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焦るのかどうかは自分で決めていい 「すぐに結果を求める」のをやめよう(澤円)

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。

“FOMO”という心の中の魔物

先日、友人がTwitterで「FOMO」という言葉を使っていました。これは「fear of missing out」の頭文字をとったもので、Wikipediaの説明では下記のようになっています。

「自分が居ない間に他人が有益な体験をしているかもしれない」、と言う不安に襲われることを指す言葉である。また、「自分が知らない間に何か楽しいことがあったのではないか」、「大きなニュースを見逃しているのではないか」と気になって落ち着かない状態も指すことから、「見逃しの恐怖」とも言う。社会的関係がもたらすこの不安は、「他人がやっている事と絶え間なくつながっていたい欲求」と言う点で特徴づけられる。

FOMO – Wikipedia

今、世の中は「嫉妬心」や「焦燥感」がめちゃくちゃ生まれやすい状態だと思っています。

というのも、WEB2.0時代の象徴でもあるSNSとスマートフォンのおかげで、いつでもどこでも他人の生活の一部を覗き見ることができるからです。SNSでは、大きな仕事に取り組んでいる話や、充実したプライベートが切り取られた写真が満ち溢れています。(ぶっちゃけ、本当かどうか怪しいものも含めて……)

特に、学生時代の同級生や元同僚のキラキラした姿を見せつけられると、「やばい、自分も何かしなくちゃ」って思ってしまうのはごく自然な心理状態でしょう。関係が近しい人が自分より先行している(ように感じる)と、「なんで自分は」と思ってしまうのは人間の悲しい性かもしれません。

会社単位でも同じことが起きる

ボクは今、9社と業務委託の契約をさせてもらっており、それぞれの会社の成長のために微力ながらお手伝いをしています。

複数の会社に関わりがあることをお客様も知っているので、「他の会社ではどんな感じですか?」という問いをもらうこともしばしばあります。ネットに事例紹介などされた際などには、その裏側の情報に強い興味を持たれることもよくあります。これも、企業レベルのFOMO的な心理状態ですね。

特に、日本はテクノロジーの文脈において「事例」に極めて敏感な気がします。「沈没船ジョーク」という有名な話があります。

ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込むように、指示しなければならなかった。船長はそれぞれの外国人乗客にこう言った。

アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」
イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」
ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」
イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」
フランス人には「飛び込まないでください」
日本人には「みんな飛び込んでますよ」

『世界の日本人ジョーク集』 (早坂隆中公新書ラクレ) 

日本人は「他人の振る舞いを気にする」というのがどうやら世界にはバレているようです(苦笑)。この辺の思考パターンが、他社の事例をやたら気にしたり、「自分たちも何かしなくちゃ」という焦りにつながったりするのではないかと思います。

こういう「すぐに結果を求めたがる」という思考パターンは、近年より一層顕著になっている気がしています。例えば、「政府主導でシリコンバレーに起業家を送り込む」という取り組みも、ボクはちょっと懐疑的だったりします。

もちろん、いろいろなことを試してみるのは素敵なことではあるのですが、シリコンバレーに行ったからといって、すぐに起業家が生まれるわけでもなければ、始めたビジネスが成功するわけでもないと思っています。

起業家というのは、抑えられない情熱に馬鹿正直に生きた結果として、さまざまな失敗を乗り越えて成功を追い求める生き物であって、「どこかに連れて行って勉強させたら出来上がる」というものではないのです。

でも、「すぐにでもいい結果が欲しい」と思い過ぎてしまうが故に、少々ピントがズレた取り組みなどをしてしまっている印象があります。

焦るかどうかは自分で決める

前回の記事でも紹介しましたが、失敗への向き合い方にはかなりの個人差があると思っています。

失敗したくない、すぐにでも成功が欲しいと思うあまりに、拙速な手段に依存してしまうと、結果的に大損をしてしまうリスクもあります。

例えば「すぐにでもまとまったお金が欲しい」と思うがあまり、怪しい投資商品や情報商材に手を出してしまって、さらにお金を失ってしまう人が後をたたないのは、「結果を急ぎすぎる」という心理状態に起因しているのは間違いなさそうです。

個人であれ会社であれ、「成功を求める」というのは大事なことです。ただ、「結果を焦りすぎる」というのは、むしろ失敗の可能性を大きくする可能性の方が高いでしょう。

そして、いい結果を求め過ぎて失敗してしまうと、気持ち的な落ち込みや失った信頼などを取り戻すのがより一層大変な作業になりそうです。それよりも「プロセスも含めて全てを価値あるものにする」というマインドが必要だと思います。

もちろん、結果を急がせるさまざまな要因が存在はしますね。個人なら、会社からの評価や自分で立てた目標。会社なら、会計年度や納期、株主からの要求など。

でも、焦ってやるのかどうかは自分で決めてもいいと思います。「結果を急ぎ過ぎてるかも?」と自分で感じたら、周囲に「焦ってませんよ〜」という態度をあえて示してみませんか? 自分にも暗示がかかって、結局素敵な結果がやってきてくれるかもしれませんよ。


アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト