

コロナ禍で浮かんだ疑問「何のために働いてるんだっけ」

縄文活動のために借りているという土地。定期的に火起こしをするため、地域の消防署とも連携し、安全対策もとっている。

今日はお二人が実際に週末縄文生活を送っている山にお邪魔しました。鳥の声が聞こえて風が爽やかで、とても気持ちのいいところですね。

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ありがとうございます。以前は別の場所で活動をしていたのですが、手狭になったため一年ほど土地探しをしてここにたどりつきました。

今日は鹿の角を削って釣り針を作る作業の予定なんですが、手を動かしながらお話しても大丈夫ですか?

冬が来る前に魚を釣って、保存食を作れるようにしておきたくて。

左:文さん 右:縄さん

もちろんです。お忙しいところありがとうございます。

縄文生活は季節に合わせてスケジュールを組んで動かなくてはいけないんですね。

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そうなんです。季節ごとに採取できる植物や食べ物が決まっているので、計画的に動かないと飢えて死んでしまうのが縄文時代。

僕らも現代にある道具を一切使わずに文明を築いているので、自然のサイクルに合わせて活動しています。

カラムシという植物の繊維で釣り糸を撚る縄さん

お二人は、もともと会社の同期なんですよね。

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そうです。映像制作系の会社で、一番仲のいい同期同士です。お互い先住民や文化人類学などに興味があって、飲み会で意気投合したのが最初でした。

まさか一緒に縄文生活することになるとは夢にも思わなかったでしょうね。どんなきっかけで週末縄文人になろうと思ったのですか?

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ちょうどコロナ禍が始まった頃、ご時世柄もあり仕事が減って少し時間が空いて。

「必死に働いてきたけど、自分の仕事って世の中に必要とされているのかな」という疑問がふつふつと湧いてきたんです。

磨いて鋭くした石で鹿の角を切り出す文さん。取材中も、淡々と作業を続けていく

気づけば、毎年同じ生活の繰り返しで、友達との会話も仕事の愚痴か、結婚どうする? みたいないつも同じ内容。

「あれ、何のために生きてるんだっけ?」とひとりで悶々としていた時に、縄から電話が来たんです。「山で遊ばないか?」って。

唐突なお誘いですね。

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僕は学生時代から山登りが好きで。自分たちでルートを決めて安全確保や食料管理を行い、無事に登って帰ることで得られる「自力で生き延びた感」に魅力を感じていました。

でも、山をおりると衣食住あらゆることがサービス化していて、自分で何かを生み出したり、解決したりする力が弱まってしまう。昔の人はもっとそういう力を持っていただろうに。

たしかに、私たちの祖父母くらいの世代だと服を自分で縫えたり、ちょっとしたモノの修理なら工具箱を持ってきて直してしまったりしますよね。

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僕たち人間の原点である縄文人の暮らしをゼロからやってみたら、彼らの目で世界が見えるんじゃないか。そしたら、僕らの仕事に対する悶々とした気持ちも晴れるんじゃないか。

そう思って、似た価値観を持っている文を誘いました。

やることの多い縄文生活でも、ほとんど揉めたことはないと話す2人

縄文生活で、悶々とした気持ちは変わりましたか?

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平日は変わらず会社員をしているので、仕事への疑問が消えたわけではないのですが、前みたいに漠然と生きる意味について考えることは減った気がします。

ここで斧を作るために石を60時間かけて磨いたり、鹿の角をひたすら削ったりしている時間に救われているというか。

気が遠くなりそうな作業ですが、坐禅のような効果があるのでしょうか……?

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それに近いです。ひたすら作業をして「今この瞬間」だけに集中していると、鳥の声や風の音が聞こえて、作業した分、体が痛くなって……。「ああ、生きているな」って思える。

そんな時間が週に1回でもあることで、もう悶々としなくなったのかもしれません。

縄文時代の仕事は「自分が必要だからやるもの」

現代の仕事と、縄文生活の仕事にはどんな違いがあると思いますか?

