感情をそのまま受け入れる 「無駄に落ち込む」のをやめよう(澤円)
仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
仕事で失敗したら落ち込むのは自然なことと捉える
仕事で失敗したり、誰かに怒られたりすると凹みませんか? ボクは凹みます。若いころは、本当に凹みまくりました。凹んでない時間の方が短いくらいに。今でも、ちょっとした失敗などで、簡単にがっかりします。
この「凹む」というのは、個人差が大きいようです。凹んだ時の状態も人によって違いますし、その原因に対する解釈も違います。
かみさん曰く、ボクは「異常に自分に厳しい人間」だそうで、完ぺきではないことを理解しているにもかかわらず、自分のミスに対して許せない気持ちを持ちがちです。
ボクはもともとADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けている人間で、とにかくしょっちゅうミスをします。忘れ物は毎日、道は覚えられないし、スケジュール管理もからきしダメ。数の勘定も間違えて、事務処理は絶望的。笑い飛ばせればいいんですけれど、どうにも自分に絶望しちゃうんですよね。
ほんとこれ、生産性を下げるものです。わかっているのです。だけど、凹むのを止めることがなかなかできないんですよね。
「落ち込まないようにしましょう」という指示を、ボクの脳みそは処理できないようです。そもそも、人間は否定形を処理できない、という理論があるようです。「皮肉過程理論」と呼ばれていて、有名な実験で「シロクマ実験」なんてのもあります。(※)
人間はそもそも否定形を処理できないもの、というのは信ぴょう性ありそうです。「気にするな」と言われても気になるものですし、「落ち込むな」と言われても気分が高揚するわけではありません。まずボクの場合は、この状況を受け入れることから始める必要があるかなと思ってます。
(※)1987年、アメリカの社会心理学者ダニエル・ウェグナーが提唱した理論。たとえば、「シロクマのことを絶対に考えないようにしてください」と言われると、かえってシロクマが頭から離れなくなってしまう。
「失敗したことがない」と言い切る人の思考
ボクが会社勤めをしていたころ、非常に面白い方(Oさんと呼びましょう)がチーム内にいました。
Oさんは、ボクがヒラ社員だった頃にすでに本部長をされていて、ボクがマネージャーになった後で「もうマネジメントは十分やったからメンバーに入れてくれる?」と言って、一般社員に戻ってボクのチームで10年間支えてくれました。肩書きとかを全く気にしない方で、常に誰とでもフラットに付き合っていました。
Oさんがある時「澤さん、私は失敗したことないんですよ」とおっしゃいました。ここだけ聞くと随分と自信家なんだな、という話になるのですが、その後に「ただ、自分の思った結果になることがほとんどないんですよね」と続けたのでした。
要するに、失敗とは認識していないんですよね。単なる想定外の結果というだけで、脳内で処理ができてしまっているのです。Oさんは、本当に常にパフォーマンスは高いレベルで安定していて、落ち込んでパフォーマンスが下がるなんてことはありませんでした。
こんな風に、仕事上の失敗を全く気にせずにいられる人も存在します。これは、持って生まれたマインドセットの差もあるでしょうし、成長過程での失敗との向き合い方によって完成していく側面もあるでしょう。
自分の身に降りかかってきたネガティブな出来事で、凹む人もいるし、凹まない人もいる。それは優劣をつけるようなものでもないのかなと思っています。個人差があるものなんだな、と認識しておけば十分でしょう。
Oさんは、自分自身は失敗などで凹むことはないけれど、凹む人の心理を理解してくれる方でした。なので、ボクが凹んでいる時は、メンバーでありながらメンターとして支えてくれました。これは本当にありがたいことでした。
お互いが「組織はフラットであっていい」ということが合意できていたからこそ成立する関係だったと思います。「上司は部下に弱みを見せるべきではない」というマインドセットでは、こうはならないでしょう。
そもそも組織で上下関係を意識しすぎたり、自分の心理状態を隠そうとするのは、人生を豊かにするものではないとボクは思いますし、なんとなく時代の流れはそっちに向かっている感じがします。
うまく付き合っていきましょう
世の中は、Web3の流れもあってどんどんコミュニティ化していっていると感じています。コミュニティは、フラットでオープンなコミュニケーションが前提で成立します。
そこに上下関係もなければ利害関係も必要ありません。ただフラットでオープンであればいいのです。コミュニティの中に凹んでいる人がいれば、元気のある人が支えてあげればいいし、そっとしておいてあげるのも一つのアプローチです。
忙しい組織の中では落ち込んでいる暇なんてない、と自分の感情に蓋をし続けてしまっては、いつかどこかでプツンと切れてしまうかもしれません。それで長期間復活できないのは残念なことです。
自分の気持ちには正直になり、その正直な気持ちをオープンにできる場所に身をおくようにしましょう。その場所は、外を探さなくても自分で作ることもできます。
自分が元気な時は凹んでいる人に優しく接する、もしくはそっと距離をとって付き合ってあげれば、自分が凹んだときに同じようにしてもらえる場所になるかもしれません。
自分の感情に正直になって、凹んでいる時はその感情をそのまま受け入れて、周囲に甘えてしまいましょう。自分が元気な時に誰かの気持ちに寄り添っておけば、その人はいざという時に支えになってくれるでしょう。
こうやって優しい世界が出来上がるといいなぁ、といつもボクは思ってます。
編集:ノオト