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現代社会で僕らがやっている仕事って、いくら頑張っても「自分が生きること」と直結する営みではないんです。自分のやった仕事が社会や生活に直接影響して、何かを良い方に変えたり役立ったりしているという実感が得づらい。

でも、ここでの生活はそうじゃない。

魚を獲って食べるために釣り針を作るとか、雨風をしのいで安心して過ごせるように家を作るとか。

縄文時代は、すべての仕事が生きることに直結していたんですよね。

だから、彼らは生きることの意味なんて問うたりはしなかったんじゃないかなって勝手に思って、憧れています。

たしかに、生活に直結する営みですから達成感も違うのでしょうね。

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縄文活動で何かを成し遂げたときは、「100%自分たちの力だけでやれた」という実感を得られるんです。

会社の仕事は、組織の中でいろんな人に何かを依頼してやってもらいながら進めるので、チームで成し遂げる達成感はあります。

でも、自分たちの力だけで火が起こせたときの「生き物として一つ強くなれた達成感」とは全く別物。

会社の仕事だと、何かを成し遂げても「良かったね」で終わり。

ですが、縄文生活で習得した技術や作りあげたものは、今後の生活に直結するというのも達成感を大きくしています。

火が起こせるようになったら次は土器が焼けるようになる。土器ができたら煮炊きができるようになる。そのステップがたまらなく楽しいです。

水を溜められるようになるまでに、さまざまな試行錯誤を繰り返して作った縄文土器

現代の仕事はいろんな人やモノが介在しすぎて、成果に手触りがないのかもしれません。

それが資本主義であり、そのおかげで豊かに暮らせている面もあるとは思いますが、仕事にやりがいを感じにくい構造でもありますね。

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あと、会社の仕事でストレスを感じるのって、「上司に怒られるかな」とか「取引先に謝罪しなきゃ」とか、人間関係が根本にあるからだと思うんです。

組織で動く以上はたくさんの人と関わらないといけないし、自分の意に反することもやらなきゃいけない。

でも、縄文人の仕事って自分が必要だと思うからやるもの。できなかったら困るのは自分。

「上司に言われたからやらなきゃ」とかじゃないんですよね。「冬が来る前に食料集めなきゃ」ってなったら納得できるんです。自然の中で自分の生活を築くという営み自体が、縄文人の仕事なので。

縄文人と企業戦士にあって、僕らにないもの

仕事って、いつからこんなふうに変わってしまったんでしょうね。

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戦後〜バブル崩壊まであたりの日本って、もっと「サラリーマンがかっこよかった時代」だと思うんです。

僕の歳の離れた上司も会社が大好きで、所属していること自体にすごく誇りを持っている。

いわゆる「企業戦士」的な価値観ですよね。

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そうです。でも、俺らや下の世代は全然そうじゃなくて、有名企業に勤めて「年収1,000万だけど、残業は100時間です」って言われても全然羨ましくない。

そこそこ働いて残業無し、みたいな方が本当に圧倒的に羨ましいと思うんです。

たしかに、世代によって価値観は全然違いますよね。

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そのメンタリティの違いって、個々人の性格の問題というより、「この仕事は絶対に社会の役に立つんだ」って信じられるかどうかの違いだと思うんです。

僕らの親の世代は、経済成長が著しくて科学技術も大きく発展して、「この海底ケーブルを引けたら、みんなの暮らしがもっと良くなる」とか「このトンネルが通ったら向こう側の村の生活が変わる」とか、仕事に対して生活を大きく変えてくれる期待と夢があった。

でも、今は違う。

今も技術はどんどん進歩していますが、生活の基本的なところが十分満たされているから、「AIの登場でさらに便利になりますよ」と言われても、ありがたさを感じないかもしれません。

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これ以上便利になっても、過剰供給な感じがするんですよ。

だからこそ、「働くことの意味」を深刻に考えてしまうのかもしれません。

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昔は仕事で何かを成せば満たされた「社会に寄与する」欲求が、現代では仕事を頑張っても満たせなくなっていて。

「何者かになりたい」みたいな価値観が一人歩きしちゃうのもそのせいで。

現代の若い世代からは「何者かにならなくては」という焦りや、そこからくる不安の声がよく上げられていますね。

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たぶん、高度経済成長期にものづくりをしていた「企業戦士」たちはそんなこと考えてなかったんじゃないでしょうか。

きっと土器を作っていた縄文人も一緒なんですよ。土器をうまく作って食料を保存できるようになるか否かで大きく生活が変わるから、無心で頑張れる。

現代人が仕事に悶々とするのは、ある意味で当然だと思います。

縄文時代と同じ方法で30日かけてつくった竪穴式住居。現代と縄文の生活は、時間感覚も異なるという。

仕事にモヤモヤしたら、生活を自分の手で整えてみよう

いま仕事にモヤモヤを抱えている人ってたくさんいると思います。そういう人たちに何か伝えられることはありますか?

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さっきの話と矛盾するようですが、現代ほど「自分のやりたいことをやって生活に直結させられる時代もない」とも思っていて。

僕たちが活動しているYouTubeもそうですが、自分の好きなことを突き詰めた結果、それをネットに上げれば仕事にもなる。

昔はコネがあったり都心に住んでいたりしないと得られなかったチャンスも、ネットのおかげで掴みやすくなってきている。

選択肢は増えましたよね。

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こんなにいろんなお金の稼ぎ方ができる時代はこれまでにないと思うから、いまの仕事に悩んでいるなら何か始めてみるのもいいと思います。

でも、こういったインタビューを読んでも「この人たちはすごいからできたのかもしれないけど、自分には無理」と思ってしまってなかなか踏み出せない人も多そうです。

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人の話を聞いて自分を変えられるかというと、そこまで変わらない気もします。

僕は、人のエピソードを聞くよりも自分の生活を見つめ直す方が変わるきっかけがあると思っていて。

というと?

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現代に生きる以上、やりがいを持てる仕事だけをしていくのは難しい。だったら、自分の生活を大事にしてみたらいいんじゃないかなって。

たとえば、ベランダに鉢植えを置いて、植物の変化で季節を感じることだってできるかもしれないし、自分の食べるものを自分で作って、もっと丁寧に生きることはできる。

僕は週末縄文人の活動で、ちょっと強くなったんです。

強くなった?

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全部ゼロから道具を作って生活を構築するうちに、東京での暮らしでも野菜を作ってみたり、ちゃんと部屋を掃除して気持ちいい居住空間を作ってみたりするようになって。生活する力が強くなったと感じます。

そういう「自分の生きることと直結する労働」によって、仕事で満たせない部分を満たせたら、少しはモヤモヤした心も晴れるんじゃないかと思います。

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僕らに言えるとしたらそれが一番かもしれないね。

縄文人の営みって、生活を整えることがすべてですもんね。

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そう、縄文生活は生きること全部が仕事。きっと「労働」って意識はなかったんだと思います。

現代では家事労働はなるべく時短が良くて、できればない方が良いものとされがちです。

でも、自分の生活を自分で整えることを捨てた先には、生きる意味を感じにくい世界があるように思います。

たしかに、生活に関わる営みをロボットやAIがすべてやってくれるようになったとして、「膨大な余剰の時間で娯楽ばかりして過ごすって本当に楽しいのか?」という疑問も湧いてきます。

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僕らの動画を見てくれている人がたくさんいるのも、キャンプやDIYが流行っているのも、もしかしたらそういう「暮らしを自分の手でちゃんとやること」に意味を感じる人が増えてきているからなのではと思っています。

休み休みでも、持続可能な縄文活動を続けたい

「80歳まで活動を続けて、文明を江戸時代くらいまで進めたい」と宣言しているお二人ですが、実現できそうですか?

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そうできるように模索しています。自分たちにとって必要な活動だし、何より楽しい。そのために、専業YouTuberになることも考えたことがあるんです。

でも、YouTubeだけを仕事にしてバズる企画を出すことにプレッシャーを感じるよりも、会社の仕事を続けながら本当にやりたいことだけやって動画にする今のスタイルがいいなと思っています。

数時間にわたる取材の間に切り出し、削り続けた鹿角。今日の進捗はここまで。この後、さらに魚が食いつきやすくなる細さまで削る予定だという。

これから先、それぞれのライフイベントがあるかもしれないですが、あまり根を詰めすぎず、休み休みでもおじいちゃんになるまでやっていきたいなと思います。

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あとは、縄文生活を実践してみてくれる仲間をもっと増やせたらと思っています。

実際に僕らの動画を見て、火を起こしに挑戦してくれたお子さんもいるんです。生きる力の強い人が増えたら嬉しいですね。

週末を終えた2人。平日は、現代の生活へと戻っていく。

2023年5月取材

取材・執筆=月岡ツキ
撮影=シオカワコウタロウ
編集=鬼頭佳代/ノオト